世界を救う魔法の粉
街へ帰還した私たちを迎えたのはイースタリアの住民による大歓迎だった。
配信によって様子を見守ってくれていたのだろう。ナオトが真実を知ったこと。それも含めて受け入れて立ち直ったこと。研究施設で起こっていたこと。
すべてを目の当たりにして、申し訳なさや感謝、安堵、あらゆる喜びが混じり合う大団円であった。
今はもう誰もがスタッフのふりをする必要がない。
相変わらず冒険者装備をしている者、堂々とスマホを取り出し凱旋する勇者の姿を撮ろうとする者、手をあげ声をあげ称賛する者、宴の準備に追われる者、実に様々な住民やスタッフがみな笑顔で騒ぎ立てていた。
ナオトは少し照れ臭そうに彼らに手を振りながら迎え入れられる。
私はその姿をうしろから眺めつつ、冒険の終わりを少しだけ惜しんでいた。
予想外の展開もあったが、結果的にキメラ殲滅の目的は果たせたわけだ。
イースでの最後の夜は住民すべてが参加する大宴会となった。
影の追跡者や紫陽花亭の女将さん、受付嬢にギルドマスター、王様、姫、大臣……配役も何も関係なく集い、大いに盛り上がったのだった。
私たち勇者パーティーの四人は主役として宴の中心に担ぎ上げられ、それはもう大変な思いをした。
そこで初めて見る中の人の本当の性格も多かったが、不思議なことに、みんながみんな素を出していたのか普段とあまり変わらない様子で話ができたのだった。
たぶんみんな、アドリブばかりで内心は演技どころではなかったのかもしれない。
「そこでワシがガツンと決めてやったのじゃ~!」
遠くから聞こえる改変率99パーセントの武勇伝に苦笑しながら、私はお世話になったスタッフの方々に挨拶をして回っていた。
「さぁて! ここらでワシがとっておきを披露してやろうかの!」
しかしほかの人との会話に花を咲かせていても、嫌でもセツのバカ騒ぎは耳に入ってくる。
「ここに取りいだしたる銀の粉! これこそまさに世界を救いし伝説の剣、アルミームソードの欠片なり~!」
あの駄作家……アバラ骨が折れて痛いとか言っていたくせに、あのあとドサクサに紛れて剣の粉をかき集めてやがったのか……。
私は呆れを禁じえない。
「今ここでしか真実性が担保されないこのアルミームソードの欠片! 一方、時が経てば経つほど伝説の価値が高まるのも自明の理……ともに冒険をし、同じ伝説と時間を共有したお主らならば、その証を形ある物で残したいと思う気持ちもあるじゃろう……!」
ん……? なんだこのセツの煽り方は……?
「特別に! 今ここでのみ特別に! この伝説のアルミームソードの欠片を! 運命に導かれてここに集った者にだけ分け与えてしんぜよう!」
私が眉をひそめていると、セツはやがてとんでもないことを言い出した。
「アルミームソードの欠片! 今なら特別価格! ひと粒たったの五千円、じゃ~!」
死んでしまえ。
「ふふふ……改変率99パーセントのラノベ作家などと世間に知られてしまえば、ワシの今後がどうなるかわかったものではないからの……ここでガッツリと稼いでやるぞい~。くくく……これぞ真の賢者というものよ……」
聞いてる。私が聞いてるよその言葉。
誰にも聞こえないように小声でほくそ笑んでいるようだけど、動画配信のため声を拾えるように付けていたマイク、あんたまだ切ってないから……!
ああ、一度でもマジになったセツを本当はまともな人間なのではと思った自分が情けない。
友のために手段を選ばず突っ走れる度胸だけは誰にも負けない美点であるのに、どうしてこの人はこんなにアホなんだろう……?
そんなふうに思っていると、ふいに強い風が宴の会場に吹き荒れ、セツが取り出したアルミニウムの粉はことごとく風に巻き上げられてしまった。
「あ! あ~っ! ワシの! ワシの魔法の粉がぁ~! ガフッ! ア、アバラがぁ~!」
どんな状況になっているのかは見るまでもない。
飛んでいったアルミームソードの欠片に手を伸ばし、折れたアバラが痛み悶えているのだろう。あんなのと仲間であったと思うと本当に情けなくなってくる。
結論。あんた本当に賢くない人だよ……。
私は一人ため息をついてセツに背を向けた。










