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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第381話 巡礼の儀―⑱ たとえ、ひとつの型しか極められないのだとしても、オレは進み続ける


《ルナティエ 視点》



「……ゼェゼェ……。なんとか、勝つことができましたわ……これが……剣王より上のクラスの実力者……わたくし、剣王より先へと行くことができましたのね……」


 わたくしは荒く息を吐きながら、額から流れ落ちる血を拭う。


 すると、その時。


 思わず、フラリとよろめいて、倒れそうになってしまった。


 そんなわたくしの肩を、いつのまにか近くにやってきたアルファルドが支えてくる。


「チッ。世話の焼けるクソドリルだ」


「アルファルド……貴方、ジェシカさんの護衛は……」


「そんなもん、もう必要ねぇよ。見てみろよ」


 アルファルドの視線を辿ると、そこには、冒険者たちが緊張した面持ちでこちらを見つめている姿があった。


「才能が無くても、この先に地獄しかないと分かっていても。前に進み続けるしかない……か」


「俺たちは、目先の出世欲だけで、夢を諦めていた。最初は、未知の秘境や多くの人を救いたいたがめに冒険者になったというのに……いつの間にか、その心を失っていた」


「あんたを見ていると、昔、いきなり冒険者ギルドにやってきて剣聖になりたいと豪語してみせた、貴族の嬢ちゃんを馬鹿にしたことが恥ずかしく思えるぜ……夢を諦めて毎日安酒飲んで満足していた自分の愚かさが、恨めしい……」


「ルナティエさん、俺たちは、あんたを信じようと思う。どんな不利な状況だろうと諦めなかったあんたの姿を見て、目が覚めた。俺たち冒険者一同、ロザレナを狙うことはやめるよ」


「貴方たち……」


 わたくしが笑みを浮かべると、冒険者たちもへへっと笑みを浮かべた。


「また一から再出発だな」


「おい、そんなことよりも、川に落ちたディクソンの奴を助けに行くぞ! 冒険者の禁忌である仲間殺しをした無法者だけど、あいつの戦いを見て、ディクソンにも何か理由があるんじゃないかって思ったんだ。いけすかない奴だけど……見放す気にはなれねぇよ」


「そうだな……みんなでやり直そう。まずは、オフィアーヌの街を襲った、聖騎士たちを追い払うことで、罪を償うのはどうだ?」


 その言葉を聞いて、わたくしは思わず叫び声を上げてしまう。


「まさか……ラオーレの街は、既に聖騎士に占拠されているんですの!?」


「あ、あぁ、そうだが……」


「なら、急いで援護しに行かなければ! 恐らく、ロザレナさんたちは先にラオーレへ―――――くっ!」


「おい、無茶すんじゃねぇよ、クソドリル!」


 アルファルドが、無理に動こうとしたわたくしを止めてくる。


 現状、グレイレウスはルティカと戦っている。


 この状況を見るに、ゴーヴェンが、わたくしたちに対してそれ相応の敵をぶつけてきているのは明白。だとするのなら、師匠にも、相手が用意されている可能性が高い。


 なら、急いでロザレナさんを手助けしなければ。あの子は、レティキュラータスの一件で不安定になっているのですから……! わたくしか、師匠が側にいないと……!


 ――――――――――――その時だった。


 ある人物が、わたくしたちの前に姿を現した。


「……ルナティエ・アルトリウス・フランシア……か」


 街の奥から歩いてきたのは……剣王アレフレッド・ロックベルトだった。


 彼だけじゃない。


 元剣王ロドリゲスに、剣王クローディア、剣王ラピスの姿もあった。


 わたくしは目を細めて、彼らを睨みつける。


「アレフレッド……!! いったい、何の用ですの……!!」


「分かっているはずだ。俺たちは剣王……すなわち、国民を守るために戦う義務がある」


「つまり……ロザレナさんを狩りにきたと、そう言いたいんですのね……!!」


「ヒルデガルトやメリアは従わなかったがな。しかし俺は……民に頼まれたのだ。この国を、災厄級の手から助けて欲しい、と。もう二度と、ベルゼブブの時のような目には遭いたくない、と」 


 アレフレッドはそう言って、苦悶の表情を浮かべたまま、腰の鞘から剣を抜いた。


 その手は……小刻みに震えていた。


「……ア、アレフレッドくん。やっぱり、やめた方が……」


「黙っていろ、クローディア。俺は……正義のために剣を執ると誓ったんだ」


 しかめ面で剣を構えてくるアレフレッド。彼が迷っていることは、明白。


「わたくしが……戦うしか、ありませんわね……」


 わたくしは、ボロボロの腕で何とか、レイピアを構える。


 するとアルファルドが、声を張り上げた。


「おい、クソドリル! 流石にこの傷で複数人の剣王を相手にするだなんて、無理に決まってんだろ! ここは退くぞ!!」


「黙っていなさい、アルファルド!! ここにいる冒険者たちだけじゃ、彼らを止めることはできませんわ!! わたくしが戦わなければ……!!」


「だからって―――――――――」


 アルファルドが何か言いかけた……その時だった。


「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!!」


 突如、何者かが現れて、アレフレッドの腹を殴りつけた。


「ぐほぁっ!?」


 後方へと吹き飛ばされ、街路樹に激突するアレフレッド。


 そんな彼の前に立っていたのは……鼻提灯を浮かべて眠ったまま立っている、ジェシカさんだった。


 その光景を見て、全員、目を点にする。


「……なんですの、あれ。寝惚けてるんですの……?」


「すぴーすぴー」


「くっ……!! やるな、ジェシカ……!! 【睡拳】を使ったのか……!!」


「……なんですの、それ」


 アレフレッドは立ち上がると、笑みを浮かべて、剣を構える。


「【睡拳】とは……我らが祖父、ハインライン・ロックベルトが編み出した、寝ている間も戦えるという、秘技! だが、祖父曰く『使いもんにならん失敗作じゃこれ』という話で、祖父以外に使えるものはいなかったし、祖父もあまり使おうとはしなかった!! いや、そもそも、使おうと思う者もいなかった!!」


「……よく分かりませんけど、ジェシカさんが剣王を相手にしてくださるのなら、こちらにとっても悪くない状況ですわね」


 わたくしがそう口にすると、アルファルドが笑みを浮かべて、剣王たちに指を差した。


「キヒャヒャヒャ!! いいぞ、やれ!! クソ団子女!! テメェがあいつらを叩き伏せろ――――――――ぐはぁ!?」


 一瞬でアルファルドの前に現れると、ジェシカさんは、アルファルドの顔面を殴りつけて吹き飛ばした。


 わたくしはよろめきながら、目の前にいるジェシカさんを唖然と見つめる。


「……ジェシカさん。貴方、もしかして……」


「ぐかぁぁぁ!!!!」


 わたくしに向けて、蹴りを放ってくるジェシカさん。


 わたくしは咄嗟に闘気を纏った手のひらで、その蹴りを弾いてみせた。


 すると……わたくしの手首の骨が折れ、手首がプランと下がってしまった。


「なっ……!!」


 とてつもない闘気。そして、脚力。


 ジェシカさんは元々、調子の落差が激しい剣士。それなのに、今の彼女は……もしかして、全力で戦うことができている……? 眠っているおかげ……? 本来のジェシカさんの剛剣と速剣の力を、100パーセント、引き出すことができている……?


「なっ! 何をやってるんだ、嬢ちゃん!! 敵はあっち―――――」


 冒険者がそう口にした瞬間、彼女は、声を発した冒険者の側へと詰め寄り、アッパーを喰らわしていた。


 ――――――――――恐らく、声が聞こえた人間を、彼女は無差別に襲っている。


 ならば、わたくしが喋らなければ、ジェシカさんの攻撃を受ける心配はない。


「ジェシカぁぁぁぁぁ!! ふざけているのかぁぁぁぁぁ!! 兄はここだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ぶべしっ!?」


 アレフレッドは突如前に現れたジェシカに殴られると、そのまま、タコ殴りにされる。


 わたくしはその光景を見て、引き攣った表情を浮かべた。


(ま、まぁ……これなら、ジェシカさんに剣王を任せても大丈夫そうですわね……)


 あれならディクソンにも普通に勝ててそうで怖いですわ。


 本当に、天才という奴は……これだから困るんですの。


「こんのエロエロ大魔神兄ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 闘気を全身に纏い、爆発させるジェシカさん。


 その影響で、周囲にある家屋が吹き飛ばされていった。


 ……多分、ここに住んでいた人はどこかに避難していると思いますけど……絶対後でクレーム入りますわね、あれ。


 というか、何ですの、あの子。普通にわたくしとかロザレナさんよりもやばい闘気を纏っているんですけど。将来的にいつかアレと頂点を争わないといけいないと考えると、乾いた笑いしか出てきませんわね……。


「ぬわァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


「ぬがっ!? ハッハッハッ!! この程度で俺を倒せると思ったのなら、大間違いだぞ、ジェシカ!! ……むがっ!! おい、パンツが見えているぞ、ジェシカ。その年でくまさんパンツはどうかと思うぞ」


「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 アレフレッドの足を掴んでバシバシと地面に叩きつけるジェシカさん。


 ……日頃の恨みパワーもありそうですわね。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《グレイレウス 視点》



「あぁぁぁぁぁぁぁッッ!! イライラするぜぇぇぇぇ!!!! こんなにイライラしたのは久しぶりだぁぁぁぁぁぁ!! お前も殺して、ロザレナも殺す!! それで全部終わりだ!!」


 ルティカは激しく頭を掻きむしると、ハンマーに闘気を纏い、オレに目掛け連続で振ってくる。


 一つ目を屈んで避けて、二つ目を跳躍して避け、三つ目を身体を逸らして回避する。


 大丈夫だ、見えている。オレは、奴の動きについていけている。


 十連続の攻撃を全て紙一重で躱した、その時。


 突如、ルティカが、街の方を見て驚いた表情を浮かべて固まった。


「……!? なんだ、この闘気の圧は……!? どこかハインラインの奴に似て……」


 オレはその隙を狙って、奴の目に向けて小太刀を突いた。


「……チッ!」


 ルティカは顔を逸らして、それを回避する。


 そして、ハンマーを振り回した。


「オラァッ!!」


 オレは即座に【瞬閃脚】を使用して、後方へと下がる。


 だが、闘気の圧が飛んできたせいか、頰に切り傷ができてしまった。


 そんなオレを見て、ルティカは肩にハンマーを乗せて、不適な笑みを浮かべる。


「確かにオメーは速いが……見たところその【瞬閃脚】、まだ使えるようになったばかりなんだろ? オレが今まで見てきた速剣型の剣士よりも、お前のスピードは幾分か劣る――――――――――」


「……」


 オレはルティカが言葉を全て言い終わる前に、【瞬閃脚】で奴の周囲を駆け巡る。


 そして、無数の【影分身】を生み出した。


「あぁ? 【影分身】か? 珍しい技を使うじゃねーか」


 確かに、ルティカのパワーは凄まじいものだ。


 闘気を使用できないオレに当たれば、その時点で終わりなのは間違いない。


 だからこそ――――――スピードで奴を翻弄し、闘気ガードの隙を突くのが、オレに残された唯一の勝利条件といえる。


「確かに、その年齢でそこまでできるのはすげぇぜ? 褒めてやるよ。生半可な努力だけじゃ到達できない領域であることは間違いねぇ」


 無数の影分身が、ルティカの周囲の林の中で消えては現れてを繰り返す。


 そんな中、オレは小太刀を逆手に構え、ルティカに向けて斬撃を放った。


「【黒影・烈風裂波斬】!!」


「だが―――――全てを吹き飛ばせば良いだけのことだァァッ!! 【雷鳴嵐舞】!!」


 ルティカが全力で回転し、周囲にハンマーを振り放った……その瞬間。


 ルティカの周囲で竜巻が巻き起こり、木々が折れて吹き飛んでいき、斬撃と影分身は消失していった。


「なっ……!!」


 オレは、木や岩などと共に、為す術もなく空中へと舞い上がる。


 空に浮かぶ大きな雨雲が目に入る。下を見ると、どうやら相当な高さの上空へと吹き飛ばされたようだ。


 すると、その時。目の前に……跳躍したルティカが現れた。


「剛剣型が速剣型に弱えのは、誰でも分かることだァ!! だからこそ、弱点をカバーする技を持っているのは、当然のことだろうがァァ!!!!」


 ルティカがハンマーを上段に掲げる。


 そして奴は……頭上に浮かぶ雨雲から、ハンマーを避雷針代わりにして、雷を呼び出した。


「俺のハンマーは、雷神を呼び出す鉱山族(ドワーフ)の秘宝、【ミョルニル】だ!! 風や雷を呼び出せるのが魔術師(ウィザード)だけだと思っているのなら、勘違いも甚だしいぜ!! これが剣神!! これが、武の神の極地だッッッッ!!!! 理解したか!! ルーキィィィイ!!!! テメェ如きじゃ、とどかねぇ領域だということをなァァァッ!!!!」


「……ッ!!」


「くらいやがれ!! 【雷撃】ッッッ!!!!」


 雷と闘気を纏ったハンマーが、眼前に振り下ろされる。


 スローモーションのように、ハンマーが迫ってくる。


 背筋が凍りつく。この時点で、オレの敗北は確定した。


 空中に浮かんでいてこのような一撃を喰らったら、オレの身体ではどうしようもない。


 生き残れたとしても、ハンマーが身体に触れた瞬間、間違いなく後遺症が残る。今後、二度と剣を握れなくなる可能性だって出てくるだろう。


 なら、どうやって、ダメージを軽減する?


 ここには足場となるものは何もない、空中の上。【瞬閃脚】は使えない。


 ……終わった。何もできない。ただ、運命を受け入れるしかない。


 ここまでだったのか。オレの夢は、オレの剣は、ここで終わるのか。


 やはり……オレに、剣神になる才能は無かったというのか……。


『グレイ、貴方ならできるよ。だって貴方は私の弟だもの』


『グレイ、お前の方が、あいつより剣神に相応しい。あいつは……お前が倒せ』


(――――――――――――弱気になるな!! グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロスッッッッ!!!!!!!)


 ファレンシアも、師匠(せんせい)も、けっして、オレが剣神になれないだなんて言ってはいなかったッッ!!!!


 自分を信じないという行為はッ!! 自分の未来を諦めるという行為はッ!!


 夢を託してくれた姉と、オレを信じてくれた師匠(せんせい)への冒涜と繋がる行為だッッ!!!!


 オレは、己の信念を絶対に曲げたりはしない!!!!


 ここでオレが諦めて、仲間たちが傷ついたら、どうするというのだ!! 


 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!!!


 この状況で、ルティカのハンマーを逃れる術を、全力で模索しろ!!


 オレは必ず、剣士の頂点へと登り詰めてやるッ!! このマフラーに誓ってッ!!


(……【瞬閃脚】さえ使えれば……!! しかし、足場は……!! ……待てよ、足場……?)


 オレはそこで、気付く。


 こちらに向かってきているハンマー。あれを足場代わりに使えたとしたら……どうなんだ?


 タイミングよく、【瞬閃脚】の跳躍力とハンマーのタイミングを合わせることができれば、回避することは可能かもしれない。


 しかし……ミスすれば、その時点で、オレの足は消し飛んでしまうだろう。


 足が無くなれば、速剣型であるオレは、剣士としての道を無くしてしまう。


 つまりこれは、一種の賭けだ。自分の未来を賭けた、決死の賭け。


 選択肢は二つ。一つ目は、身体に受けることで敗北を受け入れ、何とかダメージを抑えることに祈る賭け。二つ目は、敢えて足でハンマーを蹴り上げ、攻撃を回避しようとする賭け。しかし失敗すれば、確実に剣士生命が終わるだろう。


 オレは、どちらを選ぶのか。


(フン……そんなこと……初めから決まっている)


「フッ……フハハハハハハハハ!! ここで命を賭けられない人間に!! 上へ行くことはけっしてできないだろうッ!!!! ……ロザレナだってルナティエだって、オレと同じ状況になったのなら、きっと同じことをしたはずだ!! 少しでも可能性があるのなら!! オレはそれに賭けるのみッ!! 師匠(せんせい)、見ていてください!! オレの挑戦をッ!!」


 オレは敢えて逆さまになり、自らの足を、ハンマーへと向ける。


 その姿を見て、驚き、目を見開くルティカ。


「あぁ!? テメェ、一体、何の真似を―――――――」


「【瞬閃脚】!!」


 オレは、振り上げられたハンマーを蹴り上げることで威力を殺し、【瞬閃脚】を発動させる。


 ―――タイミングは成功した。足に、大きなダメージは入っていない。


 しかし……ハンマーに纏っていた雷の影響か、足が痺れてしまっていた。足の感覚が殆どない。


 オレはそのまま地面へと落下して……何とか受け身を取って、地面に横たわる。


「くっ……!!」


「ははははははは!! 少しびっくりしたが……足が終わっちまったなァ!! モヤシ野郎!!」 


 オレの顔面に目掛けて、ハンマーが振り下ろされる。


 オレは身体を転がして、その攻撃を寸前で回避した。


 そして即座に立ち上がると、後方へと下がり、続けて振り下ろされたハンマーを避ける。


 だが、足が痺れた影響で、先ほどよりも動作が遅かった。


 服が裂け、肩から脇にかけて傷ができ、血飛沫が舞い上がる。


 傷口に手を当ててルティカと距離を取ると、オレは両手の小太刀を構える。


「速剣型は、足が命というが……これでお前の機動力は無くなったな。速剣型の強みが無くなったというわけだ」


「……」


「これが、ひとつの型しか極められない人間の限界だ。お前の到達点はそこまでだ、モヤシ野郎。剣王までが、お前の到達点だ」


「……どうしてお前はそこまで、ひとつの型の剣士が上に行けないと決めつける?」


「決めつけてんじゃねぇ。それが世の真理だって言ってんだ。良いか? 俺は元々剛剣型としては、生まれながらの天才児だった。俺はガキの時点で鉱山族(ドワーフ)最強の戦士と言われた族長のオヤジよりも強かったし、戦士団を全員ボコボコにしてやったりもした。誰も俺を止めることのできる大人なんていなかったのさ。故に俺は、同族から嵐の子と呼ばれ恐れられてきた」


 我儘放題の娘に、鉱山族(ドワーフ)最強の力が宿ってしまったというわけか。こいつの傲慢さは、誰も止めて諭してくれる奴がいなかったことに起因していそうだな。


「だが……そんな俺でも、興味本位で王国を見に行ったら、井の中の蛙だった。楽勝に剣聖になれると思っていたが、なれなかった。いや……剣神にすら、なれなかったんだ」


「……」


「結果、これ以上強くなるには武器が必要だと理解した。鉱山族(ドワーフ)の里に戻り、秘宝【ミョルニル】を奪って里に火をつけて出て行った。どうせ、連中には好かれていなかったからな。それで、死ぬ気で【ミョルニル】を使いこなして、俺は……剣神となった。ひとつの型でも頂点に立つことができると、それを証明してやると、息巻いていた。だが……!!」


 突如、ルティカが、怯えた様子で笑みを浮かべる。


「俺は……出会っちまったんだ……!! 想像を絶するほどの怪物に……!! 人間がどんなに努力をしたって到達できない化け物に……!!」


「……それは、もしかして……」


 ルティカは、大森林の騒動の後、姿を掻き消したと聞いている。


 やはり奴が恐れているのは……師匠(せんせい)が倒したとされるあの怪物か。


「――――――――――【暴食の王】」


 オレがその言葉を口にした瞬間、ルティカは狂ったように笑い声を上げた。


「はははははははは!! そうだ!! あの怪物は!! 一族最強と言われた俺でさえ、一目見た瞬間に恐怖を抱くほどの存在感を持っていた!! あの紅い目に、闇を纏った漆黒の毛、偉丈夫のような体躯に、剥き出しの牙。相対して理解した!! 奴が食う側で、俺たちが食われる側だとなッ!!」


「なるほど。お前が先ほど言っていた、剣神をやめた理由というのは……」


「あいつが原因さ!! 俺はあれから何度も夢の中であの怪物を見てきた!! 災厄級のベルゼブブが出た時だって、俺は奈落の底にある隠れ家で、ガタガタと震えていた!! 災厄級というのは、人間が勝てる存在じゃないと、俺は理解していたからだ!! そもそも逆に、ハインラインとかリトリシアとかがおかしいんだよ!! 勝てるわけがない相手に挑むのは馬鹿でしかないッ!!!!」


 ……元剣神の癖に何だその情けない姿は……とは、言わない。


 恐らくルティカが相対した暴食の王は、本気で、常軌を逸した化け物だったのだろう。


 俺は直に、暴食の王を見たわけではない。


 あの時、俺は、エステリアルやミレーナと共に、森を抜けていたからだ。

 

 一緒にいた仲間で、暴食の王と相対して戦っていたのは……師匠(せんせい)とジェネディクトだけ。俺には、暴食の王がどの程度の力を持っていたかは分からない。


 だけど、師匠(せんせい)が出向かわなければいけなくなった時点で、どのような敵だったのかは想像できる。


 もしその場にオレがいたら、ルティカと同じように恐怖で剣を折ってしまっていた可能性もあり得る。


 だけど、オレは―――――――――――。


「オレは……オレには、剣を握らなければならない理由がある」


 師匠(せんせい)は言っていた。剣を持つ者には、成し遂げたい願いが必要だと。


 ロザレナにも、ルナティエにも、フランエッテにも。成し遂げたい夢がある。


 勿論、オレにもだ。


 どんなに恐ろしい相手でも、ハインラインやリトリシアは、退かなかった。


 きっと、それは―――――――――。


「剣士として、信念があったからだ。成し遂げたい思いがあったからだ」


「あぁ?」


「ルティカ・オーギュストハイム。お前が剣に賭ける理想とはいったいなんだ?」


「いきなりクセーこと言ってんじゃねぇよ。ただ、俺には力があった。だから、最強を目指していた。だけど、あの化け物に出会っちまったからな。今の俺に、理想なんかねぇよ。やりたいことはひとつだけ。手が付けられない化け物になる前に、災厄級の因子であるロザレナは殺す。それだけだ」


「なるほど。お前が暴食の王に恐怖して逃げた理由が、よく分かった。お前には……信念がないのだ」


「はぁ? 信念? 意味の分からないことを言ってんじゃ――――」


 オレは【瞬閃脚】を発動させて、ルティカの腹部に蹴りを放った。


 闘気でガードし忘れていたルティカは、かはっと息を吐き出して、ザザザザと後方へと滑っていく。


 そして足を止めると、腹部を押さえて、こちらに血走った目を向けてきた。


「話をしている最中に何をしやがる、ガキ」


「悪いが……ここからは本気でお前を倒させてもらう」


 オレは切り裂かれた服を破いて、空中へと放り投げる。


 上裸となったオレを見て、ルティカはギョッと目を瞬かせる。


「なっ……お前、ここ、雪がめっちゃ降っている森の中なんだが……さ、寒くねぇのかよ……何でマフラーだけはしてるんだ……」


「足の感覚はないが……別段、どうということはない。これくらいの窮地を乗り越えられずに、【剣神】になどなれるものか」


「……おいおい、テメェ、まだ俺に勝てる気でいるのかよ? 良いか? さっき話した通り、この世界には人間がどう足掻いても勝てない怪物がいる。全ての型を扱える化け物がいる。そんな怪物に、ひとつの型しか極められないお前がどう立ち向かうって言うんだ? お前のようなクソガキは、今までたくさん見てきたぜ? どいつもこいつも、【剣侯】か【剣王】止まりだった。自分は特別だとでも思っているのかもしれないが、お前はそいつらと何も変わらない。ただの―――――」


 オレはルティカが言葉を言い終わる前に、【瞬閃脚】を発動させて、周囲の森の中を駆け巡る。木と木の合間を飛び交い、大木を足場代わりにして、夜の森の中を駆け抜けていった。


 そして、それと同時に、影分身を発動させた。


 雪の降る森の中を駆け巡る無数の影。


 それを見て、ルティカは大きくため息を吐いた。


「馬鹿が。それは、さっき見ただろうが。俺には影分身は通用しない。全部吹き飛ばしてやるぜ!!」


 ルティカは腰を低くして、ハンマーを構える。


 オレはさらに速度を上げる。もっとだ。もっともっともっともっともっと――――――――――――!!!!


 身体に刻まれた傷口から、血が噴き出る。額に脂汗が浮かび上がる。痺れて感覚が無くなっていた足が、激しく痛み始める。これ以上はやめろと、身体が悲鳴を上げる。


 オレはそんな自身の身体に向けて、心の中で怒鳴り声を上げた。


(黙ってオレに従え!!!! オレはここで奴を超えるのだ!! 超えなければいけないんだ!! 師匠(せんせい)は、オレに、奴を倒せとそう言った!! 今だ!! 今なんだ!! オレが――――――念願だった剣神に到達する瞬間は!! 今なんだよ!!!!)


 魔力が無くて帝国の屋敷から追い出され。


 行き着いた剣の国においても、闘気がなく背が低いからと、道場を追い出され。


 どこにも、オレの居場所はなかった。


 オレはそれでも良いと思っていた。仲間など不要だと。オレは、自分一人で剣神へと上り詰めてやるのだと。


 でも――――――――オレを見つけてくれた人がいた。お前の方が剣神に相応しいと、そう、言ってくれた人がいた。


 師匠(せんせい)。オレは貴方と出会えて、変わることができたんだ。


 箒星という自分と同じ夢を持って剣を持つ仲間に出会えることができて、一人じゃないことを知ることができたんだ。


 オレは……けっして、己の信念を曲げたりはしないッッ!!!!


 たとえひとつの型しか極められないのだとしても!!


 たとえどんなに恐ろしい敵が現れたとしても!!


 俺は、絶対に逃げたりはしない!! 


 夢を叶えるその時まで……この剣を、折ることはしないッ!!!!


「次こそ、消し飛べ!! 【雷鳴――――――――」


 オレはルティカの顔の前に現れ、小太刀を振り上げる。


 そんな俺を見て、ルティカは笑みを浮かべた。


「馬鹿が!! 目の前に現れるなんざ、格好の獲物だぜ!! 【雷鳴乱舞】!!!!」


 ルティカは、ハンマーを振り放つ。


 その瞬間、ルティカの目の前に現れた影分身は消えていった。


「影分身だと? だが、問題はないぜ!! このまま周囲を一回転して振り放てば……!!」


 遠心力を使って、ハンマーを回そうとするルティカ。


 ―――――――そう。その瞬間を、待っていた。


 オレは振り上げられたハンマーの下を屈んで通り、ルティカの足元に滑り込むと、奴の顎を膝蹴りで蹴り上げた。


「がはっ!?」


「ハンマーを回す際、下がガラ空きになるのは、最初の戦いの時に把握していた。そして……その技は、ハンマーに全力の闘気を纏うことで発動する。すなわち、身体の方は無防備となる」


「テ、テメェ……!!」


 俺が蹴り上げたことで、ルティカは上空へと舞い上がる。


 オレは即座に、【瞬閃脚】を発動させた。


「行くぞ。ついてこられるか? ルティカ・オーギュストハイム。――――――――――― ―――――【瞬迅剣】!!!!!」


 上空へと舞い上がるルティカ。


 オレは周囲の木々を足場にして飛び交い、徐々に速度を上げながら、上空を舞い上がったルティカの元へと飛んで行き……通り過ぎる間際に小太刀で切り裂いていく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!」


 一瞬で身体をズタズタにされたルティカは、発狂したように声を上げる。


 そして彼女は、全身に闘気を纏った。


 闘気ガードにより、オレの攻撃は通らなくなるが……そんなことは関係ない。奴の闘気が底をつくまで、斬り続けるのみだ。


 オレは地面に着地した後、さらに木々の合間を飛び交って速度を上げて、上空へと跳躍し……ルティカを切り裂いていく。目に見えない速度で、それをここまでに50回ほど行った。


「な、なんだこれはぁぁぁぁぁ!!!! ふざけんじゃねぇぞこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!! ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!! どうしてお前みてぇなモヤシ野郎が、俺に近づくことができてんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


「お前の足元はガラ空きだったからな。ハンマーを振った瞬間に、屈んで滑り込んだだけのことだ」


「だから!!!! それができるわけねぇだろうが!!!! 下手をしたらテメェ、死んでんだぞ!?!? 分かってんのか!!!!」


「分かっているさ。分かっていないのは、お前の方だ。オレは最初から、自分の命を差し出して戦っていた。これが……覚悟の差。信念の差という奴だ!!!!」


「適当なことほざいてんじゃねぇぞ!!!! この野郎ぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「お前の剣には、理想となるものが何もない!! オレは、姉の意思を継ぎ、師の期待を背負い、ここに立っている!!!! オレは幼い頃にこのマフラーに誓ったのだ!! 誰かを救える剣士になるとッッ!!!!」


「……くだらねぇんだよ!! 現実を知らないガキが!!!! テメェもいずれ理解するはずだ!! この世界には、絶対に乗り越えられない壁があるってことにな!!!!」


「だとしても!! オレは、挑み続ける!! オレは……自分の夢を、捨てたりはしない!!!! たとえ、ひとつの型しか極められないのだとしても!! オレは……必ず、剣の頂点に立ってやる!!!!」


 オレは小太刀を逆手に構え、通り過ぎる間際に、ルティカの胸を切り裂いた。


 闘気の残量が潰えたのか……その瞬間、ルティカの胸が切り裂かれ、宙に鮮血が舞っていった。


「うそ……だろ……? なんだよ……これ……」


 落下していくルティカ。


 そして彼女は宙を飛び交うオレの姿を見て、顔を歪めた。


「俺とお前……いったい、何が違うって言うんだよ……ふざけんなよ……この俺が、暴食の王だけでなく、こんなクソガキに負けるなんて……なんでだよ……なんでなんだよ……俺は……ただ、剣聖の座を欲していただけだっていうのに……」


 空中に浮かぶ三日月へと手を伸ばし続けたまま……ルティカは雪の上へと、落ちていく。


 それと同時に、身体の限界がきたオレも、雪の上へと落ちてしまった。


 横たわりゼェゼェと荒く息を吐きながら、オレは、倒れ伏すルティカを見つめる。


 そして……笑みを浮かべた。


「……師匠(せんせい)。オレ……師匠(せんせい)の言う通り、ルティカを倒しましたよ……」

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