信じる勇者
ナオトはニヤリと笑ってそれに答える。
「天使の輪から出る妨害電波だけを断ち切ったんだぜ!」
「電波を、断ち切る!?」
セラは当然、私にも最初は何を言っているのかわからなかった。
だがこの場においてそんなことができるのはアレしかないとすぐに思い至った。
「まさかアルミームソード……粉々に砕けたアルミニウムなのかニャ!?」
「正解だぜっ!」
ナオトはしっかりとセラをホールドしたまま答える。
私は目から鱗が落ちる思いだった。
たしかにアルミニウムは電磁波を遮る特性を持つとはよく知られている。
だがこの土壇場で粉々に砕かれたアルミームソードを逆手に取ろうとか思いつくか!?
そしてそれを、この魔王セラを相手にして実行できるのか……!?
「ありえない! たとえ粉々に砕かれたアルミニウムを空中に散布しようとも、そんなものは気休め程度でしょ!?」
「いいや違うぜ? 俺はしっかりと天使の輪をアルミニウムでコーティングしてやったのさ……電波が漏れないようにしっかりとな!」
まさかそのために心が折れたふりをしてセラが近づくのを待っていたのか!?
「それもありえない! 粉になったアルミニウムがそんなにペタペタとほかの金属にくっつくわけないでしょ!」
「ああ。だから俺はこれを使ったんだぜ!」
そう言ってナオトが見せたのは彼の手のひら。
その手は折れたアルミームソードを強く握りしめたときに切った傷から赤い血が滴り落ちていた。
「血……? まさかっ!?」
セラは自分の頭上を見上げ、私たちの視線も自然とそこへ集まった。
セラの頭上に輝いていた天使の輪。それは今、粉末のアルミニウムを多く含んだナオトの血液によって真っ赤に塗られていた。
「私を抱きしめるふりをして……これを天使の輪に塗っていたと言うの……?」
セラは初めて愕然とした表情を見せた。
しかしすぐにその鋭い視線を装置に向ける。
「させない! こんなやり方で決着だなんて!」
しかし動こうにもナオトがしっかりとその動きを防いでいた。
「嘘つき! 私を信じるって言ったくせに!」
「ああ、言ったぜ? だけどそれは嘘じゃない」
「その女にも、世界にも、武器にも裏切られて心がバッキバキに折れたくせに!」
「ああ。だけど俺は何度だって立ち上がってやるぜ! 勇者だからな!」
「勇者勇者って、私と戦えもしない! 大して強くもないくせに!」
「いいんだぜ。俺は別に何かを倒す勇者になりたいわけじゃないからな」
「じゃあ何よ! あんたはいったい、なんだって言うのよ!」
再び強く抵抗し始めたセラを抑え込みながら、ナオトは少し笑った。
「俺は、人を信じられる勇者だぜ!」
そしてそれを聞いたセラの目は見開き、たちまち抵抗は弱まった。
「人を信じずに閉じこもってるのは辛いんだぜ? だから俺はもうそこへは戻らない。ちゃんと人を信じることができる勇者になるんだ……だから、キミのことも信じるんだぜ」
私にはそれが、勇者と魔王の決着であったかのように感じられた。
やがてそこへ起動時間となって自壊コードが照射されたのか、セラは急に苦悶の表情を浮かべて苦しみ出す。
「う、うあああ……な、なに、これ……!?」
「お、おい。どうしたんだぜ!? まさかセラ、お前にも自壊コードが影響するのか……?」
ナオトは心配そうな顔でセラを見た。
「そんなわけないでしょ……? で、でもまったく影響がないわけじゃないから……ちょっと苦しいかも……」
「大変だぜ! 早く身体を丸めて、俺の影に隠れるんだぜ!」
ナオトはセラの身体を小さく丸めるように促し、その身体を隠すように自らの身体で覆った。
「ど、どうしてそんなことを……!」
「さっき倒れてたとき、俺は砕かれたアルミニウムの粉を身体中に浴びてたから……少しは自壊コードの影響を和らげられるかもしれないんだぜ!」
「そうじゃなくて! どうして、どうしてあなたは私まで助けようとするのよ!」
「どうしてって……言っただろ? 俺は勇者だぜ!」
「バ、バカじゃないの……!?」
「それでもいいさ……これは俺がそうしたいって決めたことだからな。仲間も信じる。世界も信じる。そしてキミのことも、しっかりと立ち直ってくれると信じているんだぜ!」
ナオトはそんなことを笑顔でサラッと言ってのけた。
「本当にもう……私、あなたが悪い人に騙されやしないか心配よ……?」
そう言うセラは少し呆れたように笑っていた。
「なら、そのたびに立ち上がってやればいいんだぜ」
言っても聞かないので諦めたのか、セラはゆっくりと目を閉じた。
「……ふふ。わかった……認める。あなたは本当に勇者よ……」
そして力尽きたのか、セラはナオトに抱かれながら笑顔のまま気を失った。
やがて自壊コードの照射も終わり、研究施設内に沈黙が訪れたところでナオトはゆっくりとセラの身体を床に寝かせる。
「大丈夫。彼女はまだ生きてる……きっと立ち直れるさ」
ナオトは最後までセラを信じ、その身を盾にして彼女の身体を守り抜いたのだった。
こうして無事に自壊コード装置は起動され、研究施設か溢れ出した危険生物はみなあるべき姿へと還った。
長きにわたる私たちの冒険は、ここにその目的を達成したのだった。










