↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は暴君のまま、騎士団長を犬にした~わかりにくい暴君の恋~  作者: チュチュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

忠臣の仮面


ケインから密かに届いた報せは、短いものだった。反乱軍の内部で、資金と武器の流れを辿った結果、その出所は、宮廷の奥深くにまで繋がっていた。名指しこそされていなかったが、状況証拠は、もはや一つの名前を指し示すには十分すぎた。報せの末尾には、いつものケインらしい、簡潔な一文が添えられていた。「くれぐれも、お一人で動かれませんように」。


同じ頃、俺自身が進めていた調査も、一つの結論に達していた。


先帝の代からの人事記録、兄弟たちの死の前後に交わされた書簡、母が倒れる直前に出入りしていた者の名簿。どれもが、遠回しに、だが確実に、同じ人物へと繋がっていた。夜ごと文机に向かい、古い記録を一枚ずつ突き合わせるたび、その輪郭は、少しずつ、だが確実に濃くなっていった。


宰相――ヴァルター・グリムシュタインだった。


幼い俺に、兄を疑う理由を囁いたのも。反対する貴族を、反逆者として告発する筋書きを描いたのも。母の死後、誰よりも早く俺のそばに寄り添い、「陛下はまだお一人ではありません」と繰り返したのも。すべて、同じ手によるものだった。


*


俺は、宰相を私室に呼び出した。


「お呼びでしょうか、陛下」


いつもと変わらぬ、穏やかな声だった。その顔に浮かぶ微笑みも、幼い頃から見慣れたものと、何も変わらなかった。


「お前に、聞きたいことがある」


「何なりと」


「先帝の代から今日まで、俺の周りで起きたことの、いったいどこまでが、お前の描いた筋書きだった」


宰相の表情が、わずかに動いた。ほんの一瞬だったが、俺はそれを見逃さなかった。


「……何を、仰りたいのか」


「もう惚けなくていい」


俺は、これまで集めた証拠を、一枚ずつ机の上に並べた。書簡、記録、名簿――積み重なったそれらを、宰相は黙って見下ろしていた。長年見慣れた微笑みが、初めて、その色を変えた。


しばらくの沈黙の後、宰相は静かに息を吐いた。


「……お気づきになるのが、思ったより早かった」


否定の言葉は、なかった。それが、何よりの答えだった。


「なぜだ」


俺の声は、自分でも驚くほど静かだった。


「兄弟たちを疑わせ、殺させたのは、なぜだ」


「陛下を、強くするためです」


宰相の声には、微塵の後悔もなかった。


「誰も信じられない皇帝こそが、最も強い皇帝になれる。私はただ、その道筋を整えていただけです。兄弟を疑えと申し上げたのも、反対者を殺せと申し上げたのも、すべて、陛下のためを思ってのこと」


「殺せと、お前が言ったのは事実だ」


俺はそれを、否定しなかった。


「だが」


俺は、宰相をまっすぐに見据えた。


「殺すと決めたのは、俺だ。お前の言葉に従ったのも、それを選んだのも、俺自身の意志だ。その罪を、お前一人に押し付けるつもりはない」


宰相は、初めて、意外そうな顔をした。


「……そのように育てた覚えはありませんが」


「お前がどう育てようとしたかと、俺が何を選んだかは、別の話だ」


俺の言葉に、宰相は長い間、何も答えなかった。やがて、静かに一礼した。


「陛下は、私の思っていたよりも、ずっと厄介な人間に育ってしまわれたようです」


その言葉には、初めて、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。俺はそれを、確かな手応えとして受け止めた。


「もう、逃げ場はない」


「さて、それはどうでしょうか」


宰相は、口元にいつもの微笑みを戻していた。だが、その目の奥には、これまで見たことのない、冷ややかな光が宿っていた。


「陛下は、まだご存知ないようだ。この国の反乱勢力は、もはや私一人の手で動かせるものではなくなっています。仮に私を捕らえたところで、事態は止まりません」


「脅しのつもりか」


「事実を申し上げているだけです」


宰相は、そう言い残し、静かに私室を後にした。その足取りに、これまでと変わらぬ余裕が見えたことに、俺は微かな不安を覚えた。


一人残った俺は、机の上に広げたままの証拠を見つめた。宰相の正体は暴いた。だが、それで終わりではない。むしろ、ここからが本当の戦いになる。ケインが今も敵の内側にいることを思うと、悠長に構えている暇はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。