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其之五|第七章|浮かび上がるアジト

 目が覚めたのは深夜三時だった。


 ここ数日のゴタゴタで疲れていた。

 昨日は早めに寝たからか変な時間に目が覚めてしまったのだろう。


 窓の外は真っ暗で、外から聞こえる虫の声と風の音だけが俺の部屋を包んでいた。


 そう言えば、あの変態魔法少女おばさん…。ベッドのマットレスの下に隠してあった俺のヘソクリだけをゴッソリと持って行ったらしい。


 他の場所に隠してあるお金に関しては手がつけられていなかった。

 俺の金だと理解して遠慮なく俺のヘソクリだけを全部持って行ったのだろう。


 金額としてはそんなに多くないが、一緒に隠してあったエロ本が本棚にジャンル別で並べてあると言う地味な精神攻撃の方が俺にとってはキツかった。


 まったく。どこのお母さんだよって感じだ。


 目を覚ました俺は変態魔法少女おばさんの余計なお世話に頭を痛めつつ、彼女の残したメモを睨みつけていた。


 どこかで見たような場所なのだが、何度見ても思い出せない。


 添えられたウサちゃんのイラストが上手だという事を考えると、下手くそな地図は意図的に書かれたものなのだと考えられる。


 油性ペンの極細の方で書かれたと思われる細かく書き込まれたウサちゃんのカワイイ表情が深夜に起きてしまった俺をイラっとさせる。


 暗号と言っていたが、それを解読する為の方法やヒントなどは書かれていない。


 このウサちゃんが何かのヒントなのだろうか?

 そう考えながらぼんやりを眺めるしか俺には出来なかった。


「はぁ。分からん。コレで何をどう探せと言うんだ…。」


 魔法で灯した明かりを消して、ロウソクに火をつける。

 いわゆる、アロマキャンドルと言うヤツだ。


 いつだったか「ハルトさんは変な所で肩にチカラが入るんですから、たまにはこう言うのでリラックスしなくちゃですよ!」と、言ってプレゼントしてくれた物。


 今まで大事にしまっていたが、妙子ちゃんが居なくなってから使う事になるとは思ってもいなかった。


 ロウソクに火をつけるとラベンダーのような花の香りが徐々に部屋に広がる。

 確かに少しリラックス出来るような気がした。


 メモをロウソクの光に照らしながらヒントは無いかと隅々まで見てみたが、やはり何のヒントも書かれてはいなかった。


 ゆらゆらと燃えるロウソクの灯りが俺を照らす。


「そう言えば、油性ペンで書かれているよな…。」


 ふと、些細な事が気になった。


 当たり前の様に、書かれたイラストや文字を見ていた。

 だが、よく考えるとこれは油性ペンで書かれたモノだ。


 当然ながら、この世界には油性ペンなど無い。

 普通に受け入れてしまっていたが、よく考えればこの世界には無い物だ。


 だが、ここに書かれた文字は明らかに油性ペンで書かれた文字だった。


 この事から、あの変態魔法少女おばさんが俺達の住んでいた世界から来た可能性が浮上する。もしくは、それに類似する世界だろうか。とにかく、油性ペンが有る世界から来た可能性は高い。


 つまり、魔王を追って俺達の世界に来た魔法少女ユーフィリアである可能性も…。

 違ったとしても関係者である可能性が高いだろう。


 女神達の話によるとマナの少ない元の世界は有る種の特異性や独自性を持って、他の世界とが違う方向に発展していると言う話だ。本当にコレが油性ペンを使った筆跡なのかは確認してみないと分からないが、油性ペンの様な物が開発される世界は俺達が住んでいた世界だけと言っても良いくらいの希少な世界だと、女神達の話からも推測ができる。


 書かれた文字を消えない様にするなら魔術などを使って加工すれば良いだけ。

 俺達の世界以外で油性ペンなんて物が開発される可能性は低いと言ってもいい。


 そして、油性ペンで書く意味。

 紙はメモ用に買ってある普通の紙だ。


 元の世界のノートやコピー紙の様に上質とは言えないが植物繊維を()いて乾燥させた物で、この世界の公文書などで使う羊皮紙や金属プレートなどではない。


 さすがに条約や記念碑などに使われる金属プレートは置いてないが、頑丈で役所からの命令書など簡単に破れては困るような書簡によく使われる羊皮紙は うちの店でもスクロールを作るために大量にストックしてある。リビングの隅にヒッソリと置かれた普通の紙よりも目に入ると言っても良いだろう。


 単に元の世界の習慣で紙を探し求めた可能性も有るが、あの変態魔法少女おばさんはこの世界についての知識を熟知している感じがした。


 データベースと言っていたな。

 それはニナが言っていた神々のデータベースならニナ達が行ったように、この世界の常識や知識についてダウンロードしていてもおかしくない。


 と、言う事は、この世界で羊皮紙が未だにメジャーな筆記具だと言う事も知っているはずだ。油性ペンで書くなら羊皮紙で事足りる。


 つまり、紙である必要があったと言う事だ。


 油性ペンを使うと言う事は消えると困ると言う事だ。

 いや。元の世界から持ってきた油性ペンを習慣として使った可能性もある。

 だけど、メモの横に置いてあるインクのペンでは不都合だった可能性は高い。


 そして、紙だ。

 消えると言う可能性を考慮したなら羊皮紙の方が便利だと言って良い。

 油性ペンで羊皮紙に書いたなら破れる事も少ないし、水に濡れたとしても消える事も無ければ、普通の紙の様に破れる事もないだろう。


 俺なら油性ペンが有ったなら、油性ペンで羊皮紙に書く。


 わざわざ、紙に書く理由とは…。


 あぁ…。とても嫌な予測が頭を過る。


 俺は部屋に置かれた水入れと変態魔法少女おばさんのメモを持って地下の工房に降りた。


 あそこにはバットが有る。

 バットと言っても粉砕する方のバットじゃない。

 バットを持ってこいと言われて野球などで使う方のバットを持って行くと頭を殴られて首がもげてしまうから注意するべきだ。


 ここで言うバットとは平たい容器の事。

 プラスチックではなく素材は木を使用している。

 魔術アイテムを試作する時には便利なアイテムの一つだ。


 バットに水を張り、そこに変態魔法少女おばさんのメモを浮かべた。


 崩れ落ちる。

 俺はひざから崩れ落ちた。


「お前らオバさんは…。どんだけあぶり出しが好きなんだよ…。」


 あぶり出しと言っても火で炙るあぶり出しではない。

 師匠が送って寄こした手紙の様なシンプルなあぶり出しではない。


 ミョウバンの水溶液やら、除光液の水溶液やらで文字を書いて、水に浮かべると浸透圧の違いから文字が浮かび上がる水を使ったあぶり出しだ。


 ミョウバンなら火であぶっても文字が浮かび上がるだろうが、除光液なら引火する可能性を考えて、水に浸してみたが…。本当に想像通りだったとは…。


 思わず「小学生か!!!」と叫びそうになったがグッと堪えた。


 グッと堪えて俺はあぶり出しと言う面倒な手法にも関わらず細かく書かれた地図を写し取り、現実逃避の為に豪華な朝食を作ることにした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ほほぉ。あの変態め。やりおるわ。水に浸して文字が浮かび上がるあぶり出しとは。正体不明の変態じゃが天晴じゃ!ハルト!後でその方法を私にも教えるさね!」


 師匠が口いっぱいに詰め込んだ「千切り野菜とサーモンのマリネを挟んだサンドイッチ」を飲み込むと戯言を吐いた。


 師匠の生きた元の世界の時代にはコレ(・・)が無かったのか、感心しながら関心は黒木の潜伏先ではなく、水を使ったあぶり出しの仕組みに向いているようだ。


 思わず師匠に「どんだけあぶり出しが好きなんだよ!」 と、叫びそうになるが、深呼吸をして冷静さを取り戻し、食卓に残りのメニューを並べながら本題に戻そうと師匠に話しかけた。


 ちなみに、今日の朝食は

 ・千切り野菜とサーモンのマリネを挟んだサンドイッチ

 ・プチトマトのふわふわオムレツ

 ・厚切りベーコンとひよこ豆のスープ

 ・アボカドとレタスのシーザーサラダ

 ・オレンジピールを添えたちょこっとチョコケーキ

 で、ある。


「水を使ったあぶり出しの方法は問題を解決してから教えますから。問題は浮かび上がった地図です。どう考えても…。」


 俺がそこで言葉を区切ったのには理由が有った。


「うむ。どう考えてもこの街の周辺の地図じゃな。この辺りじゃと牛が放牧されている牧草地の辺りじゃろう?この周辺には何か有ったかの?」


 師匠から見てもこの地図が、この街の周辺を含む地図であると言う事を確認してもらうためだ。


 まさかこんな近くに潜伏しているとは思っていなかったから、俺としてもこの情報の信憑性には半信半疑だった。ゆえに師匠にも確認してもらったのだが、問題としてはそこ(・・)(・・)が有るかだった。


「地上は普通の牧草地です。ただ、その真下辺りにはルルデビルズを始めとする一定クラス以上のダンジョン建設作業員が暮らす寮が有りますね。彼ら以外の侵入者を防ぐために特殊な結界を張っているので、ほわいとておふぃるす號での捜索の際には、ダンジョンの魔物を封じる為に結界を張ってると言って異常なフィールドを探す為の探索範囲から除外させた範囲内ですよ。除外していなくとも結果は同じだったかも知れませんが、探索範囲から除外しているんだから手がかりすら見つからないワケです。 まあ、この情報を全て信じるならですけど。」


 つまり、俺達の足元に俺が張った結界を利用して黒木が潜伏している可能性が有ると言う情報を、にわかには信じたくなかったワケだ。


「なるほどな。じゃが、情報を総合して考えると合点は行く。地下十階にニナが現れた時には、単に黒木はニナと関わり合いたくないだけかと思っておったが、我らから距離を取って周辺の地形をサーチして緊急避難先を探しておったなら手際良く消えたのも納得さね。数千年前に黒木が使っていたアジトが今も健在とは限らんし、この街の近くに都合よくアジトが有るとも思えん。長距離移動するとなれば追いつかれる可能性も有れば、偽装を施したとしても自ずと移動の痕跡が残る可能性は高い。だとしたら、結界付きで適度な空間が拓けているルルデビルズ達の寮は都合の良い緊急避難先とも言える。黒木の潜伏先に関しては何の手がかりも無い状態じゃ。この情報の信憑性は置いておくとして、どちらにしても確認はせんといかんじゃろうな。」


 師匠の言葉に俺は頷いた。

 元からそのつもりだったからだ。

 多分、俺も師匠もこの地図を見た時から答えは決まっていただろう。

 言葉に出してお互いの考えを合致させると言う確認作業。


 魔法使いと言えど、ニナやニコの様に思考をリンクさせる事が出来ないのだから確認を取らずに行動しては必ず齟齬が発生する。確認をしてもお互いの考えに齟齬が起こりうるのだから最低限の手順だった。


「なるほどね。それに私達も同行して構わないのかしら?」


 俺達の確認作業が終わったタイミングでどこからかニコの声が響く。


 突然と響いた声にドキっとして辺りを見回すとリビングの端で多次元位相空間から顔を半分覗かせているニコを見つけた。仕組みが分かっているとは言え、何も無いように見える空間からニョキっと顔が半分だけ浮いている様子は実に気味が悪い。


 こう言うのがイヤで昨日の夜に地下の工房を使って良いと言ったのだが、どうやら女神達はリビングに多次元位相空間を形成したようだ。


「驚かすなよ…。同行してもらうつもりだったから問題ないが、今の状態の方が問題だ。顔だけ覗かせてないで話に加わるなら外に出てこいよ。気持ち悪い…。」


 俺がそう言うとニナは顔を真赤に染めて、多次元位相空間に顔を引っ込めた。


「起きたばかりで寝巻きのままなの!察しなさいよ!ニコを起こして準備するから、そっちも私達の分の朝食を用意して待ってなさい!呼んだら中に持ってきてよね!」


 と、ニナが多次元位相空間から俺達に聞こえるように叫ぶと、顔を覗かせていた辺りにドアが現れた。


 元から女神達の分も朝食を作ってたし、泊めると許可したのも俺だし、自由にやってくれて構わないのだが、パースを無視して大きなドアを人の家の(かど)に出現させるのは止めて欲しい。ドアが壁やら家具に埋まってるし…。この事からもドアが投影されたイメージなのだと言うのは分かるのだが、合ってないサイズのドアがソコに有ると言う不自然さが気持ち悪い。


 文句を言っても聞かないだろうから、不自然なドアは見ないようにして素直に女神達の朝食を準備し始める事にした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 女神達の朝食の準備を終えて五十分くらい経った頃だろうか。「入って良いぞー」と、先に多次元位相空間の中に入っていた師匠の気の抜けた声がリビングに響いた。


 俺は「分かりました。料理を仕上げたら中に入ります。」と告げると、オムレツを作り始め、同時にスープを温め直し、出来上がった朝食セットをプレートに乗せると女神達の作った多次元位相空間に向かった。


 部屋(・・)のドアを開けると生ぬるい湿った空気が外に漏れ出してくる。


 シャワーでも浴びていたのだろうか。

 女神達の部屋にはフローラルっぽい香りが漂っていた。


 女性の身支度(みじたく)の割には早いなと思いながら女神達と師匠が集まっているテーブルに朝食をセッティングする。あまりジックリと見ても失礼だと思いながらも目の端で師匠の説明を受けている女神達を確認してみたが、五十分でシャワーを済ませたにしては、身支度がバッチリされていた。もしかしたら、この空間は(・・)よりも時間の流れが遅いのかも知れない。


「なるほどねー。そう言う事なら可能性は高いかも知れないわね。手がかりは他に無いワケだし、調べない理由はないわ。」


 ニコの髪を()かしながら、師匠の説明を聞き終わったばかりのニナが自分の見解を声に出して納得してみせる。


 俺達に対して理解したと言う意思表示なのだろう。


 そして、並べられた料理に目を移すと瞳をキラキラさせながら「じゃあ、少し失礼して食事を頂くわね。」と断わり、手を合わせ「いただきます。(「イタダキマース!」)」を言ってニナとニコが朝食を食べ始めた。


 俺が部屋に入ってきた時には、説明も一区切りと言うタイミングだったらしい。

 彼女達が食事を終えるまでは俺達も小休止と言うワケだ。


「しかし、アレね。昨日の夜も思ったけど料理が上手なのね。」


 フォークでオムレツのトマトに卵を(まと)わせて口の中に入れると感心したように俺の料理を褒めた。俺達を待たせているのに罪悪感を感じたのか、朝食を用意した俺に対する感謝の言葉なのかは分からないが、ニナからのフリに俺も付き合って言葉を返す事にした。まだ、親しいとは言い難い女神達について理解出来るかも知れないと思ったからだ。


「女神にお褒め頂けるとは光栄だな。手間は掛かるが、見た目よりは簡単で手抜きに近いだけに恐縮してしまう。本当はもっと豪華な朝食を用意するつもりだったんだが、途中で飽きてしまって後半に仕込んだのは間違いなく手抜きだぞ。」


 と、ありのままを話した。

 ニンジンやセロリなどを千切りにしてマリネを作った辺りまではノリノリだったのだが、夜が明け始めた頃に「俺は睡眠も取らずに何をしているのだろう…。」と、我に返ってからは、お湯にベーコンとひよこ豆と妙子ちゃんが作り置きしていたスープの素をブチ込んでスープっぽい物を作ったり、適当にちぎったレタスにカットしたアボカドを乗せて、これまた作り置きのドレッシングを用意しておいたり、オムレツに至ってはプチトマトをカットして食べる直前に焼き上げただけだ。ケーキも作り置きにオレンジの皮をすりおろして掛けただけ。多少の金は取れそうだが王城で出される料理とは比べ物にならない。


「まあ、そうなんだろうけど。塩加減とか絶妙だし、何よりも温かいまま料理を出そうと言う心遣いも嬉しいわ。本人にその気は無くとも丁度良い味付けや気配りが自然と出来るって言う事は料理が上手いと言う事だと思うわよ。人が褒めてるんだから額面通りに受け取っておけばいーのよ。」


 と、言い終わると右手に持ったフォークをこちらにビシっと向ける。

 お行儀が悪い事 この上ないのだが、そんな気取らない姿が面白くもあった。


 もしかしたら、この世界の人々がマナーをあまり気にしないのは、この女神の影響かも知れない。王族や貴族となると話が変わってくるが、一般的には食事の前のお祈り以外のマナーは無いに等しい。日々の糧と作ってくれた者と、それをもたらした神に感謝して美味い物を美味いうちに美味しく頂く。それだけが食事に関するルールだと言ってもいいだろう。


 この世界の庶民の様にマナーを気にする事もなく美味しそうに料理を平らげてくれるニナとニコを見ていると、何となく昔の出来事を思い出した。


「そう言えば黒木にも同じ様な事を言われた事が有るな。料理の上手さは気配りだって。俺に料理を教えたのは黒木なんだが、『技術や分量は覚えるしかない。経験として覚え、分量を間違えなければ味自体は同じ様な物を作れる。そこからの差は、どれだけ相手を思いやれるかだ。』って言ってたのを思い出したよ。」


 そう。そんな事を言っていた黒木だからこそ、黒木に裏切られた俺は自殺に至るまで追い詰められたのだ。最大限に俺の弱い部分を狙って(思いやって)、最大限に絶望(料理)させられた俺は。


「ふーん。あのパパがね…。」


 と、言うとニナは興味なさげにそっぽを向いた。


 だが、フォークでサラダのアボカドを弄びながら こちらを伺い、落ち着かない様子のニナは、俺から黒木の話をもっと聞きたいらしいと態度で示しているようにも見えた。俺としてはこの話を広げるつもりは無かったのだが、もう少しあちらの世界での黒木について話す事にした。


「俺の親は俺の事を正面から見てくれない親でな。父親は基本的に俺の事など見ていなかった。面倒な事は母に押し付け俺に関わろうとせずに学校の成績など結果だけを見て激高するだけの存在。母親は母親でそんな父の顔色を伺っては俺の為と言って叱責する。今になって思えば子供との関わり方が分からなかっただけなのかも知れないが、俺にとっては自分の立場や外からの見え方しか気にしない最悪の親だった。そんな俺も色々な経験と挫折を経て人生の目標を見つけ、社会人として生活する事になる。そんな時に出会ったのが黒木だ。」


 黒木の名が出た所でニナが一瞬身を震わせたのが分かった。


 相変わらずそっぽを向き弄んでいたサラダを口に入れて平静を装っているが、耳だけは俺の声に集中しているのは見て取れたので話を続ける。


「良い友人だったよ。親友だった。黒木に出会う前に居た表面上の友人関係を装い、お互いの腹の探り合い、相手を出し抜く事しか考えない様な友人(・・・・)とは全く違っていた。いつの間にか人の懐に入り込み、自然と距離を縮めて、本音で話せて、誰よりも真剣で、信頼に足る人物だった。それがあの世界で魔力を集めるための手段だったとしても。どっちの黒木が本当の黒きなのかは分からないが、あの時までは本当に良い友人だった。今なら分からなくもない。魔法使いとして生きるようになって知ったよ。人間が無駄に発するエネルギーは希望(・・・)を得た時よりも絶望(・・・・)した時の方が強い事を。」


 ここまで話した所で言葉を区切った。

 何と言うかニナが素直じゃなくてイラっとしたからだ。

 黒木の話には興味を示していると言うのに、素直に聞こうとはしない。


 自分の子供だったら可愛く思うのかも知れないが、妙子ちゃんを誘拐されて落ち込んでいた俺に「誰かに願う前に自分で行動なさい」と言ったニコの態度かと思うと頭が痛くなる。人には大きな事を言っておいて自分は実践できていないのだ。こんな事で黒木と対峙した時に素直に話せるのだろうか。


 正直、このまま放っておけば黒木は自分が最初に居た世界に戻る。ヤツの言葉を信じるなら妙子ちゃんも無事に戻ってくるだろう。俺達が居た世界で行った様に魔力を集める必要がこの世界では無いのだから黒木が妙子ちゃんを傷つける必要はない。ヤツの手元に妙子ちゃんを置いておくのは不安だし不愉快だ。一刻も早く妙子ちゃんを連れ戻したいのが本音ではあるが、冷静になった今となっては時を待つのも一つの手だとも思える。連れ去られ一人で不安だろう妙子ちゃんの気持ちを考えると心配だけど。だが、最悪の場合でも双月月食の日には問題は解決するだろう。俺としても黒木に文句の一つも言いたい所だが、このまま何もしなくとも魔王(・・・)の驚異は去り、この世界も新たな道を歩みだす。まあ、これまでの話を総合すると魔王の驚異など無かったのだろう。この世界はただの親子喧嘩に巻き込まれただけだ。


 だからこそ、問題なのはニナやニコの気持ちだった。


 黒木を見つけて顔を合わせた所で、今の様に素直になれずに天の邪鬼な態度を取られては、黒木を探す意味が無い。俺の立場だけで物を言うと妙子ちゃんさえ連れ戻せられるならそれで良い。だが、この数日で多少なりとも彼女達の気持ちを知った。そして、この子達がどう思っているかは知らないが親しくなった俺としては問題が解決しないとしても黒木と本音で話して欲しいと思っている。黒木も彼女達の気持ちを分かった上で行動しているのかも知れないが、それを正面から受け止める義務は有る。それは親としての義務だ。だが、それも彼女達が。特にニナが素直に話せなければ意味が無い。


 そう考えた俺は一芝居打つ事にした。


「ただ、そうだったとしても俺なら出来ないな。人を信頼させて親しくなって、その信頼を裏切り叩き潰すして絶望させて魔力を得ようなんて。本当に黒木は最悪だ。追い詰められて自殺と言う最悪の選択をした俺が言うんだから間違いない。それを何千年も魔力を集める為だけにやってきたんだろ? 狂ってるよ。何千人?何万人? 人を騙して裏切って。魔力を得るための材料として人を利用してきたんだ。まともじゃない! お前たちが黒木を魔王に仕立て上げて、俺達の世界に封印したのも分かる。あんなまともじゃないヤツは魔力の薄い世界にでも追いやらないと、持て余した魔力で何を仕出かすか分からないよな。お前達の判断は正解だったよ。お蔭で俺達の世界では多くの人間が数えられないくらい黒木の犠牲になったのだろうが、魔力の豊かな世界で悪事を企むよりは犠牲も少なかっただろうさ。悪魔も裸足で逃げ出すくらいに残虐非道な黒木を封じ込めるには他に方法が無かったんだろ? 仕方がなかった。魔法使いになった今なら分かるよ。まあ、お蔭で俺もこの世界に来られて、元の世界には無かった生き方を選べたんだ。お前達には感謝しないとな。ありがとうよ!」


 と、分かりやすい煽りを入れる。


 狙いとしては大好きなパパ(黒木)を侮辱されて、頭にきたニナが心の奥底に封じ込めている気持ちを吐露してくれればと思っての発言だ。彼女達の内心など既に聞いている俺達に対してすら、黒木の名前をちょっと出したしたくらいで気持ちとは逆行した態度を取られては、先が思いやられるってもんだ。


 俺の話を聞き終えたニナは、立ち上がり大きく拳を振り上げた。


 狙い通り!の、行動をニナが取ったのはここまで。

 一呼吸置くと振り上げた拳を下げて椅子に座り直した。


 そして。


「はぁ…。悪かったわね。変な気を使わせて。でも、あんたもあんたで回りくどいのよ。私も最初からパパの話を聞きたいって態度を取れば良かったんだろうけどさ。長々と煽られなくても、普通に「聞きたいならちゃんと聞け」って言ってくれれば態度くらい改めるわよ。意図は分かるけど。そう言う所があんたってアレよね。私の素直な感情を引き出す為の方法として選んだのが煽りって…。あんたもそう言う所を改めないと、あの娘と所帯を持ったとしても早々に愛想を尽かされるわよ?」


 と、言う反撃を受けた…。

 冷静な反撃に師匠もニコも笑いを噛み殺し、肩をプルプル震わせている。

 俺は俺で顔真っ赤だ。怒っているワケではなくて恥ずかしさで。

 しかも、いつのまにか俺の呼び方が「あんた」呼ばわりになっている。


 確かに煽ってニナの素直な気持ちを爆発させようとしたのは、俺としても「どうなんだろう?」とは思わなくもなかったが、イラっとしていた俺としては他の選択肢は無かった。冷静に考えてみると普通に諭せば良かっただけなのだが、今の段階で感情を爆発させておいた方が、後々で感情的にならずに済むのではないかと思ったのも確かなので間違っていたとも思えない。


 いや。それも言い訳か。ニナの行動からも黒木に対する感情は一定の区切りを付けられている。今回は俺が彼女の態度にイラっとして、彼女の内心を見誤っただけだったと言える。


「まあ、そのなんだな。もう一回くらい感情を爆発させておけば安心だと思ったんだが、その必要も無かったようだな。悪かったよ。」


 お互いがお互い噛み合っていなかったと言う所を落とし所とした。そんな俺の様子を見てニナは「そう言う事にしといてあげるわよ。」と、言うと、フフフッと無邪気に笑ってみせた。


 それを確認した師匠が呆れた顔で話に割って入った。


「さて、茶番劇も終わった事じゃし、あの女が書き記した公式の検証と、スクロールへの落とし込みをさっさと終わらせてしまうさね。最悪、妙子なら放置しておいても何とかするじゃろうが、さすがに何十日も黒木と二人っきりでは息も詰まるじゃろう。女神達(お前達)が、我らの居た世界での黒木の話を晴人に聞きたいと言う気持ちも分からなくもないが、取り敢えず作業を進めながらにしてもらおうか?」


 師匠の声に俺もニナもニコも頷く。

 無駄話(黒木の話)をしている余裕が無いワケではない。

 今はまだ焦る時間では無いから、それくらいの話をしてやるくらいの余裕はある。

 だが、時間が有ると言っても黒木の側で何が起こっているのかを確認する術はないのだ。

 無駄話をするとしても、出来る事は同時並行で行っておくべきだと言う師匠の意見に異論は無かった。


 師匠が言う様に妙子ちゃんなら上手く黒木を誘導出来るかも知れないが、あくまでも期待であって妙子ちゃんとの連携が取れているワケではない。そんな状況に妙子ちゃんをいつまでも置いておくのは俺としても不安だった。


 師匠の忠告に従い、俺達は時間を有用に使うべく地下の工房に移動して妙子ちゃんを救うべく行動を開始した。


 他には手がかりはなく、それが変態魔法少女おばさんの思惑だとしても動くしか俺達には選択肢が無かった。

どうも。となりの新兵ちゃんです。


そう言えば、前回の投稿であとがきを書きませんでしたが、純粋に忘れてました。

無くても良いけど習慣的に書いているだけなのでアレなんですけど、無かったら無かったで寂しい感じですね。まあ、いらん部分なんですけど。


と、言う事で。物語を〆る作業ってのを人生で初めて(と、言って良いくらい)行っているワケですが。


難しいです。


終わり方は決めているんですけど、そこまでの道のりが上手く書けない感じです。

いや。これまでも上手く書けた事なんてないですけど。


先週、アップ出来なかったみたいな事がこれからも有るかも知れませんが出来るだけ土曜か日曜には上げられるように頑張ってみたいと思います。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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