34話 深淵からのジネストラ 2
我輩、ジネストラのコメント欄にコハク・ホタビノさんが現れてしまった。
真っ白な髪と毛並みを有する、期待の新人ライバーのコハク・ホタビノさん!
彼女を初めて見た時に、我輩は心の底から思った。
眩い、と。
我輩に似合い、この世で最も美しく高貴な色は、“黒”だ!
だが、だからこそ!その対となり、黒を掻き消さんと光を弾く“白”を美しいと思ったのだろう。
彼女がエキシビションマッチに参加すると知った時には、指が勝手に動いてコメントを認めており、刹那の間に異名まで考え、叙していた。
いきなりのことで、驚かれたり煙たがられたりしていないか多少の不安はあったが、こうしてコメントをいただけたことを、我輩は喜ばしく思っている。
〈めっちゃ長文のコメントじゃん〉[一〇カルタ]
〈誰これ?〉[一〇カルタ]
〈売名はちょっと…〉[三〇カルタ]
いかんいかん!我輩は驚き、言葉を失っていたせいで、コメントの流れが良くない方に進んでいってしまっている!
コハク・ホタビノさん…いや『白き死の姫』の名誉は守らねば!
「観測者諸君、落ち着き給え。我輩が先ほど口走った宿敵というのは彼女のことだ。白き死の姫、我輩は叙した名も気に入っていただけたようだし、悪く言わないであげてほしい」
〈とんでもない名前を押し付けられてて可哀想〉[一〇〇カルタ]
〈さすがに同情する〉[三〇カルタ]
〈これジネストラの被害者だろ〉[五スコア]
〈誰か知らんが、ジネストラに負けるなよ!〉[七〇スコア]
〈本番はライバルちゃんのこと応援するからよろしく〉[一〇カルタ]
「観測者共!なんだその手の平の返しようは!?君たちは我輩を推してくれているのだろう!?おかしいだろう!!」
〈おもろ〉[一〇カルタ]
〈ジネストラだけ推してるわけじゃないし〉[五〇カルタ]
〈ちょっとアローズとかいうチャンネル見に行ってくるわ〉[一〇〇カルタ]
〈新しいライバー教えてくれてサンキュー〉[八〇カルタ]
「こいつらぁ…!好き勝手言わせておけば!!…そ、そうだ、白き死の姫よ!我輩のチャンネルの視聴者はこんなんだが、決して悪いやつじゃないぞ!観測者のいうことなど、一切気にしなくていいのでな!?」
観測者のコメントが流れていくが、コハク・ホタビノさんのコメントは見られない。
もしかしたら気を悪くして視聴をやめてしまったのか?
…いや、映像で我輩を学ぶという文言があったはずだから、そうに違いない。
気を悪くしていないといいのだが…。
〈返事がない、もういないようだ〉[一〇スコア]
〈フラれちゃったね〉[一〇〇カルタ]
〈かわいそうに…〉[二〇スコア]
「誰のせいだ!誰の!」
コメント欄の観測者たちと戯れながら、コハク・ホタビノさんのコメントを待ってみたが、姿を見せることはなかった。
きっと、次に言葉を交わすのは本番なんだろう。
我輩が最強たる所以を、彼女の瞳に焼き付けるとしようか!
「ワーッハッハッハ!!」
〈急に笑うな〉[五カルタ]
〈煩いぞ〉[五カルタ]
―――
「おーい、戻ったぞ」
「ただいま戻りました」
私がアープグルントさんの映像を見終わる頃に、ノクサラさんとアザレアさんが部屋に戻ってきた。
お二人は私物の多くを取りに、自宅へと戻っていたのだ。
「おかえりなさい」
「…。」
「…。」
ただ返事をしただけなのに、お二人は固まってしまった。ほんのりと頬が染まっているところを見るに、急いで帰ってきてくれたのだろうか。
「どうかしましたか?」
「…いや、悪くないなって思ってな」
「むしろいいです!」
「…何がです?」
「なんでもない」
よくわからないが、問題はなさそうだ。
私はお二人の私物の収納を手伝いながら、アープグルントさんの配信や映像を話題に出した。
「コメント?そんな内容を…?」
斯々然々。コメントの内容を端的に伝えると、ノクサラさんは少し考え込み、肩を竦める。
「コメントを送る相手と内容は、しっかりと考えたほうがいいぞ。売名行為だと受け取られる可能性もあるからな」
「ですけど今回は相手方からですし、コハクさんへのフォローはしてくれるのではありませんか?」
「その辺りは心配ない。変なやつだが、あいつは視聴者の手綱を握れるし、良識のあるライバーだ」
礼儀作法があるのだろう。
「今後、コメントを送りたくなったら、お二人に相談しますね」
「別にそこまでしなくてもいいが…まあ見てやるか」
「いつでもお声掛けくださいね」
「はいっ!」
広すぎた部屋は、ノクサラさんとアザレアさんの私物が増えて、ちょうどいい広さになった気がする。
「それにしても…ノクサラさんの私物ってお酒なんですか?」
「いいだろ別に。寝る前にちょっと飲んだりすると、よく寝れるんだよ」
「ベッドにこぼさないでくださいね」
「こぼすかよ!」
アザレアさんは可愛らしいぬいぐるみを飾っている。
「ここにくまちゃんを置いてもいいですか?お気に入りでして」
「いいですよ。アザレアさんはぬいぐるみ集めが好きなんですか?」
「恥ずかしながら、昔から可愛いものが好きで」
「恥ずかしいことなんかじゃないですよ。…私は、このひよこが可愛いと思います」
「それじゃあ、ここに置きましょうか」
私たちは部屋の模様替えをしながら休日を過ごした。
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