レベル99 冒険の続き
翌朝、私たちは船に乗ってイースを出港した。
何も知らなかったときのナオトに飛行機の影を見せてしまうわけにもいかなかったので、イースには船でしか出入りができないのだ。
私は一人で甲板に出て、久しぶりの潮風を浴びながら遠ざかる違世界島を眺めていた。
「まさか本当に勇者になっちゃうなんて思わなかったニャ」
ここへ来る前は大人になっても勇者のままなんて人はいないと思っていた。
かつて私を野犬から守ってくれた小さな勇者も、大人になるにつれて現実に慣らされていったはずだし、きっとどこかで勇者をやっているだなんて考え方は王子様を信じる乙女の延長線でしかないのかもしれない。
いつまでも淡い想いを抱き続けるのもどうかと思うし、今の私にはナオトがいるのだから、子どもの頃に一度会ったきりの勇者にずっと想いを馳せているのも彼に失礼かと思う。
これも私にとってはいい機会だ。昔のことはこのまま違世界島に置いていこう。
「グッバイ。マイリトルヒーロー……」
そんなふうに黄昏れていると、私のところへナオトが歩いてやってくる。
「イース……どんどん遠ざかっていくんだぜ。……あんな形をしていたんだな」
「ナオト様、もしかしてイースが名残惜しいニャ?」
そんなふうに尋ねる私にナオトは少し呆れた顔を向ける。
「リリはいつまでそんな口調を続けるんだぜ?」
「あっ……これはもうクセになっちゃってるニャ……」
「まぁ口癖は少しづつ直していくにしても、せめてナオト様なんて呼び方は直してほしいんだぜ」
「あ。それもそうニャ……」
私は頭を悩ませる。好きと言ってしまったあとに冷静に呼び方を変えるだなんてなんだか少し恥ずかしいのだ。
「じゃあ……ナオ君、とかどうかニャ……?」
私がそう言うと、ナオトは少し驚いたように目を丸くした。
「リリ、もしかして記憶が戻ったんだぜ!?」
酷いな! 人を記憶喪失みたいに!
「失敬ニャ! 私をセツと一緒にしないでほしいニャ!」
私が少し怒ったように言うと、なぜかナオトはホッとしたようだった。
「なぁんだ、まだ気づいてないのか。ならいいんだぜ」
「ニャ!? まさかナオ君、さっそく私に隠しごとニャ!?」
「はは。あのとき教えてあげようと思ったのに、それを遮ったのはリリなんだぜ?」
あのとき……?
そういえば真実を知ったナオトに私の本当の名前を伝えたとき、彼は少し驚いて何かを言おうとしていた気もする……。
「そういえばそんなこともあったニャ……それで結局、ナオ君はあのときなんて言おうとしたニャ? 今度は俺が真実を隠すほうだとかなんだとか、意味のわからないことを言ってたニャ」
それに名前を聞いただけで私が年齢を偽っていたことも当ててきたっけ。
まるで私のことを前々から知っていたみたいに……なんて、そんなことはありえないか。
「なんでそんなことを言ってたニャ? 正直に白状するニャ」
私が問い詰めるとナオトはからかうように笑う。
「だめだめ。これはしばらく内緒だぜ」
「ズルいニャ!」
「あとでちゃんと教えるって」
「気になるニャ! それはいつ教えてくれるのニャ!」
私が食い下がると、ナオトは少し考える素振りを見せてからまたイジワルに笑う。
「そうだなぁ……じゃあ、人生の終わりのほうにしようか」
「そ、そんなに先の話ニャ!?」
「これは俺を騙していたリリへのお返しみたいなものだぜ……人生の最後に、それまでのことをひっくり返すような真実をお見舞いしてやるんだ」
「ひ、酷くイジワルな勇者がいたものニャ……」
「大丈夫さ……リリが真実を知ったとき、より幸せに思ってもらえるよう、俺はこれからも頑張っていくんだぜ」
「……ということは、それはいい隠しごとなのかニャ?」
「さぁ……? それはそのときまで楽しみにしておくんだぜ」
「ニャ~! やっぱりイジワルな勇者になっちゃったニャ~!」
私たちは少しじゃれ合いながら、これからのことに期待しつつ、日本への船旅を楽しむのだった。
それから少しして。
キメラ問題が明るみになった九条財閥は世間からの厳しいバッシングを受け、大きく信頼を失った。企業としては絶対絶命の危機に陥ったわけである。
しかし鳴り止まぬバッシングであっても、最後には大方こんな締めくくりの言葉があった。
『だが勇者ナオトなら信じる』
ついにナオトは世界中で勇者として認められてしまったのだ。
『偽りのない彼の姿はいつも正義だった』
『我々がナオトを笑っても彼は許してくれた。ならば今度は我々がナオトを信じる番だ』
『にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!』
そして傾きかけた九条財閥は組織を再生するため、こんな役職を設けた。
『取締役勇者』
世界に例を見ない役職となったナオトは、一日も早い九条財閥の信頼回復を目指し、今日も世界中を忙しく飛び回っている。
そして私は……特別辞令が出たまま異動もない。
つまりは特別職『ヒロイン』のまま。
「ナオく~ん! 待ってニャ~!」
「遅いぜリリ! 勇者は立ち止まれないんだ!」
勇者をサポートしながら、ともに忙しく世界中を冒険している。
了
ここまでお読みいただき、本当に、ほんとぉ~に、ありがとうございます。
異世界メタの現実コメディ、いかがでしたか?
勇者だけが異世界と思っているとか、ほかにはない世界観になったと思っています。
設定的にSF(少し不思議)ですが、「シュール&fun(もしくはfantasy)」と思っていただけたら嬉しいです。個人的に、少し変な方向にズレた作品を書くのが好きなのです。
よかったと思っていただけたら、高評価やブクマもお願いします!
さて、最後に作品紹介をさせてください。
「現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる」(完結)
アマゾナイトノベルズさま(クリーク・アンド・リバー社さま)より!
ぜひぜひ、よろしくお願いします!










