33話 練習戦 4
私、恋白は蒼陣営の拠点で防衛に就いている。
先の試合では、私の単騎駆けで勝利をもぎ取ることができたが、それを繰り返すことはない。
あくまで練習で、皆が戦えることを確かめるための模擬戦なのだから当然だ。
とはいえノクサラさんとアザレアさんに勝てたのは、ちょっと嬉しい。
他の皆さんも強いが、お二人は私のことをよく知っているからこそ、一番の強敵になる相手だと思っていたのだ。
実際、ノクサラさんが縮地で突撃をしなければ、私が先に消耗していたはず。紙一重の勝利である。
だから、お二人を一泡吹かせられたことは、私にとって大きな一歩だといえる。
「ホタビノ殿があんな奇策を提案するとは、思いもよりませんでした」
「コハクちゃんってもっと正面から堂々と戦うイメージでしたから、意外でしたねぇ」
同じく防衛隊となったヴァン・フェールの方々は、意外そうに私を見ていた。
「堂々と正面から拠点を叩きましたよ?」
「いやまあ、そうではあるのですがね」
先の作戦は、『相手の布陣は攻撃隊七人。ノクサラとアザレア、そこに魔法使いが一人を加えた防衛だろう』とフロランさんが読む。
それなら『私一人でもいい勝負ができるかもしれません、紅の拠点に突撃しましょうか?』と私が提案する。
それならと『他のメンバー全員を出さずに戦闘は行わず、戦場の横展開を防ぎながら、恋白様が森を通り抜けられるようにしよう』と星蘭さんが作戦を立てたのだ。
「とりあえず今回の試合に集中しましょうっ」
「ははっ、そうですね」
「再確認なんですけど、お二人とも魔法使いなんですよね?」
「はい、そうですとも。自分は中衛の魔法使いですよ」
「私は後衛の魔法使いだよ」
「ふむふむ。お二人は…構造物の魔法は使えるんですか?」
「私は専ら攻撃がメインだねぇ」
「構造物なら自分が使えます。ただ…自分らヒッポフォロスは、構造物で攻撃を防ぐより、攻撃をいなしながら走り抜ける方が得意でしてね、強度に関しては二の次なのですよ」
防衛の構築という点ではアザレアさんの方が有利ということだろうか。
「さっき突撃して思ったんですけど、相手の攻撃隊を倒し切ろうとするのはあんまり強くない気がするんですよね」
「というと?」
「ノクサラさんは私を倒そうと距離を詰めて、魔法使い二人はそれを援護しようと少し前に出ていたんですよ。そのおかげでノクサラさんの対処をした直後に、魔法使い二人を倒して核を破壊できました」
徹底した防御を敷かれたら、突破には時間がかかっただろう。
「だけど防衛に力を入れすぎても、時間切れの判定があるよね?」
『時間切れになった際は、拠点にいる人数が多い方が敗北する』というルールがある。
お互いが核を守るあまり、亀のようになってしまわないための対策だと、ルールの冊子に書かれていた。
…つまりさっきの作戦は大博打だったわけだが。
「そうですね。なので敵を発見し次第、私が鏑矢を放ち、拠点の危険を攻撃隊に知らせようと思います」
「攻撃隊に余力があれば挟み撃ちにできるってことね」
「はい、そうなります」
「おぉ、ホタビノ殿は色々と思いつきますし、準備はいいのですね。フロラン殿は鏑矢のことを知っているのでしょう?」
「いえ、今思いついたんで伝えられてないですっ!」
「そ、そっか…」
「なんとかなるっしょ。防衛を頑張るぞー!」
「おー!」
「お〜」
その後。この試合は攻撃隊同士の戦闘が長期化しつつ蒼陣営が突破。
拠点攻撃を試みるも時間切れとなり、拠点人数が少なかったこちらの勝利となった。
色々と魔法での構造物の高さや、攻撃に関する打ち合わせを続けていたのに、出番はなかった。
―――
三回目の試合は、私とアコアさん、星蘭さんに、ヒッポフォロスさんを三人加えた六人が攻撃隊となる。
フロランさんは拠点防衛に就くので、攻撃隊の指揮は星蘭さんが行うとのこと。
私がアローズのリーダーだということもあって、私を推してくれる方もいたが、人数が六人ということもあり、純粋な戦力として数えたいらしい。
「今回もよろしく、アコア」
「了解ッス」
星蘭さんは、アコアさんの虎体に乗って移動する。
正直、その姿を見た時に私はギョッとするほどに驚いたのだが、ヒッポフォロスの方々の反応は何もなかった。
よく考えれば、人力車を牽引するヒッポフォロスさんもいるし、意外と普通のことなのかもしれない。
明蝉国では、人鹿に乗ることは明確に禁止されている。
「そいじゃ出発するけど、小回りが利く恋白様が先頭で索敵をしながら進行。残り五人は周囲を警戒しながら、あとに続く。何か提案や意見はある?」
「ないですっ」
「指示に従うッス」
一同異論はなく、私たちは走り出す。
拠点から離れて橋を渡った先にある草原エリアは、魔法や矢を防げるような障害物はほとんどなく、視界もよく通る。
こういった場所で警戒するべきは、長弓を使うアルセルさんだろうか。
そんなことを考えながら足を進めていると、一本の矢が視線に入る。
それは高所に打ち上がっていくと、空を覆い尽くす勢いで増えていき、雨のように降り注ぎ始める。
『アローレイン』。ヴァン・フェールの弓使いが使用する武技だ。
ただ、アルセルさんの姿そのものは見えていないので、こちらの動きを予想した攻撃なのだろう。
私は矢の雨を躱しながら鏑矢を弓に番え、最初に見えた一本から発射位置を絞って、そこが左側面になるように移動しながら射掛ける。
ピョォロロォォー!と音を立てて突き進む矢に、後ろの五人も相手の位置を理解したらしく、若干の方向転換を行う。
さあ、開戦だ。
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