第10章 二学期 第305話 剣王試験編ー㉓ 詐欺師VS元悪役主従
やぁやぁ皆さん、おはこんばんにちは。
僕の名前は、ルキウス・ブルシュトローム。そう、勘の良い御方は既にお気づきですよね? 何を隠そう、僕はあの有名な伝説の剣士、最強の剣聖アーノイックの孫なんです。
……なんてね。ええ、ええ。本当のこと言うと、僕は、アーノイック・ブルシュトロームの孫なんて大それたものではないのですよ。
僕の正体は、詐欺を生業として食べている正体不明の紳士―――名を、貴族狩りのヘロン。
貴族を狙って大掛かりな詐欺行為を働くことから、聖騎士団から絶賛指名手配されているとても悪い奴なのです。
え? そんな奴が剣王試験に参加していて捕まらないか、って?
そこはご安心を。僕は、何度も顔を整形していますからね。そう簡単に尻尾を出すような真似を致しません。既に、別の人物の戸籍を買い取り、別の人物として活動していますので、問題は何もないのです。
アーノイック・ブルシュトロームの孫を名乗っている理由は……雇い主にそうしろと言われたから、ですかね。
不思議なことにですね、僕、人生で初めて所在を突き止められたのですよ。
しかも、聖騎士団の親玉、ゴーヴェン・ウォルツ・バルトシュタインに。
でも彼、僕を捕まえるどころか、逆に大金を積んで、僕を雇ってきたのです。
そして、こう言ってきたのです。
剣王試験に参加して、アーノイック・ブルシュトロームの孫を名乗り、第三次試験まで生き延びろ、と。
わけのわからない依頼でしょう?
ゴーヴェン殿曰く、アーノイック・ブルシュトロームの孫を名乗って、メイドのアネット・イークウェスの反応を見ろとのことでした。
まぁ、察しますに、アネットという少女は、アーノイック・ブルシュトロームの親戚か何かなのでしょう。もしかしたら、本当の孫だったりして?
あれ? でもおかしいな? 確か、レティキュラータス家のメイドは、オフィアーヌ家の血族だったはずでは……? オフィアーヌ家の血族の中から剣聖が産まれたという話は聞きませんし、アーノイック・ブルシュトロームがオフィアーヌ家の人間と親密になったという話も聞きません。何だか、きな臭い話ですねぇ。
ですが、まぁ、気にしないことにしましょう。触らぬ神に祟りなしという奴です。
僕の仕事は、ルキウス・ブルシュトロームとして、第三次試験まで生き残ること。
アーノイック・ブルシュトロームの孫である立場というのは、ちょうど、人を動かすのに最適な立ち位置ですからね。僕なりに本気を出して、剣王試験を生き残らせていただくとしましょう。
「誰ですか! そこにいるのは!」
三チームでの会合を終え、思考を巡らせていると、背後に立っていたブリュエットが、そう声を張り上げました。
彼女の視線の先を追うと、そこには―――三人の人影を見つけます。
僕はその3人を見て笑みを浮かべると、指を差し、口を開きました。
「獲物だ! ネックレスを奪うんだ! お前たち!!!!」
箒星という異常な強さを持った者たちが参加している以上、この試験、『サバイバルランニング』で重要なのは、人をまとめる統率力といえるでしょう。
古典的なやり方ですが、強者には徒党を組んで挑む他、ありません。
まぁ、万が一敗北したとしても、ちょうど、受験者の人数を減らすことができます。
受験者を減らし、交渉して強者たちから余ったネックレスを奪うのも、作戦のひとつです。
ええ、僕は、生き残ることに関しては大の得意分野なので。
この第二次試験も、持ち前の生き汚さでまるっと解決してしまいましょう。
人生、楽しんだもの勝ちですからね。テンションを上げていくとしましょう。
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「に、逃げるであります!」
俺たち3人は、急いで林の中を駆け抜け、その場から離れる。
すると、背後から、女剣士ブリュエットと、鼠型の獣人族ポンティキが追って来た。
右隣を走るボルザークが、背後を伺いながら、口を開く。
「相手は、二人……! 三人がかりならば、勝てるのではないですかな!?」
「それは悪手であります!! 戦っている最中に、さっき別れたばかりのアグニスチームとエリニュスチームが戻って来たら、やばいでありますよ!! ここは逃げるのが正解であります!! うぅ……こうなったのは、某のせいです……これでは、暗殺者兼忍として、失格であります……ごめんなさいであります、二人とも……!」
左隣で走りながら、泣きそうな顔で謝罪してくるミフォーリア。
俺はそんな彼女を一瞥した後、チラリと背後を伺う。
どうやら、ルキウスとジークハルトは来ていないようだ。
俺は走りながら魔法を詠唱し、通り過ぎる間際に、適当な木に触れた。
「氷塊よ、我が盾となれ―――【アイス・ウォール】」
追っ手の進行方向に障害物……木から氷の壁を発動させ、俺はそのまま走って行く。
すると、ブリュエットとポンティキはチッと舌打ちをして、左右に迂回して氷の壁を避け、そのまま追って来た。
これを繰り返せば、ある程度、時間稼ぎにはなるな。
だが、少し、違和感を覚える。
こちらは従者三人組だが、相手は一端の剣士たちだ。
距離を詰められてもおかしくないのに、向こうは、一定の距離でこちらを追いかけてくる。
その動きに、俺は少し、嫌な気配を感じた。
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《ロザレナ 視点》
「我が影を削り、闇に同化せよ――――――【シャドウベイト】」
キールケはしゃがみ込み、自身の影に手を当てて詠唱を唱える。
すると彼女の影の一部が離れていき、闇の中へと消えていった。
あたしはその光景を見て、彼女に声を掛ける。
「これが、あんたの透視の正体ってわけね」
「あのさぁ、ちょっと黙っていてくれるかなぁ? これ、結構、神経をすり減らすの。あと、透視じゃなくて、キールケちゃんの影の一部を切り離して飛ばしているだけだから。そこのとこ、勘違いしないで欲しいから」
そう言ってキールケを片目を瞑り、そこに手を当てる。
「……周囲に人は……いない。適当に影を走らせてみるけど、この魔法には、制限時間と範囲がある。だから、過度な期待はしないでよね」
「思ったほど、役に立つ魔法ではないというわけね」
「うるさいなぁ。お前、次にうざいこと言ったら、メイド探しの協力をしてあげないから」
そう言って、キールケは無言になる。
あたしはそんな彼女の後ろに立ち、腕を組んだ。
すると、数分後。キールケが、口を開いた。
「……見つけた……けど、ちょっとやばい状況みたいだね」
「やばい状況?」
「お前のメイド、他の知らない受験者と組んだみたいだけど……何か、別の受験者二人に追われているわ。森の中を走っている。……っと、二人じゃないか。逃げている進行方向に、誰かいる。あれは……馬鹿王子?」
キールケは、再び無言になる。
そして、その後。彼女は「チッ」と舌打ちをして、目を開けた。
「気付かれた。あの馬鹿王子には、一度、キールケちゃんの【シャドウベイト】を見られているから……私の影が木の後ろにあることを見破られ、容赦なく斬り捨てられたわ。キールケちゃんに敗けた、ヘボ豚王子が。調子に乗りやがって……!!」
キールケはそう言って、立ち上がる。
あたしはそんな彼女に対して、首を傾げた。
「馬鹿王子って、誰のことよ?」
「ジークハルトのことよ。あの豚と、あと、ジェシカ・ロックベルトは、私が影に自分の一部を潜ませられることを知っている。木の影に隠れていたところを目ざとく気付かれて、影を消滅させられたわ。キールケちゃんの【シャドウベイト】は、自分を模した影を飛ばすことができるけど、戦闘能力皆無だから、見つけられると簡単にやられちゃうのよ。このことを知っている相手だと、扱い辛くなるのよねー。特別任務で脅かすためにあの豚どもに能力見せたのは、悪手だったかもしれないわ」
「そう……それにしても、ジークハルトのチームが、アネットを襲っているのね」
アネットの本当の実力を考えれば、ジークハルトやその他無勢など、相手にならないことは分かっている。
でも、アネットは今回、魔法剣だけで試験に臨むと言っていた。
第三次試験にまで行くつもりはないみたいだけど……あたし的には、魔法剣縛りのアネットとも、ちょっと戦ってみたい気持ちがある。
第三次試験でもしアネットと戦うことができたら、あたし的には大喜びだ。公式の場でアネットと戦えるのよ。たとえ全力ではないにしても、これほど心躍る出来事はないわ。
よって、あたしはアネットを秘密裏に第三次試験にまで連れて行こうと思う。
こんなところで、他の受験者に退場させられるわけにはいかない。
「なら、今すぐ助けに行きましょう。方角はどっち?」
「はぁ? 何でキールケちゃんがお前のメイドを助けなきゃいけないわけぇ?」
「別に、一緒に来なくても良いわよ。けど、次、合流できるかは分からないわよね? あんたの透視魔法、全てを見通せる魔法ではないみたいだし」
「……チッ。分かったわよ。キールケちゃんも行けば良いんでしょ、行けば。方角は南の方。ついてくれば」
悪態をつきながら、キールケは歩みを進める。
何となく、こいつの扱い方も、分かってきた気がするわ。
ルナティエとかシュゼットよりも、案外、分かりやすい奴なのかもしれないわね、この女。性根は前者の二人と比べて最悪だけど。
その後。キールケと共に、松明を持って、暗い森を走っていた……その時。
前方の林から、ある人物が飛び出してきた。
「見つけたわ! ロザレナ・ウェス・レティキュラータス! 私と、いざ尋常に勝負をしなさい!!」
あたしたちの前に現れたのは―――レティキュラータス家の分家、オルベルフ家の息女、アイリスだった。
あたしはため息を吐き、肩を竦める。
「今、あんたの相手をしている暇はないのだけれど。後にしてくれないかしら」
「はぁ!? 意味分からない!! オルベルフ家の息女たるこのアイリス様を、馬鹿にしているの!?」
「馬鹿になんかしてないから。あと……スカートがショルダーバッグに引っかかって、パンツ丸出しになっているわよ」
「何でよ!?」
アイリスは慌ててスカートを降ろし、顔を真っ赤にさせる。
そんな彼女に、キールケは口元に手を当てプッと噴き出した。
「うさぎさんパンツとか……何歳なの、お前。だっさぁ~~」
「う、うるさい、ガキンチョ!! 人の趣味にケチつけないでよ!!」
「はぁ? ガキンチョじゃねーし。レティキュラータスの分家の癖して、バルトシュタイン家の息女であるキールケちゃんに、ちょっと頭が高いんじゃないの~? 痛めつけてぇ……キールケちゃんの奴隷にしてあげようかぁ? クスクスクス」
キールケが、アイリスに殺気を見せる。
アイリスは緊張した面持ちでゴクリと唾を呑み込むと、腰から二本の剣を取り出し、構える。
「やってみなさいよ。私は、オルベルフ家をレティキュラータス本家にして、お爺様の無念を晴らしてあげるんだから。初代剣聖の末裔として……悪徳貴族バルトシュタイン家になんかには、絶対負けないから……!! まとめてかかってきなさい!!」
「初代剣聖って……いつの話をしているの? お前たちレティキュラータス家の一族は、本当、それしか語れるところがないよね? ダサダサすぎて、話にならないんですけど~?」
「あんたたちバルトシュタイン家だって、現当主ゴーヴェンが帝国貴族と結婚してから、剛剣型を輩出していた過去の武家の姿とは異なり、今では魔法剣士しか輩出していないらしいじゃない? 栄華を極めているのは、ゴルドヴァークとゴーヴェンの代まで。次代を担う子供たちは、先代に比べてパッとしないって言われているけど?」
「お前……本気で殺すぞ? 誰と口を利いているのか、ここで、分からせてやろうか?」
キールケが目を見開き、不気味な笑みを浮かべる。
その姿を見て、あたしは何か既視感を覚えて……あぁ、ジェネディクトか。
この子、ちょっと、ジェネディクトに似ているんだわ。
過去の幼いあたしだったら、この、バルトシュタイン家の人間が持つ特有の威圧感を前にしたら怯むのでしょうけど……今のあたしは違う。
あたしはキールケの頭にチョップを叩き込む。
するとキールケは頭を押さえてしゃがみ込み、あたしに向けて吠えた。
「いったぁ~!? ちょ、何するのよ!? お前から殺すぞ、ロザレナぁ!!」
「うっさい。あと、アイリス。あんたもうっさい。話は後でって言ってるでしょ。戦うのなら、後でちゃんと戦ってあげるから。今は後にしなさい」
「……本当でしょうね?」
「あたしは、嘘は吐かないわ」
あたしも、オルベルフ家との因縁は、ここで清算しておきたいしね。
まったく、お婆様は何も悪くないというのに、しつこい連中。
アイリスはため息を吐くと、コクリと頷いた。
「分かったわ。なら、貴方にこのままついていき――――」
「――――――行かせはせぬぞ」
その時。あたしは、即座にアイリスの腕を掴むと、横へと飛び退いた。
その瞬間―――――さっきまであたしが立っていた場所に、巨大な丸太が突き刺さっていた。
キールケも、影の中に潜むことで、その攻撃を避けていたようだった。
キールケはあたしの横にある木の影から姿を現すと、熊のぬいぐるみを抱きながら、上を見上げた。
そして彼女は、面白そうに目を細める。
「へぇ……? 面白い組み合わせ」
「そちらもな」
付近にあった崖の上に立っていたのは……見覚えのある3人の姿。
手斧を構えるアグニス、戦斧を構えるメリア、青龍刀を構えるジェシカだった。
あたしとキールケは前に立つと、同時に大剣と針の剣を抜き、構える。
「あたしが全員倒しても良いんだけど……キールケ、あんたも戦う気なの?」
「お前が強いことは認めるけど、流石に、お前一人じゃ荷が重いんじゃないの?」
今のあたしのままだったら……多分、ね。
まぁ、そんなことは絶対に言わないけど。
あの中で一番脅威となるのは、多分、メリア……かな。
ジェシカはテンション次第では、一番強いと思うけど、あの様子を見るに、本気は出せないかしらね。あたしと戦うことに対して、表情に迷いが見て取れる。
大方、多勢で叩くことに忌避感を覚えているのでしょう。まったく、これは剣王を決める戦いなのだから、あたしに対してそんな情けをかける必要なんてないのに。相変わらず優しいのだから、あの子は。
あたしはジェシカにクスリと笑みを溢した後、アグニスに視線を向ける。
「剛剣型の3人でチームを組んで……あたしを倒しにきたってわけ? 悪くない作戦ね。確かに、現状あたしを倒せる存在は、貴方たち3人か、グレイレウス、ルナティエくらいだものね」
「キールケちゃんもでしょうが!」
「いかにも。卑怯だとは言うまいな、ロザレナよ」
「言うわけないでしょ? むしろ、感謝したいくらいよ。あたしが認めた強者たちが、チームを組んであたしを倒しにきた……あんたたち3人を倒すことができれば、あたしは、さらに上へ行くことができる……! こういうのを、ずっと、待っていたのよ!!」
あたしがそう言って笑みを見せると、アグニスがビクリと眉を顰める。
アグニスと睨み合っていた……その時。
アイリスがあたしとキールケの横に並んできた。
「私も戦うわ。貴方を倒すのは、私なのだから」
そう言って剣を構えるアイリスに、キールケは横目で視線を送る。
「子豚。お前はちょっと場違いだから、引っ込んでいた方が良いかもね~」
「はぁ? 私だって、剣士として鍛えて――――――」
「死ぬよ?」
キールケがそう声を発したのと同時に、あたしは地面を蹴り上げ、アグニスの元へと跳躍する。
アグニスは手斧を構えると、咆哮を上げた。
「フハハハハハハハハハハハ!!!! 特別任務の時は、全力で戦うことができなかったからな!! さぁ、お前の本気の剣を俺に教えてくれ!! ロザレナ!!」
あたしは上段に構えた剣を、3人に向けて振り降ろした。
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「……見つけた」
エリニュスはそう言って、草の影に隠れて、木の下で刀を抱いて眠る剣士に視線を向ける。
そしてエリニュスは腰の鞘から剣を抜き、背後にいるエイシャとラティカに声を掛けた。
「このまま、グレイレウスに勝負を仕掛けるよ。寝込みを襲うっていうのは、ちょっと、私的には納得いかないけど……のんきに寝ている方が悪いんだし。それで、少しでもダメージを与えられたら、こっちの儲けもんよ」
その言葉に頷くエイシャとラティカ。
二人に頷きを返し、エリニュスが再びグレイレウスの方へと視線を向けると――――――そこに、グレイレウスの姿は無かった。
エリニュスは、驚きで、目を丸くさせる。
「は? い、いったい、どこに―――――」
「ここだ」
背後から聞こえてきた声に、エリニュスは振り返る。
すると、そこには……マフラーを風に靡かせた、グレイレウスの姿があった。
グレイレウスは、3人に対して口を開く。
「箒星の門下を潰すために、徒党を組んで挑んで来ることは気付いていた。ルキウスが、第二次試験の控室でオレにこれを仕掛けたのには、知っていたからな。知っていて、敢えて貴様らを泳がせていた」
そう言ってグレイレウスは、衣服についていた極小のピンを取り出し、地面に放り投げる。
「大方、発信器か何かの魔道具なのだろう。第二次試験の控室で、我ら箒星の門下生3人が手洗いに離席した隙に、すれ違いざまに仕掛けていたようだが……バレバレだ。オレ以外にも、既にルナティエの奴も気付いていることだろう。ロザレナの馬鹿は……恐らく気付いていないだろうがな」
「何、それ? 発信器?」
「何だ、お前らはルキウスの指示で動いているわけではないのか? フン、まぁ良い。獲物がわざわざ来てくれたのだ。オレにとって好機と呼ぶ他はない」
そう言ってグレイレウスは腰の鞘から小太刀を引き抜く。
「来い。お前たちを倒して、ネックレスを奪い……オレの試験はここで終わらせてやる」
二本ある内、一本しか小太刀を抜かないグレイレウスに対して、エリニュスは不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「何で……二本抜かないわけ?」
「これで十分だからだ」
「舐めやがって!!!!!!!」
エリニュスたち3人は武器を構え、グレイレウスへと襲い掛かって行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
森の中を駆けること、数分。
俺は肩越しに、追手へと視線を向ける。
そこには未だ、一定の距離で追いかけてくるブリュエットとポンティキの姿があった。
その時。ブリュエットとポンティキが耳元に手を当て、何か呟いている姿が目に入る。
あの動作は―――念話か? 情報属性魔法で、誰かと会話をしている?
「もしかして……ルキウスから何か、指示を―――――」
「そこまでだ」
前方から声が聴こえてきたので、俺たち3人は急ブレーキをかけて、足を止める。
すると、前に立っていたのは……ジークハルトだった。
周囲を確認してみる。ここは、ちょうど、崖の真下……凹みとなっている場所。
どうやら俺たちは、彼らの手によって、袋小路に追い込まれていたようだ。
その光景を見て、ミフォーリアは驚きの声を上げる。
「もしや……逃げている最中に、ここに来るように、追い込まれたということでありますか!? 地形を完璧に把握していなきゃ無理な芸当でありますよ!?」
「そういうことだ。お前たちはまんまと、ルキウスによってここへと誘導されたということだ。……む、アネット・オフィアーヌ、か」
ジークハルトは俺と目が合うと、周囲をキョロキョロと確認する。
「ロザレナ・ウェス・レティキュラータスはいないのか?」
「はい。お嬢様とは、別のスタート地点から出発しましたので」
「なるほど。すまないが……悪く思うなよ。これも、作戦の内だ」
「分かっています。この試験、チームの連携が重要であることは把握済みですので」
本来、この試験は、チームを組むこと前提で作られていることは分かっている。
いくら突出して強くても、受験者一人で三人組が犇めく森の中を進んで行くことは難しいからだ。
故に、この試験は、第一次試験で好成績を築いた人間をふるい落とす場でもある。
だから第一次試験終了の時、各ブロックの合格者を成績順で公表したのだろう。
好成績の人間がいれば、それを潰そうと動く者が出てくるのは当然だからだ。
だが……うちの弟子たちほど実力が周囲とかけ離れた存在であれば、個人でのクリアも容易となる。
あの3人に関しては、試験を作った側も、想定していなかった存在といえるな。
「さて……今すぐ、ネックレスを渡して貰おうか。すみやかにネックレスを渡すのであれば、私も無暗に手を出したりはしない」
俺の目的は、お嬢様を第二次試験終わりまで見守ること。
ネックレスを奪われたところで、リタイアにはならない。
それなら、ここで、ネックレスを渡すのもアリかもしれないが……。
「無理なお願いであります! 某のネックレスは、ヒルデガルトお嬢様に捧げると、決めているでありますから!」
「同意。我が主の役に立たずに、退場はできないですな」
ミフォーリアとボルザークは苦無と剣を抜き、構える。
まぁ、二人は、納得いかないよな……。
仕方ない。やれるだけ、魔法剣で対抗してみるか……。
俺も箒丸を構える。すると、ジークハルトは大きくため息を吐いた。
「スムーズに事を運びたかったのだが……仕方ない、か……」
ジークハルトが腰の鞘から剣を抜いた……その時だった。
「キヒャヒャヒャ!!!! 何がスムーズに、だ!! テメェは前から気に入らなかったんだよ、クソ王子!!!!」
「――――――ッ!?」
突如、森の闇から飛び出してきたアルファルドが、ジークハルトへと斬りかかった。
その不意打ちに反応が遅れたジークハルトは、頬を斬られる。
彼は後方へと飛び退く。そんなジークハルトに対して、アルファルドはしつこく剣を振り降ろした。
続けて振り降ろされた剣に対して、剣を横にして防ぐジークハルト。
交差する剣の向こうで、アルファルドは嗤い声を上げた。
「おいおい、どうしたァ!? こんなもんかァ!? 鷲獅子クラスの元級長ってのはよォ!!!!」
「毒蛇王クラス、元副級長、アルファルド・ギース・ダースウェリン……!!」
「オレ様はなぁ! 前からテメェのことが嫌いだったんだよ! その正義感面が気に入らねぇ!! その、常にくだらなそうに世界を見つめる目が気に入らねぇ!! 腹が立つぜ、クソ王子!! テメェには中身がねぇ!! いったい、何のために剣を振ってやがるんだ、お前はよ!!!!」
「奇遇だな。私も、前からお前のことが気に入らなかった……!! 欲に忠実であり、常に周囲に悪意を振りまくその在り方……!! 私は、お前を副級長に据えたシュゼットの正気を疑っていたぞ……!!」
「オレ様には剣を振る理由があるからな!!」
「目的のためなら、他人を蹴落とすそのやり方に、意味はない……!」
「じゃあ、テメェは、何か目的があんのか? 剣王になって、テメェは何がしたい? 野望でもあんのか?」
「それは―――――」
「お前は、ただ、何かを忘れたくて剣を振っているだけだ。そんな奴に、オレ様が敗ける道理はねぇ……!!」
アルファルドは剣を弾くと、ジークハルトの腹部に蹴りを入れる。
みぞおちに入った、強烈な蹴りだったが……ジークハルトは特に、ダメージを負った様子を見せていなかった。
「チッ! 補助属性魔法で、防御力を高めていやがったのか……!」
ジークハルトは、無言で、剣を振る。
アルファルドはバク転をして、その剣を避けてみせた。
そして、アルファルドは、俺の前へと降り立った。
「アルファルド……」
「ハッ。クソメイドか。邪魔だ、とっとと失せな。いや……早く、ロザレナのところに行った方が良いかもな。連中、今夜、箒星の門下生を潰すつもりらしいぜ?」
「分かっています」
俺はそう言って、アルファルドに背中を見せる。
そして、一言、口にした。
「ルナティエは、一緒なんですか?」
「あぁ」
「ルナティエは……彼らに勝つ気なんですね?」
「当たり前だ。あのクソドリルは、こんなところじゃ敗けねぇよ。勿論、オレ様もなぁ」
俺は、ニコリと微笑む。
アルファルドに、手を貸しましょうか? なんてことは言わない。
二人は、真剣に、この試験を勝利しようとしている。その邪魔を、俺がしてはいけない。
ルナティエもそうだが……俺には、果敢に敵に挑むアルファルドにも、剣王の座に座る資格はあると、そう思った。
「今のうちに行きましょう、ミフォーリアさん、ボルザークさん」
「は、はいであります!」「うむ、了解した」
そう声を掛けて、走り出そうとした、その時。
ブリュエットがこちらに気付き、駆けて来る。
「ちょ、待ちなさい!」
それを見逃さず、アルファルドは地面を蹴り上げると――――ブリュエットの前に躍り出て、剣を振り上げた。
「テメェらの相手は、このオレ様だ!!!! キヒャヒャヒャヒャ!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……無事に、二チームは、ロザレナ、グレイレウスと接敵したか……」
ルキウスはそう言って、焚火の前に立ち、顎に手を当てて考え込む。
彼の手の中にある地図……そこには、三つの光る石が置かれていた。
その石は、ルキウスが控室で3人の衣服に引っかけたピン……発信器の魔道具の場所を示すものだった。
魔道具にある反応は、どれも動いていない。
すごい勢いでこちらへと向かって来ていたロザレナの反応は止まり、グレイレウスの反応も、同じ場所で光っている。
最後の一人、ルナティエも……野営しているのか、場所は変わらなかった。
「先ほどの遭遇者を狩り終えた後、あの3人には、ルナティエを狩りに行かせるとして……うん。この試験、既にほぼほぼ、僕の勝利といえるでしょう。能力なんて言ったけど、僕の力は全て魔道具頼りの張りぼて。早々にボロが出ない内に、第三次試験に行って――――退散するとしますか」
そう口にして、ルキウスは石を取り、地図を畳んだ。
――――――――――――――――その時だった。
「本来であれば、アルファルドが囮になって、貴方を孤立させる計画でしたけど……予想が異なりましたわね。ですが、構いませんわ。これで……大多数グループの指揮権は、崩壊する」
「は?」
ルキウスは背後を振り返る。
すると、そこには……この場にいるはずがない、ルナティエの姿があった。
「御機嫌よう、ルキウス・ブルシュトローム。偽りの……剣聖の孫」
「なっ……!? 何故、お前がここにいる!? ルナティエ!?」
「魔道具に足元を掬われましたわね。貴方がわたくしの衣服に仕掛けたアレなら、草原に捨ててきましたわ」
「まさか……!! こちらの動きが、最初から、分かっていたと……!?」
ルナティエは腰のレイピアを抜くと、ニコリと微笑みを浮かべた。
「さて。流石にアルファルドがあの3人を相手にするのは、無理がありますからね。早々に―――チェックを掛けさせていただきますわ。まったく、舐めないで欲しいものですわね。貴方たちごときが……わたくしたち箒星の門下生を倒せるとでも思っていたんですの? 笑わせてくれますわね」




