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其之五|第六章|薔薇の熟女

 今の俺達に打つ手は無かった。


 王女アイリス肝入の対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦『ほわいとておふぃるす號』の機能を持ってしても黒木の居場所を掴むための手がかりにもならなかったのだ。


 奥の手として投入した女神達の増幅した力を持ってしても結果は得られなかった。


 今の所、俺達にはどうにもできない。お手上げ状態だ。


「アイリスや。アレは無駄にデカイ以外は良い船じゃ。望んでいた結果が出なかったと言って、いつまでも落ち込んでいるのではないぞ。逆に今回試した方法以外の手段で黒木はこの世界のどこかに潜伏しておると言うヒントは得られた。ワシらは残された時間で黒木の発想に辿り着きヤツを見つけだせば良い。最悪の場合でも双月日食の日には黒木はオモテへ出てこなければいけないのじゃ。否が応でも最終日には見つけられると言う事じゃ。その時にあの無駄にデカイ戦艦をフル活用すれば良いだけの話じゃろ?」


 師匠は帰り支度をしながらアイリスに優しく諭した。

 その言葉に彼女は力なく笑顔を浮かべるだけだった。

 本人も全くの無駄では無かったと分かっているのだと思う。

 ただ、やはり悔しいと言う気持ちは簡単には拭えないのだろう。

 時折、ため息をついては表情を暗くしていた。


「とりあえず。俺達は家に戻る。最初の出現地点や街の周辺などを捜索してみて手がかりが見つからないか再確認してみるよ。何も無いだろうから過度に期待されても困るが。師匠にはさっきの話の通り、黒木の発想にたどり着いてもらう。過去の文献や論文などを洗い直してもらって、黒木が潜伏するのに使っていそうな魔法やそれに通じそうな技術など見落としていないか再検討してもらいます。俺達が見落としてたり思い込みで可能性を排除している可能性も有るからな。実は簡単な方法で身近に潜んでるなんて事が有っては目も当てられない。何か手がかりが無いかを探してもらうよ。アイリスやリンダさんは広域捜索を続けてくれ。細かな事でも良いから何か不審な情報とか入ったら何でも伝えてくれれば良い。いつでも動けるようにはしておく。」


 そう告げると俺達は王城を後に…。

 しようとしたのだが。何か余計なモノが付いて来ようとしていた。


「なあ?お前ら何で一緒に来ようとしてるんだ?」


 俺はシレっと付いてこようとしているニナの前に立ちはだかり問いただした。


「あら。お構いなく。ここに居ても仕方ないのは私達も同じだから一緒に行くわ。」


「イクノジャー!」


 どうやら、二人は俺の家に押しかける気でいるようだ。

 面倒臭いにも程がある。


「あのなぁー。俺の家に付いてきた所で狭い一般家屋なんだから王城のようにお前たちを持て成すことも出来ないぞ?便所だって狭いし王城と比べれば綺麗でもない。食事だって王城の様に提供する事は出来ない。お前たちを泊める部屋だって無い状態だ。それにお前達のその姿が維持出来るのは王都周辺だからじゃなかったのか?ゲル状になったお前たちを連れて街を歩くとかご勘弁願いたいのだが?」


 と、遠回しに「面倒臭い」と言ってやったのだが、俺の言葉など聞く気が無いようだ。目をランランとさせて反論してきた。


「ご心配なく!こっちで活動する分の栄養(エネルギー)は貯蔵済みだし、ワードサーチを切ったおかげで、いざとなれば地上で神威を思う存分振るえるだけの力を供給するシステムの再起動も行えたわ。部屋が無いってならあなたの家に多次元位相空間でも構築してしまえば内部のカスタマイズは思いのままだし部屋の心配は無いわよ。それに家が狭いって言う事はすぐに集まれるって事でしょ?良いじゃない!素晴らしいわ!何か有ればすぐに集まれるって大事よね!!だだっ広いだけで緊急招集時にもすぐに集まれず、集まったとしても数時間前に無駄と無能を晒したこの子達(王家の連中)だけじゃ意味が無いじゃない?私達が貴方達の家に滞在した方が何かあった時には有用だと思うわ。それに食事の心配なら無用よ!なんて言ったかしら?ほら。タエコが用意してくれたお菓子のお店の…。」


「・・・。グランクランか?」


「そう!そのグランクランのお菓子!!タエコとは再会してから改めて一緒に行くとして、取りあえずはあなたが案内してくれれば食事(供物)はそれで良いわよ!!ニコ!!そのお店のバナナケーキが最高なのよ!!一緒に行こうねー♪」


「バナナケーキ!!マジカ!!イクー!!」


 それか…。

 どうやら、お気に入りのお菓子を求めて俺の家に来たいと…。そう言う事らしい。

 何やかんやと理由を付けているが、本命はグランクランのお菓子なんだそうだ。


 何となく付いてくると言っていただけっぽかったニコも、ニナが気に入ったバナナケーキを目当てに本気で俺の家に来たいと言い始めた…。


 仕方がない。面倒だがニナが言っていた様に「何かあった際」には俺達の側に女神達が居た方が王城で腐らせているよりは有用だろう。


「わかった。俺の家への滞在は許可しよう。ただ、自分の身の回りの事は自分でしてくれ。子供じゃないんだから。まあ、食事の世話くらいはしてやる。ただし!三食グランクランのお菓子だけだけどな!!!」


「神キターーーーーー!!(・∀・)」

「カミキターーーーー!!(・∀・)」


 渋々、承諾した俺としては嫌味のつもりで三食お菓子だと言ったのだが、無駄に喜ばせてしまったようだ。ってか、神はお前たちだろうが…。


 かくして、女神達の俺の家へ滞在がなし崩し的に決定したのだった。


「あっ!それから!私達は女神なんだからトイレとかには行かないんだからね!」


 うん。実に面倒臭い。

 俺がトイレがどうこう言っていたのを気にしてたのか、昭和のアイドルの様な事を言いだしたニナを置いて帰りたい気持ちになったがイチイチ反応するのも面倒臭い。


「じゃあ、俺達は街に帰るから。こっちの事は頼んだよ。」


 と、ニナを無視してアイリス王女に告げると俺達は街への帰路についた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「んーーーー!!やっぱ、自分の街は落ち着くなーーーー!!」


 ニナさんが大きな背伸びをしながら、旅行帰りのおばさんの様な感想を漏らす。

 その気持ちは分からんでもないし、一種の儀式の様なモノだが、口に出してしまうと一気に老け込んで見えるから発言には注意して欲しい。


 と、俺が思っている事と同じ事をニコさんも考えていたのか、ニナさんを見つめながら困った様な顔をすると俺に近づいて話し始めた。


「ニナもあの通りだし。私達も一旦は家に戻るわ。ここから先は私達に出来る事なんて無いと思うけど、何か出来ることが有ったら協力するから。遠慮なんてしないで言って頂戴。ハルトさんは自分だけで抱え込んでしまう所が有るから。何も出来なくとも愚痴を聞く事くらいは出来るんだからね。そう言う相手が居るって事は忘れないで。」


 ニコさんなりの気遣い。


 本当は今も妙子ちゃんが心配なのだろう。

 だけど、それを表に出さずに俺を励ましてくれる。


 本当は自分で妹の様に思っている妙子ちゃんを助けたいのだろう。

 だけど、自分の領分ではないと自分の力量を図って、俺に託してくれる。


 その気持ちがありがたかった。


 俺を心配させないように「危ない事はしないから!」と言いつつも、いざという時には俺を支えてくれると言っている。


 そんな、ニコさんの言葉が嬉しかった。


「じゃあ。早速ですが。この駄女神達をグランクランに案内してやって下さい。俺へのツケにしてもらって良いんで。一応、客人を迎える家主としては何日か空けた家に、そのまま上げるワケにもいかないですし。買い物に行って家に帰ったら簡単にでも掃除もしないとですしね。一応、簡単な歓迎会と言うか夕食を用意しようと思ってるのでキリがついたらニコさん達もご飯食べにきてくださいよ。」


 俺が感謝の気持ちを込めて早速ニコさんを頼る。

 そして、そのお願いに笑顔で応じてくれた。


「お安い御用よ!って、でも。グランクランに行くなら私達も食べると思うから夕食は遠慮させてもらう事になりそうだわ。」


 と、また別の困った顔をしながら。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 夕飯の買い物を終え、街から家に向かう頃には夕焼け空から星空に変わっていた。


 女神達と一緒にグランクランに行くものだとばかり思っていた師匠が珍しく買い物に付いてくると言うので荷物持ちでも手伝ってくれるのかと思っていたら、自分用のお酒を買い込み、大事そうに「それだけ」を抱えて上機嫌で家路を急いでいた。


 あんな事があった後でも平常運転なのは心強いが、俺のツケで大量に「純米大吟醸 迷宮」を買い込むのは止めて欲しい…。


 米から造る酒と言うのはこの世界ではこの街が初めてで、この街の名物になればと俺が提案してから数年。やっと去年から増産体制が整ってきたばかりと言う事もあって希少なため良い値段がするのだ。出来れば自分のお金で買って欲しいものだ…。


 そんな事を考えながら師匠の嬉しそうな後ろ姿を追っていると師匠が家の近くで立ち止まった。


「師匠。どうかし…」


 ましたか?と聞こうとしたのを止めて声を潜め、近くの茂みに身を隠した。


「どうやら、お客さんのようじゃな。」


 うちの家は店も兼ねている。

 留守を良い事に窃盗を行うと言う者は少なからずいる。


 この街で俺の店に侵入しようと言う物好きは少ないはずなのだが、防犯対策として家を空けている間は侵入者の対策として結界やトラップを発動しているのだが…。


 トラップは発動していないものの結界が破られていた。

 結界が元通りの様に見える様に偽装はされているが認識コードが微妙に違っている。

 それにいち早く気がついた師匠が足を止めたと言うワケだ。


 正体不明の来客に緊張が走る。


「黒木でしょうか…。」


「だったら、話が早いのじゃがな…。」


 確かに。黒木ならば話が早い。

 俺達にも丁度会いたい用事ってのが有る。

 文句の一つや二つと言わず言いたい事は山程有るのだから。


 だが、黒木ならこんなミスを犯すだろうか。

 ヤツなら結界を破った後、痕跡も残さずに結界を修復出来るのではないだろうか。

 いや。結界を破る必要すらないかも知れない。


 仮にも黒木は元管理者?元神?だ。

 それくらいの事はやってのけるだけの実力を持っている。

 これが黒木の仕業だと言うには、あまりにも雑な仕事だった。


「まあ、何者でも良いわ。座標指定してテレポーターで一網打尽にしてくれようぞ。ハルト。壁の中に埋まるでないぞ?」


「まさか。自分の家で壁の中とか笑えないですよ。」


 軽いジョークを交わし、いざ突入しようとした。


 その時だった。


 ルルルルラー♪ルラー♪ルラー♪ルルルラー♪


 辺りに軽快な音楽が周囲に鳴り響いた…。


「「はぁ!?」」


 唖然とする俺と師匠。

 だって、そうだろうが?シンと静まり返った闇夜にいきなり音楽が流れ出すなんて。

 しかも、それは明らかに侵入者の仕業としか思えない。


 そして、屋根の上には何者かのシルエット。

 って、どう考えてもさっきの音楽って登場のテーマって事か??


 自分から登場しますよって知らせるバカがどこにいる!?


「貴様!何奴!!!」


 師匠が叫ぶ!

 って!師匠!それでは俺達が悪者フラグ!!


 師匠の言葉と時を同じくして雲間が晴れて月光が辺りを照らす。

 屋根に立つシルエットにも月明かりが照らされて徐々にその姿を映し出した。


 そこに立っていたのは魔法少女!!


 ・・・・・・?


「魔法…少女…なのか?少女と言うには随分と…。」


 そう。随分とムチムチのボディに似合わないヒラヒラの魔法少女服。


 全体的に白色で統一され、半袖の袖口やスカートのヒラヒラの部分などにはピンクのレースがあしらわれている。


 顔には何とか仮面やらビーナスちゃんやらっぽいマスク…。


 そして、服の上下はセパレート。


 おへそが丸出し。お腹回りの部分は太り過ぎとは言えないものの、お腹の肉がミニスカートに乗っかっている。そのミニスカートから伸びるニーハイにも、これまた太ももの肉がむっちりと乗っていた。


 少女と言うにはあまりにも無理があり、一部のマニア向け企画モノのアダルトビデオの様な姿に俺達は何も言えず見ているしかなかった。


 あまりもの光景に唖然としていると、魔法少女っぽい何者かが口を開いた。


「なるほど。あなたが新戸晴人。データベースの通りで頼り無さそうな感じね。」


 あぁ…。何という事でしょう。

 初対面の変態に開口一番で「頼りない」と言われるとか。

 何という屈辱だろうか。

 頼りないのは認めよう。

 確かに俺は頼りないかも知れない。

 実際、妙子ちゃんを連れ去られ今も実感している。


 だが、初対面のコスプレ熟女に言われる事ではない!!!!!


 売り言葉に買い言葉で俺は…


「魔法少女のコスプレで人の家の屋根に登って随分な言いようだな!!自分の年齢を考えてからコスプレしろよ!!どうみてもお前三十路はとうに過ぎてるだろ!?って、言うか人様の家の屋根で何してるんだ!?変態プレイは家に帰ってやれ!野外でするな!!他所様の迷惑になるだろうが!?お子様が見たらどうするんだよ!!」


 と、言ってはならない事を言ってしまった。

 後に死ぬほど後悔する事になるとは…。

 その時の俺は知らずに…。


「なにぃ!?確かに四十過ぎの子持ちだけどね!私だって…私だってこんな格好…ぼそぼそぼそ」


 俺の言葉にダメージを受けたのか魔法少女らしき何者かがブツブツとつぶやきながらプルプルと身を打ち震えさせる。


 何やら地雷を踏み抜いてしまった感が有るが、横に居た悪魔の様な顔をした使い魔らしき何かになだめられ、気を取り直したのか再び俺を睨み話しだした。


「言ってくれるわね!こっちはアナタの情報を把握しているのよ!異世界からの訪問者!新戸晴人!!予言してあげるわ!あなたは近い将来、私に頭を下げて平謝りする事になるんだからね!そうなった時に泣いて謝っても許してあげないんだからね!」


 だからね!とか言われても…。


 派手に登場したかと思ったら、自分が好き好んで着ている衣装が似合ってないと指摘されただけで、プルプル身を震わせる様な人間に誰が頭を下げると言うのだろうか。


 そんなどうでも良い話をする為に結界を破って俺の家に侵入したとでも言うのか?


 この遣り取りの不毛さにウンザリした俺は話を促すため表面上落ち着いて見せて、話を聞き出すことにした。


「それで。うちに何か御用でしょうか。その格好は見無かった事にしますから。本題をお願いします。俺の事を知ってるとか、このタイミングで出てきたのには理由が有るんじゃないんですか? このままじゃ、見ず知らずの俺達にコスプレ姿を見せびらかしに来た事情通(じじょうつう)の変態ですよ。用事が無いなら無いで結構ですけど。用事が無いなら通報とかしませんから、とっととお帰り下さい。この後、客が来るんで夕食の準備をしないといけないんですよ。お早めにお帰り下さい。今すぐ帰って下さい。」


 うん。出来るだけ冷静に言ったつもりだったが、言葉の端々に棘が有るのは仕方ないだろう。なんせ同年代の変態に開口一番で頼りないとか言われたからな。気にしてないけど気分の悪さは継続しているのだから仕方がない。


 変態魔法少女おばさんは、またしてもプルプルと身を震わせてブツブツと何か言いたそうだったが、使い魔っぽい何かに諭され深呼吸をすると、俺の足元に何かを投げつけてきた。


「「薔薇!?」」


 突然、投げられて地面に突き刺さった薔薇を見て俺と師匠は声を裏返らせ叫んだ。


 そう。薔薇である。

 どうしよう…。その格好。その仮面で薔薇を投げて寄越すか…。

 設定が散らかりすぎていて何から何を突っ込んで良いのか分からない。

 敢えて言うならどんだけ昭和なのかと…。


 百年前近く前からこの世界で暮らしている師匠は別の意味で驚いているが、俺から言わせると、詰め込みすぎで何をどうしたいのか分からなすぎる。


 思わず驚きの声を上げてしまったのも仕方がないだろう…。


 だが、俺の困惑をよそに変態魔法少女おばさんは薔薇が上手く刺さって嬉しいのか、満足そうにニヤニヤと笑うと、こう言い残して去っていった。


「フッ。貴方の無礼は借りたお金でチャラにしてあげるわ!お金を貸してくれたお礼に情報をあげる!あなたはその場所を探してみなさい!そこに魔王が潜んでいるわ!あなたがデータ通りの実力を持っているなら、その暗号を解いて妙子を救い出せるはずよ!アデュー!」


「ちょっ!!おま!!金ってなんだ!!金って!!!やっぱ泥棒か!?ってか何で妙子ちゃんの事を知ってる!?それにアデューって!!アデューって!!お前なんなんだよーーーーーー!!!」


 俺の叫びも虚しく、言いたいことを言い切った変態魔法少女おばさんは転移魔法とはまた違う「謎の術」により姿を消した…。


 周辺にサーチを走らせるが謎の術で逃げてしまった彼女を追跡する事は出来なかった。


「クソ!なんだ?あの術は!?追えない移動魔法だと!?」


 予想外の出来事に悪態が口から溢れ出す。

 だが、ここ数日の疲れも有ってか、その苛立ちも長続きはしなかった。

 逃げてしまった相手をいつまでも気にしていても仕方がない。

 俺の金を勝手に持っていった礼だと言って投げて寄こした薔薇を拾い上げる。


 変態魔法少女おばさんが投げて寄こした薔薇にはざっくりとした地図と、ある空間制御方程式が書かれたメモが括り付けてあった。


「ほぉ。なるほどな。」


 俺の横からメモを見た師匠が関心をする。


「確かにこの方法ならあるいは可能かも知れんな。神術と魔術の複合式か。考えもせなんだわ。」


 そう。このメモに書かれていたのは神術と魔術を組み合わせた空間制御式。


 にわかには信じがたいが、師匠によると簡単な空間制御の応用で、この方法なら通常の空間索敵には引っかからない可能性が高いらしい。


 つまり、あの変態魔法少女おばさんが言っていた魔王が潜んでいると言う言葉…。

 調べてみないと分からないが、もしかしたら本当かも知れないと言う事だ。


 彼女が何をしたかったのかはよく分からない。


 ただ、あの変態魔法少女おばさんが只者ではないと言う事は彼女の残したメモから伝わったのであった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「と、言う事があったんだが。あの変態はお前達の知り合いか?もしかして、お前たちの言っていたユーフィリアって可能性は?」


 散々、グランクランでケーキを食べて来ただろうに、帰ってくるなり夕食を所望した女神達にエサを与えながら俺はつい数十分前の話を彼女達に話して関係性を聞いた。


 ちなみに、今日の夕食は街で買ってきたソーセージと家にあったそろそろヤバそうな野菜で作ったポトフである。


「えー。魔法少女の格好をしたオバさんに知り合いなんて居ないわよ?」


 聞いたのだが一蹴されてしまう。


「大体、あの後にジョージが魔法少女にハマってレプリカを山のように造るわ、魔法少女愛好会なんて変態組織を作るわで、無数のレプリカが造られてるから その辺りから出回ってるレプリカじゃないの?」


「ユーフィリア ハ キンパツ デ カレン ナ ショウジョ。オバサン、チガウ。」


 ニナに続きニコからも否定された。

 確かに変態魔法少女おばさんは金髪でも無ければ可憐な少女でもなかった。

 その事からもユーフィリアでは無いという事は確かかも知れない。


 でも、黒木がこちらの世界に帰還しているのだ。

 もし、ユーフィリアが俺達の世界から帰還していたとして、向こうの世界で過ごした事により身体的な特徴が変化したとしてもおかしくはないだろう。


 だが、そこまで変わるだろうか。

 うん。聞いた話でしか彼女(ユーフィリア)を知らないが聞いた話とは随分違う。


 あんな変態魔法少女おばさんがユーフィリアだとしたら、親友であった女神達でもドン引きするレベルの変わりようだ。


 あまつさえ、キャラが定まっていないと言うか詰め込み過ぎて渋滞させている様な人物がニナ達から聞いた話のユーフィリアだとはとても思えなかった。


「じゃが、あの魔法少女装備は本物の可能性が高いと思うのじゃが…。私も本物を見た事は無いが、レプリカを造る際に参考にした師匠(ジョージ)の資料を思い出しても合致点が多い。本物の「ローズオブホワイト」である可能性は捨てきれん。偽物を言うには(いささ)か早計さね。」


 意外にも反論を唱えたのは師匠だった。


 ニナは「ほら!ここにも魔法少女マニアが!!」とか言っているが、師匠に関しては純粋に…。うーん。純粋に研究目的なのだろうかと妙子ちゃんのマジカル☆ブレスの件を思い出すとそうとも言えない気がしてくるのだが。基本的には研究目的と妙子ちゃんの事を心配してマジカル☆ブレスを作ってくれたのだと思いたい。魔法少女マニアではなくて。


 魔法少女にも造詣の深い師匠が本物っぽかったと言うのだから本物の魔法少女。いや。ユーフィリアの可能性は有るのかも知れない。


「って、言うか。お前らがジョージ師匠に言って造らせた装備なんだろ?何か無いのか?魔法少女の帰還を知らせる機能だとか、装備に位置のお知らせ機能が搭載されているだとか?」


「ソレな!ジョージと一緒に造ってる間に楽しくなっちゃって。色々な加護をてんこ盛り入れちゃったのよね。うちのシステムに痕跡を残さずにアクセス出来たり、一日に十二回までならロスト無しで生き返れたりとか色々と。加えて魔法も禁忌術式をワンタッチで発動出来ちゃうから装備だけで言ったら単純に神レベルよ。アレに暴れられたら世界が終わるわ。マジで。もし、本物なら位置特定なんて無理だし、追跡なんて不可能に近いわ。」


「え?ニナは本当に馬鹿なのかな?」


「失礼ね!反省はしてるわ!でも、後悔はしてないわ!」


 あぁ。コイツ(ニナ)は本当に馬鹿なんだと実感した。


 しかし、あの変態魔法少女おばさんが本物のユーフィリアなのか、はたまた本物の魔法少女装備を受け継いだ誰かなのか。もしくは魔法少女装備のレプリカを装備した誰かなのか。それを追求する事は不可能だと言う事だけは分かった。


 ニナが馬鹿なのは仕方ないとして、現段階で変態魔法少女おばさんが何者なのかと言う無駄な議論は一先ず横に置いておく区切りにはなっただろう。


 それよりも問題は…。


「アレが「本物のユーフィリアなのか?」や「装備は本物なのか?」は置いておくとしてもじゃ。取りあえずはこのメモよのぉ。空間制御方程式に関してはすぐに実証できるじゃろうが。この地図じゃ…。ザックリしすぎてて分からん…。子供の落書きレベルで意味が分からん。情報の真偽を調べようにもコレでは調べようがないさね。」


 そう。アレが魔法少女的な何かと言う不毛な議論よりもこっちの方が重要だった。


 空間制御方程式と一緒に書かれている黒木の潜伏先の地図。

 油性ペンの様な物でプロ並みの可愛いウサちゃんのイラストと共に「ココに居るよ!」と書かれているが、肝心の地図が小学生の落書きレベルにザックリしている。


 あの変態魔法少女おばさんは「暗号」がどうたら言っていたが、暗号を解くためのヒントすら書かれていなかった。


 師匠が言う様に空間制御方程式に関しては実証は簡単だ。

 単純に説明すると、初歩的な空間制御に加えて多次元位相空間の要素を足すだけで実行可能だと書かれている。


 神威と言うか教会関係者が使えるレベルの「神術」と「魔法」の組み合わせ。

 そこに多次元位相空間の要素を加えれば、仕組みとしては簡単だけど探索魔法などに見つかりにくい特殊な空間を生成する事が出来るのだと言うのだ。


 確かに。考えた事も無かった。

 言われてみれば、この方法なら探索魔法などを回避出来るかもしれない。


 空間制御系術式だけの話ではないが、通常は「魔法」か「神術」どちらか片方の系統だけしか使用しないし、普通に考えれば相反する両方の系統を習得する者などは居ない。


 だから、探索の際もどちらか片方の系統をターゲットに探索を行う。

 基本的に複数の要素を併せ持った術式を対象としていないのだ。


 元々は神様側であり、魔王として魔法も操った実に黒木らしい方法だ。

 人々の常識という思い込みを利用した実に上手い回避方法だとも言える。


 仮に、その特殊空間を「魔王時空」と呼ぶとしよう。


 まずは、魔王時空(仮)を発生させられるかの実証だ。変態魔法少女おばさんがもたらした方法で本当に魔王時空(仮)が生成できるのだとしたら話が早い。


 魔王時空(仮)を生成できるなら、その探索方法やアクセス方法を知る事が出来る。

 他人が発生させた魔王時空(仮)でも、仕組みは同じなのだからその時空座標を探索すれば場所の特定も出来るだろうし、場所が特定出来たなら解除も可能だろう。


 問題としては、魔王時空(仮)を研究しきれていないと言う点。

 その応用までには至っていない。つまり、偽装も何もない状態だ。


 仮に魔王時空(仮)の時空座標に探索ソナーを打ったとしても黒木にバレて逃げられてしまう。


 簡単に言うと「おーい!黒木!公園で野球しようぜ!」と大声で叫んでるのと同じ状態なのだ。それでは、黒木が発生させた魔王時空(仮)を発見出来たとしても意味が無い。


 黒木に気が付かれずに魔王時空(仮)を探索するには時間も技術も足りなかった。


 そこで重要となってくるのが変態魔法少女おばさんの書いた地図だ。

 今の状態で広域探索をかければ黒木に悟られるリスクの方が高い。


 だが、現場まで行って直接アジトにカチコミをかければ悟られるリスクは減る。


 この方法は地表の次元位相を複数次元にずらして、もう一つの部屋を作る様な術式だ。例えば俺の部屋を同じ場所の別次元にもう一つ作る感じだと言えば分かるだろうか。基本的に絶対座標は俺達が住んでいる次元に紐付けられている。


 つまり、場所さえ分かれば、俺達が魔王時空(仮)に潜む黒木を探してると知らせずに近づく事が可能と言う事だ。


 もちろん、黒木も通常空間を監視して警戒くらいはしているだろうが、魔王時空(仮)が解明され押し入られるなどとは思いもしないだろう。


 物理的な位置に近づいた時点では逃げ出したりはしないだろうし、自分の領域に入ってくるとは思っていない相手に奇襲をかけるのだ。追い詰める事は出来る。


 後は妙子ちゃんを確保して、親子で話し合えば良い。

 それで俺としてはミッションコンプリートだ。

 親子喧嘩の行く末などは知らん。


 ただ、問題としては師匠も言っている通りザックリとした地図。

 ザックリしすぎてて場所の検討もつけようがない。

 どこかで見た事が有る場所っぽい感じはするのだが…。


 どっかのキャラクターとして使われていそうな無駄にクオリティの高いウサちゃんのイラストを書く前に地図の精度を上げろよって言うね…。


「あぁぁぁああぁああ!ヤメじゃ!ヤメじゃ!こんな下手クソな地図じゃ場所の検討のつけようもないわい!今日は終わりさね!しゅーりょー! それからニナにニコ! 明日、この空間制御方程式を即時発動出来る魔術アイテムに落とし込むから神術部分のサポートを頼むぞ! 晴人はその間にこの場所の特定をせよ。どこの地図だか知らんが街の人間に聞いて回れば心当たりの有る者が居るかも知れん!成果は問わん!街中で聞きまわって可能性を広げてこい! あと!あの変態ババアを見かけたら捕縛してくるのじゃ!それが一番早いだろうからな!と、言う事で私は寝る!おやすみ!」


 と、俺が色々考えている間に師匠も煮詰まって、果てにはキレて自室に引き上げて行ってしまった。


 まあ、無理もない。腹が立つレベルで下手くそな地図なのだから。

 人の場所を教えるってレベルじゃないくらいに。


「ふぅ。仕方ないわね。確かにこの地図じゃ私達でもお手上げね。」


「コレハヒドイ…。」


 師匠の癇癪に呆れながらもニナもニコも同意見のようだ。


「それで?ハルトはこの後どうするの?この空間制御方程式の実証実験くらいは付き合ってあげてもいいけど?」


 師匠を見送ったニナが「まだやれる事はあるでしょ?」と言いたげに提案してきた。


「出来ればそうしたい所だが、さすがに俺もクタクタだ。明日にでも師匠と一緒にやっておいてくれるか?今日はそいつを部屋に放り込んで俺も休むとするよ。」


 と、ご飯を食べた後こっちの話に入れず蚊帳の外で眠りこけてしまった呪々を指差し、そう告げると少し複雑な表情をしてニナは「分かったわ。」と短く答え、すっかり冷めてしまった紅茶をすすった。


「あぁ。お前たちの部屋だけど地下の工房を使ってくれて良いぞ。空間増設するでも構わないが変な所に出入口を作らないなら自由にやってくれて。客人を残してすまないが俺も先に休ませてもらうよ。」


 と、告げると紅茶を飲みながらヒラヒラと手を振るニナとニコを横目に見つつ、俺は自分の部屋に引っ込んだ。


 今は取り敢えず休みたい。

 部屋に入るとベッドに倒れ込む。

 ここ数日で色々と起こりすぎて俺の処理能力も限界だ。

 枕に顔を埋めるとすぐに意識を失う。


 全ては明日以降に持ち越しとなった。


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