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其之二|第終章|エピローグ

「第八回!ダンジョンガーデン収穫祭の開幕です!!」


 祭りの開始を告げる声と、それに続く大きな歓声が、町外れに建てられた俺の家まで届いて窓を揺らす。


 いや。そう感じただけなのかも知れない。

 拡声器で音を増幅しているとは言え、街の中心からここまでは距離がある。

 打ち上がった花火が窓を揺らしただけだろう。

 遠くに聞こえる祭の音がそれと重なって、そう感じただけに違いない。


 外から聞こえる祭の音に叩き起こされた俺は、ボヤけた頭で現状を確認する。


 いつもの天井。いつものベッド。

 俺の体の上には、いつから居るのかにゃんこ様が眠っていた。

 さっき、起き上がれなかったのは、にゃんこ様のせいかと思い起き上がろうとするが起き上がれない。


「ふぅ…。まだ、力が入らないか。」


 魔力も体力も使い果たしたのだから仕方がない。

 無駄な抵抗はせずに動かす事の出来ない身体をベッドに委ねる。


 ベットから見えるのはいつもと同じ俺の部屋。

 窓からは花火が打ち上げられる度に光が差し込み部屋を照らす。


「何とか追い返せたんだよな…。」


 あの後、俺は気を失ったのだろう。

 自称魔王がこちらに干渉出来なくなる間際に何かを言っていたのまでは覚えているが、それ以降の記憶が全くない。


 その後、どうなったのか気になる所だが、今はこうしているほかは無いだろう。


「まあ、祭りが始まったと言う事は問題ないと言う事だな。」


 俺一人がぶっ倒れた所で、祭りが中止や休止されるワケも無い。

 祭りが開催されていると言う事は、誰かが後の処理をしてくれて、街は円滑に動いていると言う事だ。

 それは俺が何をしなくとも安心して任せておけば良いと言う事にほかならない。

 俺は無理をせず安静にしておくべきなのだろう。


 かろうじて動く右腕を天井に向けて突き出す。

 手の甲を見つめて思い返す。


「あれは本当に魔王カルキノスだったのだろうか…。」


 いまいちピンとこない。

 何千年も前に異世界へ封印されたはずの魔王カルキノスがポテトイーターに乗り移って現在のこの世界に現れたのだから、信じろと言う方が無理な話だろう。


 あいつが残念な感じだったのが、余計にそう思わせるのだろうか。

 実感が全くない。


 いや。全く無いと言うと嘘になるか…。

 事実、俺はこうして動く事も出来ずに醜態を晒しているのだから。


 あいつを舐めていたワケじゃない。

 周囲への影響を考えて使用する禁忌魔法を選んではいたが、自称魔王に集まってくる魔力量と不穏な気配から、禁忌魔法のレベルを一段階上げて迎え撃った。


 封印の地からポテトイーターを操っていると言う割には強大な魔力量。

 そしてポテトイーターから放たれた禁忌魔法。

 禁忌魔法として「グラビティウォールプレス」は初歩の物だが威力は本物だった。


 それを異世界と言う、常識では考えられない様な場所から遠隔でポテトイーターを操り、通常のそれよりも威力を増して打ち出してくるなんて芸当は「魔王」や「それに準ずる何者か」だろうと思わせるには充分な証だと言えだろう。


 もちろん、そう言っていただけで、この世界の何者かが魔王を騙ってポテトイーターを操り、この街に攻撃してきた可能性も無いとは言えない。


 設立から十年程度で繁栄し金を生み出し続けるこの街を疎ましく見ている者は多い。

 ポテトイーターを操り、魔王の襲撃だと信じ込ませて街を襲撃する。

 それは、祭りで浮かれた俺達には手痛い攻撃だと言える。


 撃退されたとしても、ある程度この街や冒険者らを痛めつけられれば良し。

 作戦が上手く行ったとしたならば「ポテトイーターすら撃退できない街」として悪評が立ち信用を貶める事が出来るのだから、仕掛ける側からすればどちらに転んでも万々歳だ。


「だが、それにしては役を作りすぎだ。」


 役を作りすぎと言うか、あれが演技だと言うなら相当の演者だ。

 あいつは素の表情を見せすぎている。

 何というか、素のあいつは俺達が想像する魔王像とかけ離れて人間味が有りすぎた。


 演技だと言うなら人間が考える魔王像を演じきれば良い。


 俺ですら地下十階の広間まで、この街の冒険者が到達した暁には、どの様にダンジョンマスターを演じて盛り上げようかと考えてはワクワクしていると言うのに、本当に魔王だと印象づけたいなら、人間味の有る素の部分など見せなければ良いのだから。


 それを含めて演技だと言うなら、今回の黒幕は恐ろしい子すぎる。

 狂っていると言ってもいいだろう。


 故に、アレは本物の魔王カルキノスだったのではないかと思うのだが…。

 だとしたら、あの魔王様は残念すぎる…。


 物語ではコミカルに書かれているが、本物は恐ろしい存在ってのがセオリーだろう?

 なのに、あの自称魔王をきたら…。


「ククククク…。うぐ…。痛い…。」


 思い出すと笑いがこみ上げて、笑いが響いて傷だらけの身体が痛む。

 これは、あばらの何本かが折れているかも知れないな。


 カチャ。


 俺が思い出し笑いをしながら痛みに苦しんでいると、ドアの影から妙子ちゃんが静かに顔を覗かせた。


「あ。ハルトさん。意識が戻ったんですね。良かった…。」


 さすがの妙子ちゃんも怪我人を前にして騒いだりしないようだ。

 いつも、変な所でピーキーにテンションを上げるので、アレな子だと思いがちだが、実は常識のあるお嬢さんなのだと言う事を思い出させる。


「ああ。何とかね。まだ体に力が入らないけどね。アハハ…。」


 心配はさせたくないが、妙子ちゃんは妙な所で勘が良いので正直に伝える。

 動けないんだからすぐにバレるような嘘をついても仕方がない。


「しょーがないですよ。凄かったですから。最後のアレ。結構、離れていたのに凄い熱とかが伝わってきましたから。」


 そう言いながら部屋に入ってくる。

 両手は包帯やら水の入った桶やら持てるだけ持っていて手が塞がっている。

 ドアが開け放たれたままなのも、そのせいだろう。


 入れ替わりに、にゃんこ様が「うにゃん」と鳴き声を上げて開けっ放しのドアから出ていった。

 何となく気を利かされたのか「ごゆっくり」とでも言われた気がする。

 動けもしない情けない恥ずかしい状態なので出来れば一緒に居てくれた方が気もまぎれるのだが…。


「周辺に影響が出ないよう魔法で防護壁を張ったんだけどね。中はもっと凄かったから仕方ないよ。」


 これまた、心配を掛けないように誤魔化したい所だが、現場では師匠と一緒に居ただろうから色々と聞いているだろう。

 知っている可能性を考えると誤魔化しても仕方がない。


「でしょうね。師匠さんとか『う…生まれる!宇宙が生まれる!』とか言って困惑していましたよ。あはは…。」


 何を言ってんだかとも思うが、師匠が冗談を言う余裕が有ったなら問題は無かったのだろう。

 万が一、魔法防護壁が決壊していたとしても師匠が何とかしてくれていただろうと言う事が窺える。


「あはは…。何重にもコーティングして超指向性で魔法を放ったから宇宙は生まれなかったかな。酷くても魔法防護壁の内部がマグマ化するくらいで。師匠も大げさだなぁ~。」


 本当の事なので誤魔化しているワケじゃないが、少し軽い口調で答えた。

 花火に映し出された妙子ちゃんが小刻みに振るえていたから。


 大きな力を持つと言う事は、そう言う事なのだと妙子ちゃんも感じたのだろう。


 妙子ちゃんは魔法について軽い気持ちで考えていたのかも知れない。

 だが、魔法を扱うと言う行為は一歩間違えれば自らの身をも破壊する行為なのだと実感したに違いない。


 それは魔法を使う上で、魔法を極めようとする上で必ず付きまとうリスク。


 自分の身を守るために魔法を習得しようとする者。

 自分ではない誰かを守りたくて魔法を習得しようとする者。

 邪魔な誰かを消すために魔法を得ようとする者。

 それを防ぐ為の抑止力として更なる力を得ようとする者。

 真理の探求を願う者や、純粋な好奇心を満したいと欲する者。


 魔法を習得しようとする理由は人によって様々だ。

 理由は様々だが、魔法を習得した魔法使いは一様にその危険性を身をもって経験し、習得までの厳しい道程を経験している。


 それは単純に習得の難易度や危険度と言うだけの話ではない。

 魔法ではなく、魔術なら物理的な手順を踏んでセーフティゾーン設定し魔術的な効果を発動する。

 そうやって、手順を踏んでマナを扱い魔力を使う場合は一定の安全性は確保出来ると言えるだろう。


 だが、魔法となると話は違う。

 魔法では、そのリミットを外して最大限の効果を得ようと言う行為。


 脳をフル回転させ、繊細に明確なイメージを具現化して丁寧に操作するのは大前提だ。

 それは出来なければ魔法は暴走し自分に牙を向ける。

 だからこそ、魔術の基礎を徹底的に学び、仕組みを頭に叩き込み、制御する方法を熟知してから魔法を習得するのだ。


 そう。何かに例えるとするなら、魔法と言うのはパソコンのクロックアップの様なもの。

 液体窒素で強制的にCPUを冷やし限界以上の性能を引き出す。


 魔法ではマナ取り込み魔力を全身に送り込みながら、高速でイメージと言うスプリクトを書き出し、それを制御しながら、クロックアップされた脳を使って最大限以上の発動効果を得る。


 パソコンなら最悪の場合でもパーツが壊れたりハングアップする程度の話かも知れないが、人間の体で考えれば、その結果は最悪な物だ。

 人の体のパーツは基本的に交換が出来ない。

 ハングアップすれば良くて気絶。悪くて死だ。


 それだけじゃない。そんな事は魔法を扱う上での前提条件に過ぎない。

 そうやって最大限以上に引き出された効果を自分の意思で制御出来るかが問題だ。


 制御出来なければ効果が暴走をして死ぬ。

 自分の上限も知らずに、実力以上の効果を発動すれば生命力まで持って行かれて死ぬ。

 何の防御も無しに魔法使い同士が大きな効果をぶつけ合えばお互いが死ぬ。

 今回は俺が魔法防御壁を張ったから周りへの影響は少なかったが、何も考えずにあんな物をぶっ放せば周りを巻き込んで己も死ぬ。


 魔法使いとして生きると言う事は危険との隣り合わせと言う事。

 それは魔法を使い続ける限り避けられないリスクなのだ。


 だから、あんな派手な物を見せられれば、今日の事を思い出して恐怖に身を震わせても仕方がない。


 妙子ちゃんは勘のいい子だ。

 あんな物を制御する難しさや、あんな物を制御してしまう恐ろしさ、あんな物を操る魔法使いの傲慢さの様な物を感じてくれたに違いない。


 確実に運用出来るなら、魔法は有用で便利な技術だ。

 だが、一歩間違えれば周りを巻き込んで死に至る。

 その恐怖を感じてくれたなら、今回の授業料は安かったと言える気がする。



 物を置き、水を取り替えて何やら準備が出来たのか、妙子ちゃんがこちらに近づいてくる。

 時折、夜空に打ち上がる光に照らされた妙子ちゃんの目は涙で潤んでいる様に見えた。


「さて。包帯を変える前に体を拭いておきますね。肋骨が折れている以外は大きな怪我とか無いみたいですけど、細かな傷がいっぱいだから、縫った所とか染みたら言って下さいね。重点的に拭きますから!」


 拭くなら、出来るだけ優しく拭いてほしいのだが、その言動から察するに心配をさせた事への彼女なりの仕返しなのだろう。

 俺は促されるまま寝間着を脱いで上半身を露わにする。


 それと同時に水を軽く含んだタオルが押し当てられ体を冷やしてくれる。

 多分、薬か何かの作用なのか痛みなどは感じていなかったが、傷ついた体はかなり熱を帯びていたようだ。

 タオルで拭かれる度に伝わってくる冷たさが心地良くて実に気持ちがいい。

 時折、大きな傷口なのか痛みを感じるが我慢出来ないものではない。


「でもね。ハルトさん…。」


 俺の背中を拭きながら妙子ちゃんが話し始める。

 ポツポツと。


「ハルトさんは師匠さんの話を大げさだって言ったけど。凄く怖かったです。」


 俺の背中を拭く妙子ちゃんの手が振るえていた。


「そうかい?まあ、そうか。いきなりあんなのを見せられたらね。ごめんね。怖い思いをさせてしまって。」


 俺は出来るだけ優しく答えた。

 あれを受け止めるには妙子ちゃんは若すぎる。

 年齢もだが、冒険者としての経験も、魔法使いとしての経験も。


「そうじゃなくて!…うん。そうですね。見た事も無いような色の光や、押し寄せる熱風や、陽炎とは明らかに違う空間の歪みとか。それも怖かった気がするけど、ハルトさんが戻って来ないんじゃないかって言う不安が一番怖かったです…。ハルトさんが居なくなっちゃうんじゃないかって言う不安が。」


 肩に触れられている妙子ちゃんの手に力が入るのが分かる。

 ギュッとタオルを握った手が振るえているのが背中から伝わってくる。


 妙子ちゃんの年齢では死が人を分かつなんて経験は少ないだろう。

 元の世界で普通に生きていれば、人間の短い人生の中で親しい人と死別するなんて機会は多くても十回有るか無いか。

 妙子ちゃんが既にそう言う経験をしていたとしても片手で数えられる程度だろう。


 ましてや、急に目の前で親しい人が跡形もなく消し飛ぶかも知れないなんて経験は有るワケが無い。


「そっか。心配をかけてごめんね。他にも方法は有ったのかも知れないけど、俺も頭に血が登っていたからね。それ以上に自称魔王の実力が本物だったから…。」


 正直、頭に血が登ってしまったのは俺が悪いワケではないと思うのだが…。

 そこは俺も良い歳した大人なので軽く流しておいた。

 トリガーとなったのが誰のせいだとか敢えて言う必要もない。


 それ以上に自称魔王の実力が本物だったと言う事の方が問題としては深刻だった。


 相対して初めて分かった自称魔王の実力。

 チマチマと通常魔法でやり合うのではなく、一気に勝敗を決しようとしたのは間違いでは無かった。


 間違えたとするなら、相手の実力を読み切れなかった事だ。

 結果として妙子ちゃんや周りの人間が不安に思う程の禁忌魔法を使わなければ対処出来なかったのだから。


「その件に関しては何とも申し訳ないで御座います…。何だか魔王さんが色々な意味でチョロそうだなぁっと思ったら止まらなくなっちゃって…。」


 うん。分かってた。

 ただ、そう言う事は出来るだけ公の場で繰り広げるのでは無くて、密かな楽しみとしてもらいたい。

 妄想するなら無罪だが、口に出してしまうとアウトだ。

 魔法以上にその辺りを制御出来る立派な大人の女性になって欲しいとおじさんは切に願う…。


 どう答えたものかと悩んでいると続けて妙子ちゃんが口を開く。


「でも、もうあんな無茶はしないで下さいね…。ハルトさんが居なくなったら、私の生活にも関わってくる問題なんですから…。死活問題なんですからね…。売るのは私でもポーションとかハルトさんが作ってくれないと売る物が無くなって生活出来なくなっちゃうんですから…。」


 なんだろう。酷い事を言われている気がするのだが、背中に涙が落ちているのを感じているので何も言えない。


 俺は動かない体を無理やり動かし振り返ると、妙子ちゃんの瞳に溢れた涙を優しく拭いてあげ優しく頭を撫でた。


「大丈夫だから。妙子ちゃんが困るような事はもうしないから。」


「ハルトさん…。」


 頭を撫でられた妙子ちゃんが恥ずかしそうにうつむく。

 いつもと違う反応に少し戸惑ってしまう。

 そんな照れ方をされるとこちらも恥ずかしくなってしまう。

 ほのかに目を潤ませ頬を染めているのが何となく分かる。


 だが、潤むタエコの瞳は、先程までの悲しみの色では無かった。

 窓から入ってくる花火の光がタエコの潤った口唇を照らし出す。

 重なる瞳と瞳。

 上気する肌と肌。

 若い二人に言葉は必要なかった。

 重なる口唇。

 溢れる欲情。

 この後、めちゃくちゃ交尾した。


「って!師匠!!そこで無茶苦茶なモノローグをボソボソつぶやかないで下さい!!いつからそこにいたんですか!?」


 気がつくと扉の影から師匠がガッツリとこちらをガン見していた。


「んー?ネコが部屋から出てきたくらいかの?」


 ああ。ずっと扉が開いたままでしたもんね。


 悪びれる事もなく最初から見てた宣言。

 きっと、ドアが開いてなくても開けてでも見てたでしょうけど。


「最初からですね。わかりました。」


 うん。確かに少し流されそうになっていた気がするので助かったと言えば助かったのかも知れないがもう少しデリカシーを持って欲しいものだ。


 師匠のつぶやきモノローグ攻撃に妙子ちゃんは更に顔を真っ赤にして「お水変えてきます!」と言って部屋を飛び出して行ってしまったではないか。


 妙子ちゃんの為ならまだ無理して動こうとも思うが、師匠の為に無理やり動く義理はないので半裸のままベッドに身を預けた。


「ほれ。治療が中途半端なままじゃろ。うつ伏せになるさね。」


 そう言うと、俺の行動も待たずに重力軽減系の魔法で一回転させられる。

 手荒いがこれも師匠なりの優しさだろう。

 それが分かっているので「うー」と唸って抗議の声を上げるがそれ以上は言わないでおく。


「しかし、ご苦労だったな。あそこまでの力を保持して、こちらに接触してくるとは思わなんだわ。」


 妙子ちゃんに背中を拭かれていた所をバッチリ見ていたのだろう。

 早速、軟膏を背中に塗りたくりながら師匠が話しかけてくる。


「そうですね。まだ、確定はとは言えませんけど「太古の魔王」か、それに近い実力の者が何か陰謀を画策しているのは確かなのでしょうね…。」


「そうさねー。あの自称魔王が本当に「太古の魔王」だとするなら何らかの対策や調査が必要じゃろうが…。アレが本物だと言うには、あのチョロさは判断に困る所じゃの。まあ、話から推測するに本体は戻って来られておらんようじゃから、広域での情報共有しておく程度で良いような気がするのぉ…。」


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


「どうしたものですかね?」

「本当にどうしたもんかのぉ…。」


 ちょっと話し合っただけでも分かるが「太古の魔王問題」に関しては、どうにもしようがないと言う結論にしか行き着かない。

 せめて、実体としてこの世界に帰還したと言うなら話は早いのだが、ヤツの話を全て信じるなら、何千年もかけて波長の合ったポテトイーターを操れた程度。

 きっと、こっちに接触できた事に浮かれて嬉しくなっちゃって、あんな事をしでかしたのだろうが、自称魔王の言動などから推測するに次の目処などは立っていないだろう…。

 自称魔王に「次に会う時にはどうたら!」とか、意識を失う前に言われていた気がするが、お前いつこっちに戻って来るんだよって話だ。


 魔法使いはマナの影響で普通の人間よりも長命だとは言え、師匠の師匠である爆裂技巧の魔法使いでも魔王の帰還まで生きられなかった事を考えると、俺が生きている間に戻って来られるのかは疑わしい。


「取り敢えず。太古の魔王はご存命の可能性が高く、今もこっちの人間に構って欲しくて、何やら色々頑張ってるって事で良いのでしょうか…。」


「そうさね。何がしたいか分からんが、数千年もモチベーションを保って頑張っておるんだとしたらご苦労な事だが…。何と言うかもう戻って来れない気もしなくもないな。哀れなヤツさね。」


 師匠も同じ印象を持っているのだろう。

 自称魔王が爪痕は残して帰ったとは言え、ポテトイーターを操って暴れまわって、魔法使い歴十年程度の俺に退治されただけと言う何とも哀れな結果には敵ながら同情する。


「かわいそうですね…。」

「哀れじゃのぉ…。私だったら耐えられないさね。」


 うん。何とか話を建設的な方向に持っていけないかと思ったが無理そうだ。

 戻って来るのか来ないのかも分からない自称魔王について考えるだけ無駄だ。

 もし、俺が生きている間に現れたとするなら、その時は時に考えれば良いだろう。


「よし。完了じゃ!見た目ほど酷くはないが、肋骨も折れておるからしばらくは無理せん事じゃな!シーナが回復魔法を山ほどぶち込んでおったから傷の治りも早いじゃろうが信者でない限り限度があるからの。今はゆっくり休むが良かろう!」


 そう言い残すと、礼も言わせずに師匠がアッサリと退散する。

 入れ替わりで、にゃんこ様が入ってきて寝転がった俺の胸の上が定位置だと言わんばかりに乗っかってゴロンと丸まる。


 さっきまで打ち上がっていた花火は鳴り止んで静けさを取り戻す。

 街の方角からはいつも以上に煌々と焚かれた明かりが見える。

 だが、その喧騒はここまで届かない。


 気になる事は色々ある。

 だが、今は休もう。

 きっと、目が覚めたら面倒事が待っているのだろうから。

どうも。となりの新兵ちゃんです。


と、言う事で「其之二」完結です。

もう一章くらいかかるかとも思ったのですがキリも良いのでここで区切りと言う事で。


エピローグ。二つくらいパターンを考えていたんですが。

今回採用した起き上がれないパターンと、回復後に祭を楽しむパターンと。


でも、師匠にあのモノローグを言ってもらう為に前者のパターンになったと言うね…。


最近、少しお疲れ気味なので後日に修正しそうな気もしますが、取り敢えずはこれでアップしておこうと思います。

大幅修正などがあった際には活動報告にてお知らせします。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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