世界をちょっと幸せに
宴もたけなわが近づいてきた頃、私はいつの間にか姿を消したロイヤの姿を紫陽花亭のバルコニーに見つけた。
そしてどこか仲間の輪に入りにくそうにしている彼の横顔を見て、今のうちに話をしておこうと近寄った。
「どうしたッスかリリアンさん。宴の主役がこんなところに抜け出して」
背後を見ているわけでもないのにロイヤは近づく私の正体を見破った。
「さすがは真の勇者。よく気づいたニャ」
「やめてくださいッスよ。たしかに魔王セラと一番関わりがあったのはオレッスけど、結局はセラを止められなかったんスから、勇者の資格なんかないんス」
「そんなことないニャ。あそこで立ち上がってセラさんを足止めしてくれなければ今頃どうなっていたことか……。それに、それを言ったら一番タチの悪いのは仲間をけしかけて自分は何もしてない私ニャ。炎上待ったなしニャ」
「いや、リリアンさんがいなければ個性派ぞろいのパーティーはたちまち崩壊してたッスよ」
ははは、とロイヤは軽く笑った。
「ロイヤはこれからどうするニャ?」
「顔も名前も広く知られてしまったッスから、今までのように黒子衆ってわけにはいかないッス。しばらくはセラの回復をサポートして、それから考えるッスよ……この過ちをどう償っていくか、二人で一緒に考えていくッス」
あのあとセラは気を失ったが、どうやら命に別状はないとのことだった。
「ナオトさんには感謝しかないッス……セラは自分に自壊コードの影響はないと思ってみたいッスけど、予想以上にキメラ化の影響が強かったみたいで。あそこでナオトさんがかばってくれなかったら危なかったかもしれないッス」
そしてロイヤは気まずげに苦笑いする。
「リリアンさんにはすみませんでした。セラがあんなふうに襲いかかったり酷いことを言ったり……」
「大丈夫。……私も以前セラさんと少し話したことがあるけど、そのときはもっと穏やかな人だったと記憶してるニャ。もしかしたらキメラ化の影響で性格にも影響が出ちゃったのかもしれないニャ」
「そう言ってもらえると、少し救われる思いッス」
「……セラさんの容態はどうニャ?」
「なんとかってところッスね……ですが一刻も早く専門医療につなげる必要があるッスから、明日を待たずに島を出るッス」
「そう……そうなるとロイヤは付き添いかニャ?」
私は少し残念に思った。
仲間と一緒に、明日そろってこの島を出発したいと思っていたからだ。
「そうッスね……このあとすぐ出発ッス。なのでみなさんとはここでお別れッス」
「みんなにあいさつはできたニャ?」
ロイヤは力なく首を横に振った。
「合わせる顔がないッスよ……」
「らしくないニャ。いつもの明るいロイヤのほうがいいニャ」
「さすがにここまで世間を騒がせておいて平然とってわけにはいかないッスよ」
「そうかニャ? たぶんナオト様なら余裕ニャ」
「それはナオトさんが異常なんス」
ロイヤは軽く笑う。
「ナオトさんは本当に強い人ッスね……」
「私もびっくりニャ」
「オレ、ナオトさんを見て思ったッス。勇者ってのは特別な因縁でなるものでも、決められた人がなるものでもなかったんスよ」
ロイヤは少し遠い目をしてしみじみと言った。
「同意ニャ。真の勇者ロイヤには悪いけど、ナオト様は真のガチで勇者になったニャ」
「ええ……まさに今、世界中がナオトさんに熱狂ッス」
眼下で住民たちと楽しそうに語らうナオトを見ながら、少し切なそうな表情をするロイヤ。
「どんな勇者が持つ伝説の剣も、一番最初は伝説じゃないんス」
「アルミームソードがそうだと言いたいニャ?」
ロイヤは小さく頷く。
「まさしくアルミームソードはナオトさんにしか使えない伝説の剣になったッス」
「たしかに……粉々になってさえ、いや、粉々に砕けたからこそ真価を発揮した……とはいえ、あんな使い方は最後まで剣を信じ続けたナオト様にしかできなかったニャ」
「それどころか今や世界中がナオトさんのとりこッス。つまるところ、きっと世界中に飛び散ったアルミームソードの欠片が、人を笑い、人を疑う魔物の心を穿ったんス」
なんてこったこのイケメン。
さっきセツがやらかしたアホな行為を美談にしやがった……。
「アルミームソードの真価は刃に在らず……私たちが適当に言ってたことが本当になっちゃったニャ」
「そうッスね……アルミームソードの欠片が人々の胸に突き刺さっている限り、世界はちょっとだけ人を信じられるようになるッス。オレはそう信じてるッス」
「それ、とってもいい考え方ニャ!」
「人々にそういう希望を与えられる人を勇者と呼ぶなら、ナオトさんは本当に勇者になったんスよ。信じられないことに、この現実世界で」
「本人にその自覚があるのかは不明だけどニャ」
「そういうところが、またいいんじゃないッスか」
ロイヤは爽やかに笑った。
「ナオトさんこそ真の勇者……いや、人を信じる『信の勇者』ッス」
「信の勇者……ナオト様にぴったりニャ」
私たちは小さく笑い合ってナオトに目をやった。
「さて、名残惜しいッスけど、オレはもう行くッス」
「元気でニャ」
「ええ。リリアンさんも」
私たちは握手を交わし、軽く微笑む。
そしてロイヤは夜の闇のなかに姿を消した。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
次回が最終話となりますが、ここで問題。(ジャジャン♪)
この作品のタイトル、あらすじ、本文に『異世界』という単語が何回出てきたでしょうか?
答えは……(ドゥルルル……ジャジャン!)
なんと『0回』でした~!
ここまで異世界をメタっておきながら、あえて一度も使ってないんですね~。
うせやろ!? って思った人は、高評価とブクマ、よろしくお願いします!
それから確認のためにもう一周、いっときます!?










