36話 第一マッチ 3
アタシ、ノクサラは遠方から飛来する黒い何かを目視で確認し、ため息を吐き出す。
魔導具の申し子、ジネストラ。…あいつは本当に厄介だ。
腐れ縁の幼馴染だってのもあるが、アタシの戦い方なんかをよく知ってやがるし、魔力を吸収する“何か”は非常に厄介。
「アザレア、ジネストラへの魔法攻撃は控えめに、アタシのサポートを頼む」
「単身で来るのなら、二人で攻撃した方が良いのではありませんか?」
「不確定な情報で悪いが、ジネストラは周囲の魔力を吸収する魔導具を使っていると…思う」
「未公開の情報ですよね?」
「ああ。ここ数日、ジネストラの配信やら映像やらを見返して、そんな可能性を感じ取ったんだ」
魔法を使ってくる相手には、消費の大きな魔導具を使用することが多く、逆に魔法の使用がない相手には節約気味。
なんとなく魔力の総量が合わない気がする。
とはいえ魔法を無力化して吸収するわけじゃないから、当たれば効くんだろうが、そう簡単に攻撃が通るとも思えない。
「承知しました。わたしはノクサラのサポートに徹しますので、他の方々が拠点を落とせるだけの時間を工面してください」
「ああ」
ジネストラの飛行速度はさほど速くない。
それでもエリアの地形を無視して移動できるのは厄介だ。防衛の作戦を練り直す必要があるかもしれない。
「…核を完全に覆うことは避けて、場合によって射線を切るように障害物を展開してくれ」
「覆ってしまった方が集中できるのではありませんか?」
「むしろアタシに集中される方がしんどい」
「そうですか。…映像を見る限り、たくさんの魔導具を使いこなせている人だとは思いますが、そんなにですか?」
「やりゃわかる。警戒を怠るなよ」
「かしこまりました」
―――
少しして、ジネストラが飛来し、少し離れた位置に降り立った。
「久しく間を空けずの再会となったな銀眼」
「喜びたくない再会だよ。…コハクのところでも向かっとけっての」
「あの映像はブラフだと思っていたのだがね。深読みをしすぎてしまったようだ」
「…コハクを中央に置かない理由がないだろ」
「そうなのだがね、彼女一人でできることも多くないだろう?」
「くくっ、コハクを甘く見すぎだ」
コハクなら並の一パーティ分くらいなら翻弄できるはず、そう信じられる。
「それは楽しみだ。…ノクサラ、キミとは色々と話したいこともある」
「アタシは…ねえよ。今はまだな」
「クックック、そうか。…だが、一つ聞かせてくれ、…後悔はないのか?」
「シュトラーレンゾンネを抜けたことか?」
「そうだ」
「してねえよ。あんな居心地悪いところにいたら、足先から腐っちまう」
「…我輩とジークヴィンと組むという選択肢はあっただろ?」
「死んでも嫌だ。劣等感で死ぬ」
「…わかったよ。キミがキミの選択としてアローズの道に決めたのなら、言うことはないよ」
ジネストラのことは苦手だ。
出しゃばりなところも、才能に恵まれてることも、面の皮が分厚いことも。
ただまあ、嫌いではないし、幼馴染なことには変わらない。
「もう、おしゃべりはいいだろ。アローズの……チッ、ガーディアン・ブロウラーのノクサラだ。挑ませてもらうぞ」
「クックック、ワーッハッハッハ!魔導具の支配者たる『深淵からのジネストラ』が受けて立つ!!」
アタシが一歩踏み込むと、ジネストラは身体中に装着していた魔導具を外し、腰に佩いていた剣を左手で抜き、右手には短杖の形状をした魔導具が握られる。
近距離中距離に対応するための基本装備。
弓を手に取っていないのは、そもそもコハクと戦うつもりがなかったからだろう。
二歩三歩、距離を詰めていくと、魔導具での射撃攻撃が飛んでくるのだが、それを遮るように氷の壁が発生する。
剣は左手に握っていたから、相手の右側面から攻めるのが無難か。
「『ヴァッサーフェアツァウベルン』」
腕鎧と足鎧に水属性を付与しながら、氷の壁を迂回すると、待ち構えていましたと言わんばかりに射撃攻撃が置かれている。
それらを腕鎧で受け流しながら進むと、地面に転がっていた飛行補助用と思われる魔導具がひとりでに動き出し、アタシを狙ってきた。
この動かし方は、アザレアのアーケイン・プロキシみたいなもんか。
ただ、魔法を使うわけじゃなく、魔導具そのものでの直接攻撃。壊しちまえば次はない。
「―――チッ!」
「『夜の弧月』」
そうは問屋が卸さない。魔導具の動きに合わせて、ジネストラがこちらに距離を詰めてきては、剣を振るう。
モントヒープは、大振りをしながらも攻撃速度の速い武技。
受け流せないことはないが、ジネストラのことだ、射撃攻撃辺りでの追撃をしてくるはず。
アタシは足に魔力を集中させ、姿勢を低くしてから縮地を使って脇を抜け、地面に腕を突き立てて方向転換を行う。
「甘いなあ銀眼!曇っているんじゃないのか?」
「クソッ!」
短杖は既にアタシの方を向いており、射撃攻撃が二発飛んでくる。
腕で頭を覆って防御したのだが、相手の狙いは地面に突き立てている右腕だったらしく、肩に二発とも命中して負傷した。
…動かせないことはないが、十全に戦えるかと問われりゃ、首を横に振らなくちゃならない。
「『ジャッジメントボルト』!」
「ほう」
アザレアは氷の壁を影にして移動し、アーケイン・プロキシをジネストラの頭上に浮かべると、雷の魔法を発動した。
これは当たらないだろうが、ジネストラは行動をせざるを得ない。
アタシはジネストラの足の動きに注目して、縮地の位置を予想。停止するであろう場所に向かって縮地を使う。
「―――…?」
アタシの左腕が吹き飛んだ。
「我輩の縮地も上手くなったとは思わないかな?」
劣等感が湧き上がってくる。
縮地の使い方だけは、ジネストラに負けていないと自惚れてたからだ。
「『ヴァインドメイン』!」
「ワハハッ、甘い甘い。…そっちもね」
アザレアの魔法により無数の蔦が発生して、ジネストラを捕らえようとしたのだが、それらは剣撃で軽々と斬り裂かれていく。
対処している隙に回し蹴りを叩き込んだのだが、それは魔力の翼で受け止められてしまう。
「なんっで!翼で受け止められんだよ!?『ファルベッケンシュトース』!!」
空中で身体をねじり、足を振り下ろす際に武技を乗せるも、こちらは二枚の翼でもって防がれた。
「『永遠を司る翼』。空を望んだ同胞の夢を、我輩が継いだのだよ」
自慢気な表情を露わにしたジネストラは、魔導具でアタシの頭を射ち抜いた。
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