砕けた信念
どうしようもない。そう思ったのはナオトも同じだろう。
だが、彼はまだ諦めていない様子でアルミームソードを握りしめ、一歩前に踏み出した。
「勝つ! たとえどんな状況だろうと、勇者がここで引くわけにはいかないんだぜ!」
この絶望的な状況で立ち上がるナオトをいったい誰が笑えるだろうか。
私はそう思って彼の背中を見つめていたのだが、そんな彼の姿を見て、まだそれを滑稽だと嘲笑する者がいた。
「あはははっ! ごめん、ちょっと待って! おかしくってさ! ナオトさん、もしかして、その剣で戦うつもり!?」
セラは場の緊張感も台無しにするほど明るく、腹を抱えて笑い出した。
「な、何がおかしいんだぜ!?」
「だって……いや、ごめんなさい。そうだよね、こんな状況でも立ち上がれるナオトさんはとても強い人だよ。そこは尊敬に値する……でもね? わかってる? 今のあなた、ギャグマンガみたいに滑稽な姿なんだよ? あっはははははっ!」
「な、なんのことを言ってるんだぜ……!?」
ナオトも私もキョトンとしてしまう。
セラがこうまで笑っている理由がまったくわからなかったのだ。
「わかる。わかるよ……? 今までずっと、あなたは自分をアルミームソードに選ばれた勇者って思ってきたんだもんね……? あなたの正義感も、真っ直ぐな心も、言わばそのアルミームソードが象徴しているようなものだった……」
「そ、それがどうしたんだぜ……!?」
「いやぁ……それがまさか、こんな場面でとんだ伏線回収をすることになっちゃうとはなぁ……本当にナオトさんには気の毒だよ……」
「伏線回収……だぜ……?」
「わからない? せっかく一度は立ち直ったところに悪いけど、世界があなたを騙していたということは、そのアルミームソードもまた、偽りだらけの伝説の剣だということ……」
「アルミームソードが……偽りの剣……?」
ナオトは眉をひそめた。
「最後の最後に残念だったね……? あなたの信念の象徴アルミームソード……それが今、根元からポッキリと折れちゃってるんだよ?」
「「えっ……!?」」
私たちの視線は即座にナオトが手に持つアルミームソードへと向かった。
そこにあったのは……。
「あっはははっ! ごめんね! すっごく真剣に立ち向かおうとしている姿は本当にカッコいいんだよ! でもさ! そのキリっとした顔で握りしめてる剣が……! まさかのポッキリ……! これ以上に滑稽な姿ってある!? あっははははっ!」
セラの言うとおり、アルミームソードは刀身の根元から変な角度に曲がってしまっていた。
「そりゃあそうだよね~? アルミームソードはアルミニウムの剣! 金属として最低限の強度はあっても剣には適さない玩具の剣! そんな物で筋肉や骨格が強化されたキメラをバッタバッタと倒してきたんだから……むしろ、ここまでよく保ったものだと思うよ~!」
「ウソ……だろ……!?」
さすがにこれにはナオトも愕然とした様子だった。
「惜しい……! 実に惜しい……! この剣さえせめて普通の剣であったなら、世界は滅びずとも済んだかもしれないのに……! あはっ!」
セラはナオトを憐憫に見つめながらも最後にはまた明るく笑った。
「どうしよう? 普通に戦っても私には勝てないだろうに、そのうえ最後には武器にまで見放されちゃったけど? ……待って? これ、爆笑魔法で私のおなかを捻じ切るつもり!?」
苦悶の表情を浮かべるナオトと笑うセラは、その力関係を表したように対照的だった。
「……だが、だが俺は、それでも……!」
「いやぁ、これ以上はさすがに見苦しいって……」
そう言ってセラが手刀を繰り出すと、今度こそアルミームソードの刀身は根元から真っ二つに割れてしまった。
カランと乾いた音を立てて床の上に転がり落ちたアルミームソードの刀身。
ナオトは呆然としながらも無意味となった柄を捨て、ゆっくりとした動作で落ちた刀身を拾い上げた。
セラはそんな様子をもはや呆れた顔で見ているだけだ。
「ま、まだだ……! 曲がった柄をなくせば、もう一度真っ直ぐに剣を握れるってもんだぜ……!」
刃だけとなったアルミームソードを強く握りしめれば、いくらそれがアルミニウムであっても手の皮は切れ、血が滴り落ちる。
「え~? これでもまだやるの~?」
それでもなお強敵に立ち向かおうとするナオトは立派だとは思うが、それはもう、誰が見ても決着がついたあとだった。
「もうやめようよナオトさん……ここでゲームオーバーだよ。でも、あなたの勇姿は無駄じゃなかった。たしかに私の心を打ったんだよ」
セラは穏やかな顔でナオトに語りかけた。
「あはは……不思議だな……? あなたを見ていたら、なんだか戦う気が削がれちゃった……やっぱりナオトさんはコメディ作品の主人公……がっつり戦うのは似合わないんだね」
そう言ってセラはヒョイとナオトからアルミームソードを取り上げた。
「こんな剣があるから勇者って言うなら、私が粉々に打ち砕いて、その呪縛から解放してあげる……言うならばこう、あなたを勇者から解放してあげる」
そしてその刀身を上に放り投げたかと思うと、私にもどうしたのかわからない方法で宙に浮いた刀身を粉々に砕いたのだった。
「あ……あ……」
粉々に砕かれキラキラと舞うアルミームソードを追うように力なく手を伸ばすナオト。
やがてその膝は折れ、彼は床に崩れ落ちた。










