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其之二|第一章|華麗な伊丹妙子の日常

 妙子の朝は早い。

 朝の四時には起き出して水を汲み、薬屋の清掃を始める。

 清掃が終わるとキッチンに向かって、朝食の準備。

 朝は一人なので一人分の朝食を用意する。


 最近は、朝食の準備が終わる頃に、この家の半家猫であるにゃんこ様が朝ごはんをねだりに立ち寄る事も多いので、朝食をテーブルに移動させながら、途中でお皿にカリカリを入れてあげるのも習慣化しつつある。


 食べ物をあつかっているので、なでなでしてあげれないが凄く美味しそうに食べてくれるので見ているだけでも癒される。


「いただきまーす!」


 今日の朝食はご飯と納豆にたまご焼き。

 デザートにオレンジのグラッセを乗せたチョコレートケーキを添えて。


 こちらのお米にも慣れて、最近の朝食はもっぱら和食風だ。

 醤油らしき調味料が甘めなのが不満だけど、無いよりは良いと思う。

 九州辺りの醤油は甘いと聞いた事もあるし。

 きっと慣れれば大丈夫になってくるはず!


 納豆は妙子の手作りで、ハルトさんに教えてもらった農家から藁をもらい試してみたところ見事に成功。

 元の世界と比べても遜色ない仕上がりとなった。


 それ以来、欠かさないように作っては地下の工房に溜め込んでいる。


 ハルトさんには「そんなに溜め込んで冬眠でもするの?」とか言われるけど、こっちで売ってない物は自分で作ってキープするしかない!

 ハルトさんは焼肉のタレとか調味料は作るクセに、工程の多いものや手間のかかる物は、あまり作らないみたいで、私が必要そうな物は作って保存している。


 さすがに私も豆腐はあまり作らないけど。

 前に豆腐を作った時に、大変すぎて「毎日じゃなくても良いや…」と妥協した。

 月に一回は作るけど、出来れば作りたくはない。

 でも、おいしーんだよ!いーんだよ!

 こっちの豆で作った豆腐は素人の私が作った豆腐でもおいしーんだよ!


『あれを何とかハルトさんに押し付けたい…。』


 そんな事を考えつつ、箸でたまご焼きを切り取り、口の中に放り込む。

 軽く塩コショウをしてプレーンな感じで味付けするのが妙子スタイル!

 たまごの味と塩分の味が口の中に広がりアクセントで胡椒がピリっとする。

 シンプルだけど、気分を変えたければケチャップやマヨネーズで、その表情を変えるシンプルなたまご焼きが私は好きだ。愛していると言っても過言じゃない!


 続いて納豆ご飯を頬張る。

 納豆の味とご飯のもちもち感が「朝だーーー!」って感じがしてテンションが上がってくる。


「お味噌汁が欲しい…。」


 この前、やっと梅っぽい物と紫蘇っぽい物を見つけたので、梅干しを作る算段はついた。


 だけど、お味噌は作り方が分からない…。

 なんとなーく、大豆を煮てから潰してくらいは知っているけど、どれくらい煮てとか発酵させてとか、まったく分からない!


「パソコンじゃなくて良い。ガラケーで良いから検索したい。たえこ。」


 ガラケーやパソコンがあった所で、使えなければただの箱。

 そんな事は百も承知!

 でも、何でも検索できた、元の世界が恋しくなる。


「地道に探すしかないかなぁ。醤油が有るんだし、探せば味噌も有るかも知れない。」


 もぐもぐとよく噛んでご飯を平らげるとデザートに手を付ける。

 和洋入り乱れた組み合わせだが、朝イチのチョコは頭の回転を良くしてくれる。

 和食にチョコレートは合わない気がするけど、ご飯と一緒に食べるワケじゃないから、あまり気にならない。


 さすがに一緒に食べるのはどうかと思うけど、食後に飲み物で口の中をリセットしてケーキを食べるのに抵抗感は無かった。


 水で口の中をリセット。

 コーヒーを淹れてチョコケーキを食べる準備を整える。

 フォークを構えて…。いざ!


 ケーキの表面にコーティングされたチョコがパリッと割れる程よい抵抗感が心を躍らせる。

 そこから顔を覗かせるチョコ入りのスポンジと生クリームが魅惑的だ。


 最近、オープンしたばかりのケーキ屋さんのチョコケーキでお気に入りの一つ。

 このお店には他にも色々なケーキが売っているけど、これが一番美味しい!


 そう。このオレンジグラッセと味付けと、チョコのバランスが…。


「とろけるー!ほっぺが落ちそう!」


 スポンジの口当たりが良く、生クリームとコーティングされたチョコのバランスが凄い!

 そして、チョコの味と一緒に広がるオレンジグラッセの爽やかな香り…。


「うーーーーまーーーーいーーーーぞーーーー!」


 口に広がるチョコとオレンジの香りが幸せを運んでくる。

 さすが、プロの仕事。

 お店のご主人は王都の有名なお店で修行して、この街に惚れて移り住んだんだとか。

 その腕はピカイチで、シーナさんは「なんですか…。この食べ物は…。人を堕落させる悪魔の食べ物…。」と、いつものほんわり口調ではなく、劇画調にでもなったのかと言わんばかりの変貌を見せて、のたうち回るくらい美味しいのだ。ちなみにその後も結構お店に通っているらしい。


「ハルトさんのアップルパイも美味しかったけど、これには勝てないなぁー。」


 意外とハルトさんの作る物は平均点以上に美味しい。

 素材の良さって言う理由も有るかも知れないけど、変な所で凝り性な感じがする。


 この前もピクルスが漬けてあって、良い感じに漬かっていたから味見をしようと瓶の蓋を開けたら「まだ食べちゃダメ!食べるなら、あと三十分は漬けてから!」と怒られた。

 漬かり具合なんて好みの問題なんだから気にする所じゃないけど、ハルトさんにはこだわりが有るらしい…。


 チョコケーキをチビチビと味わっていると、外から人の声が近づいてくる。

 時計を見ると五時半。


「もうそんな時間かぁ。そろそろ動かないと…。」

 でも、動きたくない。もう少しまったりしていたい。


 チョコケーキをもぐもぐしていると、荒っぽく店のドアが開け放たれる。


「おう!タエコちゃん!良いもん食ってんな!中級ポーション十個くれ!」

 お客さんが来た以上は動くしかない。

 残ってたチョコレートケーキを一口で平らげた。


 街の教会に所属しているシーナさんの様なプリーストを抱えるパーティの場合、ダンジョンに出発するのは昼過ぎからだけど、多くのパーティは朝からダンジョンに潜る事も多い。


 朝から深夜近くまで潜っている事が多いから、朝早くから来店するお客さんは少なくない。

 以前はハルトさんが一人で薬屋を営んでいたから早朝営業はしていなかったらしいけど、私がこっちに召喚されてからは、私が早朝の店番をしている。


 前もって前日とかにアイテムの用意くらいしておけば良いのにとは思うけど、大抵の人は毎日の様にダンジョンに潜るので、帰ってきてその足でアイテム補充するなんて計画的な冒険者はあまり居なくて、そのままお酒を飲みに行くそうだ。


 気持ちは分からなくもない。

 このお店以外に街にはポーションなどを扱っていて、深夜まで営業しているお店は有るけど、そう言うお店は深夜料金を値段に加えて商売をしている。

 疲れている上に高い商品を買うよりは、その日はお酒を飲んで疲れを癒やして、出掛けにこの店を利用する方がお得。


 昼間は利便性もあって街のお店で買い物をする人も多いけど、元々の材料などに掛かる費用はダンジョンマスターであるハルトさんにとっては材料費などはタダみたいなものだし、それを考えると街と同じ様な値段とは言え、元からボッタクリっぽい値段設定なので早朝料金を値段に入れていない。

 このお店にお客さんが集まるのは当然の結果だ。


 もちろん、私のプリティな魅力も合わさって爆売り状態!

 チャームを最低レベルで開放しているから不機嫌そうな時でも、すっごい笑顔に見えるらしいので、その効果も有るのかも知れないけど前年比で四十%くらいの売上を叩き出している!


『あぁ…。私の魅力が怖い…。』


 今もお客さんがあまり間を置かずに入ってくる。

 それを千切っては投げ、千切っては投げ処理していく。

 これが大体、八時くらいまで続く。


 最近、前日に仕込んでおく数量限定の『タエコちゃん特製弁当』を売り出した事もあって、それ目当てのお客さんが開店時間付近に集中する事も、その原因だと思う。


『あぁ…。美しいって罪よね!』

 私のファンらしき人の中で転売される事もあるそうな。


 でも、ごめんなさい。

 そのお弁当の半分はハルトさんの優しさで出来ています。

 私は、おかずを詰める係りです!


「そんなの売りたいならハルトさんが作って、私の名前で売れば良いじゃないですか!」

 と、言ったのは私です!

 そう言えば諦めるかと思ったのにノリノリで毎日お弁当を作ってるのはハルトさんです!


 お弁当効果かは分からないけど、前は九時位まで忙しかったのが同じ量を八時くらいまでに売ってしまえている。

 ピークを超えれば、結構のんびりできるのでありがたい話だ。


 空いた時間で晴れていれば早くからお布団を干せるし、魔法の勉強も出来る。


 そう。あれから私は魔法の勉強をしている。

 幸い、この家にはその手の本には困らない。

 分からない事が有ればハルトさんが起き出してから聞けば良い。

 ハルトさんも驚いていたけど、私には魔法の才能があるそうだ。


「知力と魔力量のステータスは悪くないから伸びるとは思っていたけど、これほどとは…。」


 と、ハルトさんを唸らせる程度には素質があったみたい。

 大体、ハルトさんと比べて半分くらいの期間で習得してるって言ってた。


「ふはははは!!私の美貌と才能が怖い!!」


 感極まって、大きな声でを出してしまったけど気にしない!

 どーせチャームの効果で、それも魅力になるだろうし。

 お金を落とすだけの名前も出ないmobキャラだし。


 いやいや。お客様だ。おちつけー。落ち着くのよ!妙子!

 名前も無いmobキャラでもお客様だ!

 気持ちを切り替えてお客様を接客するのよ!


 忙しくても、そこそこの余裕を持ちつつ、伊丹妙子の朝は過ぎていくのだった。


* * * * *


 朝の九時。

 客足も落ち着きのんびりとした時間が流れる。


 お洗濯をしたり、布団を干したり、お昼ごはんの下ごしらえをしたり。

 ボーっとしたり、窓際で日向ぼっこをしたり、お菓子を食べたり。


 ある程度やる事をやっちゃって、のんびりした後は勉強!

 コーヒーを淹れて優雅に魔法の勉強をする。


 魔法の勉強は意外と楽しい。

 本を調べて新しい事を知る。

 ハルトさんに習って分からなかった事が解決する。

 これまでに勉強した事や習った事をノートにまとめ直す。

 ノートにまとめ直す事で客観的に自分を見て次の目標を決める。


 勉強は地道な作業の繰り返しだけど、出来ない事ができる様になるのは嬉しくて、何を学ぶとしても「楽しい」や「嬉しい」と言う気持ちは大事だと思う。


 特に魔法が目に見えて成果が現れるから面白い。

 だから、余計にのめり込む。


 私の中に全く無い知識だったから、最初は魔法と魔術がどう違うかなんて事も分からなかったけど、聞いてみたら理解するのは簡単な事だった。


 未だに納得はしてないけど…。


 よし。納得する為にもう一度書き出してみよう。


~~~~~~~~~


 魔術って言うのは、魔力を事象に変換するために魔術公式をマナを込めて書き回路を作る。

 そこに呪文詠唱する事で魔力を回路に流し込んで利用したい効果を発動させる術。


 魔術公式は紙や床に書く方法も有るけど、戦闘中や移動中などには何もない空間に書く事の方が多い。

 つまり、魔術師が行うアクションは単に格好いいからとか厨二病的な理由で行っているワケじゃない。

 あれは、正確に魔術陣や魔術公式を書いて回路を作り、呪文詠唱する事で適正量の魔力を流し込む為に必要なプロセス。

 それが正確に行えないと効果は発動しないそうだ。


「電気製品の電気回路が間違っていたら電気製品は動かないし、設定された電圧や電流が間違っていても電気製品は動かない。そう考えれば分かりやすいだろ?」


 と、ハルトさんに言われて一応の理解はしたけど、どうして空間に書いた物で効果を発動するのかは未だに納得がいかない!


「電気は通電性のある素材には流れるけど通電性の無い素材には流れない。じゃあ、どうして電気は通電性のある物だけに流れるのか?と言われたらそう言う特性だからとしか言いようがないだろ?つまり、そういう事だ。」


 と、言われて、これまた理解はしたけど、空間に書いた回路に魔力が流れて、火が出たり氷が出たりする仕組みは、何と言うかこれまでの常識外の事すぎてモヤモヤっとした疑問は残ったままだ。


 ちなみに、魔術師が装備しているロッドや杖や指輪などは、正確に魔術陣や魔法公式を書くための補助効果が有るアイテムらしい。

 あの一見、何の攻撃力も無さそうな装備はコンパスや定規の様な物で、より正確に魔術陣や魔術公式を書く為に必要な装備なんだって。


 装飾や形にも意味があって、イカツイ魔術師が魔法少女的なステッキを持っていても仕方ないそうだ。


 あの時は衝撃的だった…。

 全身、魔法少女装備のおっさんを街で見かけた時は二度見した…。

「趣味であんな格好をしてるワケじゃないよ。」と、半笑いでハルトさんが解説してたけど…。

 あれが趣味でないなら何だって言うのだろう…。

 五十代くらいの渋い髭を生やした紳士が「ニチアサか!!」と言わんばかりのミニスカヒラヒラの魔法少女コスプレしていたら、あんな変態紳士はお巡りさんに通報されても仕方ないよね…。


 だが、それがこの世界の日常!


 「・・・・・・。」


 嫌すぎる…。

 そんな日常は嫌すぎる…。

 嫌すぎるけど「アレは何キュアだったのかなぁー?」と言う話題でしばらく盛り上がったのは楽しい思い出だ!


 ちなみに、魔法使いにとってもロッドや杖はブースターの様な効果が有るらしい。

 ハルトさんは、あまり使う事は無いらしいけど趣味で装備している人も多いそうだ。


 続いて、魔法使いが使用する魔法!

 魔法の説明は実にシンプルだ!


 ハルトさん曰く、「魔術師が行う一連の動作を、頭の中のイメージだけで行うのが魔法だよ。」なんだって!


 ・・・・・・。

 どうしよう。また意味がわからない。

 まだ、魔術は『空間に干渉して事象を発動する』と言う事で無理やり納得出来るけど…。


「頭の中でイメージしただけで発動とかどんなチート!?どうやって、頭の中から出すって言うの!?」


 最初はそう思った。


 ハルトさん曰く、「空間に図形とかを書く事で魔術が発現するとか、元からこの世界は無茶苦茶なんだから、それを脳内で正確に映像化出来れば魔術が発動するって仕様も納得するしかない。実際にそれが発動する世界なんだから。それを確認出来る以上は認めるしかないよ。」だそうです。


 うん。仕様なら仕方がない。


 仕様。それは魔法の言葉。

 どんなバグでも仕様だと言い切ってしまえば仕様なんだ。

 最悪、裏技とかウルテクと言って誤魔化しちゃえば良い。

 魔法が使えるからって進行不能になる様な重大なバグでもないんだもん。

 ハルトさんがオタク特有の妄想力のお陰で大魔法使い並の実力を持ってるのも仕様だ。

 そう考えればハルトさんの妄想力=イメージ力=大魔法使いって言うのも納得出来る。

 そのお陰で色々助かっているのも事実だし、その仕様は仕方ない。


 うん。理解した!

 でも、納得は出来ない!


「じゃあ、魔術を覚えながら魔法を試せば、速攻で魔法が使えちゃうかも知れませんね!」


 とか、軽い気持ちで試さなければ良かった。

 まだ、簡単な魔法しか使えないけど…。

 私がハルトさんよりも早いペースで魔法が使えるようになってるのは事実…。


 これじゃあ、私がハルトさんよりも妄想癖みたいだよ!

 なんか、そこが一番納得できない!


「あはは。妙子ちゃんは想像力豊かなんだね。」


 とか、やんわりと言ってたけど、きっと失礼な事を考えていたに違いない!


 魔法がこんなにも早く使えたのは嬉しいけど…。

 やっぱり、何だか納得は出来ない!


~~~~~~~~~


「うーーん。こうやって書き出してみたけど、何だろう…。これって。ホント何よ?仕様って!!確かに実際に魔法使えちゃうけど!!使えちゃうけど納得できない!!じゃあなに?ハルトさんより早いペースで魔法が使えちゃった私は妄想女子!?そりゃぁー、リック×ハルトさんとか克明に頭の中だけで想像出来るけど…。できるけど…。でも、納得出来ない!!!」


 ふぅ…。あまりにもお店が暇だったから思わず声を荒げて白熱しちゃった…。


「まぁ良いや!お腹すいたしお昼ご飯でもたーべよっと♪」


 仕様の一言で問題を解決する大人のずる賢さ。

 運営者が「それで普通です。」と言えば普通となる世の中。

 それは、この世界でも同じだった。


 もし、本当に魔法に問題が有るならロールバックして魔法は禁じられているだろう。

 今もこの世界で魔法が使えると言う事は、これは仕様なのだ。

 考えるのも面倒になったので妙子は仕様と言う事で納得する事にした。

 今日、彼女は理不尽を受け入れると言う大人への階段を一歩登ったのだった。


* * * * *


 昼の十一時三十分。

 そろそろ、ハルトさんが起き出す時間だ。

 私が店番をする様になってから、ハルトさんはすっかり地下の工房に引きこもっている。

 引きこもっていると言っても、一日一回は魔法についての講義をしてくれるし、ポーションの製造はしているみたいで補充が切れた事は無い。

 私が買い物とかで出かける時には店番もしてくれるし、夕方からは喜々としてお弁当を作ってる。


 何時に寝ているのかは分からないけど、昼まで姿を見かけない事を考えると朝方まで作業をしていそうな気がする。


 最近は、泊まりでダンジョンに潜るパーティが増えているみたいで、その対応が忙しいとか言ってたなぁ。

 普段は、オートで魔物の出現率やら宝箱の補充を行っているらしいけど、深夜でテンション上がった冒険者がイレギュラーな行動をして大変なんだそうだ。


 何となくわかる。MMOとかで山に登るのとか楽しいもんね。


 あと、ダンジョンの拡張も行っているらしくて、「見て!妙子ちゃん!この王座の後ろに階段作ったんだ!王道だけど中ボスを倒して隠し階段を発見した冒険者達が更に深層が有ると知った時の絶望の表情とか今から楽しみだ!」とか、どーでも良い事で深夜に叩き起こされた時には、石の中にでも埋めようかとも思ったけど、ハルトさんなりに頑張ってはいるみたいだから今の所は何とか耐えてる…。


 現在は、地下十三階の施工に取り掛かっているらしい。


「ふぅ。忙しくなる前にハルトさんのご飯の準備でもしようかなー。」


 野菜を洗ってハルトさんの昼食の準備に取り掛かる。

 今日は、じゃがいも・ニンジン・もやしと豚肉の炒め物でも作っておこう。

 副菜にほうれん草のおひたしと、朝に作ったニンジンとたまごのスープが有れば格好がつくだろう。

 一応、頑張ってはいるみたいなので、お昼くらいはちゃんとした物を食べて欲しい。


「もう少し早く置きてくれれば一緒にごはんが食べられるのになぁー。」


 教会のお務めが一段落するのが十二時ジャスト。

 教会は時間に正確なので、この時間辺りからお店が忙しくなる。

 教会で仕事をする人も居れば、昼から冒険者としてダンジョンに潜るプリーストも居る。


 お昼を食べてから出発する人の方が多いので、お店が一番忙しくなるのが十三時付近だ。

 そして、一段落着くのが十四時くらい。


 そのタイミングを見計らってかハルトさんが顔を出す。


 十二時にはご飯を作って置いておくけど、忙しくなる前に商品の補充とか準備をしてキッチンを覗くと、いつもご飯が持って行かれているから起きているのは確実なんだけど…。

 ハルトさんがご飯を持っていく様子を確認できた事はない。


「まったく。ニュースとかで見た事あるような行動をホントにするんだなぁ…。」


 引きこもりってやつはホントにどーしょうもない。

 家の人間に会わないように行動するとか食事を作った人間に対する感謝が感じられない。

 思わず愚痴が溢れる。


「まぁ良いや。午後からもガッポリ稼ぐぞぉーーーーーー!」


 ハルトさんの餌なんてテキトーに作って、こっちはこっちでやる事をやろう。

 今の私に出来る事なんてちょっとした事だけだ。


* * * * *


「すいませーん。郵便です。受け取りのサインお願いします。」


 午後一時五十二分。

 少し忙しさも落ち着いた昼下がり。

 コーヒーを淹れて休憩をし、少しウトウトしていた所に郵便屋さんの襲撃を受けた。


「はーい!あっ。いけない。ヨダレが…。」


 最低限の身だしなみをテキトーに整えて、お店の前で待ってくれている郵便屋さんの所に向かう。


「ごくろうさまです!これで良いですか?」

「はい。確かに。」


 いつもの太マッチョな郵便屋さんが困った様子で動こうとしない。


「あれ?何か問題ありましたー?」


 何か言おうと迷っている様な様子だ。

 コーヒーと一緒に食べたクッキーのカスでも口の周りにでも着いていたかな?

 口の周りをハンカチで拭いて郵便屋さんの方を見直すと今にも爆笑しそうな感じ。


『むっ。』


 失礼な。何かあるなら言ってくれれば良いものを!と、言うう気持ちが伝わったのか郵便屋さんが教えてくれる。


「タエコさん。クッ…。左のほっぺに凄い痕が着いてますよ。休憩も程々にね。」


 ガーン!えらい所と見られてしまった…。

 ヨダレを拭けても、痕は消せない。


 まぁ、こればっかりはしゃーなしだ。

 見られたものは仕方ない…。


「ふぁーい。ありがとーございましたー。じゃあこれで。」


 恥ずかしい事もあるが、ここは塩対応で早く切り上げるに限る。

 自分が悪い訳でもないのに申し訳なさそうに去っていく郵便屋さん。

 良い人だ。今度、帰りにクッキーでも包んであげよう。

 そうすれば、ツンとデレの法則により私の評判が下がる事はないだろう。

 うん。そうしよう。


「しかし、大きな荷物だなぁー。なんだこれ?」


 身に覚えのない大きな木箱。

 私はこんなものを頼んだ覚えがない。

 と、言う事はハルトさんの荷物か…。

 代引きとかじゃなかったから良かったものの、こんな大きなの値段も高いに違いない。


「まーた、変な物でも買ったのかな?」


 たまに、こう言う大きな荷物とかが届く事がある。


 この前とかは…


「見てよ!妙子ちゃん!このフォルム凄くない!?さすがだよなー。この腰のラインとか最高だろ?!いやー。お願いして良かったよー!飾って良い?飾って良い?」


 と、お気に入りの彫刻家ミゲロ・ドドリゲスさん(27)に特注した『1/16 スケール妖精フィギュア』を、私にこれでもかと自慢された…。


 ミゲロさんもかわいそうに。

 聞いた話じゃ結構有名な新進気鋭のイケメン彫刻家だったのに…。

 ハルトさんによって萌の世界に引きずり込まれた事によって、作風がガラリと変わり、今では異端のロリコン彫刻家として有名だ。

 塗装までこなしてその彩色には定評が有り、一部のダメな人には「これまでにない芸術だ!」と評価されているみたいだけど作品内容や客層を見る…。


 どう考えても『HENTAI』です。

 ありがとうございます。


 まあ、どっちにしてもこの手の荷物はロクでもない事が多い。


「しゃーない…。取り敢えず荷物を入れておこうかな。」


 ・・・・・・。


 重い!


 いつもは大きな箱でも何とか押して動かせるくらいの重さなのに、人でも入ってるんじゃないかと言うくらい重い…。


「そう言えば、あのマッチョも今日は荷台を使ってたっけ…。」


 あの郵便屋さんなら多少重くても担いで持ってくるのに珍しいなぁとは思った…。


「だったら、どうして店前に置いてくのー!か弱い女の子になにさせんだ!」


 とは、思うけど、ちょっと前に馬車に轢かれそうになった女の子を助けるために怪力のリミットを開放して馬車を止めた事で、ちょっとした猫耳怪力少女として有名になってしまったから仕方ないのかも知れない…。


 なぜか、それで私のファンが増えたのは謎だ。

 この世界の住人の趣味が理解できない…。

 さすが、何でもありなこの世界なだけはある…。


「ふぅ。怪力リミット開放!」


 口に出してみたが何だかシックリこない。

 もう少し格好いい必殺技の叫びみたいなのがあっても良いと思うけど、考えたどれもが痛すぎて、最近は「怪力リミット開放」で落ち着いている。


 召喚陣の仕様で私にだけ見えるインターフェイスが目の前に展開されるんだから、そこだけで選択させてくれれば良いものを…。


 ハルトさんによれば「このシステムは魔術に系統する技術で設計されているから、発声による起動承認は必要なんだよ。」とか言ってたけど、これはきっと趣味だ。


 ハルトさんか師匠かは知らないけど、そっちの方が格好いいと言う理由だけで、小さな声だろうが取り敢えず発声しないといけない仕様になってそうだ。


 取り敢えず、この重い荷物を居住スペースの方に移動させよう。

 親のカードとか勝手に使って買い物をしてるわけじゃ無い分マシだけど、仕事をしている時間に大きくて邪魔な荷物を受け取らされるとか、やってる事はヒキニートと同じだ…。

 そう考えると少し頭が痛くなる。


「おっ!妙子ちゃん、おはよう!なんだい?その大きな荷物は?」


 リビングに入ると、そのヒキニートが満面の笑顔で新聞を読みながら『朝』の挨拶をしてくる。


「もぉ!『おはよう』じゃないです!いつもいつも!お昼すらとっくに過ぎてますよ!?」


 あまりにも良い笑顔で挨拶をしてくるから溜まったストレスが口から漏れ出す。

 一応、悪いとは思っているのか困った様な顔をしている。

 まあ、そこまで怒っているワケじゃないけど、少しは改善して欲しい。


「わかってるよ。でも、それが俺の生活スタイル!それに夜の方が建設要員の使い魔召喚とかも楽なんだから仕方ないじゃない?」


 カッチーン!

 

 うん。それは分かっているけど。

 理由は聞いたから理解もしている。

 でも、ヒキニートが夜中にゴソゴソ動き出す言い訳っぽくて少しイラっとした…。


 召喚術式には夕方の逢魔が時や、深夜の丑三つ時とか適切な時間があるそうだ。

 私が召喚された時に、召喚はガチャみたいな物だと言う説明を受けたけど、ランダム召喚だと特に重要らしく『良い者』を召喚されやすい時間らしい。


 うん。実にオカルティック!

 あんなのか運営が裏で告知なくユーザーや時期で確率を変動させていないなら、完全に運の世界なのに「この時間が当たりやすい!」とか言い出すのは滑稽な話。


 でも、魔物の召喚はオカルトそのもの。

 もしかしたら、本当にそうなのかも知れない。


 まあ、良いや。私が召喚とかをする機会もないだろうし私にとっては関係ない話だ。



 そ れ よ り も !



「まあ、良いですよ!それよりもこの大きな箱!ハルトさん!またロクでもない物を注文したんですか!?時間帯指定して自分が起きてる時に自分で受け取ってくださいよー!」


 ハルトさんがきょとんとする。

 あれ?これってハルトさん宛だよ?


「んぁ?最近、何か頼んだ覚えは無いんだけどな。差出人は…。無いな。なんだこれ?」


 本当に心当たりは無いようだ。

 中身の欄を確認すると『なまもの』と書かれている…。


「ハルトさん…。これヤバイんじゃないですか!?この大きさで『なまもの』ってなんですか!?ホントにハルトさんの注文じゃないんですか!?だったらヤバくないですか!?」


「お…おぅ…。確かにこの大きさで『なまもの』とかを差出人無記名で送りつけてくるとか尋常じゃないな…。燃やしてしまうか?」


『ガタン!』


 その『なまもの』が入った箱が動いた…。


「「ひぃぃぃぃぃぃ!!」」


 あまりの出来事に二人して恥ずかしい悲鳴をあげてしまう。

 仮にも大魔法使い級の魔法使いとその弟子が。


 日も暖かな午後の昼下がり。

 普段なら平和な日常が流れるその空間に置かれた、得体の知れない謎の箱。

 その正体を知り、私たちは驚愕する事になるのだった…。

はい。となりの新兵ちゃんです。

今回は、こちらに召喚された妙子ちゃんが、その後どの様な日常を過ごしているかを中心に描かせて頂きました。


また、魔法使いと言うと、メイジやメイガスやソーサレスやソーサラーやマジシャンやウィザードやら色々な呼び方が有りますが、私としてはちょっとした定義の違いや国によっての呼び方の違いだと思います。


ですので、今回は話のメインとして、この世界での分類としての「魔術師」と「魔法使い」の違いを妙子ちゃんを通して、その定義やらこの世界での魔術師・魔法使い事情を説明させて頂きました。


ちょっとググってそれっぽく定義した、この世界での分類なので「納得いかない」と言う方も居るかも知れませんが、仕様ですので諦めて下さい。


ちなみに、魔法使いでも召喚術式や禁忌魔法などを使用する際には、魔術師の様に空間や床に術式を描いて魔法を発動させる事は有ります。

召喚術式は既にこの物語でも登場していますが、系統によってや制御の為に必要など、それっぽい理由を思い浮かべておいて下さい。


これから物語中で使用されるかは分かりませんが…。


また、妙子ちゃんは「単に格好いいからとか厨二病的な理由で行っているワケじゃない。」と言っていますが、プロローグで語られた神をも凌ぐ上位存在が居たとするなら、「雰囲気」やら「格好いいから」と言う理由を述べると思います。

ええ。それは重要な事でしょうから仕方のないです。火力職ですもの。


と、言う事で「其之二|第一章」でした。

ここまでお付き合い頂き有難うございました。


それでは、またいつか。

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