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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第378話 巡礼の儀―⑮ 箒星、剣神クラスへと挑む


《ロザレナ 視点》



「さぁ……【剣神】リーゼロッテ・クラッシュベル!! あたしと戦いなさい!! あたしはあんたを倒して、ここで【剣神】へと上り詰めてやるわ!!」


 あたしはそう言って、リーゼロッテに向けて大剣を構える。


 すると背後から、慌ててマイスが声を掛けてきた。


「ま、待つんだ、レティキュラータスの姫君! 一番狙われている君が、矢面に立って戦ってどうするんだ!!」


「じゃあ、他に、剣神と戦える奴がここにいるのかしら? はっきり言って、オリヴィアさんとジークハルトじゃ、剣神クラス相手に戦うのは荷が重いんじゃない? マイスは少しは戦えるみたいだけど、流石にリーゼロッテを倒すのは無理でしょ?」


 あたしのその言葉に、リーゼロッテは、マイスへと視線を向ける。


「マイス・フレグガルト、か。確かお前は、今年の梅雨頃に、私がアネットへ向けて投げた『音切り針』を傘で防いでみせていたな。後になって元王子であったことを知ったのには驚いたが……どちらにしても、ここにいるということは、ゴーヴェン様にとってお前も障害であることには変わりない。良い機会だ。お前も相手をしてやろう」


「美しい女教師からそう誘われるのは光栄なことだが……」


「マイス! 横から手を出してくるんじゃないわよ!! あたし一人で戦って勝たないと、胸を張って剣神を名乗れなくなるじゃない!!」


「まったく。君は追われる立場であることを自覚していないのかね。いつも手綱を引いているメイドの姫君やフランシアの姫君がどれだけ大変なのか、身に沁みて分かるよ。メイドの姫君も、俺に指揮権を任せるなどと、難しいことを言ってくれたものだ」


 そうため息を吐いた後、マイスは再び口を開いた。


「挑む以上、勝算はちゃんとあるのかね?」


「当然」


「ならば、ここは君に任せよう」


 マイスのその言葉に、オリヴィアさんが慌てた様子で口を開く。


「マ、マイスくん、良いのですか!?」


「どうせ止めたって、言うことを聞きはしないさ。それに、だ。彼女がロザレナと共闘してくれれば、勝算はぐんと上がってくるだろう」


 そう言ってマイスは、塀の上にいるシュゼットへと目を向ける。


「初めまして、美しきオフィアーヌの姫君。君はレティキュラータスの姫君と共にリーゼロッテと戦ってくれるという認識で良いのかな?」


「道化を演じていた王子様、ですか。いいえ、その認識は間違っていますよ。私は自分の庭を荒らした鼠たちを掃除しに来ただけです。その鼠たちには貴方たちも含まれていますし、勿論、私の機嫌次第ではロザレナさんを始末することもあり得ます」


「な、なるほど。オフィアーヌの姫君はなかなか難しい性格をしているとは聞いていたが、話に聞いた通りだな。では、方向性を変えよう。もし、ロザレナがそのリーゼロッテに殺されてしまった場合、君の妹であるメイドの姫君……アネットは、ひどく悲しむとは思わないかね?」


 マイスのその言葉に、シュゼットの肩がびくりと震える。


 その一瞬の動揺を見逃さなかったマイスは、キランと白い歯を輝かせた。


「はっはー! やはり、君の弱点は彼女のようだな!」


「……腹が立つ方ですね。アネットを使って私を懐柔しようとでもしているのですか? 【ストーンバレッド】」


「おわっ!?」


 マイスは後方へと飛び退き、自身に向かってくる石の刃を避ける。


 マイスは「ふぅ」とため息を吐くと、続けて開口した。


「別に、君を懐柔しようとしているわけではないさ。ただ、目的は一緒なのではないのか、と、そう思っただけだよ。君は、オフィアーヌを荒らしているゴーヴェン陣営を排除したい。俺たちは、ロザレナを守りたい。無論、アネットは俺たちと一緒に行動をしている。もう次期彼女もここに来るはずだ。ほら、敵対する理由はどこにもない。違うかね?」


「……良いでしょう。今だけ、貴方の口車に乗りましょう、マイス・フレグガルト」


「交渉成立、だな」


「では、見返りに貴方たちに頼みたいことがあります。今現在、ラオーレは、その女が連れてきた俗物たちが汚い足で闊歩しています。私は、コレットにあるものを託されて、自力で結界を越えて屋敷から抜け出せましたが……他の一族たちはまだ屋敷に囚われています。つまり、私は、貴方たちに――――――」


「理解した。街にいる聖騎士たちの目を掻い潜り、オフィアーヌの屋敷から、君の家族たちを救い出して欲しいと……そう、君は言いたいのだな?」


「家族……」


 シュゼットは一瞬真顔で硬直すると、ぎこちなく、頷きを返した。


「まぁ……人質に取られて死なれても、寝覚めが悪いですから。ブルーノに借りは作っておきたくはありませんし……それに……彼らが死ねば、アネットが悲しみます。それは避けたいところです」


 その返事にマイスは笑みを浮かべると、門へと進んで行く。


「了解した。君の家族のことは、俺に任せたまえ! 行こう、バルトシュタインの姫君、ブラックアリアの姫君、ジーク!」


「え? こ、このままロザレナちゃんをここに置いたままにして、良いのですか!? マイスくん!?」


「そうだ、マイス! ロザレナは、奴らに狙われているんだぞ!? 何を言っているんだ!!」


 二人の言葉に、マイスは振り返ると、あたしの顔を見つめた。


「倒せるのだろう?」


「当然!」


「なら、俺は君を信じる。どっちみちこうなったら、君はメイドの姫君以外の言葉では動かなくなるしな。ならば、先にラオーレの街の安全を取り戻し、援軍を止めた方が有効だ。この街の門は、そこしかないわけだからな。ロザレナとシュゼットが、リーゼロッテと邪魔者なく戦える環境を作る。今、俺ができることはそれだけだ」


 そう言って、マイスは門へと向かって進んでいった。


 そんな彼の後ろを、戸惑いながらも、オリヴィアとジークハルトとフランエッテがついて行く。


 彼らが向かう先――――開いた門の前にいるのは、当然、リーゼロッテだ。


「私が、素直にお前たちを街の中に通すと思っているのか?」


 そう言ってリーゼロッテは、鞭の剣を振り、マイスへと剣を伸ばす。


 あたしは即座に【縮地】を発動させ……マイスの前へと姿を現すと、その剣を大剣で弾いてみせた。


 それと同時に、リーゼロッテの足元から尖った岩が隆起する。


 リーゼロッテはすぐに前に飛び退いてその場から離れると、背後に、シュゼットが降り立った。


 あたしとシュゼットは、同時に口を開く。


「あたしが、素直にあんたの攻撃をスルーするとでも思ってるの?」

「私が、素直に貴方の攻撃をスルーするとでも思っていたのですか?」


 前後をあたしとシュゼットに挟まれたリーゼロッテは、フンと、鼻を鳴らした。


「……まぁ、良いだろう。私の目的は、災厄級の因子ロザレナ・ウェス・レティキュラータスの討伐だ。残りの奴らは中にいるフォルターに任せれば良い」


 あたしたちと睨み合うリーゼロッテの横を、マイスたちが通って行く。


 そして彼らは門を通り、ラオーレの中へと入って行った。


 みんながいなくなった後。リーゼロッテはあたしを見つめ、開口する。


「ロザレナ……お前、奈落で私に一撃を与えてから、調子に乗っているのではないか?」


「調子に乗ってる?」


「そうだ。たまたまの不意打ちで私を吹き飛ばしたからといって、お前は、私を倒せるなどと勘違いしてしまった。悪いが……私とお前の実力差には大きな隔たりがある。絶望的なまでにな」


「あんたはあたしをまったく理解していないわね。あたしは、目の前に乗り越える壁があるんだったら、いつだってそれに挑んできたわ。騎士学校、学級対抗戦、マリーランド、特別任務、剣王試験……全部、乗り越えるべき壁と対峙し、それを乗り越えてきた。今回だって同じよ。あたしは、夢のために、あんたに挑むの」


「あぁ……なるほど。ようやく理解できた。お前は、今まで運良く勝ち続けてきたから、私も乗り越えられるのだと勘違いしているのだな? 悪いが、お前の夢はここで終わりだ。才能のある常人が努力の果てに上り詰めることができるのが、剣王の座と言われている。だが、剣神の座はそうではない。この座には、一握りの天才しか到達が許されない領域だ。今まで何人もの人間が、剣神の座に挑戦し、夢を諦めてきた。お前のような夢みがちな馬鹿など、ごまんといただろう」


「……」


「お前はけっして剣神にはなれない。お前の夢はここまでだ、ロザレナ。見果てぬ夢に手を伸ばしたまま、無様に死ぬが良い」


「いいえ、あたしの夢は終わらないわ!! だって、あたしたちは……箒星は、いつか必ず剣神に上り詰めるんだもの!! そして、目指すゴールは剣神よりさらに上、剣聖の座。いつか必ず、この壁を越えなければいけないのなら、ひたすら挑むのみよ!!」


 あたしはそう咆哮を上げて、大剣を構えたまま、リーゼロッテへと突進して行く。


 その瞬間――――――――――――――リーゼロッテの姿が掻き消えた。


「いいや、終わりだ。現実というものを知って、散れ」


 【瞬閃脚】を使ってあたしの背後に現れたリーゼロッテ。


 するとその瞬間。あたしの上半身が、右肩から左脇にかけて、斬り裂かれた。


 攻撃の動作が一切見えなかった。剣王試験で戦ったグレイレウスの【瞬閃脚】よりも、数段……速かった。


「かはっ……!」


 鮮血が宙に舞う。刃は、まだ、あたしの脇に刺さったままだった。


「蛇影剣よ! 薙ぎ払え!」


 リーゼロッテは鞭の剣を操り、剣に突き刺さったままのあたしを空中へと持ち上げる。


 そして、そのまま……街を取り囲んでいる外壁へと、あたしを叩きつけた。


 ドシャァァァァンと外壁の一部が崩れ落ち、あたしは瓦礫と共に、地面へと落下してしまった。


(つ……強い……!)


 瓦礫の山の上。あたしは上体を起こして、リーゼロッテの方を見た。


 身体の節々が痛む。上手く、起き上がれない……!! たった一撃でこんな状態になるなんて……!!


「【ストーンランス】!!」


 その時。シュゼットがリーゼロッテの足元に石の槍を作り出した。しかしリーゼロッテは目に見えないスピードで鞭を操り、その石の槍を細切れにしてみせた。


「これが、お前たちと私の差だ」


 リーゼロッテは、シュゼットに向けて鞭の剣を伸ばす。


 シュゼットは杖を構えて、即座に自分の前に石壁を出現させた。


「【ストーンウォール】!!」


 学級対抗戦で、あたしを何度も苦しめた、あの石壁。


 だがリーゼロッテの蛇のような剣は、難なく石壁を貫いていた。


「……なっ!!」


 シュゼットの腹部に鞭の剣が突き刺さり、ドレスが血で滲みる。


 その光景を見て、リーゼロッテは興味深そうに眉を動かした。


「ほう? 思ったよりも硬い壁だ。私の剣はお前の身体を突き刺したはずだったんだがな……切先しか刺さらないとは驚いたぞ。やはりお前は優秀だな、シュゼット。元教え子として嬉しいぞ」


 そう言うと、リーゼロッテはシュゼットの腹部から剣を引き、鞭の剣を手元へと引っ込める。


 その瞬間、石壁の魔法を消滅させたシュゼットは、地面に膝をついた。


「シュゼット! ぐっ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」


 あたしは叫び声を上げて、なんとか、立ち上がる。


 すると、胸の傷からボタボタと血が地面に流れ落ちた。


「はぁはぁ……これが……剣神クラスの実力者……ってわけ?」


「ようやく理解できたか。お前たちは確かに、剣王レベルの力を持っている。騎士学校でも過去に例を見ないほどの、優秀な逸材といえるだろう。だが――――所詮はここまでの存在だ。お前たちはそれ以上、先を行くことはできない」


「いいえ、あたしは、その先に行く!! 絶対にッ!!」


 大剣を中段に構える。


「あたしは絶対に剣聖になるのよ!! 剣聖になって、アネットとの約束を叶えるの!!」


「アネット・イークウェス……か」


 アネットの名前を口にすると、リーゼロッテは顔を顰めた。


「正直、剣聖や剣神たちがあのメイドを足止めしてくれているのは助かっている。ゴーヴェン様が奴らに情報を渡していなければ、今頃、私やディクソン、ルティカなど、奴に一瞬でやられていただろうからな。思い出すだけで……恐ろしい」


「はぁはぁ……ディクソン? ルティカ? ……って、待って。情報って何よ。もしかしてあんたたち、あたしたちがオフィアーヌに来ることを、知ってたの……?」


「……話しすぎたか。意識があるうちに、お前に問おう。あのメイドはいったい何なんだ? 何故、奴はあの年齢で、あのような尋常ではない力を持っている? 何故、ゴーヴェン様は、あのメイドにあそこまで執着している? お前のメイドの正体を私に教えろ。ロザレナ・ウェス・レティキュラータス」


「アネットの正体ですって……? アネットはアネットよ? いったい何を言っているの……?」


「なるほど……お前も、知らないというわけか」


「はぁ?」


「お前は今まで疑問に思わなかったのか? あのメイドが何故、先代剣聖の【覇王剣】が使用できているのかを」


「それは……」


 疑問に思ったことは何度もあった。


 でも、アネットのことだから……で、いつも済ませていた。


 そうだ。あたしは、アネットが何であの剣を使えるのか、知らないんだ。


「ゼェゼェ……私抜きでわけのわからないことを話さないでくれますか? 私の妹は、可愛い可愛いただの美少女ですよ? いえ、ただの、ではありませんね。神に選ばれし美少女です」


 シュゼットは意識を取り戻したのか、腹部を押さえながら、立ち上がる。


 そしてフゥーッと息を吐くと、杖を構えて、あたしに声を掛けてきた。


「あの女は私が仕留めます。貴方は引っ込んでいなさい、ロザレナさん」


「嫌」


「私はリーゼロッテに、遺恨があるのですよ。あの女はゴーヴェンの命令でフィアレンス事変に参加し、隊を指揮していた騎士の一人。私にとって家族の仇そのもの。ですから……あの女に二度、この地に踏み入れさせるわけにはいかないのです」


「あたしだって、あいつを倒して剣神になりたいの。邪魔しないで」


「……致し方ありませんね」


 リーゼロッテを挟むように立ったあたしとシュゼットは、同時に、闘気を大剣に、魔力を杖にチャージする。


「では……どちらがあの女を先に狩るか、競い合いと致しましょう」


「上等! あんたには絶対に負けないんだから、シュゼット!」


 そう声を張り上げるあたしたちを見て、リーゼロッテは呆れた様子を見せる。


「何度向かって来ても同じことだ。お前たちでは……私には勝てない」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《グレイレウス 視点》



「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 吹き飛ばしたルティカを追うために、森の奥へと向かって【瞬閃脚】を使って走っていると……突如、大地を揺るがすような咆哮が聞こえてくる。


 木々に留まり眠っていた鳥たちは一斉に目を覚まし、空へと飛んでいった。


「凄まじい闘気の圧だ……叫び声を上げているだけで、身体中の骨が軋んでくる……!」


 オレは目を細めて、森の奥へと目を向ける。


 どうやら、ルティカは、本気で……オレに怒っているらしい。


 フン。望むところだ。ここでお前を超え、オレはさらなる飛躍を……。


「ッ!?」


 突如、目の前に、折れた巨大な大木が槍のように飛んできた。


 オレは咄嗟に横に逸れ、その大木を回避する。


 しかし、前へ目を向けると、そこには……巨大なハンマーが目前へと迫っていた。


「ぶっとべぇ、モヤシ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」


 この凄まじい闘気を纏ったハンマーに当たれば、オレの上半身など、一瞬で消し飛んでしまうことだろう。


 オレは闘気も魔力もない。ただ、速度の能力だけを上げた剣士。


 剣神クラスの剛剣型の一撃は、一度たりともこの身に受けることはできない……!!


 オレは横に振られたハンマーを目一杯に身体を仰け反らせ、回避する。


 顔の上を、スローモーションのように、ゆっくりとハンマーが通り過ぎていく。


 その瞬間、後方で、爆発音が鳴り響いた。


(なっ……!)


 仰け反った態勢のまま後方を見てみると、そこには、まるで竜巻でも起こったのか……多くの木々が薙ぎ倒され、小さな更地ができていた。


 ハンマーが通り過ぎた後、オレはその態勢のままバク転をして、後方へと下がる。


 そして逆手に持った両手の小太刀を顔の前で構え、ファイティングポーズを取った。


(何という威力の剣だ……これが、闘気で風圧を起こし、突風を巻き起こすという……【旋風剣】ルティカの技か……!)


 オレが緊張した面持ちでルティカを睨んでいると、奴はハンマーをブンと振り回し、豪快に肩へと乗せた。


「ハッ。ちょこまかとうぜぇ奴だ。これだから速剣型は気に食わない」


「前から疑問だった。これほどの強さを持ちながら、何故、お前は表舞台から姿を消した? お前の妹のラティカも、不思議がっていたぞ」


 オレのその言葉に、ルティカは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。


「お前、あの女に会ったのか」


「あぁ。剣王試験でな」


「剣王……あのガキ、弱い癖にまだそんなことしてんのか。さっさとオヤジの後を継いで、族長になれば良いものを……」

 

「ラティカはお前を心配していた様子だったが……見たところ、お前は妹が嫌いなようだな?」


「あぁ、嫌いだね。そもそも俺は、鉱山族(ドワーフ)特有の雁字搦めの掟生活が嫌で、里を抜けたからな。あまりにも里の生活がうぜぇから、鉱山族(ドワーフ)の宝であるこの粉砕するもの……『ミョルニル』を盗んで、里に火を点けて逃げたんだ。だから鉱山族(ドワーフ)はみんな俺のことを嫌ってるんだが……あのバカガキは、何故か俺に里に戻って来いってしつけぇんだよ。だから苦手なんだ」


「妹が嫌いな理由は分かった。それで? 剣神を辞めた理由は?」


 オレのその質問に、ルティカは先ほどよりも不機嫌になる。


「テメェに話してやる義理があんのか?」


「オレは剣王に上り詰めたら、お前から剣神の座を奪ってやるつもりでいた。オレはあの時から、そう決めていた」


「はぁ?」


「お前は、あの時、我が師が言った言葉を覚えているか?」


 オレは瞼を閉じ、脳裏に、大森林でのルティカとの出来事を思い返す。


 あの時、オレは師匠(せんせい)と共にロザレナの病を治すための薬草を得るべく、大森林へ訪れていた。


 そして、大森林の入り口にある村で、オレたちはルティカと出会った。


 ルティカはオレたちを門前払いした。大森林で起きた災害を自分がなんとかするまで、弱い雑魚どもは引っ込んでいろ、と。


 そんなルティカに対して、我が師は必死な様子で、頭を下げた。


『申し訳ございません。私は主人の病を治すために、どうしても大森林に行かなければならない事情があるのです。大森林に生えている薬草を採取しなければ、我が主人の命は……もう、あと数日間が峠だと思われます。ですから、どうか! 大森林に行く許可をお許しください! お願いします、剣神さま!』


 あの時、師匠(せんせい)は、ロザレナを助けたくて必死だった。


 それは誰もが見て分かることだった。


 あの師匠(せんせい)が、頭を下げる。


 その光景に、オレはとてつもない衝撃を覚えた。


 師匠(せんせい)はあんなに強いのに、人に頭を下げることができるんだ。


 力というもので、全てを解決しようとしない。あの人は、本物の人格者だった。


 それなのに……あいつは、こう言ったんだ。


『テメェの事情なんざ知らねぇよ。運が悪かったと諦めるこったな。こっちは王家の命令で動いているんだ。個人の考えなんて、オレには知ったこっちゃない』


『そこを何とか、お願い致します! お金が必要と言うのなら、後でお支払い致しますので―――』


 その瞬間。ブンと風を切る音と共に、ルティカのハンマーが師匠(せんせい)の顔の横を掠めた。


『この【剣神】であるオレ様が、金で動くとでも思ってるのか、メイド。オレ様はこの国の最強格である【剣神】の一人だ。何で剣の神たるオレ様が、お前のような使用人風情の願いを聞き入れなきゃならねぇんだ? 立場を弁えろ。オレ様をそこらの金で動く傭兵や冒険者と一括りにするな。ぶっ殺すぞ』


『そんなつもりは―――』


『貴様……師匠(せんせい)に何をしている!!』


 オレはあの時、師匠(せんせい)に武器を向けたあの女を許せなかった。


 師匠(せんせい)を侮辱されたと思った。


 だから、師匠(せんせい)の制止をふりきり、あの女に剣を向けたんだ。


 そして―――――――――。


『ぐふっ!?』


『グレイレウス!?』


 ルティカが振ったハンマーに直撃し、一撃で吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。


 悔しかった。どうしてオレは、師を侮辱したこの女に何もできないのか、と。


 師匠(せんせい)はオレが無事たったことに安堵の息を吐くと、再び、ルティカへと顔を向ける。


『……ルティカさま。どうしても、私たちが大森林に行くことを認めてはくださらないのですか?』


『あぁ、認めない。さっきも言ったが、メイド、そもそも自分たちが何かを言えるような立場にいるだなんて考えるな。オレ様は【剣神】、お前たちは銀等級冒険者。その差は歴然だ。強者の弁には素直に従え、人族(ヒューム)のガキども』


『……分かりました。素直に、王都へと戻ることに致します』


 怒りが、込み上げた。


 何が、強者の弁だ……師匠(せんせい)はロザレナを助けたくて頭を下げたというのに……!!


 オレは、咄嗟に、もう一度ルティカへと突進しようとした。


 すると師匠(せんせい)が肩を掴んで、止めてきた。


『グレイ、落ち着け!』


師匠(せんせい)!! 止めないでください!! オレは、あの女が許せない!! 何故【剣神】ともあろう者が、助けを乞う民を見捨てようとするのか……!! 過去のオレは、力が無かったから姉を失った!! だからオレは力を求め、姉の墓前の前で弱き者を守れる【剣神】になると誓った!! それなのに……あの【剣神】はいったい何なのですか!! 強者の弁には素直に従えだと!? 冗談じゃない!! 貴様の傲慢で自分勝手な考えのせいで、ロザレナをむざむざと死なせてたまるものか!!』


 人の命を何とも思っていない人間が、姉が憧れた剣神の座にいることに怒りを覚えた。


 ファレンシアは、こんな剣神に憧れたのではない……!!


 オレが目指した剣士というのは、もっと、こう―――――――――。


『――――――グレイ』


 隣に立っている師匠(せんせい)が、そう、声を掛けてくる。


 オレは怒られるのだと思って、肩を震わせた。


 だが……。


『ここに来る前にさっき、俺はお前にある言葉を言っただろう。もう忘れたのか?』


『え……?』


『俺がお前を導いてやるよ、グレイ。だからお前が……あいつを倒せ。俺がお前を【剣神】にしてやる。俺から見て、お前の方が―――この鉱山族(ドワーフ)よりも【剣神】に相応しい』


師匠(せんせい)……?』


 オレは、隣に立つ師匠(せんせい)の顔を覗き見る。


 すると師匠(せんせい)の目は、ギラギラとした光を宿して、ルティカを鋭く見つめていた。


 その目は、あの女はお前が倒せと……オレに訴えていた。


『あぁ? 何言ってんだ? てめぇ?』


『何でもございません。ただの取るに足らない雑魚の戯言です。……さぁ、行きましょう、みなさん。【剣神】さまのお仕事を邪魔するわけにはいきませんからね』


 オレの肩から手を外し、背中を見せて、去って行く師匠(せんせい)


 オレは、先ほどまで師匠(せんせい)が掴んでいた肩に、そっと触れる。


 ――――――――――――多分、この時だったのだと思う。


 オレが、師匠(せんせい)の正式な弟子となった瞬間は。


 それまで、オレは自称弟子として、師匠(せんせい)の周囲を付きまとっていただけの存在だった。師匠(せんせい)もオレを適当にあしらうだけで、本気で弟子として認めている様子はなかった。


 だけど……この日から、オレは師匠(せんせい)の正式な弟子となった。


 弟子となったからには、あの御方に恥じない人間にならなければならない。


 そして――――――あの御方が「お前が倒せ」と命じたその言葉を、守らなければならない。


 目を開ける。


 そしてオレは、首を傾げているルティカに、不適な笑みを浮かべた。


「……オレは、あの御方の弟子として、お前を倒す。お前は、オレが頂点を目指す上で、乗り越えなければならない壁だ」


「頂点だと? まさか、お前……剣聖でも目指しているつもりか?」


「だとしたら?」


「ハハハハハハハハ!! 笑わせんじゃねぇよ!! 良いか、クソガキ。この世界には、人間の手じゃどうしようもない化け物がいるんだよ。そういう奴らと戦える本物の剣士というのは、ほんの一握りだけの、天才の中の天才だけだ。悪いが、俺にはお前がそっち側の人間には見えない。お前……どっちかというと、一般人側の人間だろ?」


「……何故、そう思う?」


「お前からは闘気も魔力の気配も感じねぇ。お前……スピードしか能がないから、速剣だけに命賭けてきたタイプの剣士だろ?」


「……」


「ハハハハ! 図星かよ! やっぱりな! 良いか、ルーキー。知っていると思うが、剣神以上の世界になると、ひとつの型だけを極めた剣士っていうのは淘汰されていくもんだ!! その領域には、二つ以上の型を使える剣士、それも天才級の奴しか踏み入ることはできなくなる! お前みたいに速剣しか使えない典型的な凡人は、上には行けないんだよ!! けど、褒めてやるぜ? よくそれだけで剣王まで行けたな? だが――――――そこが一つの型しか使えない、お前の終着点だ」


「随分と饒舌だな。まるで……自分の仲間(・・)を見つけて歓喜でもしているかのようだ」


「……あ?」


「お前もなんだろう? お前も……剛剣しか使えなかった剣士なんだろう? 剛剣しか、極められなかったんだろう? そうか……なるほどな。お前はやっとの思いで一つの型だけを極めて、剣神になって、それで……自分じゃ絶対に超えられない壁と出会ってしまったのか。自分の能力では上に行くことができないと悟ってしまったのか。違うか?」


「…………ッッッ!!!!」


 今までで見た中で一番、ルティカが、憤怒の表情を浮かべる。


「妄想をベラベラと語ってんじゃねぇぞ、モヤシ野郎。潰すぞ」


「確かに、オレは才を持たずに生まれてきた。魔法因子がひとつもないせいで帝国の家から追い出され、剣の国である王国に行っても、闘気を持つことが叶わなかった。お前の言う通り、オレは本来、剣の舞台には上がれないただの一般人だったのだろう。この身にあるのは、脚力と剣速のみだった。だが―――――」


 オレは、鋭くルティカを睨みつける。


「だが、オレは、進み続ける。例えこの先にどんな壁が持ち受けていようとも、絶対に歩みは止めない。我が師がオレを認めてくれたのだ。オレは、師の言葉だけを信じる。オレは―――――――――速さだけで、頂点を目指す」


「俺がなれなかったんだから、テメェがなれるわけがねぇだろうがぁぁぁぁ!!!!!! モヤシ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 咆哮を上げるのと同時に、ルティカは凄まじい闘気を身に纏う。


 そして……全ての闘気を、手に持っているハンマーに集中させた。


「あぁぁぁぁぁぁぁッッ!! イライラするぜぇぇぇぇ!!!! こんなにイライラしたのは久しぶりだぁぁぁぁぁぁ!! お前も殺して、ロザレナも殺す!! それで全部終わりだ!!」


「ロザレナは殺させない。いや、あいつは死なない。何故なら……あいつはオレと剣聖の座を争う、ライバルだからだ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《ルナティエ 視点》




「はぁはぁ……!!」


「おいおい、最初の威勢の割には随分と疲労してるじゃねぇか、お嬢」


 わたくしはレイピアを杖代わりにして膝をついて、目の前に立つディクソンを見上げる。


 彼は肩に剣を乗せて、嘲笑うかのように笑みを浮かべていた。


「悪いな。俺は正々堂々、というタイプじゃないからよ。全員でリンチにさせてもらうぜ。そっちの方が効率が良いし、体力も温存できるからな」


 わたくしとアルファルドの周囲を取り囲んでいるのは、数十人の冒険者たち。


 単純に、敵の数が多いのもありますが……わたくしたちが攻撃できないのには、理由があります。


 チラリと奥へと目をやると、そこには、一人の冒険者に抱えられ、首元に剣を差し向けられているジェシカさんの姿が。


 そう……わたくしがディクソンを吹き飛ばした後。ディクソンはあろうことか、睡眠薬を飲まされて眠っているジェシカさんを人質にしたのです。


 わたくしがジェシカさんを見つめていると、ディクソンが口を開いた。


「人質が気になるか? 昔のお嬢だったら、人質なんてすぐに見捨てていたと思うぜ? 本当、良い子ちゃんになっちまったよなぁ」


「……ッ!!」


「おっと、卑怯だとか言うなよ? お嬢だって今まで散々、俺を使って同じような手を打ってきただろうが。何人も泣かしてきただろうが。今更良い子ちゃんぶるのは良してくれよ? 流石にそこまで青臭くなったら、あんたを本気で嫌いになりそうだ」


「えぇ……そうですわね……それも策略の内、ですわね……。卑怯とは言いませんわ。わたくしだって、勝利を手に入れられるのであれば、きっと今でも同じ手を使います」


「良かったぜ。そこまであのアネットとかいう化け物に毒されては無かったか。しっかし、不思議なもんだぜ。あのお嬢が、あの化け物メイドの子分になるなんてよ」


 ディクソンがそんなことを言っていると、近くにいた冒険者が剣に闘気を纏い、わたくしに斬りかかってきた。


 わたくしはその剣をレイピアで弾き、後方へと下がる。


「子分じゃありませんわ……わたくしはあの人の、弟子です!」


「弟子、ねぇ。お嬢は覚えているか? 聖騎士団本部にある刑務所で、俺と初めて会った時のこと」


 再び、背後から、剣を放たれる。


 わたくしはその剣も、ギリギリで回避してみせた。


「覚えていますわよ……!!」


「そりゃあ、良かった。俺は……あの時のお嬢の目に、自分と似たものを感じたんだぜ」


 そう言って、ディクソンは、笑みを浮かべるのだった。

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