第30話 勝利の宴 【前編】
宴が始まり冒険者達が酒を呑みどんちゃん騒ぎしている中、礼治は酒を飲まずにフルーツジュースを飲んで大アルカナ達と食事を楽しんでいた。
この世界では十五歳で成人であり、酒を飲んでも良いが礼治があえて飲まないのは単純に酒が好きではないからだ。別に飲めないのではなく味が好みではないだけで飲めと言われれば飲めるが、自分からは飲もうとしない。
「サタン。ちょっといいか?」
そんななか礼治は左隣で酒を飲むサタンに声をかける。
「どうしたんだレイジの兄貴」
「さっきフールと何の話をしてたんだ?」
「レイジの兄貴が受付嬢と話してた時か?別に大したことじゃねえがどうしてだ?」
礼治の質問に質問で返したきたサタン。
「いや、なんかフールの周りへの対応が急に変わったというか。随分と周りとのコミュニケーションを取ろうとしているからちょっとな」
礼治はそう言ってフールの方を見る。
フールはギルド職員のマリーや他の受付嬢達、他にも戦いに参加していた女性の冒険者達と楽しく会話をしていたのだ。
「前のフールはだいたい俺の後ろにいて、俺や大アルカナ達以外とは自分から話そうとしていなかった。だけど今のフールは周りに対しても積極的になったと思うんだ」
フールが礼治を通してではなく、フール自身から他人と会話をして楽しそうにしている姿に何故か安心を抱いていた。
「それに俺がマリーさんと話し終わってからすぐ後に今度はフールの方からマリーさんに声をかけに行った時は正直驚いたんだ」
「成る程な。つまり、レイジの兄貴は俺がフールの姐御と何かを話してそれがきっかけでフールの姐御が変わったと言いたいんだな」
サタンは礼治の話を聞いた後で礼治が何を聞きたいのかを理解した。
「俺はただフールの姐御には自信を持てって言っただけだ。別に大したことは言ってねえよ」
「それでもフールはいい方向に変わったんだ。サタンには感謝してるんだ。ありがとな」
サタンがそう言うも、礼治はフールの行動の変化が嬉しくてサタンに感謝をした。
「俺らは家族なんだろ?俺は家族のためにそうしただけで別に礼はいらないから気にすんな」
感謝をされたサタンはそう言いながらもどこか照れ臭そうにして酒を飲む。
「それもそうだな。じゃあこれからも家族としてよろしくなサタン」
礼治はそう言いながらジュースの入ったグラスを持ち上げてからサタンに向けた。
「おう。これからもよろしくなレイジの兄貴」
<カラン>
サタンも礼治にそう言うと酒の入ったグラスを持ち上げてから二人は乾杯をした。
その後もサタンと会話をしているとそこにトランとクロとシロがやってきた。
「ねえねえレイジ兄、向こうにあるレッドピッグのハンバーグがとっても美味しかったよ、だから一緒に食べようよ」
「ハンバーグよりアースフィッシュのフライが美味かったぞ。レイジ兄さん一緒にフライを食べに行こうぜ」
「何を言ってんのよ二人とも。とポテジャのサラダが美味しかったじゃない。一緒にサラダを食べに行こうよレイジ兄さん」
三人はそれぞれがオススメの料理を勧めてきた。
因みにアースフィッシュは名前の通り土の中を泳ぐ魚の魔獣で鱗は硬くて軽いため防具の素材として使われ身は脂が乗っており焼くもよし揚げるもよしといういいとこ揃いの魚の魔獣であり、ポテジャとは地球のジャガイモに似た芋であり、此方でもよく料理に用いられる食材である。
「ハンバーグ!」
「フライ!」
「サラダ!」
三人は互いにオススメする食べ物を言い合っていた。
「三人ともそんなことで喧嘩はすんな」
礼治は三人の喧嘩を止めに入った。
「三人がオススメしてくれたもの全部美味しそうだから順番に食べに行こうかな?」
「じゃあハンバーグは向こうだよレイジ兄」
「「フライ(サラダ)はあっち(こっち)」」
そう言った途端、礼治から見てトランは右を指し、クロは正面、シロは左を指差した。
「じゃあ先ずはトランがオススメするハンバーグから食べに行こうか。その後はクロのオススメするフライを食べて、最後にシロがオススメするサラダを食べに行くかな」
俺は三人に反時計回りで食べに行くのを提案する。
「わーい。じゃあレイジ兄、早速行こう行こう」
「「レイジ兄さんの提案なら仕方ないな(ね)」」
その提案にトランは喜び、クロとシロは仕方ないと承諾してくれた。
「じゃあサタン、ちょっと行ってくる」
「おう。俺はここで一人で酒を楽しんどくぜ」
「レイジ兄、早く早く」
サタンにそう告げた礼治はトランを筆頭にクロとシロから腕を引っ張られてその場を後にした。
サタンは礼治を見送った後、しばらく一人で酒を飲んでいると一人の男がサタンのもとへとやってきた。
「少しいいか?」
「んぁ? あんたは確か俺達と同じ突撃部隊に参加してた…」
「Aランク冒険者パーティー『グリフォンの翼』の一人で戦士のパスケスだ。隣いいか?」
「別にいいぜ」
サタンはロイドと同じメンバーであるパスケスに返答してから自分の右隣の席を指差した。
「それじゃあ失礼して」
パスケスはサタンが指差した席に座り、手に持っていたジョッキに入っている麦芽酒を飲んだ。
「それで?強者のあんたが俺になんの用だ?」
サタンは自分の隣に座るパスケスに視線だけを向けて尋ねた。
ここでサタンがパスケスのことを強者と呼んだのはAランク冒険者パーティーの一人としての強者のオーラを纏っていたからだ。
「俺なんかリーダーに比べりゃあ大したことは無えよ。用件はあんたんとこの主人にちょっとばかし興味があってな」
「礼治の兄貴にか?だったら何故俺にだ?本人に直接聴けばイイだろ?」
「あの状況で邪魔はできねえよ」
「?…ああ、なるほど」
パスケスが話しながらある方向に視線を向け、サタンもその視線の先に目を向けるとパスケスが言いたいことが理解できた。
二人の視線の先には礼治が子供達三人に勧められた料理を食べながら楽しそうに喋っていたからだ。
「あれは確かに邪魔はできねえな」
「だろ?あんな空間を邪魔するとしたらウチの脳筋馬鹿のリーダーくらいだぜ」
「アハハハ!なんだよそれ!」
パスケスの言葉に笑い声をあげるサタン。しかし、一通り笑い終えると今度はパスケスの方に目を向ける。
「そんで?レイジの兄貴の何が知りたい?言っておくが家族が不利になる話はしねえぞ」
サタンの表情は先程からあまり変わってはいないものの、その目は相手の考えを探るような目であった。
「それぐらいは命を張って戦う者として十分承知だ。俺が知りたいのはアイツが何者かについてだ」
パスケスはそのまま話を続ける。
「アイツからはウチのリーダーに似た強者のオーラを感じる。まだまだ若い奴がだぜ?普通に考えておかしいだろ」
元神であるフールからチートのような力を授かっている礼治から異様な何かをパスケスは感じるのであろう。
「なんだよそれ?レイジの兄貴は化け物かなんかか?」
「少なくとも将来はそうなるだろうと俺は考えてる」
「あっそう」
サタンはパスケスの言葉に素っ気ない返事をすると自分の手に持つグラスに残っている酒を一気に飲み干す。
「あんたに言えることはただ一つ。レイジの兄貴は家族思いで困っている奴には自分の身を犠牲にしてでも絶対に助けの手を差し伸べる。俺らにとって自慢の主で家族の一人だ」
礼治と会ってまだ二日も立っていないサタンであるが、フールから礼治の過去を聞いて、自分の主人がどんな人物かを知っているサタンが自信を持って言えることだった。
「良い主人だな」
「当たり前だ」
パスケスの言葉にさも同然と答える。
「そう言うあんたのリーダーはどうなんだよ?」
「さっきも言ったが、ただの脳筋馬鹿だぞ?」
「クハハハ!聴いてたらますます面白そうだから話せよ!」
その後二人は酒を飲みながら互いに自分の仲間についての自慢話や愚痴を話し、何処か似た者同士な二人は男の仲を深めていくのであった。
明日の投稿はお休みします。




