36話 第一マッチ 2
戦闘開始の合図とともに、私は中央群島森林エリアに向かう。
一度足を滑らせてしまえば、天空大陸から放り出されてしまう危険なエリア。
けれど、エリア分布が発表されてからというもの、私はこのエリアの突破をするための訓練を重ねてきた。
そしてその様子を撮影し、意図的にルーシッドキャストに投稿したのだ。
フロランさんと星蘭さんは、相手の行動と人員を縛ることが目的だと言っていた。
来るかは不明、だけど私に対する防衛を行わなければ、拠点に対する攻撃が敢行される可能性があるので、人員を割くか、意識を向けるかをしないといけない。
そこに加えて、ジネストラさんが私と戦いたがっているということもあり、紅陣営でも指折りの実力者を釣れたら大儲けとのこと。
これが心理戦というらしい。
「よっと…、『ウッドピラー』」
群島森林エリアの足場の悪さは、他のエリアと比べて桁違いだ。
進めないことはないし、訓練と練習を重ねただけあり、順調に進めているのだが、特別不安定な小島を踏んでしまうと、そのまま崩落してしまう。
不安定だと感じた瞬間にウッドピラーを発動し、足場を確保しながら次の小島へと移っていく。
下から風が吹き上がり、木々の枝葉を下から揺らす。
それに釣られたのか、それとも何かを予感したのか、私が緑の天井の隙間に目を向けると、真っ黒なゴスロリを身にまとった女性が空を飛んでいた。
そう、ジネストラさんだ。
私を見つけたジネストラさんは、驚いた表情をしていたものの、そのまま姿が見えなくなってしまう。
「え。…あー、恋白です、各部隊長に連絡します。ジネストラさんが群島森林エリアの上空を飛んでいました。進路的に拠点に向かってるんだと思います」
私がパルロレイユで通信をすると、真っ先に声が届いたのはノクサラさんだった。
『…こっちで時間を稼ぐ。攻撃は任せた』
『承知した』
『任せてくれ』
「頑張りますっ」
戻る必要はないようなので、私は元の作戦通りに足を進める。
……?
「こんな時にすみません。人って空を飛べるんですか?」
『魔導具を使ってるんだろう。…はぁ、エキシビションマッチの広告と、シュトラーレンゾンネの後援にいくつかの魔導具の会社があった。…ここは試作品の発表会ってこった』
ノクサラさんは気だるそうな声で返答をしてから通信を切った。
―――
我輩、ジネストラは、体中に魔導具を装着して飛行の準備を行う。
このマッチは、左右に展開された草原エリアのせいでこちらが不利であり、それをひっくり返すだけの策略が必要なのだ。
しっかし、これはなんだ。
いくら魔導具の扱いに関して天才的とはいえ、体中に魔導具を装着するなんて不恰好極まりない。
こんな姿をコハクさんや、観測者たちに見られるのなんて屈辱的だ。
ただまあ、アローズのチャンネルで、群島森林エリアを模したエリアの踏破映像を投稿していたことを鑑みるに、あれはブラフで、中央突破をしてくることはないだろう。
初回で戦えないのは悲しいものの、このマッチを取ることでコハクさんと戦う機会も増えるはずだ。
それに期待して、今回の作戦を実行しよう。
「クックック…黒き衣の我が半身、その真なる姿を見せるといい『永遠を司る翼』!」
翼の展開と同時に、魔導具たる我輩の衣装が起動する。
この魔導具は、鳥系テリアントロポスの魔翼の補強をしつつ、翼を羽ばたかせることを可能とするものだ。
そこに加えて我輩のアノマリーが加われば、こんな不格好な魔導具を使わずとも、幾ばくかの飛翔が可能となる!!
クックック。鳥系テリアントロポスの翼は本来の滑空のみの用途でしか使えないのだが、我輩は自らの意思で舞い上がる。
これでこそ、『深淵からのジネストラ』なのだ。大地という軛から解き放たれ、自由に空を飛び回る映像は絶っ対に映えるはずだ!!
新規の視聴者を獲得し、ファンダムの規模が大きくなるかもしれない。
それはシュトラーレンゾンネの利益向上にも繋がり、クランの規模を大きくできる可能性もある。いや、規模を拡大する。
「クックック、ワーッハッハッハ!」
「煩いぞジネストラ!」
我輩はいずれ、初代と二代目『銀眼』のように、一つの時代を築くスターとなる。なってみせる!
そのためにも今回のエキシビションマッチは、華々しく勝利しつつ…フフフッ今後輝くであろう我が宿敵!コハクさんとの激戦を繰り広げなくてはな!
「ワーッハッハッハッハッハッハ!!諸君、勝利は既に我輩の手の中にある!!ならば後は突き進むだけだ!!」
「……。」
「はぁー…なんだねキミたち。ノリが悪いではないか」
「なんでジネストラが仕切っているのですか?」
「それはもちろん、我輩が混成パーティ『黒き混沌の烏』のリーダーを任されているからだ!」
「でしゃばりが」
「ククッ、我輩は目立つことが大好きなのでな!ワーッハッハッハ!!」
クランリーダーに視線を向けると、『好きにしろ』といった態度のようにも見える。
まあ二代目『銀眼』は口数が多くなく、表情に乏しいから、何を考えているか大概不明だ。
もう少しノクサラと語り合えば、今のような状況ではないのだろうが、仕方ないだろう。
「さあ、楽しい戦いの始まりだぞ」
―――
我輩は群島森林エリアの上空を飛んでいると、ふとした瞬間に木々の隙間を覗き込みたくなった。
たいした意味があるでもなく、ほんの好奇心だったのだが。
「はぇ?」
そこには、こちらを見上げながら走っているコハクさんの姿があった。
まさか、あの映像はブラフではなかった!?
そして何より、我輩の存在を目で捉えていたではないか。
飛行の推進力を得るための魔導具は、必要以上に音が出ないように改良を加えてもらった。
魔力の放出は我輩のアノマリーがあるから、かなり抑えられており、魔力で我輩を感知するのは難しいはず。
どうやって我輩の位置を、木々の隙間から捉えたのだ!?
心臓が鼓動する。
今回の作戦が、裏目になっているのではないかと。
「全員に通達する―――」
我輩はコハクさんの位置を全体に共有した。
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