33話 練習戦 5
アタシ、ノクサラは感心した。
カブラヤとかいう音の出る矢が、アタシたちのぴったし真上を通っていったからだ。
アルセルのアローレインによる一撃で、確実にこっちの位置を捉えて、仲間に知らせてやがる。
人との戦闘は経験がないらしいが、相手がモンスターであれ人であれ、狩猟対象となれば大した差はないということだろう。
今回のアタシたちは八人編成の攻撃隊で、ここが突破されたら防衛は厳しいだろう。
とはいえ攻撃隊にコハクがいるなら、奇襲に警戒をする必要もないはずだ。
正面から勝たせてもらう。
アタシたちの目的は拠点を離れた防衛戦だ。
時間切れになった場合、人数が少ない方が勝ちになるルールは、攻め手を増やして見栄えを狙うためなんだろう。
けど、いくらか前に出て防衛戦を敷くのなら、そのルールは適応されない。…第一マッチの奇襲みたいなのには弱いが。
一か八かではあるが、練習でそこまで勝ちに固執しないだろうという気持ちから、こういった試みに挑戦していることになる。
「相手側のアローレインがないということは、フラレールは防衛に就いているということだね」
「温存している可能性は?」
「こちらの位置を把握できたのなら、使わない理由はないよ」
「では作戦通り、前線を維持しながら蒼陣営を返り討ちにする」
第二のリーダーの指示で、アザレアや魔法使いたちが構造物を展開していき、その後ろに隠れる。
蒼陣営の編成は…五人?
いや、コハクは位置取りをするために、後ろに回ってるっぽいから、六人か。
「なあ…相手の編成ってさ」
「ああ…。なんというか……面白いな」
理解を諦めやがった。
コハクを除いて、全員が前衛のクッソ偏った編成で来やがった!
セーラは魔法使いでもあるが、杖での近接戦闘をするとかいう話だし、…なんなんだよ、あの編成!?
魔法と弓矢の射撃攻撃で近づけないように試みるのだが、ヒッポフォロスの三人が盾を構えて無理やりに突撃をしてくる。
「突撃!突撃!」
「くっ、前衛四人で敵を受け止めつつ、残りは射撃で相手を張り付けないように!」
アタシは指示通りに、突撃してくる相手を止めようと前に出るのだが、位置取りで後ろに回っていたコハクの姿が見えなくなっていた。
嫌な予感がして、森の方に視線を向けるもそれらしい姿はない。
ならば突撃部隊の後ろに隠れているのかと目を凝らしてみれば、木の柱が発生してコハクが射出される。
既に引き絞られた弓は、後衛の射撃担当に向いていて狙いは明らか。
勝手に行動を変えるべきではないが、後ろを潰されちまえば、人数有利を覆されかねない。
「後ろに回る!」
「承知した!」
アタシは大まかにコハクの視線から狙いを割り出し、構造物の上に飛び乗る。
「『ヴァッサーシュピーゲル』!!」
鎧にさえ当たればだいたいの攻撃を受け流せる武技『ヴァッサーシュピーゲル』。スタミナの消費は重いが、コハクの射撃を防ぐなら、これが確実だ。
「捉え、駆けろ『征空矢』!!」
「チッ…」
コハク最速の武技。
角度は甘いから、射った瞬間に当たってるようなことはない…が!
アルセルに向かって放たれた矢が、アタシの指先に命中し、ヴァッサーシュピーゲルで受け流すことに成功した。
肝が冷える。
武技を使い終わったコハクは、着地と同時に森を目指して走り出す。
散開射手、クッソ厄介だな!?
「コハクを後ろに行かせるわけにはいかない!追いかける!」
「ああ、向かってくれ」
縮地を使って高速移動をする。
ウッドピラーはコハクの正面にしか生成されないから、追いかける分には縮地を使えるはず。
二回三回と回数を重ねるごとに、コハクとの距離が埋まっていくが、アタシの接近には確実に気が付いている。
あと一回縮地を使えば、というタイミングで、コハクは前足を軸に身体を捻って回転させ、前後を反転させてアタシの方を向いた。
最大距離を進めば縮地を潰され、空中に放り出される。
まずは距離を調整して半分の距離を進むのだが、アタシが縮地を使うのと同時に、コハクは矢を放ちやがった。
読み負け。
コハクは、アタシのことをよく理解しているみたいだ。
とはいえ防げない攻撃ではない。
鎧に傾斜をつけて矢を受ければ、表面を削る程度の損害で攻撃を受け流すことができた。
この攻撃に対処できたのは大きい。
このまま詰め切っちまいたいところだが、ここで焦ればアタシの負けだ。
まずは踏み込みを見せてから、ウッドピラーでの逃げを誘発させる。
「『ウッドピラー』!」
アタシの頭上に位置するコハクの手には、三本の矢が握られていて、あれらを防ぎきれば圧倒的に有利な状況を作り出せる。
空中のコハクは身体を回転させながら、アタシを狙ってくる。
まず一発目は普通の射撃。
これは余裕。
次は、口が動き始めたのを確認し、大急ぎで頭部と腕で覆う。
「捉え、駆けろ『征空矢』!!」
防げた。
だが、アタシの視界は大きく塞がれ、次の一手が読みにくい。
腕と腕の隙間から覗く世界に、コハクのダークブラウンの瞳が入ってくる。
…コハクは、アタシの銀の瞳を綺麗だと言うけれど、そっちだって変わらないだろうに。
なんだろう。少し胸が高鳴る気がする。
「ふっ…。『ヴァッサーシュピーゲル』!!」
「捉え、駆けろ『征空矢』!!」
武技は確実に発動し、高速の一撃をどこかへ受け流し、コハクの攻撃はしのぎ切ったのだ。
「抜かったな!コハク!」
宙返りを終えながらアタシに振り返ったコハクは、心底楽しそうに笑っていた。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




