33話 練習戦 3
こっちに向かってくるコハクを視認したアタシは、周囲にアコアやヒッポフォロスが続いてきていないかを確かめる。
それらしい様子は見られない。
ならコハクの単騎駆けということになる。
いくら手薄とはいえ舐めすぎだろ。
「相手はコハク単騎だ。機動力と弓の射程は厄介だが、近づければこっちのもんだ」
「それなら障害物を生成し、進路を狭めてしまうのが最善ですわね?」
「いや、コハクの跳躍力は高さもとんでもない。生半可な防壁なら軽く飛び越えやがるし、それを足場に移動しかねない」
「魔法射撃も…当たる気がしませんが牽制はしてみましょうか?」
「……いや、アタシが距離を詰めた後に、確実に仕留められるため、もしくは取り逃さないための援護をしてくれ。後は、核が破壊されないための防壁だ」
「承知しました」
「かしこまりましたわ」
核を防御するため、二人は魔法を使いつつも、アタシを援護するために距離を維持する。
直接対峙するのはアタシだけだが、サポートが二人いるのは心強い。
…流石のコハクも厳しいんじゃないか?
コハクが距離を詰めてきたのを確認し、アタシは足に魔力を集中させて縮地の準備をする。
まず一回。これは方向転換によって回避される。だから、次の地点へ、すぐに縮地を使って追撃をする必要がある。
よし、この距離なら一歩で進める。
アタシは周囲の景色を置き去りにする加速の中で、コハクの行動を観察する。いくらコハクが素早くても、縮地より早く移動するのは無理だ。
悪いが、ここはアタシの勝ちだ。
「『ウッドピラー』」
「―――?!」
声すら出せなかった。
加速の視界の中でコハクがとった行動は、一時停止からのウッドピラーの発動だった。
気がつけば、アタシの身体はウッドピラーによって押し上げられ、吹き飛んでいた。
このままじゃ拙い。その意識はあるものの、手足の一本も何かに触れていない空中では、身体を屈めて防御する程度しかできないだろう。
しくじった。
逆さまになった視界の中で、コハクはアタシの方を見ていない。
コハクは、アタシを退けるのに弓矢すら使う必要がなかったのだ。
なにが『実力を見てやる』だ。アタシは傲っていたのだろう。
「跳ね喰らえ『飛貪矢』!!」
「『フローズンブル―――」
「『フレイム―――』」
コハクの放った武技によって、残った二人は首を貫かれ退場。
発動者がいなくなった魔法は霧のように消えていき、そのまま拠点の核が破壊されたのである。
…はぁー、めっっちゃ悔しい!!
―――
気が付くと、アタシは紅陣営の拠点に立っていた。
どうやら、核が破壊されると強制的に死亡扱いになって、拠点に引き戻されるようだ。
「あれ?私は歩いて戻る感じですかね?」
「なにが…あった?」
「私たちは草原エリアを進んでいたはずでは…?」
勝利側は戻されないのか、コハクは紅陣営の面々と同じように、困惑を露わにしている。
…まったく、ぽやぽやしやがって。
「おい、コハク!」
「は、はいっ!?」
「次は負けねえ」
「えへへ、望むところですっ!」
宣戦布告をすると、コハクも拠点に引き戻されたようで、消滅してしまった。
「何があったのかな?」
「実は―――」
斯々然々。単騎駆けのコハクに三人が打ち破られたことを知らせると、ヴァン・フェールの面々は『信じられない』という表情を露わにしつつも、今現在の状況と照らし合わせて納得する。
「攻撃隊はどうだったんだ?」
「射撃攻撃を警戒しながら進んでいたが、会敵すらしなかった。もしかしたら…」
「攻撃隊はコハクのみで、残りは防衛だった…か」
意地の悪い戦い方だ。
「フロランって食えないやつなんだな」
「いや。クランリーダーは、初手から搦め手を使うような方ではないよ。そもそも、対人戦闘ができるかどうかのチェックを兼ねているから」
「他のメンバーは?」
「あまり想像はできないな」
「ってことはアコアかセーラだが、まぁ十中八九セーラだろう」
「ホタビノさんは?」
「なくはないが、ちと雰囲気が違う」
「わたしもそう思います」
「ミセス・ピルグリムの印象とは異なるね」
アザレアとアルセルの言葉に、他のメンバーも納得していく。
「まあいい、今回は敗北をしたが次がある。また同じ戦い方を使うとは限らないが、防衛隊を一人増やしてみようか」
「相手の思うつぼでは?」
「いいさ、それでも」
「今は練習中さ、大敗を喫したとしても、それはいい経験になるだろう」
「そう、だな。ああ、そうだ」
アタシたちは、次のマッチに向けて攻撃と防御の動きを、全員で詰めていくことにした。
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