自壊コード装置
廊下の突き当たりはやや広くなったロビーとなっていた。ここが施設の中心だろうか。
「これが……自壊コード装置、なんだぜ……?」
「たぶんニャ……魔王セラが言ったとおりフェアに準備を整えていたなら、これで間違いないはずニャ」
それは円筒形の金属装置であり、床から突き出すように据えられていた。表面には青白い光のラインが脈動している。近くには広範囲に電波を放てるような機材はなく、意外とスッキリした見た目なので、おそらくここで装置を起動することによって研究施設外部にある電波塔から自壊コードが射出される仕組みなのだろう。
側面の操作盤には無数の計器や表示灯が並ぶ一方、中央には異様なほど大きな赤い起動ボタンが埋め込まれている。
「魔王セラはボタン一つで起動するように整えてあると言っていたニャ……だとすれば、この赤いボタンしかないニャ」
「これを押せばいいんだよな?」
「もちろんニャ! 魔王セラの驚異的な攻撃を掻い潜り、行く手を遮るキメラの群れを越えて来たのニャ……文句なしにナオト様の勝利ニャ」
「わかった……じゃあ、押すぜ?」
低く唸る駆動音がかすかに響き、装置全体がわずかに震えている。
そこに若干の不安がなかったわけでもないが、ここまで来て装置を起動しない理由もない。
ナオトは意を決して、私たちの最終目的でもあった自壊コード装置の起動ボタンを押した。
「これで世界中に毒性スライムが増殖する心配はなくなったんだぜ?」
「おそらく……今頃、研究施設の外にある電波塔から自壊コードが射出されてると思うニャ」
「だけど意外とあっさりしてるんだぜ……? もっとこう、『起動しました』みたいな案内があってもいいと思うんだが……?」
「たしかに……そこはちょっと不安になっちゃうニャ……」
起動ボタンを押したというのに周囲があまりにも静かすぎる。
私たちが不安に思って周囲を見渡していたときのことだった。
「いやぁ、まさかあのキメラの群れを薙ぎ倒してここへたどり着くというのは予想外だったよ……」
私たちが駆け抜けてきた廊下のほうからセラの声が響いた。
私たちが振り返ると、倒れたキメラのなかをゆっくりとこちらに向けて歩いてくるセラの姿があった。
その身にまとう白衣はロイヤとの激しい戦闘を物語るようにところどころ破れており、返り血を浴びて赤く染まった部分もある。
そして私が何より恐ろしいと思ったのは、その手で掴んでボロ雑巾のように引きずり運んできたのは愛しているとまで言っていた兄ロイヤであり、そんな異常な事態であるにもかかわらず、セラがうっすらと笑みすらたたえていたことだった。
「ロイヤが……負けたのか……?」
「完全に人智を超えてるニャ……」
私たちは戦慄せざるを得ない。
「お兄ちゃんには、ちょっとお仕置きをしちゃった」
そう言って完全に意識を失っているロイヤを脇へ放り投げるセラ。
「まだ最初に言ったゲームは終わってないよ……? 言ったでしょ? 私を倒して自壊コード装置を起動できればあなたたちの勝ち……ダメだよ、魔王から逃げたままゲームをクリアしようなんてことは……」
その暗い口調に私は背筋が凍る思いだった。
「残念だけど、私の頭上にある天使の輪から妨害電波が出ている限り、その自壊コード装置は起動できないんだよ?」
なんてことだ……。私は絶句した。
いくら自信を取り戻したナオトであっても、人外の能力を持つセラに敵うとは思えなかったのだ。
たしかに先ほどはナオトの動きに驚かされたが、単純に戦闘能力だけを考えればさすがに戦闘訓練を受けてきたロイヤのほうが強かろう。
そして目の前ではそのロイヤがこうも一方的に敗北している。
そんな化け物染みた存在が相手なのだ、とても普通に戦って勝てるとは思えなかった。
それはもう、生物としての生存本能が彼女と戦うなと訴えかけてきているような感覚だ。
「ここまでたどり着いたことは称賛に値するけど……はたして、あなたたちはこの魔王を倒して、天使の輪を破壊できるのかなぁ……?」
セラは妖しく笑う。
それはもう自分が負けることなど考えてもいない余裕の態度だった。










