第11章 二学期 第382話 巡礼の儀―⑲ たとえ、嘘吐きの偽物だとしても、妾は演じ進み続ける
《フランエッテ 視点》
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
「ヒィーハハハハハハハハハハッ!! どうしたというのですかっ!! 剣神フランエッテ!! 剣神ともあろう御方がっ、私から背を向けて逃げ続けるだけで良いのですか!? 先ほどの勢いはどこへ行ったというのです!!」
屋根の上を疾走していると、背後から、シルクハットを被った不気味な男……フォルターが追いかけて来る。
奴は指でコインをピンと弾くと、妾に向けて投擲してきた。
「ぬわぁ!?」
妾はよろけながら、前へと跳躍する。
すると先ほどまで妾が立っていた場所に当たったコインは、爆発し、衝撃波を巻き起こした。
転倒した後。すぐに妾は起き上がると、走り始める。
「まだまだ行きますよ!!」
連続で妾に向けてコインを投げてくるフォルター。
妾はそれを全て、転倒しながら避けて、紙一重で回避して行った。
「ひぃぃぃぃぃ!? 何なんじゃあやつはぁ!! 魔法の詠唱もなく、バンバンとコインを爆発させおってぇぇぇぇ!!!! ずるいのじゃぁぁぁ!!」
「これが、加護の力というものですよ、剣神フランエッテ!! 加護とは、魔法の上位互換なのです!! 魔力を必要としなければ、詠唱も必要としない!! 日常生活に支障をきたすというデメリットを除けば、これほど素晴らしい能力もないでしょう!! つまり、加護を持っているというだけで、我らは他の有象無象から一歩上の段階へと昇っているのです!!」
魔力を消費しないということは、奴は、起爆物があれば際限なく物体を爆発させられるということじゃろう。なんじゃそれ!! 妾は物体を変化させるのに魔力を消費するというのに、やっぱりずるいのじゃ!!
(……落ち着くのじゃ。フォルターは先ほど、自慢げに自身の加護を開示しておった。奴の能力は、触れたものの空気を圧縮させ、爆発させる能力。恐らくは、奴が触れたものは全てが爆発物へと変えられる……ということは、絶対に、奴に触れられてはいけないということじゃ。妾自身が爆発物に変えられては、ひとたまりもないからのう)
魔術師であるアルザードに対して近距離戦は有効ではあったが、あやつは見たところ長年鍛えてきたであろう聖騎士。妾のような付け焼き刃の剣で近接戦闘を行うのは、できる限り避けた方が良いのは明白。かと言って……。
「長距離戦も、恐らく、有利とは言えぬな……」
妾は走りながら、袖の中から薔薇に変えたナイフを取り出す。
そしてその薔薇を、フォルターへと向けて投擲した。
「何の真似です?」
フォルターは、コインを使ってその薔薇を打ち落とし、爆発させた。
「やはり……奴の能力は、妾の能力と相性が悪いみたいじゃな……」
妾と似た物体を変化させる能力であることに間違いはないようじゃが、その威力、殺傷能力は、妾よりも上。しかも、魔力を消費しない分、耐久戦に持ち込んでも勝ち目は薄い。
……う、うむぅ……これ、詰んでないかのう? 妾……。
「さぁ!! 貴方の魔法剣を見せてください、剣神フランエッテ!! 私は知っているのですよ!! 貴方が、奈落で全てを消し去る光を放ったということを!! その光の剣で、奈落を襲った怪人を倒したと言うことも!!」
それ……アルザードにトドメを刺した師匠のことを言っておるのかの……?
妾が【覇王剣】を使えるわけなかろう!! 何を勘違いしておるのじゃ、こやつは!!
妾は足を止めて、傘から仕込み剣を抜き、構える。
するとフォルターも足を止めて、剣を構えた。
「ほう!! ようやく、光の剣を見せる気になったのですか!! 最強の魔法剣士、フランエッテ!!」
「……言っておくが……どうなっても知らぬぞ? 妾が使う【邪怨冥殺漆黒剣】は、この街の大部分を消し飛ばす威力を秘めた必殺剣……剣を振ったら最後、貴様は、確実に塵となり消えていく」
「ハハハハハハ!!!! 素晴らしい!!!! ぜひとも私に見せてほしいものです!! 私は、強者というものに敬意を抱く!! 災厄級であるベルゼブブを倒し、奈落の掃き溜めを襲った怪人を倒した貴方の実力を、私に見せてください!!!!」
「……良いじゃろう」
妾は剣を構え、無表情となる。
そして、目を伏せた後……カッと目を見開き、剣を横薙ぎに振った。
「これぞ、我が奥義!! 喰らうが良い!! ―――――――【次元斬】!!!!」
……。
…………。
…………………しかし、何も起こらなかった。
ヒュゥゥゥゥと、背後に、冷たい冬の風が吹いていく。
「……何の真似です?」
眉間に皺を寄せ、首を傾げるフォルター。
妾は「フッ」と笑みを浮かべると、傘を拾い上げ、そこに仕込み剣を仕舞った。
「分からぬのか?」
「まさか……私ごときに、光の剣を使う気はない、ということですか?」
「さて、な。貴様にこの妾の行動の意味が理解できるとは思わぬのう、羽虫」
フォルターは怒りの表情を浮かべる。
そして奴は、妾に向かって走って来た。
それと同時に、妾も再び、走り出す。
「良いでしょう!! ならば貴方をその気にしてさしあげましょう!!」
……案の定、怒ったか。これも計画通り。
妾は振り返り、先ほど仕込んでおいた罠に向けて指を鳴らし、発動させた。
「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】!」
その瞬間、フォルターの足の裏に、ナイフが突き刺さった。
「なっ……!?」
先ほど、妾が次元斬を行おうとした際に、さりげなく屋根のレンガの隙間へと薔薇を差し込んでおいたのじゃ。
相手の視線を誘導させ、別の手で他の仕込みを行う。手品の基本中の基本じゃ。
妾は足を止めると、傘を地面に放り投げて……両手の袖から5本の薔薇を取り出し、両手の指の隙間に挟み込む。
そしてそれを、フォルターに向けて投擲した。
左右からクルクルと回転して迫り来る薔薇。
そして妾は空中を旋回して飛ぶ薔薇に指を向ける。
「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】!」
フォルターへと迫り来る薔薇が、一斉にナイフへと姿を変える。
その光景を見て、フォルターは、面白そうに笑い声を上げた。
「ハハハハハハハハハハハハ!! なるほど!! 既に、攻撃は完了していた、というわけですかッ!! 良いですね、実に良いですよ!! 剣神フランエッテ!! どうやら貴方と私は、どちらも同じ罠設置型の能力を持つ剣士のようだ!!」
「……罠、設置型……?」
「周囲をご覧なさい!!」
その言葉に、周囲を確認する。
すると、そこには……先ほど投げたコインの中にあったのか……まだ、起爆していないコインの姿があった。
周囲にバラバラの位置で落ちているコインを見て、妾は顔を青ざめる。
「ま……まさか……!!」
「さぁ……共に決死の状況を楽しみましょう!! 人間の生とは!! 死の間際でこそ輝くものなのですからッ!! 【起爆】」
その瞬間……妾の周囲に落ちていたコインが起爆し、家屋が倒壊していった。
妾はその光景を確認した瞬間、傘を拾い上げて、屋根の上から飛び降りた。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
妾は咄嗟に傘を開いて、爆風を使って滑空していく。
この状況に……妾は思わず、涙を流してしまっていた。
「何なんじゃこれ!! 何なんじゃこれ!! 何なんじゃこれ!!」
妾、本体は、すこ〜しだけ歳を取っているだけの、か弱いただの女の子なんじゃぞ!! こんな、面白びっくり化け物人間どもと戦うのは、無理なんじゃないかのう!? こういうのは、ロザレナとかグレイレウスとかルナティエの役目なんじゃないのかのう!?
「逃しませんよッ!!」
背後を振り返ると、フォルターが剣を上段に構えて、落下してきていた。
妾はその光景を見て、目玉が飛び出てしまう。
「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
「さぁッ!! 貴方の本気を見せてください!! 剣神フランエッテ!!」
剣が振り下ろされる間際。妾は、即座に魔法を唱えた。
「我が身を鳩へと変えよ!! ―――――【トランスピジョン】!!」
「【爆裂剣】!!」
妾は身体を無数の鳩へと変えて、方々に散って飛んでいく。
すると、先ほどまで妾がいた場所へと、フォルターは剣を振り下ろした。
その瞬間――――――――空中の上で、大きな爆発が巻き起こる。
一歩、魔法を唱えるのが遅ければ……妾は間違いなく、爆散して肉片となっていたことじゃろう。
鳩となった妾は、付近にある民家の屋根へと降り立ち、魔法を解除して元の姿へと戻る。
そして、ゼェゼェと荒く息を吐いて、倒壊していく建物を見下ろした。
「……つ、強いのじゃ……これが、加護持ちの剣士との戦い……!」
妾が戦ったのは、魔術師であるアルザードだけ。
アルザードは、多種多様な変化属性魔法を使い、夜間はダメージを無効化するという脅威的な能力を持っていた。
だがこのフォルターは、近接戦闘を得意とする剣士。故に、ガンガンと詰めてくる。紙装甲な魔法剣士にとって厄介なことこの上ない。
「お、落ち着くのじゃ。師匠は言うておった。まずは、相手の剣の型を探ることが、剣士同士の戦いの勝利の条件であると。フォルターは、剛剣なのか、速剣なのか、魔法剣なのか。それともオールラウンダーなのか。それを見極めなければいけぬ」
見たところ、魔法剣の線は薄いように感じられる。
妾は魔法剣士だから分かる。魔法剣士は、あのように、ガンガンと相手の間合いへと詰めることはせぬ。基本的に魔法剣士は、詠唱を唱える時間を得るために、中距離か遠距離の戦闘スタイルを好むからじゃ。
では……剛剣型か速剣型ということになるのじゃが……ん?
今、思ったのじゃが、あやつは……剣を振って発動させた爆発ダメージを、どう防いでいるのじゃろうか?
「……もしかして、【爆裂剣】を使う時は、闘気で自身をガードしておるのか? いや、そもそもの話、剣を爆発させて【爆裂剣】を発動させているのなら、何故、奴の剣は壊れずに残り続けておるのか……それも闘気でガードしているから、なのか? でも、闘気は、使い続けると残量が減っていくと言っておったような……なら、一応、消耗戦に持ち込むことはできるのかのう?」
ということは……奴の能力自体は、闘気で防げるということなのかのう? 自分よりも格上の剛剣型には効かないとか、思ったよりも使い勝手が悪そうなのじゃ。あの能力。
妾が考え込んでいた、その時。
妾が、一歩、足を前へと踏み込むと、足元が凍っていたのか……思わず、滑って転んでしまった。
「わらわっ!?」
妾は、屋根の上から滑り落ちていく。
するとその瞬間……妾が先ほどまで立っていた場所で、大きな爆発が巻き起こった。
「……ほう。私の不意打ちを避けてみせるとは、なかなかやりますね」
「ぼべっ」
頭から落ちた妾は、雪の上へと突き刺さる。
そして即座に雪から起き上がると、ブルブルと頭を振って、髪に付いた雪を振り払う。すると妾の前に、フォルターが落ちてきた。
フォルターは両手を広げながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「しかし、先ほどは流石でしたよ! 剣神フランエッテ! 私は、速剣型の能力を一応持っておりましたが……先ほど、貴方はそれを読んで、足に攻撃をしてきた。これでは【縮地】を使用した時に、速度が幾分か落ちそうです。流石は剣神ですね。私が速剣の力を持っていることを、既に推測していたとは!!」
「え」
「ん?」
お互いに首を傾げ合う、妾とフォルター。
しばしの沈黙後。妾は立ち上がり、服に付いた雪を払うと、肩に傘をかけ、声を張り上げた。
「フ……フハハハハハハハハハ!! そ、その通り!! 妾の行動は全て、策略の一部なのじゃ!! 恐れ慄いたか!!」
「ハハハハハハハハ!! 流石は、剣の神に名を連ねる剣士!! 貴方のような実力者から【剣神】の称号を奪えば、私はもっとゴーヴェン様に認められることでしょう!!」
何か勝手に勘違いをして、自ら型を開示してきたのじゃ、この男。
ということは……あやつは剛剣型と速剣型ということか。ふむふむ……って……。
「……魔法剣の弱点って、剛剣型だった気が……確か、魔法剣士の火力では、闘気ガードを超えることは難しいからって師匠が言っていたような……」
……ん? ピンチなんじゃないのかのう、これ。
妾……どうやってあやつにダメージを与えれば良いんじゃ? さっきみたいに、不意打ちでしかダメージを与えられないんじゃないのかのう、これ。
「さぁっっ!!!! 殺し合いを再開致しましょう!!!! 剣の神よ!!!!」
「待て!! 待つのじゃ!!」
妾はそう言って、手を伸ばして、フォルターを静止する。
「何ですか?」
「このラオーレに住んでいた人は、どこにいるのじゃ? せめて……妾は、人々がいない場所で戦いたいのじゃ……!!」
妾の言葉に、フォルターは呆れた表情を浮かべる。
「剣神ともあろう者が、弱者の命を気にしてどうするというのです? 強者とは、己を脅かす者にしか興味を抱かないものです。私たち強者同士の素晴らしい戦いにおいて、弱者たちなど、関係ないはず。違いますか?」
「な、なんなのじゃ……それは……っ!! 妾は、人々を笑顔にさせたくて、剣を握ったのじゃ!! もうエルルゥのような誰かに理不尽に追い詰められる人間を生み出したくないから、妾は魔法剣士を目指したのじゃ!! それなのに……弱者は関係ないじゃと? お主のその在り方は、妾たち箒星とは相反するものじゃ!!」
「がっかりだ……あぁ、落胆です。剣神ともあろう者が、そのようなくだらない考えを抱いているなんて……ひどく失望だ。強者こそが、この世界で生殺与奪の権利を得ることのできる存在だというのに……偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者が偽善者がゴーヴェン様の理想を理解しない偽善者が」
フォルターは左右の頬に両手を当てて、皮膚を力いっぱい下に下げて……白目を剥く。
その姿を見て、妾は思わずドン引きしてしまった。
「あ、そうだ。良いことを考えました。貴方に良い情報を教えてさしあげましょう」
頬を引っ張ることをやめると、フォルターは笑みを浮かべ、再度開口する。
「このラオーレにいる民たちは全員、街の中央にある迎館ホールに集められています。私はそこに、貴方に放ったのと同じコインを仕掛けておきました」
「……は?」
妾が驚きの表情を浮かべていると、フォルターは腕時計を見て、邪悪な笑みを浮かべた。
「そうですね……あと、30分以内に私を倒すことができなければ……起爆、してしまいましょうか。フフフ……本当であれば、ゴーヴェン様によって、新たな世界を生きられるかどうか精査されるべき人間たちでしたが……仕方ありませんね。これもまた強者のみが生きられる世界へ渡るための試練です。どうです? 本気を出す気になられましたかね?」
「お……お主はッッ!!!!」
「ハハハハハハハハハハハ!!!! やっと良い表情を浮かべましたね!!!! 私は、貴方と本気で殺し合いがしたいのですよ!! この生き地獄の世界において、命の奪い合いほど楽しいものはない!! さぁ!! 貴方の本気の剣を私にお見せください!! 剣神フランエッテ!!!!」
そう叫ぶと、フォルターは妾に向かって駆けて来る。
妾は袖から薔薇を取り出すと、それをフォルターに向けて投擲した。
「その技はもう知っていますよ!! 【起爆】!!」
フォルターはコートのポケットからコインを取り出すと、それを薔薇に向けて投げ、爆発させることで薔薇を防いでみせた。
「……っ!! やっぱり、妾の攻撃が通じない……!! 近づくのはまずいのじゃ……!!」
妾は即座に、逃走しようとする。
すると、フォルターは先回りして、妾の進行方向へと姿を現した。
「【縮地】。私はリーゼロッテほどではありませんが、速剣型の技も使用できるのでね。さぁ―――――――!! 私に、全てを消し去る光の剣を見せてください!! 剣神フランエッテ!!」
「あ」
剣が振り下ろされる。
――――――――終わった。
妾じゃどう足掻いても、破裂するこの剣を避ける術を持っていない。
これが、巡礼の儀の戦い。これが、本物の剣士との戦い。
本物の剣での戦いを前にして、妾の夢は……ここで終わってしまった。
『……フランエッテならできるよ、きっと! みんなを笑顔にできる魔法剣士に!』
エルルゥの声が脳裏に過ぎる。
『フラン。貴方は確かに、まだ未熟です。箒星の誰よりも剣士としては弱い。ですが、貴方には誰にも負けないあるものを持っている。それは……勇気です。貴方は、奈落の民を救うために、単身、格上の相手へと挑んだ。その行いは、誰にでもできることではありませんよ。貴方は箒星の中でも、一番……【勇気】を持っている。それは、誇って良いものだと思います』
師匠の声が脳裏に過ぎる。
妾ができることは、人よりも手先が器用なことと、他人を欺く演技が得意なこと。
そして……【勇気】があること。
ここで簡単に諦めてしまったら、オフィアーヌの民たちが、ゴーヴェンの手に落ちてしまう。
ゴーヴェンは、妾の敵じゃ。奴は、この国に住まう多くの者を泣かせてきおった。
妾の夢は、フランエッテという偽りの魔法剣士を、皆の希望となる存在に昇華すること……!! この残酷で理不尽な世界に住む人々を、妾の演技で、笑顔にするということ……!!
「諦めて……たまるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
後退するのではなく、一歩、前へと踏み込む。
怖い。怖くて仕方がない。妾は、本当は吸血鬼でも剣神でもなんでもない、ただの旅芸人じゃ。こんな人殺しを肯定する狂った奴に挑んで、勝てる能力なんて当然ない。
だけど……だけど……っ!! 妾にだって、夢があるのじゃ……!!
どれだけ怖くても、進み続けねば、この先、理想の妾になれることは永遠にない!! 嘘を真実に変えることなどできはしない!!
常に傲慢で、常に王者たれ!! それが、妾の演じる、フランエッテという少女の姿じゃ!!
妾はまだ――――――舞台を降りてはおらぬ!!
この演目は!! この舞台は!! 妾が主役の独壇場!!
最後まで演じきれ……!! フランエッテ・フォン・ブラックアリア……!!
「ヒィーッハッハハハハハハァッ!!!!」
剣を振り下ろしてくるフォルター。
妾はそんな奴に向かって、傘を開いてみせた。
そして、妾は、仕込み剣を抜き……傘に向かって魔法を唱える。
「我が傘を鳩へと変えよ!! ―――――【トランスピジョン】!!」
傘が、無数の鳩と化す。
鳩の群れは、剣を振り下ろそうとしているフォルターの視界を遮った。
「む……!?」
一瞬、身体が硬直するフォルター。
妾はそんな奴の背後に周り、剣を振った。
――――――――――ザシュ。
フォルターの右腕から、鮮血が舞い上がる。
そして妾は、目を細めて……冥界の邪姫フランエッテを演じた。
「―――――――羽虫。貴様……妾の本気を見たいと言っておったが……何故、貴様のような雑兵程度に、妾が奥義を使わねばならぬのか。分を弁えよ、人間」
妾の姿を見て、フォルターは、盛大に笑い声を上げる。
「ハハハハハハハハハ!!!! 良いですね、とても良いですよ!! それが……貴方の本当の姿ですかっ!! 剣神フランエッテ!! さぁ!! もっと殺し合いを楽しみましょう」
さて……ここからは少し、時間稼ぎをせねばならぬな。
妾は不適な笑みを浮かべたまま、剣を構え、口を開く。
「一応、死ぬ前に聞いておこう。貴様は何故、ゴーヴェンなどに従っておる?」
「ゴーヴェン様をなどと呼ぶなッッ!! 私は!! 彼に救っていただいたのです!!」
「救っていただいた……?」
「孤児だった幼い頃の私は、王都で活躍する歌劇団に拾われて、役者として生きることになりました。基本的には悪役を担当することが多く、本物さながらの迫力があると、客からも高い評価をいただいていましてねぇ。母親の胎を破裂させた出生や加護のせいで気味悪がられることも少なくありませんでしたが、団長には可愛がられ、孤児出身といえど、何不自由のない幸せな暮らしを送っていたと思います。ですが私は……常に、何か違和感を抱いて暮らしていた。私は、自分が他とは違うことを、15歳の時点で認識していたのです」
続けて、フォルターは興奮した様子で口を開く。
「ある日のこと。加護のせいで孤立していた私に良くしてくれた、歳の近い役者が病で死にました。死ぬ間際に見た彼の苦しむ顔を見て……私はひどく満たされました。そう、私は、血に飢えていたのですッ!! その後、もっともっと人の苦しむ顔が見たくて、私は役者業の傍、夜な夜な多くの人々を手にかけてきました。【破裂の加護】は、証拠隠滅もできる素晴らしい力でしたからね。ですが……私の趣味が、育ての親である団長にバレてしまいましてね。彼は、ひどく私を責め立てました。育ての親でさえ……私を、理解してはくれなかったのです」
「……」
「そこで私は、自分を愛してくれた団長を殺し、同じ歌劇団で育った仲間たちを殺し、歌劇場を爆破しましたッ!!!! その時に初めて……心が完全に満たされた気がしたのです!! 私という人間は、人の幸福を見ることが何よりも苦痛で、何かを壊す瞬間を見ることが何よりも幸せだったのです!! 根っからの悪役だったのですよ、私はッ!!!!」
「……くだらぬ。貴様はただ、己の悦楽のために人を殺しているだけの、程度の低い羽虫にすぎぬ」
「ええ、そうですよ!! 私は快楽殺人鬼です!! ですが!! そんな救いようのない悪人にも、カリスマというものが必要なのですッ!! ゴーヴェン様は、こんな私を肯定してくださった!! そのままで良いと言ってくださった!! あの方は、私のような者にとっての、神なのです!!!!」
ドス黒く邪悪な笑みを浮かべるフォルター。
こやつは……異常者じゃ。
人の死ぬ瞬間を見ることに取り憑かれた、狂った殺人鬼。本当に悪役となってしまった舞台役者。それがこやつ、フォルターの正体。
「さて……お喋りは終わりにして……貴方の死に行く瞬間の顔を私に見せてください。剣神フランエッテ。あぁ……楽しみだ……貴方のその綺麗で傲慢な顔が崩れる瞬間を見ることがね……!!」
そろそろ……じゃな。
妾は右目を押さえて、ポーズを取る。
「フッ……何を言うておる? 既に貴様は、袋の鼠じゃ。最早、貴様に退路はない」
「ぽっぽー!!」
先ほど、傘から鳩に変えた……鳩の群れたちが上空へと戻ってきた。
その光景を一瞥した後、フォルターは、妾に向かって突進してくる。
「ヒヒヒ……いったい何をするつもりなのかは分かりませんが……光の剣を使う気がない以上、接近戦において私が有利であることに、変わりはありませんよぉッ!!」
妾は不適な笑みを浮かべたまま、鳩が上空から落としたあるものをキャッチする。
そしてそれを変化属性魔法で薔薇に変えて、向かってくるフォルターに投擲してみせた。
「ハハハハ! またそれですか!! 残念ながら、その攻撃は既に私にとって攻略済みの魔法です!!」
フォルターはコートのポケットからコインを取り出し、薔薇に向けて投擲する。
「 【起爆】」!!」
「その時を待っておった!! 今じゃ!! 我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】!!」
薔薇は真実の姿を取り戻すと……コインへと姿を変えてみせた。
その光景を見て、唖然とするフォルター。
「は?」
二つのコインが同時に爆発し、その威力を想定していなかったフォルターは、後方へと吹き飛ばされる。
そして、剣を雪に突き刺してザザザーと滑った後、驚きの表情を浮かべた。
「なっ……!! 何故、貴方が、私が爆発物に変えたコインを……持っているのですか……!!」
「何を言っている? 貴様が自ら、明かしておったじゃろう。ラオーレの民が収監されている迎館ホールに、コインを仕掛けておいた、と。妾は鳩を使って、それを回収しただけのことじゃ。……フフフ。予想通り、貴様の爆発の能力は【起爆】の掛け声と、自身のエリア近くにあるコインが同時に爆発する仕様になっているようじゃな。見たところ……ダメージを受けない距離を保っていたため、先ほどの攻撃は闘気ガードが間に合っていなかったように思える。己の能力に足を引っ張られるとは、惨めな羽虫だのう。クスクス」
「くっ……!! ならば!! 鳩が持っているコインごと、爆発させてやるまでです!!!! 「 【起爆】」!!!!」
「うつけめ。無論、貴様がそのような手を取ることも把握しておるぞ」
妾はパチンと指を鳴らし、鳩の足に握られていたコインをフォルターの頭上へと落とした。
「ふざけた真似をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
フォルターは後方へと飛び退くが、空中で起こった爆風に吹き飛ばされ、背後にある建物へと激突する。
ぐはっと血を吐き出すフォルター。
妾はそんな奴に向けて、すかさず5本のナイフを一気に投擲する。
「ぐぁっ!?」
右太腿と左肩に2本のナイフが突き刺さり、苦悶の表情を浮かべるフォルター。
「小賢しい!!」
だが、その後に放たれたナイフを、フォルターは剣で弾き落としてみせた。
そしてゼェゼェと荒く息を吐いて、フォルターは妾を睨みつける。
「ふざけた真似を……このような戦いは……面白くない……!! 何故、まともに戦おうとしないのですかッ!! 剣神フランエッテェェェ!!!!」
フォルターは、コートから、コインを取り出そうとする。
それに合わせて、妾は、先ほど投擲したナイフに指を向けパチンと鳴らした。
「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】!!」
その瞬間、フォルターの足元に落ちていたナイフは、コインへと変わる。
その光景を見て、ギョッとするフォルター。
そんな奴の隙を狙い、妾は即座に足を動かし、走る。
そして、フォルターの前へと接近した妾は……剣を振った。
「そのコインはお主の爆発物ではない。妾が元々持っていたただのコインを、ナイフに変えただけのものじゃ。フェイクに引っかかるとは、やはり貴様はうつけじゃな」
左肩から右脇腹にかけて切り裂かれるフォルター。
やはり、奴は自分の加護の力を使う時しか極力、闘気を使いたがらない様子じゃ。
隙を突けば……こやつにダメージを与えることは、可能ということ……!!
フォルターはカハッと血を吐き出した後、ギョロッと妾に血走った目を向けて、剣を横薙ぎに振った。
「トリッキーな技ばかり使いやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 【爆裂剣】!!!!」
「我が身を鳩へと変えよ!! ―――――【トランスピジョン】!!」
妾は自身の身体を無数の鳩へと変えて、空へと舞い上がる。
その瞬間、【爆裂剣】が発動して、下方で爆発する。
間一髪で……鳩になり、逃げることができたのじゃ。一歩遅れていたら、かなり、危険な状況だったと思われる。
無数の鳩となった妾は、近くにある見張り塔の上へと降り立ち、魔法を解除して人の姿へと戻る。
そして、フォルターを挑発するようにフンと鼻を鳴らし、再び無数の鳩となって街の奥へと飛んで行った。
「逃しませんよぉぉぉぉぉ!! 剣神フランエッテェェェェェェ!!!!」
街の中心街へとやってきた妾は、武器屋の前へと辿り着く。
鳩でコインを回収する際に事前に地理を確認しておいた妾は、あらかじめ、次はここに来ることを計画していた。
妾は武器屋の前に降り立ち、鳩から人の姿へと戻る。
そこで妾は、片目に手を当てて、傘の鳩の視界を見た。
「……フォルターの監視につけた鳩は……うむ。予想通り、妾を追いかけて中心街へとやってきておるな」
そう呟いた妾は……武器屋の扉を開けて、中へと入って行った。
きっと妾は、魔術師としては、少し異端な存在なのだと思う。
通常、魔術師は炎や水、雷や風といった、属性攻撃魔法を行うのが普通だ。
だけど、妾に使える魔法は、旅芸人時代に使っていた道具に変える『変化属性魔法』だけ。
今変化させられるのは、薔薇、投げナイフ、ジャグリングのクラブ、鳩……のみ。
あとは、多分、タロットカードとかもいけそうじゃな。
とにかく……どうやってこれで戦えと?という、謎なラインナップが、妾の魔法じゃ。まぁ、重力改め体重を操作する【次元斬】とかもあるが、あれは発動するか分からない賭けのような魔法剣なのでこの際置いておく。
それ故に、妾は、常に工夫して戦っていかねばならぬのじゃ。
だけど、ここから先は、多分……明確な、攻撃の要となる魔法剣が必要となる。
これから先、妾が夢を追いかけ戦っていくためにも。
ロザレナやグレイレウス、ルナティエに置いていかれないためにも。
妾はここで、新技を開発しなければいけない。
「……この短時間で、新たな変化を覚えるというのも、なかなかに難しい話じゃが……きっと、いけるはずじゃ」
妾は壁に立て掛けてあった売り物の剣を取り、鞘を抜いて、その刀身を見つめる。
そして目を伏せて、イメージした。
「魔法とは……願いじゃ。願いを形にするのが、魔法……イメージするのじゃ。妾が過去、舞台の上で披露した大脱出劇を。周囲から無数の剣に刺される……あの、一芸を」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――――――――――――10分後。
妾は、ラオーレの広場で腕を組み、不適な笑みを浮かべて立っていた。
そんな妾の前……十メートル先に、ボロボロのフォルターが姿を現す。
フォルターは不気味な笑みを浮かべると、まるで役者のように両手を広げてみせた。
「探しましたよ!! 剣神フランエッテッ!!」
「貴様もしつこい男じゃな。あのまま逃げていれば、痛い目に遭うこともなかったというのに」
「フフフ……ヒヒヒ……ハハハハハハ!!!! 私は、役者ですから!! このような結末、観客は誰も納得しないでしょう!! 戦いとは!! どちらかの命が潰えるまで殺し合うものッ!! さぁ……私たちの舞台がどのような物語となるのか、どのような結末となるのか……血で物語を彩りましょう、剣神フランエッテッ!!」
「……下の下、じゃな」
「……は?」
「貴様は、芸人としても、剣士としても、下の下だと言っておる。芸人というものは、舞台の上で、人々を笑顔にする生き物じゃ。それなのにお主は、舞台の下に降り、本物の怪物と化してしまった。怪物は、誰かに倒されるのが物語の定め。そろそろ退場してもらおうか、下郎。妾の進み道に、貴様のようなゲテ物はいらぬ」
「……貴方のその言葉、本当に虫唾が走る……人々を笑顔にするだと? くだらない……くだらないですよ!! フランエッテェェェェ!!!!」
走り出すフォルター。
妾はそんなフォルターの頭上に向けて、魔力を込めた10本のナイフを投擲する。
そして……ナイフに向けて、手を伸ばした。
「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】!!」
その瞬間、ナイフは、武器屋で手に取っていた剣に姿を変える。
空中を旋回しながら、剣は、フォルターに襲いかかる。
全方向から向かってくる剣に対して……フォルターは足を止めると、笑みを浮かべた。
「この程度の技で……私を倒せると思っていたのですか? 【爆裂剣】!」
フォルターは器用に自身に向かってきた剣を連続で弾き飛ばし、爆発させて、粉微塵へと変える。
そして、笑い声を上げた。
「こんなものですか? 貴方の力は? 悪いですが、投擲された武器がこの身に当たったとしても、闘気がある時点で貴方の攻撃は無意味――――――」
「今のは小手調べじゃ。言っておくぞ、フォルター。ここから先は……妾も本気でお主を殺しに行く。どうか……死んでくれるなよ? 妾は、貴様のような殺人鬼にはなりたくはないからのう」
「は? いったい何を言って―――――――――」
妾は、目を伏せて、腕をまっすぐと伸ばす。
そして、全身に魔力を漲らせ、意識を集中させた。
白髪がフワリと浮く。身体全体に、青いオーラが浮かび上がる。
イメージするのは、剣。剣の雨。
今ここに、妾は……全魔力を使い、最大級の攻撃を放つ……!!
カッと目を見開くと、妾は、詠唱を唱えた。
「踊り狂え――――――――【剣の舞】」
妾がそう口にした瞬間……背後にある武器屋の屋根の上から、大量の鳩が姿を現した。
空を覆い尽くすかのような量の鳩たちを見て、フォルターは、呆然とした様子を見せる。
「な……なんですか……あれは……?」
上空を旋回している鳩たちは、一斉に……フォルターへ目掛けて突進していった。
ここからは……妾が魔力切れしないかの勝負……!!
妾は手を伸ばして、詠唱を唱えた。
「我が全ての魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【全解放】!!」
その瞬間、鳩たちは次々と剣へと姿を変えて、フォルターへと向かって襲いかかる。
フォルターは剣を振って、爆発させ、その剣の雨を次々と防いで行った。
しかしその顔には、明確に焦りの色が見て取れた。
「な……なんなのですか、これは……!! なんなのですかァ!! これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
鳩が剣へと戻る度に、ごっそりと魔力が減っていく。身体中の血管が切れていく。
元々、この量の剣を鳩に変えた時点で、妾の残存魔力は少なくなっていた。
故に―――――――妾は決死の覚悟で、この技を披露してみせた。
正直、思いついたは良いが、今の妾の魔力に見合う技ではないのは明らか。
だが……接近戦ができない現状において、これほどの良策を思いつくことができなかったのじゃ。
妾の魔力が尽きるのが先か、奴の闘気と体力が枯れるのが先か。
これは、そういう勝負ということ……!!
「ふざけるなァ、フランエッテ・フォン・ブラックアリアァァァァァ!!!! こんなものが!! こんな技が!! 我らの結末であって良いはずがないッ!! 直接斬り合ってこそ、血という歌劇を重ねてこその、殺し合いだろうがァァァァァ!!!!」
「何故、妾が、貴様の土俵に立って戦わなければならぬのじゃ!! そも、貴様もコインで遠距離攻撃をしておったではないか!! 遠距離攻撃こそ……魔法剣士の花形なのじゃ!!」
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
襲いかかる剣の雨を、【爆裂剣】を使って弾き、粉微塵にしていくフォルター。
―――――――10。20。30。40。50。60。
鳴り止まぬ剣の雨と、それを弾き飛ばし、爆発させるフォルターの攻防。
延々と続くかと思ったその攻撃の応酬に、突如、決着が付いた。
次の瞬間―――――フォルターの肩に、剣が突き刺さったのだった。
「なッ……!!」
血走った目で、肩に刺さった剣を見つめるフォルター。
その光景を見て、妾は、笑みを浮かべた。
「奴の闘気が……切れた!! 妾の勝ちじゃ……フォルター……!!」
「こんな……終わり方など……ッ!!」
なんとか襲い来る剣を弾いていくが、限界がきたのか。全ての剣を防ぐことができなかったフォルターに、周囲から無数の剣が襲いかかり……ドシャァァァァァンと大きな音が鳴り響いて、爆発が巻き起こる。
それと同時に魔力を失った妾は、雪の上に膝をついてしまった。
「はぁはぁ……!! やった……妾、勝てたのじゃ……!!」
安堵の息を吐いた……その瞬間。
大量の剣を身体に突き刺しているフォルターが、爆風の中から走ってきて、妾に向けて剣を振り放ってきた。
「なっ……!?」
「ふざけた真似をしてくれたなァ!! 魔法剣士ィィイ!!!!」
妾は咄嗟に立ち上がり、背後へと下がる。
するとフォルターの剣が、目の前の雪の上を叩きつけた。
その瞬間、爆発が巻き起こり、目の前が白い雪に覆われた。
「ケホケホッ!! 奴は、いったい……!!」
咳き込みながら、妾は剣を構える。
しかし、その剣は……中央から折れて、無くなっていた。
剣が、フォルターの【爆裂剣】に巻き込まれてしまっていた……!!
「え……? そ、そんな……!!」
「終わりだァァァァァァァ!!!!!」
背後から、血に飢えた獣のような様相でフォルターが襲いかかってくる。
妾の手元には、何もない。だが――――――――!!
「妾は……退かぬ!!」
折れた剣を投げ捨て、ドレスのポケットの中から、最後のナイフを取り出した。
その光景を見て、フォルターは邪悪な笑みを浮かべた。
「武装はナイフのみか!! 万策尽きたな!! これで……私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「我がナイフを剣と化せ―――――【トランスソード】!!」
妾は最後の魔力を振り絞り……ナイフを、剣へと変えてみせる。
そして妾は、迷わずに一歩、前へと踏み出した。
見たところ、フォルターは大分疲労していて、動きが鈍くなっている様子。
だが、奴に触れられれば、妾は爆発物に変えられ、確実に死に絶えるじゃろう……!! 恐怖が、背筋を駆け抜ける。
「や、やはり、ここは安全を取って、退却……」
……ふいに、師匠の言葉を思い出す。
『良いか、フラン。どんな時も恐るな。前を向いて、剣を振れ。剣士とは、臆した時点で敗北する。何、お前ならできるはずだ。だってお前は……一人で災厄級に挑もうとした、誰よりもすごい勇気を持っているんだからな』
妾は師匠に教わった剣の動きを思い出して……フォルターの横を通り過ぎる間際に、剣で奴の胸を切り裂いた。
―――――――――――――――――――ザシュ。
お互いに横を通り過ぎ、停止する。
「……」
「……」
無言が続く。風の音だけが、耳に入ってくる。
「ぐはぁッ!!!!」
先に動いたのはフォルターだった。
突如フォルターは白目になると、ドサリと、静かに地面に倒れ伏したのだった。
「……」
妾は無言でヒュンと剣を振り、刃に付いた血を振り払う。
そして、剣を上空へと掲げ、鳩を集めた。
剣に集まってきた鳩たちは……仕込み鞘、もとい傘へと戻っていく。
完全に傘へと戻ると、妾は肩に漆黒の傘を置き、肩越しにフォルターに視線を向ける。
「覚えておくと良い、羽虫。妾の名は冥界の邪姫フランエッテ・フォン・ブラックアリア。箒星四番弟子であり、いずれ最強の魔法剣士になる女じゃ。疾く、舞台の上から降りよ、端役。再び悪事を働くようならば……次も容赦はせんぞ。我が師の教えに賭け、その首、何度でも刎ねてやろう」
そう言い残して、妾はその場を去っていった。
……正直、立っているだけでやっとなのは、内緒なのじゃ。
今、妾、最高にかっこいから。
(一人で勝てたのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 師匠!!!! 褒めて欲しいのじゃぁぁぁぁぁッッ!!!!)




