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俺は暴君のまま、騎士団長を犬にした~わかりにくい暴君の恋~  作者: チュチュ


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13/20

原作にはない死


その朝、侍従長ミラが姿を見せなかった。


いつもなら、日の出と共に静かに執務室へ現れ、俺の一日の予定を淡々と読み上げる。それが、この宮殿における数少ない、変わらない日常だった。感情を表に出さない俺の唯一の"日常"を知る人物として、彼女はいつも、静かにそこにいた。


「ミラの姿が見えません」


ケインが、珍しく困惑した様子で報告に来た。普段のミラなら、体調を崩したとしても、必ず誰かに一言伝えてから休むような人物だった。その一報だけで、俺は嫌な予感を覚えた。


「使いの者を出せ」


そう命じてから、さほど時間も経たないうちに、悲鳴に近い報告が届いた。


ミラは、宮殿の裏手にある古い書庫の奥で、冷たくなって発見された。


*


現場に駆けつけた俺は、しばらく言葉を失っていた。物盗りの形跡はない。争った痕跡も、ほとんどなかった。まるで、抵抗する間もなく、命を絶たれたかのようだった。書庫の棚には、彼女が調べていたとおぼしき古い記録が、乱れた様子もなく積まれたままになっていた。


「陛下」


ケインの声が、静かに耳に届いた。


「ミラは、最近、何かを調べていたようです。私にも、少しだけ話してくれたことがあります」


「何を調べていた」


「詳しくは、聞けませんでした。ただ、"陛下の周りに、まだ気づいていない何かがある"と、そう言っていました。あの人らしい、控えめな言い方でしたが」


俺は、床に横たわるミラの姿を見つめた。いつも冷静で、誰よりも俺の変化に敏感だった彼女が、もう二度と口を開くことはない。その事実が、まだうまく実感として結びつかなかった。


この記憶の中に、彼女がこんな形で命を落とす場面など、一度もなかった。


原作の記憶を、必死に辿った。ミラという名の侍従長は、確かに存在していたはずだ。物語の中でも、皇帝の傍らで淡々と職務をこなす、印象の薄い脇役として描かれていた。だが、彼女がこの時期に死ぬという展開は、どの記憶を探しても、見当たらなかった。


「……ない」


思わず、声が漏れた。


「陛下?」


「この展開は、俺の知る物語には、存在しない」


ケインが、息を呑む気配がした。


「つまり」


「この国の未来は、もう俺の知っているものとは、完全に違う道を進み始めている」


これまで、俺はどこかで、原作の記憶を最後の拠り所にしていた。何が起きるかを知っているという事実だけが、この危うい綱渡りを支えていた。だが今、その拠り所そのものが、音を立てて崩れ落ちた。


「これから先は」


ケインが、静かに続きを引き取った。


「陛下にも、見えないということですね」


「そうだ」


俺は、それを認めることに、これまでにない恐怖を感じていた。誰も知らない未来へ、これから先、手探りで進んでいかなければならない。


「陛下」


ケインの声が、思いのほか近くから聞こえた。


「見えないのなら、一緒に探すしかありません。これまでのように、陛下お一人で抱える必要は、もうないはずです」


俺はケインを見た。その目には、これまでのどんな時とも違う、確かな決意が浮かんでいた。


「ミラの死を、無駄にはしません。彼女が何を調べていたのか、必ず突き止めます」


俺は小さく頷いた。それ以上の言葉は、今はまだ見つからなかった。


書庫の中を、ケインと二人で見回した。棚に残された記録の中に、ミラが最後に触れていたであろう痕跡がないか、探し始める。手がかりはまだ何もない。だが、少なくとも、これからは一人で探す必要はなかった。


ミラの亡骸の前で、俺たちはしばらく、無言のまま立ち尽くしていた。この国の未来は、もう誰にも見えない。原作という名の地図は、もう役に立たない。それでも、進むしかなかった。


「彼女には、きちんとした弔いを」


「はい。責任を持って、私が手配します」


ケインの声には、静かな覚悟が滲んでいた。俺はもう一度、床に横たわるミラを見た。いつも控えめで、多くを語らなかった彼女が、最後に何を見つけようとしていたのか――それを知る術は、もう本人の口からは得られない。だからこそ、必ず突き止めなければならなかった。

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