第3章 I Love You の恐怖
図書室は、静かすぎた。
ページをめくる音。
ペン先が紙を擦る音。
誰かの小さな咳。
それらが妙に遠く感じる。
(……息、浅い)
自分で気づく。
呼吸が、うまくできていない。
さっきの光景が、頭から離れない。
――「I Love You」
ただ、それだけの文字。
ありふれた言葉。
どこにでもある。
本のタイトルとしては、何の違和感もないはずなのに。
(……なんで)
胸の奥が、ざわつく。
あの瞬間。
カウンターに置かれた本。
その横に立っていた“教師”。
自然すぎる距離。
偶然にしては、出来すぎている配置。
(違う)
本能が告げている。
(偶然じゃない)
指先が、じんわりと冷える。
本を受け取ったとき、自分の手がわずかに震えていたことを思い出す。
(見られてた)
確信ではない。
でも、否定もできない。
(ずっと……?)
考えたくない。
でも、思考は勝手に進む。
いつから?
どこから?
何を見られている?
(やめて)
頭の中で、声がする。
それ以上考えたら、崩れる。
でも。
止まらない。
椅子に座る。
本を開く。
文字が、目に入らない。
(読めない)
視線だけが、ページの上を滑る。
意味が入ってこない。
(集中して)
自分に言い聞かせる。
いつも通りに。
普通に。
大丈夫なふりをする。
それが、自分のやり方。
でも。
(無理)
耳が、勝手に周囲の音を拾う。
足音。
椅子の軋み。
遠くの話し声。
すべてが、“気配”になる。
(いるんじゃないか)
背後に。
視線の外に。
(見てるんじゃないか)
その考えが、離れない。
首筋が、じわりと熱くなる。
見られているときの感覚。
あの、嫌な感じ。
(気のせい……?)
そう思いたい。
そうじゃないと、持たない。
でも。
(あの本……)
ただのタイトル。
でも、あのタイミング。
あの位置。
あの視線。
全部が繋がる。
(わざとだ)
その結論に辿り着いた瞬間。
心臓が、大きく跳ねた。
ドクン、と。
(……やばい)
息が詰まる。
肺がうまく動かない。
手のひらに汗が滲む。
(落ち着け)
強く言い聞かせる。
こんなの、初めてじゃない。
怖い思いなんて、何度もしてきた。
夜道。
知らない男。
視線。
手。
(平気でしょ)
ずっと、そうやってきた。
感じないようにする。
考えないようにする。
それで、乗り越えてきた。
なのに。
(違う……)
今回は、違う。
“逃げ場”がない。
学校。
教室。
図書室。
日常の中に、入り込んでいる。
(どこに行けばいいの)
頭の奥が、締めつけられる。
ぎゅっと。
見えない手で掴まれているみたいに。
(やだ……)
小さく、唇が動く。
声にはならない。
周りには、誰も気づかない。
でも。
自分の中では、確実に何かが崩れている。
(どうすればいい)
助けを求める?
誰に?
教師?
(あの人が教師だよ)
笑いそうになる。
笑えないのに。
(誰も信じられない)
その考えが、静かに沈む。
深く。
重く。
(……一人でやるしかない)
いつもの結論。
それしか知らない。
それしか選べない。
でも。
胸の奥に、別の感情が浮かぶ。
一瞬だけ。
(……昴)
名前が、浮かぶ。
すぐに消そうとする。
(違う)
頼るな。
巻き込むな。
あの人は、こっち側じゃない。
(関係ない人)
そう言い聞かせる。
でも。
あの時の声が、よぎる。
「危ないだろ」
(……うるさい)
心の中で、押し返す。
でも。
完全には消えない。
図書室の空気が、重くなる。
時間が、やけに遅い。
ページをめくる音が、大きく響く。
(帰りたい)
その一心だけが、残る。
でも、立ち上がる勇気が出ない。
背中を見せるのが、怖い。
(後ろにいたら)
想像が、勝手に膨らむ。
(ついてきたら)
(触られたら)
(逃げられなかったら)
「……っ」
思わず、息を飲む。
肩がわずかに揺れる。
その小さな反応さえ、自分で分かる。
(壊れてる)
冷静な自分が、どこかでそう言う。
(これが、続いたら)
どうなるか。
想像したくない。
でも、分かる。
じわじわと。
確実に。
削られていく。
心が。
日常が。
自分が。
(……嫌だ)
初めて、はっきりと思う。
今まで、何とかしてきた。
我慢してきた。
やり過ごしてきた。
でも。
(これは……)
無理だ。
鈴は、ゆっくりと本を閉じた。
音が、やけに大きく響く。
立ち上がる。
足が、少しだけ重い。
それでも、歩く。
一歩ずつ。
振り返らない。
振り返ったら、終わる気がした。
(大丈夫……大丈夫……)
何度も繰り返す。
呪文みたいに。
でも、その言葉は――
自分自身にさえ、ほとんど届いていなかった。
草稿を入力してAIが書きました。
小暮鈴の心理もAIにしては中々のものですね。




