第35話 奴隷を買おう
「なあフール。本当に奴隷を買ってもいいのか?前はあんなに嫌がってたのに」
今、二人は東門に向かう大通りを歩いており、礼治が隣で彼に寄り添うように歩いているフールにそう尋ねた。
なぜ礼治がフールにそう尋ねたのかというと時間を数十分前まで遡る。
〜数十分前〜
「レイジ。あんたは奴隷を買うつもりはないか?」
エネドラは突然、礼治にそんな提案をしてきた。
「奴隷ですか?」
それに対して礼治はエネドラの突然の提案に驚き、鸚鵡返ししてしまった。
「そうだ。私の憶測が正しければフールも他の家族(使い魔)達と同じで頻度は違えど自分の帰る場所、つまりはこの世界とは別の場所に戻らないといけない時が必ずあるだろう?違うか?」
エネドラは昨日と同様、礼治のスキルである【タロットマジック】の大アルカナ達の決まりごとを、強いて言えばフールの近況報告係のことを言い当ててきた。
「その顔は当たっていると解釈していいんだね」
礼治はまた顔に出ていたらしく返答を待たずにエネドラから肯定と判断された。
「つまり、その時レイジは一人になる。まあ、その時は別の家族を呼べばいいんだろうが、なんらかの事情で呼べなかったことを想定してこれから奴隷を買うにあたって三つの利点を話をするぞ。まずは一つ目だ」
エネドラはそう言って右手を上げて人差し指を立てる。
「奴隷を買うことによって戦力の増加。フールがいない間はレイジのもしもの時のために護衛役となる」
エネドラは一つ目の戦力の増加の利点について言い終わると次に中指を立てる。
「次に二つ目は奴隷は主人の所有物。依頼を達成した時の報酬の分配時には数奴隷は数に入れずに済み、通常の配分よりも揉め事を起こさずに済む」
続いて報酬の取り分の利点について言い終わると最後に薬指を立る。
「最後の三つ目は命令を使うことで情報の漏れる心配がない。これらが奴隷を買うにあたっての利点だな。どうだ?買うか?」
エネドラは三つ目を言い終わると礼治に再び奴隷を買うかどうかを尋ねてきた。
「えっとですねギルドマスター。その〜……」
しかし、礼治は奴隷を買うことについてあることを気にしており、返答に困っていた。
「なんだ、ハッキリしないか。まさか奴隷を買うのに抵抗があるとか言うつもりじゃないだろうな。そう言う考えはこの世界では生きていけんぞ」
礼治のハッキリとしない態度にエネドラには奴隷を買うにあたっての罪悪感を持っているのだと思われ、この世界で生きていく上では甘い考えだと言い放たれた。
「いや、奴隷を買うのは前から考えてはいたんですがその、別の件でちょっと<チラ>……」
礼治はエネドラにそう返答しつつ、隣で静かに座っているフールに視線を向けた。
(前にボグレスさんと奴隷について話していた時にフールが機嫌を悪くしたからな。どうすればいいかな)
そう。礼治は前にあった奴隷に対するフールの態度が原因で奴隷を買ってもいいのかを悩んでいた。
「あの、礼治様」
どうすればいいか礼治が悩んでいると隣で黙っていたフールが声をかけてきた。
「やっぱりフールは奴隷を買うのは嫌か?」
声を掛けてきたフールに礼治そう質問した。
ここでフールが奴隷は嫌だと言うのであれば礼治はフールの気持ちを最優先にしてる奴隷を買わないつもりでいた。
「いえ、奴隷を買われた方が礼治様の護衛役のためですので是非買った方が宜しいかと思いますよ」
「…ヘェ…⁇」
しかし、帰ってきた返事は前回とは真逆の答えであり、礼治はこのことに驚きを隠せずに変な声を出してしまった。
〜〜〜
その後は奴隷を買うことに決まり、エネドラの部屋から出た二人は一階に降り、受付カウンターではちょうどミレアのところが空いたのでそこに行き、ミレアに書類を渡す。
二人の今回の報酬についての書類を受け取ったミレアは礼治の書類に書かれていた報酬の額に驚いていた。
「レイジ様ですからこの額で当たり前でしたね」
しかし、今回の討伐戦で大活躍だったのは礼治と大アルカナ達であることを話で知っていたミレアはすぐに落ち着きを取り戻し、事務作業を始める。
その際に二人はランク更新の為に渡していたギルドカードがFランクからEランクに昇格したことでランク表示がEからFに変わっていた。また、ゴブリン軍団討伐での報酬を受け取り、フリースペースについては後日ギルド職員が幾つかの場所を提案するのでその時にその中から場所を選ぶことになった。
そんなこんなでギルドを出たところで冒頭に戻る。
「はい。礼治様はとてもお優しく私達大アルカナを家族として見て下さいますので礼治様が買われる戦闘奴隷がもし女性であり、その女性を抱かれることになったとしてもその時は私も同じく礼治様は抱いてくれるという確信があります。なので心配はありません」
(なんか、俺が買う戦闘奴隷がすでに女性と決定されているがまあ、フールと一緒に住むから男性より女性の方がいいんだろうな)
「ありがとうなフール。もしもそんなことがあったとしてもフールは俺の大切なフールに変わりないからよろしく」
ここでフールの中ではハーレム決定になってしまっていることに俺がそんな軽く思われているのかとも少し落ち込みつつも、フールが前向きに考えてくれていることに感謝してこれからも大事にすると宣言した。
因みに二人が言っている『戦闘奴隷』とは主に冒険者や戦争で負けた国の兵士などの戦闘慣れしている者達が奴隷として堕ちた時には『戦闘奴隷』という項目で分けられており、他にも一般の家庭から借金の肩代わりとして売られた者が墜ちる『一般奴隷』、『一般奴隷』の中から性に関しての技術に長けた若い女性からなる『性奴隷』、窃盗や殺人、詐欺など、犯罪を犯した者達が堕ちる『犯罪奴隷』の大きく分けて四つある。
「そんな礼治様が私はだーい好きです♡」
フールは満面の笑みを浮かべ礼治の左腕に抱きつき、自身の豊満な胸を当てる。
そんなフールに対して礼治は笑顔を浮かべ、腕から感じる幸せな感触を堪能しながら目的の奴隷商へと向かった。
ギルドから歩くこと数十分後、俺とフールがイチャイチャしながら歩いているといつの間にか奴隷商の前に着いていた。
建物はギルドよりはやや小さいものの周りの建物と比べれば圧倒的に大きく、その建物は外見的に地球で言うラブホテルを思わせる造りであった。
礼治はその建物の造りに少し戸惑いながらも意を決して中へと入った。
建物の中は壁は黒をベースにしており、白で統一された椅子やテーブルなどの家具類が配置され、見た感じはそこまで悪くなかった。
二人はそのまま奥の受付へと向かう。
「いらっしゃいませお客様。本日は当店奴隷商『ボグレス』本店にどういった人財をお求めでしょうか」
受付カウンターには黒いスーツに身を包んだ二十代の男性が爽やかな営業スマイルで二人に対応していた。
「初めまして俺はEランク冒険者のレイジです。実は「えっ‼︎レイジ様でございますか⁉︎少々お待ちくださいませ!直ぐにオーナーを呼んできますんで‼︎」……」
礼治が自己紹介した後で今回の目的を伝えようとしたが、受付の男性は礼治の名前を聞いた瞬間、オーナーを呼んでくると慌てた様子で言い終わる前にその場を離れ、カウンターのすぐ側にある階段を駆け上っていった。
その男性の慌てように二人は唖然としながらもそこで待っていると数分も経たないうちに先程の受付の男性と見た目が優しそうな五十代の男性が階段から降りてやって来た。
「これはこれはレイジ様にフール様。お久し振りにございます。本日は当店にお越しいただき誠にありがとうございます。本日は本店取締役である私めがレイジ様の御要望にピッタリな人財を御紹介させていただきます」
その男性こそがこの店の取締役であり、奴隷商ボグレスの主人であるボグレス本人だ。
ボグレスは二人の近くに来るや否や頭を深く下げて挨拶をしてきた。
「お久し振りですボグレスさん。今日はボグレスさんがオススメする人財に期待させていただきますのでよろしくお願いします」
礼治は先程からボグレス達が奴隷のことを『人財』と呼んでいるのでその呼び方を真似して挨拶を返す。
「ホッホッホッホッホー。レイジ様はお若いのに本当に素晴らしいお方ですな。私めボグレスは早速レイジ様の御要望にお答えして素晴らしい人財を選抜させていただきますのでレイジ様の御要望をお教えくださいませ」
ボグレスは礼治の挨拶の仕方が相当嬉しかったらしく大笑いした後、真面目な顔で早速要望を尋る。
「そうですね。……戦闘経験があり近接攻撃を得意とした女性で種族は問いません。年齢はできれば十五歳前後。後はボグレスさんにお任せします」
礼治は自分とフールの戦い方や年が近い方が打ち解けやすいだろうと考慮した上で、前衛職のあまり今の自分と年が離れていない女性をボグレスに要望する。
「前衛として戦闘で直ぐに活躍ができ、女性で十五歳前後で種族は問わない。後は私の判断にお任せですか…」
礼治の要望にボグレスは少し考え込む。
「これは私の此の道三十年の経験と知恵が試されるお題ですな。奴隷商人として恥をかかぬよう必ずやレイジ様の御要望にお答えする人財を選抜してきますので少々お待ちくださいませ」
時間にして数秒後、商人魂に火がついたボグレスは言い終わると直ぐに先程降りて来た階段を駆け上っていってしまった。
その場に残された礼治とフールはボグレスの動きに驚き、しばらくその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
その後は受付の男性に案内されるまま椅子に座ると直ぐにお茶が出されたのでお気遣いなくと礼治が男性にそう言ったところ。
「オーナーからはお二人には最善のおもてなしをするよう承っておりますのでどうぞごゆっくりお待ちくださいませ」
と返されてしまい二人は受付の男性にお礼を言ってからお茶を飲みながらボグレスが戻ってくるのを待つ。
それから約三十分後。自身が保有している自慢の奴隷の中から選りすぐりの人財を選抜し終えたのだろう、達成感溢れる表情でボグレスが階段から降りて来た。
「大変お待たせしましたレイジ様、フール様。それではレイジ様の御要望にお答し、尚且つ私の此の道三十年の知恵と勘を活かして選抜した人財を御紹介しますのでどうぞこちらへ」
やる気に満ち溢れているボグレスの後を追って三階のある部屋まで案内された二人がその部屋へと入ると中には十人以上の様々な容姿の黒い金属製の首輪を嵌めた女性達が横一列に綺麗に整列していた。
「今回は十四人の人財を選抜させていただきました。今から一人ずつ順番に紹介していきますので、もしこの中で気に入られた人財がおられましたら個人でお話ができるようにお部屋を用意させていただきます」
それからボグレスは右から順番に紹介を始めた。
礼治はボグレスが紹介する奴隷をスキルの【ステータスチェック(自・相)】を使ってステータスを確認しながらボグレスの説明に耳を傾ける。
「最初に紹介します彼女の名前はマリアンナ。年は17歳でレイジ様と同じヒューマン族であり職業は戦士。片手剣と盾を使いますので攻守はお手の物です」
最初に紹介された女性は礼治と同じ背丈で百七十ちょいであり、赤色のボーイッシュな髪型で鍛えられた肉体と褐色の肌が特徴的であり、礼治の彼女に対してボディービルダーのようだと思っていた。
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マリアンナ (17) ♀ ヒューマン族
レベル:11
職業:奴隷 (戦士)
所有者:ボグレス(仮)
筋力:216 (106+110)
体力:207 (137+70)
耐性:255 (195+60)
敏捷:105(85+20)
魔力:42
魔耐:65
運 :24
ー称号ー
戦闘奴隷
ースキルー
剣術
盾術
筋力強化:11
体力強化:7
耐性強化:6
敏速強化:2
ー特有スキルー
ステータスチェック(自)
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そして【ステータスチェック(自・相)】で確認できた彼女のステータスを見る限り、生粋の前衛と言えよう。またオーナー直々の紹介とだけあって一人目からかなりステータスが高い者が紹介されたので礼治は他の奴隷達にも期待ができると考えた。
ー称号ー
戦闘奴隷
戦闘に長ける者が奴隷として堕ちた時に与えられる称号
(主人となった者には絶対服従)
奴隷堕ちすると称号に奴隷が追加され、他の称号と違いステータス強化はなく、このような類の称号には種類があり、中にはステータスを下げてしまう称号もある。
それからも奴隷の紹介は次々と進み、年齢は上が20から下は15まで、見た目はもちろんのこと種族や職業が様々であり、色々な奴隷が紹介される中で礼治は一人一人のステータスを確認していく。
そして十一番目の女性のステータスを確認した時、その女性を見た瞬間、礼治の中で衝撃が走る。
礼治が見つめる女性はステータスもスキルも他の女性と変わりはあまり無い。
礼治が彼女に目を付けたのはステータスでは無く彼女自身の目であった。
彼女の目は光りを失っており、あの目にそっくりだった。
父親から逃げ出し誰も信じることの出来なかった時に鏡で見た昔の自分自身の目に。




