35話 準備時間 1
練習に打ち込む日々が続けば、いつの間にかエキシビションマッチの本番になっていた。
私たち二〇人は、パーティの枠組みを越えた連携を模索しつつ、相手の出方を考えながら、その対策にも頭を悩ませていた。
多くの人と一つのことについて話し合い、共に努力を重ねられることは、非常に楽しい時間だったと私は思う。
狩猟日の狩りや、年に二度の神事も、誰かと話し合い決定をする場所ではあったが、それらは今までの積み重ねがあって、適した手順が存在した。
けれどエキシビションマッチは違う。
初めての試みで、初めての挑戦だ。
誰も知らない、最適なんてものはない挑戦は、私に刺激的な日々をくれた。
私たち一団が第六ゲートに向かうと、声援を送ってくれる人たちが現れる。
彼ら彼女らの目的はヴァン・フェールだが、人気に相乗りをして、スター冒険者になった気分だ。
「あれってヒッポフォロスの子供?」
「十五歳未満は冒険者になれないんじゃなかったっけ?」
「エラフォロスって種族らしいよ。ジーナ様が言ってたよ」
「ジーナ様って、シュトラーレンゾンネのジネストラ?」
「そう。ライバル意識を燃やしてるんだって」
「へぇ〜、知らない冒険者だけど、なんか凄そうだな」
耳に届く声の中には、私を知ってくれている方のものもある。
知った経緯は今回のエキシビションマッチに参加した結果であり、私だけの実力ではない。
ただそれでも、助っ人としての役割を果たせたのなら、私も胸を張ることができそうだ。
「…雑音が聞こえるな」
私の気持ちとは裏腹に、少しばかり鬱陶しそうな色を露わにしているのはノクサラさんだ。
ここ数日、ノクサラさんは少し落ち着きがない状態が続いている。
…きっと言葉だけでは、ノクサラさんの不安は拭えないだろう。
話し合いならこれまでもしてきている。
だから私は、ノクサラさんの手を取ることにした。
「な、なんだよ急に」
「緊張してるかなって思いまして」
「…まあ、緊張はしてるけどさ。…だる」
悪態をつきながらも、ノクサラさんは手を離すことはない。
「あー!わたしも緊張してきちゃいましたね〜」
「じゃあ手を繋ぎましょうかっ」
「やった。それではお願いします」
アザレアさんとも手を繋ぎ、私たちアローズは三人で乳白色の泉に入っていく。
―――
「コハクっち〜、アレをお願いしてもいいッスかね?」
「はい、問題ないですよ」
ルーシッド・エデン内の待機所に行くと、アコアさんが言いにくそうな雰囲気でお願いをしてくる。
これは彼女の信仰によるもので、白い生き物を通して神様にお祈りをするものだ。
私が居住まいを正すと、アコアさんは前足を屈めて、跪くように祈りを捧げていた。
このパラデイソポリスは信仰や宗教に関して寛大だ。
他種族、多文化、多信仰が交わる場所だからこそ、ある程度の寛容性がないと生きていけないのかもしれない。
「どうもッス。これで百人力ッスね!」
「それならよかったです。今日は頑張って、勝利を飾りましょうっ」
「はいッス」
私たちが準備をしたり、戦いの前の休息を取ったりしていると、フロランさんが戻ってきて説明をした。
「コホン。…先日の発表の通り我々は蒼陣営であり、エリアに変更はなかった。相手の動きなどで作戦方針が変わる可能性はあるが、今日この日までの練習に恥じることのない本番としようではないか!」
私たちは気合のこもった返事をする。
「開会の挨拶をした後、出資者の紹介と宣伝広告が挟まれ、準備時間を挟んで本戦となるのだが、シュトラーレンゾンネの方から顔合わせの依頼が来た、開会式前にな。…これに関しては臨時パーティの……そう、『シュヴァルツェ・カオスラーベン』のリーダー、ジネストラ殿からの依頼であり、クランリーダーからのものではない。拘束力はないので、希望者のみということで納得をしてもらった」
『シュヴァルツェ・カオスラーベン』というのは、シュトラーレンゾンネでのソロやフリーで活動をしている冒険者を五人集めたパーティだ。
ジネストラ・フォム・アープグルントさんや、ノクサラさんのお父さんのラバン・シュタールさん、キンキラ男さんなどで構成されている。
「私は行こうと思います。アープグルントさんと顔合わせをしてみたいんで」
「ウチは遠慮ッス」
「ボクも同じく」
星蘭さんとアコアさんは興味がないらしい。
ヴァン・フェールは第一のみが参加し、第二と第三は不参加。
残りはノクサラさんとアザレアさんなのだが。
「わたしは…あまり興味がないのですが、コハクさんが行くのでしたら同行します」
私とアザレアさんは、ノクサラさんに目配せをし『待っていても問題ない』と伝えたのだが、首が横に振られてしまう。
「行くよ。そのためにここにいるんだからな」
「無理はしないでくださいね。必要だったら私の後ろに隠れちゃってください」
「…どうやって隠れるんだよ」
「縮こまれば隠れられますって〜」
ノクサラさんは私の頭をポンポンと叩いて、軽く笑った。
とはいえノクサラさんは、シュトラーレンゾンネから離れる決断をしたのだ。原因や理由があることは想像に難くない。
アローズのリーダーとして、必要に応じて私も対応をしたい。
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