36話 第一マッチ 1
開会式では、改めて両陣営の参加メンバーが紹介されたり、エキシビションマッチにおけるルールの説明などが行われた。
そして、まだ未定ではあるものの、今後もクラン対抗でのエキシビションマッチの開催が計画されているとの言及もあった。
そんな中で私が驚かされたのは、このエキシビションマッチのリアルタイム配信が、パラデイソポリスにほど近いブレオンヌ帝国の領地にも配信されるということだ。
ブレオンヌ帝国はヒッポフォロスのみを市民とした国であるのだが、今回の配信において私の存在が児童搾取に問われる可能性があるため、しっかりとエラフォロスであることの説明がされており、種族や文化の差をひしひしと感じさせられる。
ちなみに、前足を持ち上げて蹄の違いを示したりと、ちょっと大変だった。
そうこうしている間に広告の時間となり、両陣営は各々の拠点へと向かっていく。
「さっきちょっと揉め事があったんですけど、その際にジネストラさんと、剣を佩いた前衛っぽい方が縮地を使ってましたし、事前の調べよりは機動力がありそうですよ」
「揉め事、か。…見たところ、大事には至らなかったようだが」
「仲裁役が入ってくれましたので」
「そうか」
フロランさんは、少しばかり天を仰いでから一人で頷く。
「とりあえず殴り合える相手は、その全員が縮地を使えることを前提として、第一マッチに挑むとしよう。陣形、作戦共に変更はなし。堅実な動きで相手の戦力を探るとしよう」
「はいっ」
「それではおさらいだ。本マッチのエリア分布について振り返ろう―――」
今回の試合のエリア分布は、中央に小さな島がいくつもひしめき合う森林エリアがあり、それを挟むように草原エリアが広がっている。
二足種族でも四足獣人でも安定した突破が難しい中央に人員を割くか、左右に展開して確実性を求めるかのせめぎ合いが起こるエリア分布となっている。
「―――。事前に立てた計画通り、中央の単騎突破をコハクさんに。ヴァン・フェール及び星蘭&アコアは両翼に展開、アローズの二人は防衛に当たってもらう」
今回の私の役割は中央突破。
多くの島で構成された群島森林エリアは、ヒッポフォロスや二足種族では難しく、私やアコアさんでないと突破はできない。
その上で、確実に突破しきれて、速度を出せる私が選ばれることとなった。
「各員はパルロレイユのテスト通話を行った後に、各方面の部隊長の指示に従うように」
私たち蒼陣営は、ブレオンヌ帝国製の魔導具『パルロレイユ』を耳にかけ、各部隊長からテストを行う。
『こちらフロラン。各員聞こえているか?』
『問題ない』
「はいっ、大丈夫です」
『聞こえている』
パルロレイユというのは、声を他の人に伝える魔導具とのことで、今回のエキシビションマッチにおいて、各方面との連絡を円滑に行うためのものだ。
一つ一つが十五万カルタほどのお値段らしく、私たち全員分でも三〇〇万カルタということになる。
パルロレイユは、スフル・デュ・クラージュの後援組織であるブレオンヌ帝国弘報報道庁の所有物であり、この場の全員に貸し出しという形にはなっているが、ヴァン・フェールの方々は自由に使用できるらしく、結構な寛容さだ。
全員がテストを終えると、ノクサラさんが歩み寄ってくる。
「一筋縄じゃいかない奴が…片手で数えるくらいはいる。そいつらとの戦闘は慎重になりすぎないようにしろ」
「慎重にやれっていうのが定番だと思うんですけど」
「迂闊なことをしろってわけじゃないんだが、こっちが慎重に足を進めれば、相手にもそれをできるだけの猶予を与えることになる。コハクは自分の直感を信じて、その上で冷静さと慎重さを上乗せしろ」
「わかりましたっ」
私もノクサラさんに助言をした方がいいのだろうか。
とはいえ、私が助言できることなんて限りがあるし。
「ノクサラさん」
「なんだ?」
「面倒くさい柵なんて、ノクサラさんの徒手空拳で壊しちゃってください。そして胸を張ってアローズを名乗ってください」
私は、自身の耳に着けている耳飾りに触れて、ノクサラさんにアピールをする。
三人お揃いのイヤリングを、ノクサラさんとアザレアさんは着けてきてくれた。
「無理難題だな」
「でもそのために、このエキシビションマッチに参加を決めてくれたんじゃないんですか?」
「アタシはそんな高尚じゃねえよ。…ただ、コハクに…なんでもない」
頬を紅潮させたノクサラさんは、そっぽを向いてから、そのまま拠点の方に戻ってしまう。
「…はぁ、やれるだけやる、それだけだ。進展しようとしまいと、アタシは勝手にアローズを名乗るから」
「はいっ」
「コハクさん!私もアドバイスとか欲しいです!」
順番を待っていたアザレアさんは、期待で満ちた瞳をしている。
「じゃあ…エキシビションマッチが終わって、一息ついたら三人でデートしませんか?」
「っ!ふふふっ…最高の気分でデートするために、負けられない戦いになってしまいましたね」
「お互いに頑張りましょうね」
「はい!」
拠点に戻っていくアザレアさんを見送り、私は準備を整える。
エキシビションマッチ、本番の始まりだ。
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