其之二|第零章|プロローグ
「そうか。ハルトがそうしたいって言うなら止めたりしないさ。最初に言ったろ?自ら命を絶つ様な事をしないなら何でも協力すると。」
七年前のあの日、俺は師匠の元から旅立つ事を彼女に告げた。
「ここで生きる覚悟を決めたんだろ?だったら、私が止める理由はないさね。」
三年前のあの日と同じくコスプレの様な露出度の高い魔女服に身を包み、三年前のあの日と同じままの美貌で微笑みを浮かべている。
その表情は、家族の様な。弟を送り出す姉の様な。息子を送り出す母の様な。
妖艶さの中に、穏やかな優しさを感じる笑顔だった。
この三年間、俺は死に物狂いで彼女から魔法を教わった。
この頃の俺はまだ元の世界に戻ろうと足掻いていた時期だ。
* * * * *
あの頃の俺は、師匠に魔法を教えてもらいながら、元の世界に戻るための方法が無いかを探していた。
それは帰巣本能とも言うべきものなのだろうか。
最初は酷い精神状態だったが、何も無いこの世界の事を知れば知るほど元いた世界が恋しくなった。
「私も一時期は、君の居たような『こことは違う世界』に興味があってね。色々と試したもんだよ。まあ、そのどれもが失敗に終わって諦めたけどさ。もし、君が元の国に戻りたいなら本格的に研究を再開しても良いさ。幸いな事に君を召喚した時の情報は使い魔に全て記録させていたからね。それを元に研究すれば、これまでよりも正確な検証が出来るだろうさ。」
その言葉に励まされた。
彼女の根拠の無い自信に勇気を貰った。
そして、彼女の行動力にこの世界で生きる覚悟を貰った。
本来、異世界への扉を開くと言う行為は、それを試みるだけでも危険が伴う行為。
外への被害を最小限に留めるために魔法陣で結界を作り、莫大な魔力とマナと素材を使って半径一メートル程の小さな陣の中へ入り、大型ハドロン衝突型加速器など玩具かとも思える様な超高エネルギーを丁寧に制御して初めて行える実験だそうだ。
簡単に言うと、星が一つ吹き飛ぶくらいのエネルギーを小さな魔法陣の中で制御して『宇宙』に穴を開け、そこに手を突っ込んで物を取り出す様な行為だと彼女は言う。
それ自体が危険で、目測を誤り無茶をすると良くて重傷。
最悪の場合は、自分が押しつぶされて血痕など残らずに蒸発してしまう。
ブラックホールを目の当たりにして、何の対策も無く少し入ってみようとファストフード店に入るくらいの軽い気持ちで気軽に近づいたら、光ですら逃れられない重力に引っ張られ、押しつぶされ、跡形も無く圧縮されてしまうだろう。
それと同じ様な行為を、小さな魔法陣の中で行っている様なものだ。
同じ世界の上に存在するなら、少し軸がズレている程度の魔界や天界なら門くらいは簡単にゲートくらいは開けるらしい。そこに受け入れられずに弾かれるか、受け入れられて中に入れるかは、また別の話だが。彼女に言わせれば魔界や天界は同じ世界だと言う。
「元々、この世界じゃ魔物の存在も目視出来れば、神威も目に見える形で存在する。向こうがコッチに完全じゃないにしろ干渉してこられると言う事は逆もまた然り。こちらからアクセス出来てもおかしな話じゃない。事象の大小に関わらず干渉が出来るって事は、それって同じ世界に居るって事だろ?」
と、言う事らしい。
つまり、彼女は俺達が居た世界は、こことは違う全く別の世界だと仮定している。
オンラインゲームに置き換えると分かりやすいだろう。
提供されているゲームクライアントが、自分の持っているパソコンのOSに非対応だと、そのゲームにアクセスする事は基本的に出来ない。
彼女の説明を解釈すると、俺が居た世界とこの世界ではOS自体が違うのではないかと言う事らしい。
オンラインゲームなどなら、対応OSをエミュレートするプログラムをインストールして、それを快適に制御するのに充分なスペックを用意して、ゲームを制御する為のプログラムをインストールすれば、多少の問題はあったとしてもプレイが可能になる。
だが、それはシステムを理解した人間がエミュレート用のプログラムを用意して配布しているから調べれば誰でも出来る話ってだけで、未知のOSを理解する事から始めて、通信プロコトルやコネクタの規格すら違うパソコンを実機無しの状態で理解するのは誰にとっても至難の業だ。
しかも、これはパソコンの話ではなく現実での話。
魔法や神威に溢れるこの世界だろうが無茶な話だ。
無茶な話なのだが…。
「だが、君がこちらに召喚された事で、あっちにアクセス出来る可能性は有ると実証された。どうやら私達の世界よりも、もっと上の所で統一規格が設定されているらしいからな。やってみる価値はあるだろうさ。」
そう。
彼女は諦めなかった。
彼女の話を要約するとこうだ。
彼女からすると実機すら見た事の無いパソコンにも、jpgやtxtなどの統一規格が存在すると仮定しているらしい。
その証拠が俺。
人間と言うカテゴリに属する俺は俺のままでこの世界に召喚された。
また、神や悪魔という概念。動物たちの容姿。味覚などの感覚。集まれば集落となり、やがて国となる仕組み。
多少の違いは有るものの基本的な行動や形などは似ている。
基本スペックも同じ。
俺も魔法を学べば、マナの溢れるこの世界で魔法が使えるようになった。
「つまり、それは方法や仕組みさえ分かれば、君の居た世界から持って来る事も、こちらから送る事も出来るって事さ。まあ、君の居た世界が異世界だとしたらの話だが。他の可能性も考えられるから一筋縄ではいかないだろうがね。」
その時の自信に溢れた笑い声は今でも覚えている。
まったくデタラメな人だとは思った。
でも、その探究心は少なからず俺に生きる意思とこの世界で生きていく覚悟をくれた。
こちらからあちら。
あちらからこちら。
アクセスが出来ないには何らかの理由が有るはずだ。
この世界の神をも凌駕すると思われる未知の上位存在に中指をおっ立てる。
うちの師匠が、そう言うたぐいの人間だと理解したのもこの時期だった。
確かに、俺がこちらに来た事を考えると、仕組みを知っていて、それを運用するだけのエネルギーなどが分かれば自由にアクセスする事は可能なのかも知れない。
まあ、未だの通信ポートすら確認出来ていないのが現状だが。
ただ。
つい最近、あちらとこちらでのやり取りが可能だと言う事は証明された。
なぜ、繋がったのか理由は分からないが、こちらの世界に召喚された者が居る。
そう。伊丹妙子だ。
お久しぶりです。となりの新兵ちゃんです。
少し忙しくて、なかなか話が進みませんが、取り敢えず「其之二」をリリース致しました。
公開のペースは遅くなると思いますが、気長にお付き合いいただければと思います。
今回、公開したプロローグでは異世界召喚やら転移が「どうして容姿や体調の異変もなく行われるのか?」を何となく、それっぽい理屈で書いてみました。
想像のお話なので「そう言う物」としてしまえば説明なく話が進んでいくのでしょうが、個人的な納得の為に書かれたと言っても良いでしょう。
まあ、結局は強引な理由付けなので「そう言う物」と大差ありませんが。
取り敢えず、今の所おおまかな流れは書き出しましたが「其之二」が、そこにたどり着くかは私も不明な状態です。
稚拙な文章ではありますが、生暖かく見守って頂ければと思います。
それでは、またいつか。




