33話 練習戦 6
アタシは違和感を覚える。
コハクへの距離を詰めるため動こうとしているのに、どうにも足の動きが悪い。
嫌な予感がする。
動きの悪い足に視線を下ろせば、そこには待針のようにアタシの足を縫い付ける一本の矢があった。
いつ?どうやって?
その疑問はすぐに氷釈する。
「コハクてっめぇ…」
「できるかなって思っちゃって」
最後の一矢は、ヴァッサーシュピーゲルを使われると踏んで、受け流される軌道を調整しやがったのか。
…弓矢の化け物め。
とはいえコハクは逃げ出す様子はなく。ここでアタシとの決着をつけてくれるみたいだ。
足が損傷して縮地は上手く使えないだろうが、この程度の距離はどうってことはない。
取り出された矢の対処をして、拳を一発ぶち込んでやる!
あの短い弓は、デカい弓より小回りが利いて連射がしやすいっぽい。
コハクは牽制や、アタシの誘導をするか?
…するだろうけど、初手から殺せるなら殺しに来るはずだ。
「…。」
アタシは矢の突き刺さった右足を無理やりに動かして、足先を消滅させる。
痛覚が無効化されてる利点を最大活用させてもらう。
とはいえ、それは諸刃の剣で、アタシの勢いと安定性を著しく奪う結果になった。
…足先がないというのは踏み込みに不利になるらしい。
ずるりと滑って転倒しそうになると、一本目の矢がアタシの頭上を掠めて飛んでいった。
無理やりな姿勢で左足に力を込め、一気に距離を詰めようとすると、矢が風を切る音が聞こえて、アタシの腹に命中する。
けどそれは、致命傷にはならない。
コハクが矢を射つ前に懐に入り込むと、少しばかり焦った表情を露わにしたので、アタシの心は少しばかりスッキリする。
全身全霊の拳をコハクの上半身にねじ込みながら、コハクの……まぁ、可愛い顔を拝んでやると、小さな舌をぺろっと出していた。
こいつまだなにか…?
「負けちゃいましたが…ノクサラさんは持っていけましたね」
「…は?」
アタシを指さしながら消滅していくコハク。
その手には最後の矢が握られておらず、指先を追っていけば、アタシの首に矢が刺さっていた。
「射てよ、矢はさ!?」
「えへへ」
コハクが消滅すると、アタシの身体も消えていく。
消え去るまで、もう少し時間があるだろうが、この足じゃ攻撃隊には戻れない。
「あーあ、勝ったと思ったのにな…」
この試合も蒼陣営の勝利で終わった。
前衛ばっかりの脳筋アホアホ編成は、前衛の枚数で押し切って勝利。そのままの勢いで拠点の核を破壊して、蒼陣営のストレート勝利だ。
「はぁー…」
「負けてしまいましたね」
「ん?ああ、そうだな」
アザレアがアタシの顔を覗き込んでくる。
「負けて落ち込んでいるのかと思いましたが、そうでもないみたいですね」
「…。」
そういやアザレアって、コハクのこと好きだよな。
「アタシさ、コハクのことをめっちゃ……可愛く思えちゃったんだけど、そういうことだと思う?」
「はぁ!?」
「うるさ」
「この、ノクサラが…?コハクさんを…?」
アザレアはしばらく困惑していたが、『相手がコハクさんなら仕方ありません』と一人で納得していた。
てっきり敵対でもされると思っていたんだが、意外にも受け入れてくれるらしい。
「…コハクさんの恋愛観って聞いてみたことあります?」
「アタシが聞くと思うか?」
「ですよねー」
「…。」
「…。」
「…気になるな」
「はい、気になります」
―――
「今回の結果、蒼陣営がストレート勝利となったが、これが本番での編成に作用するということはない。目的は、人と戦えるかどうかを見極めることだったからな」
二人ほど対人戦闘を行えていないが、他は問題なさそうだ。アタシも問題ない。
人型のモンスターと戦うこともあったし、そもそもルーシッド・エデンで殺し殺されが仕事なわけで、元から心配は要らなかったんだろうな。
「我々蒼陣営は、一マッチと三マッチで奇抜な戦術や編成を行っていた。これらは戦い方の幅を広げることと、パーティという枠組みを越えて連係が取れるように目指したものだ。…エキシビションマッチで勝敗を分けるのは、組み合わせや戦いの幅の広さだと考えている」
あれらがそのまま運用できるわけはないが、シュトラーレンゾンネを相手するなら、選択肢は多い方がいいはずだ。
親父はいい歳だが、それでも実力は折り紙付き。
ジネストラやジークヴィンも、若手ながらエース級な実力者だ。
…どっちも別方向にダルいが。
まぁジネストラはコハクに興味を示してるみたいだし、コハクを囮にして他が頑張るしかないか。
「本番まで時間はあるが、呆けていれば一瞬で過ぎ去ってしまうだろう。残っている時間を有効活用していこうではないか」
ちと気が重い部分はある。
けど『アローズならなんとかなる』なんて、アタシは楽観できるようになっていた。
寄りかかるわけじゃない。夢を押し付けるわけでもない。アタシはコハクとアザレアと並んで、胸を張って歩けるようになりたいんだ。
というかマジで、どうするんだ。
アザレアとは…恋敵ってのになるのか?
コハクと取り合って…?
それは、違う気がするんだよな。
「はぁ…」
少し離れたところで話を聞いているコハクの横顔を見つめると、アタシの胸の鼓動は少しうるさくなった。
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