33話 練習戦 1
湿気の森エリアの冒険を再開して数日の時間が経った。
モソリトゥスの相手も慣れ、そろそろ周辺エリアの調査に足を向けようかという頃、クラン対抗エキシビションマッチの開催が公表されていた。
シュトラーレンゾンネは、一つのパーティがソロやフリーの冒険者を集めた混成パーティだが、他は五人が揃ったパーティとなっており、総数は二五人。
混成パーティにはノクサラさんのお父さんである、二代目『銀眼』のラバン・シュタールさんがおり、世間では賑わいをみせていた。
対してスフル・デュ・クラージュは、私たちアローズの三人と星蘭&アコアの二人を助っ人に加えた、補強クランといったところ。
合計人数で劣ることもあり、これでいいのだろうかという話題性もあった。
公表を機にアローズに対する注目度が上がり、映像を見に来てくれる方々も現れたので、『私たちは、あくまで助っ人パーティです』ということを公言し、主役はスフル・デュ・クラージュであると視聴者に伝えた。
ノクサラさん曰く『面倒くさい奴ほど、こういうのは観ない』とのことだが、やらないよりはいいだろう。
ちなみに『深淵からのジネストラ』と名乗るシュトラーレンゾンネのメンバーからのものだ。
『我が宿敵「白き死の姫」よ、我輩は貴殿との対決を楽しみにしている。エキシビションマッチの場で相見えようぞ!』
というメッセージ付きの支援金が送られてきており、ノクサラさんに尋ねてみると『変なのに目をつけられたな』とだけ言われ、彼女の表情は非常に面倒くさそうなものになっていた。
『白き死の姫』とは私のことを指しているらしい。
それらはさておき、ルーシッド・エデンから練習用の特設エリアへの入り口が設置できたとの通知があった。
ルーシッド・エデンの冒険をもっと進めたい気持ちはあったものの、参加するエキシビションマッチに本気で挑みたい。
今シーズンの冒険は切り上げて、意識を練習に向けたいと思う。
―――
「特設エリアへ入場するには、こちらの認証パスが必要となります。今現在はシュトラーレンゾンネとスフル・デュ・クラージュの方々のみとなっており、忘れた場合でも受付に一声いただければ代用のパスをお渡しできます。紛失した場合も同様で、受付へとお声掛けください」
手渡された認証パスというのは、飾りっ気のないカードで、冒険者証明書と同じ大きさだ。
表面には『貸出用』とだけ記されており、今回のエキシビションマッチのために用意したものなのだろう。
「それではこちらへどうぞ」
第六ゲートに新設された、新たな乳白色の泉。
仮設にしてはしっかりとしすぎている雰囲気のある施設で、ルーシッド・エデンの運営する方々も、今回の催しに力を入れているのだと理解させられた。
―――
乳白色の泉に潜行し、出入り口小屋を出ていくと、そこは天空大陸だった。
ただ、冒険用のフィールドと異なるのは、エリアの区切りが小さく、いくつかの環境が並んでいることだろうか。
「森林に草原、岩場ですかね?」
「そうみたいだね。今ここが紅の拠点、そして三つのエリアを挟んだ向こう側に青の拠点が置かれ、お互いに敵拠点を攻撃し核を破壊するか、相手を全滅させることが目的となる」
フロランさんは簡単にルールを振り返る。
ルールの冊子によれば、エリアはその試合ごとに変更され、その内容は本番の五日前に発表されるらしい。
「へぇー、これが操作魔導具ですか。えーっと、ルールの設定に…エリアの変更と、必要なことはだいたいできるようですね」
アザレアさんが魔導具を操作すると、エリアの種類と配置が変更されていく。
スフル・デュ・クラージュの面々と話し合い、あれこれと設定し始めたので、私は少し歩いてから高所に登ってみる。
エリア自体は一つの島で独立しており、エリアの接点は広くなく、場所によっては遠く離れて橋が架かっている。
そうなると、お互いに移動する場所が限られ、そこで場所の取り合いが起こるのかもしれない。
二〇対二五の対人戦闘。
狩猟やモンスターの相手とは異なる戦闘は、私にとって未経験だ。…いや、未経験の方がいいことなのだろう。
私たち明蝉国の民は、そういった争いを別のものに変えてしまったのだから。
私が考え事をしていると、ノクサラさんが隣まで登ってきてエリアを一望する。
「なんか思いついたりしたか?」
「エリアごとの接点と、橋の架かった場所は戦闘が激しくなりそうだなぁって」
「んだな。橋を落とせれば相手の妨害になるが、…こっちの進行も滞っちまうか」
「そうなんですよね。距離がそこまで空いてなければ、私は跳び越えて移動ができますが…同じことをできる人は多くないですよね」
「両陣営ともな」
フローズンブルワークみたいな魔法を足場に、急拵えの橋を作る選択肢は、ヒッポフォロスの方々のことを考えると無理だろう。
落っこちてしまえば、一切容赦のない死亡扱いだ。
ノクサラさんに目を向けると、自然と視線が合う。
気乗りしないことに巻き込んでしまったからには、最後に後悔のないエキシビションマッチにしないと。
「勝ちましょうか」
「おう」
ニッと笑ったノクサラさんと足並みを揃え、私は皆の許へと戻る。
「ふと気がついたんですよね」
「なにに?」
「私たち二〇人の中で、私だけ小さくないですか?」
ヒッポフォロスの皆さんが大きいのは前提として、ノクサラさんとアコアさんは身長が一九〇バシコンほどで、アザレアさんと星蘭さんが一八〇バシコン弱。
少なくとも皆さんより二〇バシコンは小さいのだ。
「なにを今更」
「浮いちゃってないかなって思いまして」
「ふはっ、それこそ今更だろ!くくくっ」
「あっ!笑いましたね!?」
「笑ってねーよ、くく…あははっ!」
「許しませんよ!」
逃げ出したノクサラさんを、私は追っていく。
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