32話 顔合わせ 3
「質問ですっ」
「コハクさんどうぞ」
「日別で手当が出るのは理解しましたが、練習というにはどうやってやるんですか?」
「では、その辺りの説明を行なおう。まず、エキシビションマッチ自体が、ルーシッド・エデン内の特設エリアで開催される。そこは我々参加者のみが入れるエリアとなっており、本来のルーシッド・エデンとは異なる仕様となっているのだ」
一つ目。痛覚の制限。
エキシビションマッチは人と人との戦闘であり、普段よりも被弾率が上がることが予想されるため、被弾時の痛覚が制限されるとのこと。
二つ目。死亡時の再入場制限の無効化。
本来であればルーシッド・エデン内で倒された場合、再入場に二四時間の制限が課せられるのだが、そういったものがなくなるらしい。
三つ目。モンスターが発生しない。
人と人との戦闘と聞いて、これは予想がついた。
四つ目。スタミナ及び魔力は、一度ごとにリセットされる。
これはよくわからないが、全体を通して啄鎧矢を一回使えるかどうか、ではないということだろう。
「―――以上の特殊な仕様のエリアを、スフル・デュ・クラージュ及びシュトラーレンゾンネは自由に使用することができる。対人戦闘の練習は、そこで行うものとする」
「へぇ。質問だ」
「どうぞ」
「まぁ、なんだ。その特殊エリアってのは、シュトラーレンゾンネと共同で使うのか?」
ノクサラさんは、少しバツの悪そうな表情を露わにしている。
一度戦うのと頻繁に顔を合わせるのでは、違うのだろう。
必要なら、シュトラーレンゾンネとの日程調整なんかを行いたいところ。
「それは問題ない、別のエリアということになっている。お互いを監視し合っての練習では、試せるものも試せなくなってしまうからね」
「では…撮影はお休みですか?」
「ふふっ、ミセス・ピルグリムは少し甘いようだね」
「といいますと?」
「意図的に手札を晒すことで相手に圧をかけられる。適切に手札を切ることが、勝利への階を登る一歩になるのだよ」
「なるほどぉ。教えていただきありがとうございます、アルセルさん」
「どういたしまして」
なかなか大変そうだ。
「では当日の試合内容についてだ。練習の時にも触れる予定だが、先に三マッチを取ったクランが勝利となる最大五マッチの試合だ。勝利条件は、相手クランメンバーの全滅か、相手の陣地にある核の破壊となっている」
「死亡時のリスクがないと言っとったが、その試合中何度でも挑めるとか?」
「倒された場合、そのマッチ中はもう参加できない。マッチが終わり次第、復活ということになる。そして一マッチごとにスタミナと魔力が再生する」
「一マッチ一度限りの命だけど、その分、毎回本気で挑める、と」
このルールに関しては皆が面白がっていて、あれこれと話し合いが始まっている。
最初は「こういうことができる」「この組み合わせを試してみたい」などという内容だったのだが、次第に「◯◯が出てくるのでは?」「あいつは厄介そうだ」という対策についての話し合いに移っていった。
「ふと思ったんですけど、私たち四足獣人って対策される側ですよね?打開策を考える方が大事なんじゃないですか?」
食堂の一同は、虚を突かれたような表情を露わにし、納得したようで頷いていく。
「ではコハクさん、貴女ならどういう対策を敷くかな?」
「大多数を占めるのはヒッポフォロスの皆さんですし、皆さんが得意な場所に魔法で障害物を作ればいいんじゃないですか?高さ…二バシスほどの高さに横枝のある柱とか」
「それって壊しちゃったらそれまでッスよね?」
「いんや、そこに魔力やらスタミナを使うんなら、それはそれでメリットがある。ほいだで…壊しやすく作って、意図的に消耗させるなんて策も考えられるよ」
「なるほどッス」
侃侃諤諤。私たちは打開策や、有効な戦術を話し合っていく。
すると星蘭さんは手提げを片手に席を立つ。
「ちいと煙を吹かしてくる」
「承知した。…こういった話し合いをできる機会は多い。今日はルールに関する冊子を配布するから、後は自由にしてくれ」
「はいっ」
話し合いが終わったということで、食事に手を付けようとすると、星蘭さんが私の隣にやってくる。
「恋白様、ちょっと話できる?」
「いいですよ」
「そいじゃ外で。…恋白様を借りてくよ?」
「……はぁ、どうぞ」
「コハクさんが決めたのですから、他意はありませんよ」
「どうも」
星蘭さんを追っていくと、彼女は声を潜めて話し出す。
「恋白様のパーティメンバーって、ちょびっとおっかなくない?」
「お酒の席でなら打ち解けやすいと思いますよ?」
「あー…ボク、酒は飲めんだ」
「そうなんですね。まあでも、ノクサラさんとアザレアさんが酔ってくれるんで、大丈夫だと思いますよ」
「そういうものなん?」
「多分」
私たちはジェルブ・ドールの外に出て、星空を見上げる。
「恋白様は…ボクの瞳にいつ気が付いたん?」
「初めて会った時です」
「はぁ!?初めての時?!」
「初めて見た時に、私と同じ色だと思ったんですけど、それと同時に色がズレているとも感じたんですよね。それで狐人には変化があったなって」
「マジかぁ…。結構自信があるんだけどな」
自身の瞳を手で隠した星蘭さんが、ゆっくりとその手を退ければ、瞳の色が濃い茶色から鮮やかな緑色に変わっていた。
タマムシのように輝く瞳は、私を瞳に映すと目蓋が閉じられてしまう。
「閉ざしてしまうんですか?」
「まあね。…でさ、どうやったら上手く隠せると思う?」
「私以外に気が付いた人はいるんですか?」
「いない」
「さっきも言いましたが、私は星蘭さんの能力を立派なものだと思っているんですよ。事情は聞きませんけど、しっかりと研鑽を積んだ結果、自在に髪色や瞳の色を変えられるようになったんじゃないんですか?」
「…。」
「一度、その力を誇ってみてください。私にでもいいですし、気を許せる人がいるなら、その人にでも」
「…なんというか……『アローズ』のリーダーということに、納得した。ボクは煙を吹かすから戻っていいよ、ありがとう」
「どういたしまして」
私が食堂に戻ると酒盛りが始まっており、賑やかな会場となっていた。
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