第20話 戦う理由
「報告します!初心の森の奥を散策していた冒険者が森の奥でゴブリンの群れを発見し此方の街に向かって移動しているということです!そしてゴブリンの数は500体を超えているとのことです‼︎」
そのギルド職員はとんでもない報告をした。
「500以上だと‼︎そんな数の魔獣がどこに隠れていた⁉︎」
エネドラが通常では考えられない敵の数に大声を上げた。
「現在原因不明です。更に報告によりますとタダの下位種のゴブリンに紛れてゴブリン中位種のゴブリンナイト、ゴブリンマジシャン、ゴブリンアーチャー、がそれぞれ50体ずつ。ゴブリン上位種のゴブリンジェネラル、ゴブリンヒーラーが30体ずつ。そしてその大軍を指揮する者がゴブリン特異種のゴブリンキングだそうです‼︎森を抜けて南門に辿り着くまでには約二時間掛かるそうです‼︎」
「上位種の他にも特異種だと‼︎直ちに警備兵団長をここに呼べ‼︎後、街にいるDランク以上の冒険者を全てギルド前の広場に集めろ‼︎それからギルド職員には戦闘で使う回復薬と魔力薬を有りったけ準備しろ‼︎医療道具も忘れるな‼︎それと最悪な事態に備えて街の住人を全て避難させろ‼︎急げ‼︎‼︎」
「はい‼︎‼︎」
エネドラの的確な指示を受けた職員はすぐにこの場を去り、他の職員達に指示を伝えに行った。
「ギルドマスター、俺からお願いがあります」
部屋に残っていた礼治は予期せぬ事態に厳しい表情を作るエネドラに声をかける。
「なんだ?私は今からしないといけないことが沢山あるんだが‼︎」
「俺もこの戦いに参戦させて下さい‼︎」
「⁈」
エネドラは礼治の申し出に驚きを示す。
暫くの間その場は沈黙していたがその沈黙は我に返ったエネドラ自身により、すぐに破られた。
「君は私の話を聞いていなかったのか?この戦いに出るのはDランク以上の冒険者だけだ!まだFランクのしかも昨日冒険者になったばかりの冒険者が何をできる‼︎」
エネドラは殺気のこもった目で礼治を睨む。
その殺気は誰もが恐れるほどのものであったが、礼治はこれに一歩もひるまずに話を続ける。
「俺には少なくともDランクの冒険者を簡単に倒せる力があらます。それにフールや大アルカナという|使い魔≪家族≫がいます‼︎」
「幾ら力が有ったとしても私は君の力を知らないから許可は出さん‼︎」
礼治とエネドラは互いに一歩も引かず、睨み合いながら激しい口論を続ける。
「ギルドマスター。あなたが昔会った異世界人はこの状況を一人で何処まで覆すことができますか?」
「今はそをなもの関係無いだろ!だが、仮に答えるとするならば時間は掛かるが一人で殲滅させれる力を持っていた」
エネドラの返答に礼治は一瞬、自分以上の化け物の存在に驚くがすぐに気持ちを持ち直す。
「なら俺にはその人までとは言いませんが異世界人としての力はあります!信じてください‼︎」
「だから君とあいつは関係無いと言っているだろう‼︎同じことを何回も言わせるな‼︎‼︎」
エネドラは先程とは比べ物にならないほどの殺気を放つも礼治はそれに臆することなく続ける。
「ではギルドマスターが知っている異世界人は今と同じ状況にあったとして、Fランクだからという理由だけで諦める人なんですか⁉︎」
礼治はこの時確信があった。
何故かと言われれば本人ですら分からないと言うだろうが、エネドラが知るその異世界人は必ず一人ででも戦場に出ていたとなぜか確信していたのだ。
「あいつはそんな事は死んでもやらない‼︎自分の命を懸けて戦場に単独で乗り込み腕が無くなろうが、足が引き千切られようが、命のある限り戦い街を守る奴だ‼︎」
礼治の確信は当たっており、礼治の知らない異世界人は一人だけでも戦場に向かったらしい。
「なら俺もその人と同じように戦場に出ます。それでもダメなら単独で敵陣に乗り込みます‼︎」
礼治の言葉にエネドラは苦虫を噛み潰した様な表情で礼治を睨みつける。しかし、一歩も引こうとしない礼治の姿勢にエネドラはあるものを感じていた。
「わかった‼︎好きにしろ!その代わりギルド前の広場で待っていろ!いいな‼︎」
しばらくして先に折れたのはエネドラであり、特例として礼治の参加に許可を出した。
「はい‼︎ギルドマスターありがとうございます‼︎失礼します‼︎」
許可が下りた礼治は返事をした後に御礼をし、ギルド前の広場に向かうために部屋を去り、その後を会話に混ざれなかったフールも礼治の後を追って部屋を出た。
部屋に一人だけ残ったエネドラはソファーに座りなおしてから警備兵団長のジグトが来るまでの間、自分が過去に出会った異世界人の事を思い出すのであった。
〜〜〜
「待ってください礼治様!」
ギルマスであるエネドラの部屋を出てから一階に向かうために階段を一人で降りていた礼治は急いで降りてくるフールの呼びかけに足を止める。
「はぁ…はぁ…。やっと、追いつきました」
「ごめんフール。急がせてしまったみたいで」
「いえ、それは構わないのですが。一体どうされたのですか?」
息を整えたフールに一言侘びを入れる礼治に対しフールは先程の礼治の行動に疑問を抱いていた。
「礼治様は何故この戦いに参加できるようギルドマスターに許可を得たのですか?私は礼治様の行動に正直に言って不思議でなりません」
フールの言うことは正しく、二人は本来であれば避難する側の筈が礼治は自分から敢えて戦場に参加をしたのにフールは動揺していた。
「いや、なんて言うかね…」
礼治がフールの疑問に答えようとしたその時だった。
「回復薬持ってきたぞ!何処に置けばいい‼︎」
「それは向こうだ!急いで割るんじゃねえぞ‼︎」
「おい!医療道具が足りないぞ‼︎早く持ってこい‼︎」
階段を降りながら話していた二人はいつのまにかギルドの一階についており、そこではギルド職員達が慌ただしく戦いに必要な回復薬や魔力薬、それから医療道具の包帯やガーゼなどを準備をしていた。
因みにこの世界での回復薬は容器が理科室に置いてある丸底フラスコで、中身は緑色で向こう側が透けて見えるサラッとした液体が入っており、魔力薬は回復薬の赤バージョンである。
二人はギルド職員達の準備の邪魔にならないようにギルドの外へ出ようとしたその時だった。
「レイジ様、フール様‼︎」
突然二人を呼ぶ声がしたので後ろに振り返るとそこにはマリーが何かの荷物を持って立っていた。
マリーは急いで荷物を一箇所に集められている場所に置き二人の側に走ってやって来た。
「レイジ様にフール様。最近この街に来たばかりで避難場所を知りませんよね。今から教えますので直ぐにそちらへ向かってください」
マリーはそう言って制服のポケットからこの街の地図を取り出して二人に緊急時の避難場所へのルートを教えようとした。
「あの、マリーさん?俺達も戦いに参加するのでルートを教え無くても大丈夫ですよ?」
「へぇ……?」
マリーは礼治の言葉に取り出した地図を床に落として変な声を上げた。
「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」
そしてギルド全体に響き渡るほどの驚き声を上げた。
「一体何を言っているんですかレイジ様!レイジ様はフール様と共にFランクであって戦闘要請条件から外れておられるんですよ‼︎⁉︎」
「ええそうですよね。だからギルドマスターにお願いして戦場に出る許可を得ましたよ?なので俺も参加します」
「なんで許可が出たんですか⁉︎レイジ様とフール様は冒険者になられたのは昨日なんですよ‼︎それなのになぜ自分から危険な道を自ら選んでらっしゃるんですかニャ‼︎」
あまりの動揺に取り乱したマリーは口癖であろう語尾に『ニャ』っと付けながら礼治に詰め寄る。
「マリーさん。俺は死なないで戻ってきますんで、落ち着いてください」
礼治は興奮しているマリーを落ち着かせるように優しく声をかける。
「ニャンでそんなことが言えるんですかニャ⁉︎戦いは何があるかわからないんですニャ!私はこのギルドの受付嬢として一年が経ちますニャ。その間、ギルドの冒険者の方々が依頼の途中でお亡くなりになったという報告を数えられニャいほど受けましたニャ‼︎」
落ち着かせるつもりが返って火に油を注いでしまい、先程よりも興奮させてしまった。
「中にはよく話したことのある方や、お亡くなりになる前に今度一緒に買い物に行こうと約束した冒険者の方など沢山いて、その報告を受ける毎に私はニャンでこの仕事をしているのだろうと思ってしまい、何度も仕事を辞めて実家に帰ろうと思いましたニャ」
冒険者は危険が隣り合わせの仕事であり、死人が出るのは当たり前であるこの世界では待つ側である人にはとても辛いことなんだろう。
母親を病気で亡くした礼治にもこの気持ちが痛いほどわかる。
「だけど私が仕事を辞めないのは冒険者の皆さんが依頼を無事に達成して帰ってこられた時に笑顔で迎えてあげたいからですニャ‼︎だから私は悲しい時も頑張って笑顔をつくって皆さんに元気になってもらうために頑張っているんですニャ‼︎」
マリーは自身の気持ちの高ぶりに途中から涙を流し始めた。
「それなのにどうしてレイジ様はわざわざ危険な道を選ぶんですかニャ‼︎⁉︎ニャアァーーーーン!」
マリーはフールと同じ質問をした後、ついに今の自分の気持ちに耐えきれずその場に崩れ落ち泣き始めた。
そんな状況に礼治は周りを見渡すと他のギルド職員達もマリーと同じ気持ちであるらしく、涙を流す者が多くいた。
礼治は再度前を向き、目の前で泣き続けるマリーと同じ目線になる様に腰を下ろした後、マリーの頭に手を乗せた。
「レ、レイジ様⁈」
マリーはいきなりの礼治の行動に驚き、顔を真っ赤に染めた後、恥ずかしさの余り俯いてしまう。
「マリーさん。俺がこの戦いに参加した理由はこの街に住むマリーさんを含める沢山の人達を守りたいからです」
「私達を守るためですかニャ……?」
礼治の言葉にマリーは顔を上げ礼治と目線があってからそう言葉を発した。
「はい。俺はこの街に来てまだ三日も経っていません。ですが、俺にはマリーさんやギルド職員の皆さん。今、俺達がお世話になっている『夕暮れの日差し亭』と言う宿屋を経営しているラルファさん達家族や奴隷を道具として扱わずにこの街一番の奴隷商に上り詰めたボグレスさん、それから大きな夢を叶えるために頑張っている武器商人のニグリスさんや従業員さん達。また、クロという黒猫を本当の息子のように育てているタルシャさんとクロの猫一家達といった色々な人々や猫一家とこの街で会いました」
礼治はこの街に訪れてからの短い期間の間で自分が出会った人々や猫一家の事について話した後立ち上がる。
「他には会ったことはありませんがこの街には優しい人々やその家族や友人や恋人など大切な存在である人々を俺は自分の力で守っていきたいんです。だから皆さんは俺達の帰りを信じて待っていてください!必ず帰ってきますから!」
礼治はそう言い放ち背後にいたフールを連れてギルドの出入口へと向かった。
マリーを含む達ギルド職員達はただ二人を見送った。
「そうだよ。冒険者達は俺達のために戦ってくれるんだ」
そして二人がギルドを出て暫くすると一人のギルド職員がそう呟いた。
「俺らには大事な家族がいる、友人がいる、仲間がいる」
「でも私達には力がない。だから冒険者や警備兵に頼るしかない」
「だからこそギルド職員である自分達がサポートをして少しでも冒険者が無事に帰ってきてくれるように頑張る」
「そして無事に帰ってきてくれた冒険者を私達は笑顔で迎える」
「そうやって俺らは支え合って生きている」
ギルド職員一人一人が自身の役割を再確認していた。
「俺らがくよくよしてたら冒険者達が困ってしまうよな。ヨッシャー‼︎みんな、俺たちが頑張って冒険者全員が帰ってこれるように完璧な準備をした後、冒険者全員が無事に帰ってきたら笑顔で迎えて、腹一杯メシを食ってもらえるよう頑張っぞ‼︎‼︎」
「「「「おーーーー‼︎‼︎‼︎」」」」
ギルド職員達は掛け声を上げた後、今までストップしていた自分達の作業に取り組み始める。
そして膝をついて泣いていたマリーも立ち上がり、流した涙を拭った後、気合いを入れるため自分の頰を思いっきり叩き、腫れた顔で自分の仕事を取り組んだ。
冒険者達が一人でも多く帰って来てくれるように強く願いを込めながら。
〜〜〜
「礼治様は本当に優しいお方ですね」
ギルドを出た礼治に後ろからフールは納得した顔で礼治を褒めた。
「大切な人が亡くなるのは誰でも辛いからね」
礼治は後ろを振り返り、落ち着いた表情をフールに向ける。
「でしたら私達も大事な礼治様を守るために全力で頑張らせて頂きます」
「うん。よろしくねフール」
「はい!」
礼治は満面の笑みを浮かべたフールと共な戦いに参加するために集まったであろう、武器や防具を身に纏った冒険者の集団のいる一角に向かって足を運ぶのであった。




