第37話 可能性
それから約十分後、礼治とフールの二人はフェンリルの獣人であるシルフィアをなんとか落ち着かせて勢いよく立ち上がる際に飛ばしてしまった椅子を戻してから座らせることができた。
「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。私はフェンリルの獣人で名前はシルフィアと申します」
シルフィアはやっと落ち着きを取り戻すと先ほどのことを謝罪してから自己紹介をした。
「やっと落ち着いてくれて助かりました。改めて自分は礼治と言います」
「私はフールと申します。よろしくお願いしますシルフィアさん」
彼女が落ち着いたことで改めて二人も自己紹介をした。
「こんな私にご丁寧に自己紹介して頂きありがとうございます。お二人は私を奴隷として買われるおつもりですか?でしたら私はゴミも同然ですので、できれば私ではない他の方を買われた方が良いかと思われます」
シルフィアは綺麗なお辞儀をした後、自分ではなく他の奴隷を買うことを二人に勧めてきた。
(コレはやっぱり何かあったな)
そのシルフィアの態度に礼治はそう確信した。
「シルフィアさん。俺は貴方を奴隷として買いたいんです。ただ、その前にシルフィアさんには大変お辛いでしょうが奴隷になった経緯を教えて頂けませんか?」
礼治のなかではシルフィアを買うことが決定事項であることを伝え、それを踏まえた上でシルフィアが如何して奴隷になったのかを尋ねる。
「私にはゴミの価値しかないのにそれでも私を奴隷としてお買いになるのですか?それに私が奴隷になった経緯などお聞かせしましても大したことはありませんよ?」
彼女の過去に何があったのか? シルフィアは先程から自分の価値を極端に低く批評していた。
「俺はそれでも知りたいんです。教えてくれませんかシルフィアさん」
礼治はそれでもシルフィアに奴隷になった経緯を尋ねる。
「そこまで仰るならわかりました。私が奴隷になった経緯をお話し致します」
その礼治の真剣な表情に対してシルフィアは渋々であるものの自分が奴隷になった経緯を話し始めた。
「まず最初に私はこの世界で東側にある主に獣人族が住む大陸『バウル大陸』のある山奥のフェンリルの獣人しか住んでいない村で産まれました」
シルフィアはまず初めに自分の故郷について話し始めた。
ちなみにこの世界は大きく分けて五つの大きな大陸から成り立っている。
主にヒューマン族が代表として治める『セトラ大陸』を中心に東に位置する獣人族が代表して治める『バウル大陸』、西に位置するエルフ族が代表として治める『パリンシャ大陸』、南に位置するドワーフ族が代表として治める『ドルガネス大陸』。そして北には今では他の種族と交流がない魔族が治める『デネビラ大陸』が存在する。
シルフィアは獣人族が治めるバウル大陸にある山奥の村から奴隷として売られたのだ。
「私が物心がついて暫くした頃、私の両親は村を襲ってきた魔獣に私を庇ったために殺され、私はその後は母方の祖母のところで育てられました」
シルフィアはそこで既に両親を亡くしていたことを話す。その話に礼治は自分と同じく親を亡くしていた事を知り、哀しい気持ちが込み上げてきたが我慢してシルフィアの話を聞き続ける。
「それで今から数週間前に十五歳になった私は最初の満月が登る夜に村で行われる儀式に参加しました」
「ある儀式ですか?」
フールはその儀式が気になり、シルフィアに尋ねる。この時、礼治もそのある儀式が気になっていた。
「はい。私たちフェンリルの獣人は十五歳になり最初に訪れる満月の夜にその儀式を受ける事が古くからのしきたりであり、その儀式を受けることで初めてフェンリルとしての力が自身に宿り、大人の仲間入りを果たします」
どうやらその儀式が俗に言う成人の儀であり、フェンリルの獣人はそこで初めて大人として認められるとのこと。
「儀式を受けた者は全員がフェンリル特有の力を身に宿し、身体能力が以前とは比べ物にならないほどに上がります。なので私もその儀式を受けました。…ウゥ……」
シルフィアは話を止め再び涙を流し始めた。
話を聞いていた二人は慌ててシルフィアに近づこうとしたがシルフィア自らが右掌を二人の方に向けてきたので二人ははシルフィアに従い椅子に座りなおした後、落ち着いたシルフィアは目から涙を流しながらも話を再開した。
「儀式を受けましたが私の身体には何も変化が起こりませんでした。十五歳で儀式を受けてフェンリルの力を宿せなかったのは過去に起こったことが一度もなかったらしく、『厄災だ‼︎』『祟りだ‼︎』『呪いだ‼︎』などと他の村人達が騒ぎ始め私は訳が分からないまま檻に入れられました。それから私は檻の中で過ごし、食事を運んでくる人以外とは誰とも会わない生活がしばらく続きました」
シルフィアはそう話していくうちに涙が流れる量が増してきた。
「檻に入れら数日が経った頃、食事の時間外に人が来ました。来た人は私の住む村の村長で檻を開けてくれました。その時私はやっと出れると安心して檻から出ました。しかし、突然お腹に強い衝撃が走り私はその場に倒れ込みました」
その時の彼女は突然の出来事に何も分からず、檻の鍵を開けてくれた村長の顔に目を向けた。
「倒れる時に村長と目があった時、村長は私をゴミとして見ている様な目をしていました」
シルフィアは過去の辛い体験を大量の涙を流しながら話続けた。
「そして気がついた時には私は奴隷として売られており、私はフェンリルの力が無かったから誰にも必要としてもらえないと分かったんです。そしてつい先日ここに連れてこられ今に至る訳です。…ウウ、ウワァ〜〜〜〜〜ン‼︎」
シルフィアは奴隷になった経緯を話し終えた途端、大声で叫びながら泣き始めた。
話を聞き終わった礼治はおもむろに席を立ち、泣き叫ぶシルフィアに近づき、頭を優しく撫でた。
「……エ⁇……」
シルフィアは礼治の突然の行動に訳が分からず泣くのを忘れてしまった。
「寂しかったよな…、両親や自分を守ってくれる人がいなくて。辛かったよな…、自分の中の一つの事しか見てもらえずにそれが失敗したら村人達から捨てられて」
親を亡くした悲しみを、自分の中の一つの価値しか認めてもらえなかった事に気づいた時の辛さを、礼治は身にしみて感じていた。
「如何して泣いていらっしゃるんですか?」
礼治はいつの間にか涙を流しており、シルフィアはそれを指摘してきた。
指摘された礼治は涙を自分の手で拭って、そこで改めてシルフィアを自分の奴隷としてではなく、家族として受け入れることを心の中で決意した。
そして礼治はシルフィアと真正面から向き合った。
「シルフィア。確証はあまり無いけどフェンリルの力を宿せる可能性はまだある」
「…ヘェ⁇⁇…」
シルフィアは礼治からいきなり呼び捨てにされ、更には突然の発言に驚き、頭が理解するのに追いつかずにいた。
「俺は相手のステータスを確認することができるスキルを持っている。それでシルフィアの称号欄のところに【フェンリル(未解放)】って載っていた。つまり、シルフィアはフェンリルの力を宿す手前の状況だと思う。どうすれば力を解放することができるか分からないけど、可能性はまだ充分に残っているんだ」
「…可能性ですか?…」
シルフィアに【ステータスチェック(自・相)】について説明してからシルフィアにはまだ可能性がある事を伝え、その事実にシルフィアは自身にはまだ可能性があると言われてから少しだが目に光が戻ってきていた。
「そう可能性だ!だから俺はシルフィアを家族として迎えたい!そしてシルフィアの力を解放する手助けをしたい!だからシルフィアは俺に着いて来てくれないか?」
礼治はシルフィアに自分の気持ちを包み隠さずに伝える。
「…私を奴隷としてでわなく家族として?…私の可能性に賭けて手助けをしてくれる?……」
シルフィアにとって礼治の言っている事は自分の失っていたもの全てをまた与えてくれると言っている様なものだった。
「ああそうだ。だからシルフィアは俺に着いて来てくれないかな?」
「ウワァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン‼︎‼︎」
シルフィアにもう一度尋ねた時、シルフィアは今日一番デカイ声で泣き始めた。
「シルフィアどうしたの⁉︎」
そんなシルフィアがまた泣き出したことで戸惑う礼治だった。
「…家族……力……欲しい」
シルフィアは泣きながら何か決心をした様子で言葉を喋っており礼治はシルフィアの喋っている言葉に耳を傾ける。
「私は家族が欲しい…力を手に入れるのを手助けして欲しい。だから私を買って下さい。お願いします」
シルフィアは泣きながらそう言って頭を下げていた。
礼治はシルフィアの気持ちを聞いた後、シルフィアに頭を上げさせ、その上でまた優しく頭を撫でる。
「今までよく頑張った。これからよろしくねシルフィア」
シルフィアによろしくと伝える。
「…ハ…ハイ…ウウ…ウワァ〜〜〜〜〜〜〜ン‼︎‼︎」
シルフィアは返事をした後でまた泣き出した。
その光景を端で見ていたフールも二人の側に寄り、フールはシルフィアの背中を優しく撫でる。
この光景はシルフィアが泣き止むまでずっと続いた。




