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其之二|第九章|降臨!魔法少女☆まじかるタエにゃん!

 伊丹妙子は走った!

 そう。この危機を覆せるのは私だけだと確信していたからだ。

 新戸晴人なら何とかしてくれるかも知れない…。


 晴人が何とかしてくれるかも知れないが、敵が「あの物語の魔王」だと言うなら晴人たちが立ち向かい打ち倒せるかと言うと難しいだろう。


 この世界に多数ある太古の魔王のお話はコミカルに書かれている物が多いが、それは勝者の権利として後の世で改変されたもの。

 その中から読み解けるのは、人間や亜人や天使が一丸とならなければ打ち倒せなかってであろうと言う事実。


 そんな相手に勝てるのかと問われると、晴人とフィーナが力を合わせても容易くはないだろう。

 もし、チャンスが有るとするなら相手の隙きを突く事。

 そして、その隙きを作れるのは自分だけだと…。



 などと言う事は全く考えて居なかった。



 ちょーっとは頭に過ぎったかも知れないが、伊丹妙子の関心事は自分の力がどれくらいなのかを確認したいと言う事に向いていた。


 強いか弱いかも分からない自称魔王よりも、自分の力試しをしたいと言う好奇心の方が強かったのだ。


「うーん。どうしよう…。変身出来そうな場所がなーーーーい!!」


 今、伊丹妙子が自称魔王よりも問題を感じているとするなら、変身する場所が無いと言う現状だ。

 だだっぴろい平原で、どうすれば誰にも見られる事なく変身するかが大きな問題だった。

 散々、晴人とフィーナに伊丹妙子として魔法を使うと命を狙われる危険も有ると注意されていたので、さすがの伊丹妙子も無茶は出来ない。


「やっと見せ場っぽいのに、ここで何も出来ないのもなぁー。」


 変身して力試しをするのには絶好のシチュエーションだと言うのに何も出来ない歯痒さが伊丹妙子を苛立たせる。


「えーーい!もう良いか!これだけ混乱してるんだもん!このまま…」


 自暴自棄となった伊丹妙子がその場で変身しようとする。


 その時、事態が変わった。


 明らかに大きな魔力の発動。

 戦場となっているフィールド全体に広がり、これまでとは明らかに違うチカラを感じる。

 大きくうねる魔力の波がフィールド全体に津波の様に広がり全てを飲み込んでいった。

 この大きな魔力の変動は普段から魔法や魔術に関わらない人間でも感じるレベルだ。


「まさか…。本当に魔王だったの?」


 あまりもの魔力変動に、さすがの伊丹妙子も動揺を隠せない。

 広がった魔力の波は、先に倒されたポテトイーターの死体に到達し、赤く発光する。

 ポテトイーターの死体と死体の間を線で繋いで魔法陣を形成したのだ。


『そのとおぉぉぉぉぉり!抜かったな!!魔法使い!!!死体の配置を見て察せないとは甘いぞぉぉぉぉ!!!!そして、これは結界!!!!!もう、お前たちは逃げられず、我が糧となるのだ!!!!!!!』


 遠くから響く自称魔王の声。


「つまり、他の人が今年のポテトイーターが倒しやすいって言ってたのは自称魔王の罠だったのね…。そう考えると納得がいく…のかな?」


 ポテトイーターが一定の場所に移動すると抵抗が緩んだ事。

 こちら側の体力を削るように行動する事。

 それなのに意外とアッサリ倒されてしまった事。

 その全てが魔王の罠だった。


「だけど、これはチャーーーーンス!!」


 冒険者たちは自分たちが受け持ってポテトイーターを倒したグループから、事態の異変を察知してリーダーフォースの周辺に集まりだしている。


 つまり、伊丹妙子の周りから人が居なくなったのだ。

 その幸運が伊丹妙子のテンションを否応なしに上げていく。


「神よ!!妙子はその期待に応えますよ!!やってやりますよ!!!」


 大きく拳を突き上げて高らかに宣言する。

 そして、どちらかと言うと無神論者の伊丹妙子がこの時ばかりは神に感謝した。


 大きく突き上げた右腕をエル字に曲げ、拳を顔の横に置く。

 左をそっとマジカル☆ブレスにハメられたボールに添えて右から左へスライドさせ勢い良く回す。


 そして、叫ぶ!!


「マジカル☆チェンジ!プラミティセットアーーーーップ!!!」


 伊丹妙子の叫びとともに伊丹妙子を中心として大きな光が溢れフィールド全体を包む。

 その光の中の大スクリーンに変身シーンが映し出された。

 次の瞬間、軽快な音楽が流れ出し、星やハートのエフェクトが飛び交う。

 右足から光が現れ、徐々に全身を包んで伊丹妙子のプロポーションを露わにする。

 左手から純白のグローブが現れ、右手・左足・右足の順に各部位が装着され、全身を包む光が弱まり肌色の部分が徐々に見え始める。

 と、同時に謎の光が伊丹妙子の大事な部分を隠し、下半身から光りに包まれたレオタードの様な物に妙子の身体が包まれる。

 腰の部分からスカートが現れた後にコスチュームがハッキリと映し出され、最後にティアラが頭に現れた。


 チャランランラララララララン!チャチャン!

 最後にポーズをキメると軽快な音楽が止む。


『キマった…!』


 完璧な決めポーズに内心、打ち震えつつ伊丹妙子がゆっくりと目を開いた。


 だが、ここからが本番。

 伊丹妙子は、フィーナに散々言われていた「魔法少女は名乗りをキメて一人前」だと。

 ここでセリフを噛んでは元も子もない。


 決めポーズを崩し、気合を入れて自称魔王の方向に歩み出す。


「人の魂をすすり、己が欲を満たさんとする太古の魔王!人に仇なすその所業。我欲にまみれたその行動。お天道様が許しても、この私が許さない!」


 若干、どこかのお侍さんっぽい感じになってしまったが伊丹妙子は気にしない。

 そう。名乗りの前のセリフは心から自然に溢れ出す魂の叫び。

 ここで発せられた言葉は伊丹妙子自身の心の叫びなのだから何も恥ずかしがる事では無かった。


 問題はここからだ。


 名乗りは練習した通りで良いのか?

 他に良い名乗りは無いか?

 演出は練習の通りで大丈夫なのか?


 これまでの特訓が走馬灯のように頭を駆け巡る。


『女は度胸じゃ。いざと言う時には心の赴くままに動けば良いさね…さね…さね…』


 フィーナの言葉が妙子の頭に浮かぶ。


「よし…。プランSだ…。」


 覚悟を決めた伊丹妙子が自称魔王に向かって名乗りを上げる!


「魔法少女☆まじかるタエにゃん!ここに降臨!これ以上の狼藉は座敷牢行きよ!!」


 ドドーーーーン!


 セリフを言い終えると同時にポーズを決める。

 ポーズを決めた次の瞬間、伊丹妙子の後ろで大爆発が起こった。

 そう。さながら戦隊モノの登場シーンように。


 後に伊丹妙子はこの時の事をこう語った。


「前のセリフに引っ張られすぎて『お前なに侍だよ!』的な感じになっちゃいました☆てへー☆ 最後の爆発を背負った決めポーズは戦隊モノを参考にしました!!格好良かったでしょ!?」と。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 何をどこから突っ込んだら良いやら…。

 自称魔王もどうすれば良いのか分からずに妙子ちゃんと俺を交互に見ながらオロオロしているじゃないか。

 そんな目で俺を見られても俺にも分からない!

 困ってるのは、多分この場に居るみんなですから!


 ザワ…ザワ…ザワ…


「魔法少女…。」

「魔法少女だ…。」

「あれが伝説の魔法少女???」

「魔法少女って俺はてっきり変態のオッサンのコスプレネタだと思ってた…。」

「魔法少女が実在していたなんて!!」

「魔法少女は実在すると言っただろ!俺は前にも見たんだ!!月夜に浮かぶ魔法少女を!!」

「いやいやいや。魔法少女なんてマンガのネタだろ?どっかの魔法使いのコスプレだって!魔法少女が実在する訳がない!!」

「あぁ…魔法少女!!尊い!!なんて神々しいんだ!!」

「魔法少女って割には年が取りすぎてないか?十二歳を越えた魔法少女なんて認めんぞ!!」

「いや。魔法少女にも色々あってだな…」


 突然の魔法少女の出現に戦場は一気に色めき立つ。


 神話の時代。

 異世界に封印した者達の一人に魔法少女が居たらしい。

 この自称魔王が本当に太古の魔王だとした場合、魔法少女はこいつを封印した宿敵とも言える。


 魔王封印から数千年。

 この世界では漫画のネタや神話として魔法少女は語られてきたが、実在の魔法少女を見た者は少ない。

 それもそのはず。必要が無ければ魔法少女は現れず普段は普通の女の子なのだから。

 どこかで、密かに受け継がれていたとしても、魔王級の人類の敵でも現れない限り、魔法少女もまた現れる事はないのだ。


 だから、魔法少女(妙子ちゃん )が現れて、この場に居る者が色めき立つのは仕方がないとも言える。


 だが、あれは妙子ちゃんだ。

 一刻も早くこの騒動を収拾しないと下手すれば全滅する可能性だって有るのだ。


 ぴろろろろろ~~~~☆


 妙子ちゃんが謎の効果音と共に空へ舞い上がる。

 実際に舞い上がってそうで頭が痛い…。


「そこの部隊のリーダーの方!結界の魔法陣の破壊は私が請け負います!あなたは魔王を!そこの魔法使いのお姉さん!私に力を貸してください!!」


 あぁ。物言いは完璧だ。

 完全にその口調は魔法少女そのものだ。

 そう言えば師匠と話し方の練習とかもしてたっけ…。

 何となくそんな事を思い出していた。

 妙子ちゃんがノリノリなのに申し訳ないが、色々と後始末を考えると今から憂鬱だ。


 そんな憂鬱をよそに、妙子ちゃんは師匠を伴って結界の破壊するべく飛んでいった。


「改めて見ると痛々しいな。あれは。我を封印した魔法少女も珍妙だったがそれ以上である。封印の地で色々な物を見てきたが本意気のアレはさすがに引くぞ。オイ。小僧。話しかけられていたがアレはお前の知り合いなのだろう?」


 ぴろろろろろ~~~~☆ シャキーン!


 魔法陣で結界を張って、心の余裕が出てきたのか気さくにに話しかけてくる魔王。

 封印の地とやらで何を見ているのかも気になるが、そんなナチュラルに聞かれても困る。

 確かに知り合いと言うか、アレとガッツリ家族的な関係なのですが…。

 とは、思いつつも本当の事は話せない。

 そう。誰にも。


 ぴろろろろろ~~~~☆ ピカ!


「いや。初対面です。俺もいきなり話しかけられて困惑しています。言うに事欠いて魔法少女ですよ?本当に。なんでこの場面であんなのが沸いたのか…。自称魔王の出現が関係してるんじゃないですか?」


 ぴろろろろろ~~~~☆


「おい!待て待て!それでは私が悪いみたいではないか!確かに因縁は有るが、あの時の魔法少女と言われる存在は、もっと可憐で清楚だったぞ!少なくとも密かに悪代官を討伐する侍の様な物言いはしなかったぞ!」


 ぴろろろろろ~~~~☆ ドーン!


「え~?本当ですか~?魔王がそんなフザけた格好で出てきちゃったから魔法少女もその影響を受けたんじゃないっすか~?」


 ぴろろろろろ~~~~☆


「無い!無い!大体、私と魔法少女では属性が違うだろうが!それに、お前たちは知らないだろうが、あちらは神の勢力だ!神のシステムを天使のサポートの下で魔法の力を利用して実装し人間でも神の威光の一部を使えるようにする魔導着だ!私の影響を受ける余地はないのだぞ!?」


 ぴろろろろろ~~~~☆ バフーン!


 この自称魔王ときたら…。

 出現してからずっと残念な感じだなとは思っていたが…。

 ますます持って残念な感じがする。

 魔法少女が神の威光を使えるなんて話は初耳だ。


 多分、今の世に伝えられる魔王の封印に尽力した魔法少女のイメージと言うのは、その辺りの「神のシステム」がどうとかと言う【秘密】を隠すため【魔法】によって色々と解決する美少女的なキャラ付けになっているのだろう。


 神の威光を一部とは言え人間が使えるとなると神の威厳に関わる問題だ。

 魔王の討伐に何らかの理由で必要だったのだろうが、その話を後世に残すワケには行かなかっただろうからな。


 ぴろろろろろ~~~~☆ キューンキューンキューン!ドボーン!


 敵対勢力の秘密だとは言え、そんな重要機密をペラペラと話してしまうなんて。


 そのヒントから、自分が本格的に復活した際に本物の魔法少女を初戦から投入される可能性とか考えないのだろうか。


 この自称魔王ったら実に残念な感じがする。

 何というか、こう言うタイプの残念な子って人生の中で何人か出会うよな。


 俺が信じたあいつも出会った当初はこんな感じだった。

 何となく俺が向こうの世界に居た時の元友人の事を思い出してしまう。

 詰めが甘いと言うか、脇が甘いと言うか。

 最終的に自爆するタイプだなこいつ。


 いやいや。今はそんな事を考えている場合ではない。


 気を取り直し、自称魔王を見上げる。

 思う所が有るのか自称魔王も押し黙っていた。


 戦場では時折、敵と心を通わせる場合がある。

 激闘の末にお互いを認め剣や魔法を交え武力で語り合う。


 今の俺達はそんな激闘などしていないが、予期しない魔法少女の出現により一種の一体感を持っていた。

 多分、自称魔王と俺の今の気持ちは一緒なのだろう。


 ぴろろろろろ~~~~☆ ドーン!ドーン!


「なあ。自称魔王。」

「ああ。自称ではなく魔王だがな。小僧。」


 ぴろろろろろ~~~~☆ キューン!ドーン!


「「ちょっと!そこの魔法少女!?さっきからピロピロピロピロうるさいんだが!?」」


 魔法少女出現と言う異常事態を通して自称魔王と意気投合してしまうのはどうかと思うが、妙子ちゃんが飛んで移動する度に鳴り響くピロピロ音が凄い勢いで場の雰囲気を壊しまくる。


 ただでさえ自称魔王がポテトイーターの姿と言う時点で緊張感もヘッタクレもない状態なのに、これ以上 緊張感が壊されるのは自称魔王としても我慢できなかったのだろう。


 俺としても、この自称魔王が本当にあの太古の魔王だとするなら油断は出来ない。

 油断は出来ないのだが、あのピロピロ音が俺の中に多少残った緊張感を破壊する。


 帰ったら後で師匠と妙子ちゃんはお仕置きだな。

 まあ、無事に帰ることが出来ればだが…。


 そんな俺達をよそに魔法少女こと妙子ちゃんが相変わらず上空をピロピロ飛んでいた。

 声が届いたのか、こちらに顔を向けてピロピロ飛びながら寄ってくる。

 ピロピロと飛んできて俺達の上で停止してこう告げる。


「すいませーん!これ仕様なので音が消せないんですー!他の音に変えるくらいは出来るんですけどー!」


「「そんな仕様に誰がした!?馬鹿なのか!?」」


 自称魔王と声がかぶる。

 二回目となると何となく気恥ずかしかったのか自称魔王がそっぽを向いた。


 はぁ。やれやれだ。

 誰がそんな仕様にしたのかと言うと師匠なのだが。

 確かに魔法少女的には必須なのか知れないが、もう少し考えて実装して欲しいものである。

 練習中は飛ぶ事は無かったから気が付かなかったが、せめてサイレントモードとか付けて欲しかった。

 確かに、小さなお子様には大ウケだろうが、この現場では…。


「魔法少女!せめてもう少し音の調整とか出来ないのか?!これ以上、緊張感を削がれると自称魔王が哀れなんだが!!」


「誰が哀れだ!誰が!」


 自称魔王が俺に抗議の声を上げるが、肝心の妙子ちゃんの反応がない。

 なぜかニッコリしているのがとても不気味だ。


「おい!聞こえてるのか!?魔法少女!!その音を…」


 俺がもう一度、抗議の声を上げる前に妙子ちゃんに遮られた。


「ま・じ・か・る・タ・エ・にゃ・ん!!まじかるタエにゃんですー!魔法少女とか個体識別も出来ない呼び方で呼ばないでくださいー!」


 クソ!マジで殴りたい!!

 そんな恥ずかしい名前を呼べるか!!

 どう考えても恥ずかしいネーミングなのに、本人は相当気に入っているのか俺に対してマジギレしてるっぽい。


 理不尽すぎる!!

 ただ、ここでそんな事を言っても事態は収拾できない…。

 クソ…。この口にするのも恥ずかしい名前を呼ばないといけないのか!?


 えぇぇぇい!ままよ!


「ま…ま…まじかるタエにゃん…。飛ぶ時の音量を調整できないだろうか…。」


「あ。それ無理ですー!」


 ぶっ殺す!!

 いや。ぶっ殺さないが気持ち的にはもうもう…。

 顔真っ赤になっても仕方ないだろ?

 あの恥ずかしい名前を言わされて即答で否定されるって!

 なぁ?なぁ?オイ!


「ププ…。」


「おい!こら!自称魔王!!そこ笑うのを堪えるな!!魔王なら魔王らしく高笑いしろよ!代わりにお前をぶっ殺すぞ!!」


「ほぉ。我をぶっ殺すと?面白い!やってみろ!!この結界の中で我に敵うと思うてか!!」


 何だかよく分からない理由で一触即発。

 自称魔王と和んでいる場合じゃなかったので良い機会だと言えば良い機会だった。

 だが、本当に魔王だとした時にその一部とは言え俺が倒せるのか?

 せめて、この結界を打ち破らなければ…。


「あのー!!盛り上がってる所に悪いんですけど良いですか!?」


 一瞬で蚊帳の外にされた妙子ちゃんが喜々として言葉を発する。

 そう。その顔は何か褒めて欲しい時の妙子ちゃんっぽく見える。


「何だ!魔法少女よ!!貴様などに構ってる暇は無い!!」


 すっかり戦闘モードに切り替わっている自称魔王。

 勢いのままに言い放ったが、その言い方では俺の二の舞いだ。

 学ばないとは、やっぱり残念魔王だな…。


 キラ☆ キューン! ズドーン!!!


 自称魔王が操っている七つ星の帝王のサイズにピッタリの爆裂魔法が炸裂する。

 周りに結界が張られているのかY軸方向に火柱が立ち上がった。

 俺だから圧をかけられるだけで済んだが、自称魔王相手だと容赦がない。

 妙子ちゃんを魔法少女呼ばわりした自称魔王は炎に包まれた。

 敵ながら哀れだと思うが自業自得だ。

 俺が悪い例を示したと言うのに…。


「おのれ!魔法少女風情が!!いきな…」


 キラ☆ キュピーン! キラキラキラ☆ カキーン!!!


「ま・じ・か・る・タ・エ・にゃ・ん!!さっきも言いましたよねー!?自称魔王カルキノスさん!?何千年も生きてると人の名前とかすぐに覚えられませんか!?覚えられるまで叩きのめしましょうか!?」


 本気である。

 まじかるタエにゃんは本気だった。

 身バレを防ぎ、危険な目に合わないようにと作られた魔法少女装備のはずなのに…。

 名前をちゃんと呼んでくれないと言う理由だけで、自称魔王相手に上級魔法をぶっ放す。


 ええ。知ってた気がします。

 うちの妙子ちゃんはそう言う子だと。

 きっと、『まじかるタエにゃん』の『まじかる』は『本気狩る』なんだと思います。


 って言うか、上級魔法まで覚えられたんだ…。

 何か、色々な意味でビックリだ…。


「待て!魔法少女まじかるタエにゃんよ! 敵とは言え名を軽んじた事は詫びよう。 だが、我を本気にさせると結界の中の人間達の生命力や魔力を喰らい尽くすぞ!! 人間は全て死ぬ!! お前にそれが耐えられるか!?」


 妙子ちゃんにボコられながらも、気を取り直す自称魔王。

 その心意気や良し!

 ちょっと自称魔王に同情していたので、やっと魔王っぽい発言に少し安堵した。

 だが、人の生命力や魔力を吸い尽くす結界。これが厄介だ。

 これを何とかしなければ、自称魔王にいくら攻撃しても回復されてしまう。

 だからこそ、先に結界を何とかしなければいけないのだ。


 いけないのだが…


「あぁー。それ、半分以上は無効化しましたけど?あと、どれくらい無効化すれば良いですかー?」


 しれっと妙子ちゃんが言い放つ。


「「なんだってーーーー!?」」


 なんだろう。この自称魔王とは息が合うのか発言が三度重なる。

 何となく気恥ずかしいがそんな事を言っている場合じゃない。

 それは自称魔王も同じなのだろう。

 俺と自称魔王は周りを確認した。


 倒されたポテトイーターは残っている。

 だが、自称魔王から遠い場所より順に赤い光は失われており確かに無効化されているようだ。


「はっはっは!自称カルキノスよ!抜かったな!!まじかるタエにゃんは最高じゃ!!魔法使いにして少女!!アレを無効化出来る魔法少女!!貴様が真のカルキノスだと言うなら、これがどう言う事か分かるじゃろう!?」


 どこから現れたのか師匠が自称魔王に言い放つ。

 きっと、出て来るタイミングをニヤニヤしながら待っていたに違いない…。

 だが、その言葉に自称魔王が動揺する。


「まさか…。いや。だが、あんな物を天界に引き上げないワケがない…。貴様!何を知っている!!!」


 師匠に向かい自称魔王が吠えた。


 ポテトイーターの姿で。

 うん。実に締まらない。

 だが、その切羽詰まった様子から察するに、自称魔王にとって相当都合の悪い事実が突きつけられたようだ。


「私もまさか、こんな事になるとは思って無かったがの。私の師匠がジョージ=グラスロッドと言えば分かるか?いや。師匠から聞いた昔話からすると『爆裂技巧の魔法使い』の方が聞き覚えが有るのかの?」


 何だか厨二的な二つ名が聞こえたが、それは大した問題ではないようだ。

 その名前を聞いて、何となく自称魔王が引きつっている気配がする。

 だが、その表情はキュートなポテトイーターなので全ては読み取れない。


「クソ!あのジジイ!まだ生きているのか!?我を封印した爆裂技巧の魔法使いが!!ならば、あの装備は本物だと言うのか!?」


 口に出してくれればわかりやすい。

 目に見えて動揺しているのが分かる。

 師匠のお師匠様がどうとかと言う話も気になるが、自称魔王にとっては相対したくない相手のようだ。


「いや。残念ながら師匠は十年以上前に亡くなったさね。 意外とあっさりポックリと逝ってなぁ。いや。実に見事なポックリじゃったぞ。 さすがにあの化物も人間で、お前達ほどの不死性は無かったと言う事さね。 まあ、何千年単位で生きたんだ。悔いもないだろうさ。 だが、安心しろ!師匠の全ては、この私!フィーナ=グラスロッドが全て引き継いでいる!! さすがにアレはレプリカじゃが、今のお前を屠るには充分だろう?観念してお縄につくさね!!」


 いやだ。何だか俺の師匠が格好良く見える。

 普段はどーしょーもない師匠で無理難題をふっかけてきたり、この前の様にロクでもない事をする師匠だが、師匠が魔法を習得したこの百年で様々な伝説を打ち立ててきた伝説の魔法使いだけの事はある。

 しかも、師匠のお師匠様は太古の魔王の物語に登場する魔法使いだと言うのか?

 やだ。なに?じゃあ、俺は神話級の魔法使いの孫弟子!?

 やだ。ちょっと凄くない?


 それに比べて、自称魔王のぬぐぐぐぐぅぅぅと言った表情はどうだろうか。

 ポテトイーターの姿でも分かるくらいの苦虫を噛み潰した様な表情だ…。

 自分を封印した者のうちの一人の弟子と事情は分からないがレプリカ?とは言え神話クラスに匹敵すると思われる装備が自分を妨害する為に立ちふさがっているのだ。


 自称魔王曰く、封印されて以来ずっと頑張ってこっちに戻ろうと努力していたそうじゃないか。

 やっと、こっちに繋がったと思ったら、宿敵のうちの一人の弟子と自分を苦しめた装備が待ち構えていたのである。


 不憫だ…。実に不憫だ。

 敵ながら不運すぎて笑えない。

 これまで、太古の魔王の物語はコミカルに書かれているだけだと思っていたが全てが真実なのではないかと思えてくる。


 それくらい自称魔王が不憫だ…。

 自称魔王の不憫さに思わず目頭が熱くなった。


「オイ!お前!小僧! 俺を憐れむなと言ったろう!! お前が思ってる事はそこはかとなく伝わって来るんだからな!! お前が思ってる様な状況じゃないんだからな!! それにこれはちょっと巡り合わせが悪かっただけで、こっちへのアクセスが出来ただけでも凄いんだからな! お前!俺が完全復活したら一番に泣かせて許しを請うまで責め立ててやるからな! 覚悟しとけ!!!バーカ!!!バーカ!!!」


 何だか最初の魔王としての重厚感は跡形も無く、すっかり地が出ている気がする。

 何というかこう…。とても懐かしい気がする。

 こう言うヤツって小学校の時とかに居たよなぁ~。みたいな。


「いやだ。師匠さん責め立てるですって。ハルトさんを責め立てるですって!」

「いやいや。今までの自称魔王の様子だと責めると言うのは自分で自分のヤオイ穴に入れて、最初は自分で動いて責め立てるが、途中でハルトに主導権を奪われてアンアン言わされるのがオチじゃぞ?」

「そ…それは…。ハァハァ…。」


「「そこ!キモい想像をするな!!!!」」


 何と言う、とばっちりだろうか!?

 ワケの分からない方向から超魔球が飛んできた!!

 思うくらいは許そう。

 そう。思ってるだけなら自由だ。

 だが、聞こえるように話すのは許せないぞ!?

 口に出したり掲示板に書き込んだだけでも罪になる場合だってあるんだぞ!?

 犯罪を妄想したくらいじゃ罪にはならないが、口にすれば犯罪だ!!

 確実にアウトだ!!


 ほれ見ろ…。具体的に口に出すから、不覚にも想像してしまっただろうが!気色の悪い!


 って言うか!自称魔王!!

 また、声が合わさって気まずいのは分かるが、このタイミングで顔を赤らめるな!!

 こっちまで恥ずかしくなるだろうが!!!


「あー!師匠さん!師匠さん!ハルトさんと自称魔王の顔が真っ赤っかですよ!」

「おぉ!まんざらでもない様子だの!これは有るのか!?有り得るのか!?」

「師匠さん!こう言う時はこうですよ!ゴニョゴニョゴニョ…。」


 真っ赤な俺と自称魔王の様子を見て妙子ちゃんが師匠に耳打ちをする。

 もう、嫌な予感しかない。


「「アーッチッチ!アッチッチ!魔王とハルトはアッチッチ!」」


 な ん だ !

 何だ!?その小学生の様なリアクションは…。

 言うに事欠いて、何なんだよ!そのリアクションは!!


 ホント…。勘弁してください…。


 結構、これまでの流れって真剣な展開だったと思うのですが…。

 事実、途中までは師匠の知られざる真実とか、それに伴い本物の太古の魔王で有る可能性が出てきたとか、そこまでは真面目な展開だったじゃぁないですか。


 何ですか?我が方が有利だと確信するや、その行動ですか?

 意外と簡単に結界を破壊できたからってその余裕ですか?

 でも、今もまだ危機は継続中だと思うのですが?


 百歩譲って余裕が出てきて軽口を言うのは許そう。

 だが!!せめて、俺を巻き込まないでいてもらいたい!!!


 俺は理不尽な状況をぶつけるべく自称魔王を睨んだ。


『自称魔王!どうすんだよ!この状況!!お前のせいで腐女子に変な餌を与えちまったじゃねーか!!顔を赤らめるとか乙女か!?お前は!!いーかげんにしろよ!!!オイ!コラ!俺の思考を感知してるんだろ!?何とか言えよ!!何とかしろよ!!王都とか攻め込んでそれどころじゃなくしろよ!!お前魔王なんだろ!?聞こえてんだろ!?俺の思考読んでるんだろ!?無視すんじゃねーよ!!』


 まだ、完全復活していないとは言え、これだけの念を込めれば否が応でも魔王なら気がつくはずだ。

 声に出して言い合うと更に腐女子に餌を与えてしまう事になるので是非とも気がついて欲しい。

 って言うか、本物の魔王なら気がついて、この状況を何とかしてもらいたい!!


『無茶を言うな。小僧よ。 流石の我でもあの手の人種をどうにか出来るワケがなかろうが…。 古今東西、神代の昔よりあの手の人種の妄想力は凶悪で神の上位存在でも、その根絶は無理で野放しなのだぞ? あらゆる宗教で同性愛が禁止されている理由を知っておるか? その手の人種がそれはもう手がつけられなくかるからだ。 だが、禁止されていれば「それはそれで美味しくいただきます!」とか「大好物です!」とか言う様な、何でも喰らう雑食だぞ。 そんな輩の気をそらす為だけに、完全復活していない我が王都の攻め込んだとしても、それくらいでどうとか出来る問題じゃなかろうが…。』


 何と言う事でしょう。

 あの手の人達は神代の時代から神様の上の存在でも何とも出来ないのだと言うのか…。

 何となく分かっていたけど、そこまで手に負えないとは俺の想像を越えた。

 だが、そんな真実を知ったとは言え、ここで譲る訳にはいかない。

 何故なら、事が済んだ後も実質的な被害を受けるのは俺なのだから!

 事あるごとにネタにされるのは必至なのだから!!


『いーーーやーーーだーーー!!!お前は!お前は!お前は!お前は大人しく封印されて封印の地とやらで、のんべんだらりと封印されてれば良いだけだけどさー!俺はしばらくあの二人に良いように妄想されてニヤニヤ見られるんだぞ!?正直、今のお前なら、周りに居る隊員を退避させて、俺の禁忌魔法で七つ星ごと物理的に排除出来る気がするんですけどー!分かってるのか?でも、その前にお前!この事態を収拾してから帰れよ!!!お前が魔王ってなら全力を出せば部分的に記憶くらい消せるだろ!?』


 あまりもの不条理に自称魔王を睨む目に力が入る。

 正直、もう環境がどうとか考えずに単一指向性の禁忌魔法をぶっ放せば自称魔王くらい灰燼と化せる様な気がしてならないが、アレの収拾だけは是非ともしてから散って欲しい!

 そう。残された俺が彼女らのおもちゃとならないようにしてから!!


『いや。正直すまない。もう試した後だ。あれらは魔法抵抗力が異常だ。』


 もうダメだ。

 しばらく、妄想の餌となるのは確定のようだ。


「あらあらあら。師匠さん。ハルトさんと魔王が見つめ合ってますよー!」

「まあまあまあ。二人はそっとしておいて、私らは残りの結界を破壊するかの!」

「うふふふふ。そうですね。後は若い二人で。」

「うふふふふ。邪魔しては悪いからのぉー。」


「「オホホホホホホ…。」」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!もう!!!!!

 もう、ダメかもわからん!!!

 何を言っても飽きるまで、このネタで引っ張られるのは確定だ!!


 今日はアレじゃなかったのか?

 大変ながらも例年通りポテトイーターを狩って、七つ星の帝王が現れたとしても、参加者全員で何とか倒して、この街の結束が固まって、その後の祭を楽しむとか、そう言う何となくファンタジー物の定番みたいな心温まる系の結末になる感じじゃなかったのか!?


 それが、何がどう間違って腐女子に燃料投下する流れになったんだよ!!


 そうだ…。

 自称魔王がキャラ崩壊してアホな事を言い出して「責め立てる」だとか腐女子受けする様なワードを自らポロリしたのが原因だ…。


 この自称クソ魔王め…。許さん…。


「全フォースに通達…。お前らも聞こえて居ただろうが…」

「おう!聞こえてたぞ!魔王とハルトはアッチッチー!!って話だろ!?」


 リックが余計な茶々を入れてくる。

 実に鬱陶しい。


「リック。今回の報酬お前だけ無しな。大事な話の途中にクソみたいな茶々を入れるな。」


 リックが「そんなぁ~」と嘆いているが、こっちはそれどころじゃない。

 一刻も早く自称魔王を仕留めて少しでも変な噂が広まるのを食い止めなければならないのだから。

 うん。この戦いは中継されいたので既に手遅れかも知れないが、そちらに関しては魔王の結界とやらで中継が遮断されている事を願うしかない。


 取り敢えず、迅速に片付けて腐女子の餌とならないのが今の一番の課題だ。

 もう、ポテトイーターがどうとか言ってる場合じゃない!!


「変な邪魔が入ったが改めて。この自称魔王が本当の太古の魔王である可能性が出てきた。幸い本調子じゃないらしいから七つ星の帝王を片付ければ問題解決だろう。これより俺が禁忌魔法で自称魔王を蹴散らす。全フォースは出来るだけ離れてくれ。威力や範囲は極力絞るが今の俺がどれだけ制御出来るかわからん。出来るだけ逃げてくれ。」


 俺の真剣な気配を感じたのか、足早に参加者が街の方へと退避する。

 途中、「腐女子のネタにされては誰でも怒るよな。」とか「ごちそうさまです!ごちそうさまです!ごちそうさまです!」とか不穏な話し声も聞こえたが今は良いだろう…。


 一刻も早く、こいつを片付けて事態を収拾する。

 ただ、それだけだ。


「ハルト…。俺は最後ま…」

「うっさい!黙れ!さっさと消えろ。」


 リックが性懲りも無くこの場に残るとか言い出しそうだったが、素早く遮って追い払った。

 リックが残ったら残ったで、特にうちの腐女子どもに恰好のネタを提供するだけに決まっている。

 そう言うオチは簡単に想像出来るんだから、これまでの流れを察して余計な事はしないでくれ!まったく…。


 そんなイライラする俺の後ろから支援バフが掛けられた。

 振り向くとそこにはシーナさんが手を振りながら立っていた。


「ハルトさ~ん!全バフ掛けておきましたんで~!思い切り殺ってしまってくださ~い!魔王に~!容赦は~!いりませんから~~~!!」


 そう言い残すと足早に走り去っていくシーナさん。

 多少、物騒な物言いだったが、曲がりなりにも魔王だと自称する存在を目の前にして退避しなければならないと言うのは悔しかったのだろう。

 魔王と言えば神に仇なす排除すべき存在。

 本当なら自分も参加したかったのだろう。


 だが、今回だけはそれを許可するわけにはいかない。


 正直、足手まといだ。

 相手が本当に魔王だとするなら、全力を持って当たらなければ返り討ちにされるのは俺だ。

 そんな場所に誰かを居させる事など出来ない。


 それより何よりも、俺が自ら自称魔王を叩きのめして、さっきの不名誉な妄言を払拭しなければいけない。


「ふむ。小僧よ。準備は終わったか。」


 自称魔王がポテトイーターの姿で魔王たらん雰囲気を出してくる。

 思わず笑いそうになるが、笑っている場合ではない。

 魔王だろうが魔王じゃなかろうが関係ない。

 この迷惑な存在を消し去る。

 それが今の俺の使命なのだから。


「あぁ。待たせたな。あんたとは気が合いそうだったが、魔王を自称されては放っておくワケには行かねえ。しかも、最悪のタイミングでアホな事を口走って腐女子にネタを提供する様な間抜けなら尚更だ。俺の名誉の為に吹き飛ばされろ。」


 ポテトイーターの潤んだ瞳で俺を睨みつける自称魔王。

 何とも締まらないが、それはもう良いだろう。

 後は消し去るのみ。


「ふっ…。小僧よ。最後に一つだけ忠告しておこう。実力者は否が応でも注目を集める。我の様に魔王や神と言う超常的な立場の者は元より、英雄や伝説上の存在から街の有名人まで。それら全てを何でも美味しく妄想のネタにして頂くのが腐女子と呼ばれる存在だ。我らの様に「魔王×神」などと言う不愉快なネタにされるの日常茶飯事!!今後はお前も覚悟するのだな!!!」


 ・・・。


「オイ。自称魔王。最後に残す言葉がソレってつくづく残念だな。お前。」


 本当に残念である。

 最後に言いたい事が「有名になればなる程、BLネタにされるぞ!」と言う忠告だとは…。


 しかし、この残念な感じ。実に懐かしい。

 元の世界に居た時、俺の周りにはこの手の人間が一人は居たもんだ。

 俺が必要な場合を除いて引きこもっているからなのかも知れないが、この世界ではあまり出会わないタイプだ。


 そう言う人間に限って、俺と仲良くなる事が多かった。

 それを考えると魔王でなければ意外と本当に仲良くなれたのかも知れないな。

 まあ、それを憂いてもどうにもならない。

 こいつは倒すべき相手なのだから。


「我がおかしな事でも言ったか? まあ良い。この身体を操るのも、結界を破壊されたこの状況で戦い続けるのも、そろそろ潮時だ。 最後に全身全霊を持って相手をしよう。 この肉体が破壊された所で我の本体は無傷だ。 我の完全復活に恐怖して日々を過ごすが良かろう!! 貴様が我を倒せなければ、貴様の魔力を吸い付くし侵攻を続けるのみ!! どちらにしても我に不利は無いわ!!」


 そう言い放つと自称魔王が乗り移ったポテトイーターが両ヒレを天にかざして魔力を集め始める。

 結界の大半を妙子ちゃんと師匠が無効化したとは言え、そこの蓄えられた魔力は大量に残っているようだ。

 こちらも、ポテトイーターのキュートな外見に油断をして手を抜くなど出来ない。


「望むところだ!自称魔王!何度でも復活するが良い!その度に叩き潰してやるよ!!」


 そう。これ以上、俺の平穏な引きこもり生活を邪魔されるワケにはいかない!!

 そして、これ以上、妄想のネタにされるワケには行かないのだから!!


 自称魔王に続き俺もマナを集め魔力に変換していく。


「────── 祖は天の煌めき。祖は地獄の業火。廻り、廻り、廻りて核と成し、原初を焼き尽くす業火と成せ。」


 詠唱を始めると同時に俺の背に魔法陣を描く。


 頭でイメージする。


 はっきりと脳内で魔法陣を形成しろ。

 そして、両手を動かし空間へと具現化するのだ。


 俺の手の動きと共に、俺の背には魔法陣が描かれていく。


 イメージしろ。感じろ。全てを制御しろ。

 この空間に溢れるマナを。

 この空間に溢れる元素を。

 その全てを使って魔力を集め魔法陣に込めろ。


「────── 汝は太古の業火、汝は太古の光、汝は太古の闇黒。その全てを嚥下し、原子の円環となりて、全てを滅ぼす槍と化せ!!」


 詠唱を終えると、渦巻く何かが集まり槍の形状を保ちながら、光と闇を放ち、炎を纏って俺の手に収まっている。

 魔王を見るとあちらも準備は終わっているようだ。


 後はお互い放つのみ。


 視線が重なる。

 その眼に宿る力は、これまでの奴とは違う事を物語っていた。

 次の一撃が生死を分かつ。

 それは確信だった。


「行くぞ!魔王!!」

「小僧!!思い知るが良い!!」


 魔王が乗り移っているポテトイーターが飛び上がる。

 俺は同時に魔力の全て注ぎ込み右手の槍を解き放つ。


宇宙創世乃槍コズミックジェネシスジャベリン!!」

「グラビティウォールプレス!!」


 力と力がぶつかり合い衝撃波が一帯に広がる。

 魔王を中心に形成された漆黒の球体が超重力で俺を押しつぶそうと襲い来る。

 だが、原始宇宙の発現にも匹敵するエネルギーを魔法により圧縮して打ち出された俺の槍がそれを押し戻す。


 高エネルギーと高エネルギーがぶつかり合い周りの空間が歪みだす。

 ヤバイと感じた俺は自分自身に張っていた魔法防護壁を強化するのに加えて、環境への影響を最小限に留める為に半径三キロメートルに高度魔法防護壁を展開する。


 だが、この力比べは終わらない。


 接点は発光し、今までに見た事の無い色の光が溢れ視界を奪う。

 高度魔法防護壁を通しても伝わってくる熱風。

 地面も含めて防護していると言うのに超高温で足元が柔らかくなる。


 その中で俺は余裕の笑みを浮かべる魔王の素顔が見えた様な気がした。


 その顔を見て力が入る。

 そんな訳がない。

 そんな訳がないが、ヤツだけには負ける訳にはいかない。


 怒りと共に力がみなぎる。

 これが噂に聞く火事場のクソ力と言うものだろうか?

 ぼんやりと頭の隅でそんな事を考えていた気がする。


 俺は最後の力を振り絞り禁忌魔法で編まれた槍に魔力を注ぐ。

 腐っても魔王だ。簡単には勝たせてくれないらしい。

 俺の身体に貯蔵された魔力だけでなく、生命力を魔力に変換して更に魔力を注入する。


「持ってけぇぇぇぇぇぇ!!クソ魔王がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺の全身全霊を込めて、全ての力を使い尽くすまで槍に魔力を送り続けた。


 ズドン。


 俺の最後の力を込めた槍に貫かれ、ポテトイーターの残骸が自由落下でその場に落ちる。

 派手に吹き飛ぶ訳でも無く比較的静かに。

 均衡していた力がポテトイーターを貫くと同時に失われ、空中に留めていた力が同時に無くなり、普通に地面に落ちたのだろう。


「勝ったのか…。」


 一気に気が抜ける。

 全身の力が抜けて後ろに倒れ込む。

 仰向けに崩れ落ちた俺の目には、さっきまでの攻防が嘘だったかの様に、綺麗に澄み渡った青空が広がっていた。


「中々、面白かったぞ。小僧よ。我は間もなくこちらへの干渉が出来なくなるだろう。次に合うまでにもっと強くなれ。次に合う時にはもっと我を楽しませろ。」


 遠のく意識の中、魔王カルキノスの声が聞こえる。


「いや。小僧と呼ぶには忍びないな。まだ意識が有るなら名を告げる事を許そう。名を名乗れ。」


「にいど…はると…」


 魔王の声に反射的に答える。

 その先は聞き取れなかった。

 魔王が何かを話している気がした。

 だが、全ての力を出し尽くし意識を失いつつある俺にその声は届かなかった。


 ただ、懐かしい声が笑っているような気がした。

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