こんな世界、滅んでしまえばいい
「セツ! 大丈夫か!」
ナオトは意識を取り戻したセツを気遣うように声を掛ける。
「なんとかの……じゃがすまぬ、どうやらアバラ骨が折れとるようじゃ、ワシはもう戦えんぞい」
「いいんだ。あとは俺に任せるんだぜ!」
「ああ……! ワシはナオトを信じておったぞ……!」
「おう!」
セツと短く言葉を交わして、ナオトはまたセラに向かって構えた。人智を超えた強さを誇るセラを相手にしても、微塵も怯えを感じさせない。
「ムカつく! ムカつくムカつく! ムカつく! どうしてみんな、私の思いどおりにならないのっ!」
だがセラは一人で発狂して床を踏み鳴らしていた。
「お兄ちゃんだって私を愛してるって言ったくせに! 天使のみたいに可愛いって言ったくせに!」
そしてその怒りの眼差しは私たちにも向く。
「その女に全部騙されてたくせに! 心までバッキバキに折られたくせに! 何が勇者よ! 何がヒロインよっ! そんなに変な語尾が好きなら、私がネコキメラにしてあげるのに!」
ナオトは私をセラの敵意からかばうように立ち塞がってくれていた。
「なんでその女は勇者に守られるの!? 私は自らの遺伝子を改変してまで愛している人に愛されないのに……! 愛してるとまで言ってくれた人にさえ、愛されないのに……!」
セラは怒りをぶち撒けながら、泣いていた。
『このヒス魔王、なんかヤバくね……?』
『基本的にこのチャンネルは登場人物ヤバめだから通常運転定期』
『ていうか八雲セラってガチで実在する人物だろ……本人?』
『本当だ……遺伝子工学でナントカ賞を受賞してるっぽい』
『え? なになに? てことは、やっぱりこれガチ案件な感じ?』
『こんな映像に騙されっかよ! ってなる心理を逆に突こうとした真実みたいな?』
『だとしたら、キメラって相当ヤバくね!?』
画面の向こう側の考察もどんどん核心に迫る方向に進んでいた。
そしてセラは、やがてその燻る怒りを抑えながらも静かに言葉を続ける。
「もういい。……お兄ちゃんに受け入れてもらえないなら、私の思いどおりにならないなら……こんな世界、滅びてしまえばいい……」
ゆらりと身体を揺らす亡霊のように生気の抜けた顔だった。
「世界を滅ぼす……? 何をするつもりだ……!? ゲームは俺たちの勝ちのはずだぜ!」
「そうね……たしかにさっきのゲームはあなたたちの勝ち。でも私、それで何かをしてあげるだなんて約束はしてないから!」
「俺たちを騙したんだぜ!?」
「いいえ? ただ負けるつもりがなかったから考えてなかっただけ……でもあなたたちは勝った。仕方がないから泥棒ネコをネコキメラにする件は諦めてあげる……」
だが、セラの言葉からは敵意のような鋭さが消えていなかった。
「だけどそれとは別に、この世界ごと滅ぼしてあげるってだけのこと……!」
セラは狂気じみた笑い声をあげる。
「言ったでしょ? スライムを海に放って毒性を持たせるだけで世界は終わる……今さらここに核を撃ってもどうしようもないの……助かる方法があるとすれば、自壊コード装置を起動し、増殖を防いでスライムを根本的に全滅させることだけ……!」
そして再び私たちを見つめる。
「つまり今! この魔王から世界を救える可能性があるとしたら、このふざけた冒険を続けてきた自称勇者たちが、私を倒して自壊コード装置を起動することしかないの!」
マジかよ……。私は絶句する。
そしてそれは画面の向こう側の世界においても同じことのようだった。
『これ、マ……?』
『いや、さすがにギャグだろ……』
『嘘は嘘であると見抜ける人でないと以下略』
『通報しますた』
コメント欄は荒れに荒れていた。
だがすべてを目の前でじかに見てきた私たちにはわかる。
セラの鬼気迫る様子には嘘の気配がまるでなかった。
「あははっ! 画面の向こうで笑ってる人、見てる~? コメント読んでる人、理解してる~? 笑ってられるのも今のうちだよ~? 雨や風に乗って、そのうち毒性スライムがあなたの家にもお邪魔しま~す!」
声と態度は笑っていても、その心はまるで笑っていないのが伝わってくる。
『なにそれこわい』
『やっぱ映像作品としてはメタ発言がNGレベル。これはガチ』
『おい止めろってマジで』
『これはAUTO』
その狂気がジワジワと世界中にも広がりつつあった。










