崩壊
「その人の言葉を信じるのはやめたほうがいいよナオトさん? そうすれば私はあなたにまで手を出したりはしないから……いや? それどころか九条財閥がこんな悪ふざけのためだけにあなたの脳内に埋め込んだ異物を取り除いてあげることもできるんだよ?」
「脳に、異物……?」
そこでナオトはわずかな反応を示した。
さすがに恐ろしいのだろう。
ナオトは自分の脳に埋め込まれたBCIが彼にステータス画面を見せていることを知らないのだから。
そんな物々しい言い方をされれば恐ろしいに違いない。
「酷いよねぇ……? ステータス・オープン! という掛け声で画面が開いて見えるようにする……そんなくだらない理由だけで脳にチップを埋め込む……勇者には人権なんかないんだってさ……もう、人間扱いされてないよ? あなた」
ナオトの顔は真っ青だった。
「たしかにことの発端は私が遺伝子実験で生み出したキメラだし、それを作り物の映像に見せかけて秘密裏に処理する目的があったのかもしれない……」
セラの呆れ顔には私に対する当てつけも含まれているようだった。
「でもその目的を達成するにしたって、あなたを勇者にする必要なんかなかったよね?」
「俺を、勇者に、する……?」
「そうだよ~? あなたは転生したわけでもなんでもないし、ただ人為的に勇者役として選ばれただけなの……そしてそれを信じ込んでいる姿や、あなたを信じ込ませようと必死に役割を演じるスタッフの様子を面白おかしく世界中に動画配信してたんだよ」
「う、嘘だ……そんなの嘘に決まってるぜ……」
ナオトは蒼白になりながら震える声を絞り出していた。
「ホントだよ~? なんなら今からその証拠を見せてあげるし」
そう言ってセラは受付カウンターに目をやった。
頭上に浮いた天使の輪型リモコンなどという人をバカにしたような機器が少し光り、それまで九条財閥のロゴが表示されていたディスプレイには今の私たちを映し出した映像が表示される。
「え……? これは、もしかして俺たちなんだぜ……?」
ナオトは少し首を動かしてカメラを探しているようだった。
そしてしばらく、ディスプレイの中のナオトが初めて画面の向こう側に視線を合わせた。
「リアルタイムで放送されてるんだよ~? ほら、コメントもこんなにたっくさん!」
画面上を埋め尽くすように視聴者の打ち込んだコメント文字も流れている。
『ギャー! バラされた~w!』
『気づくの遅すぎ! てか、ガチで気づいてなかったのか!?』
『呆然としてて草ァ!』
『こりゃまた人間不信のニートに転職だなw』
『てかリリアンのネコ耳キメラ早よw』
『たとえキメラでも俺はリリアン好き』
『バカヤロウ! ガチのネコ娘とかむしろ嫁だろ!』
笑ったりバカにしたり、知らない人の無責任な言葉ばかりが画面を埋め尽くしていた。
「うあ……あ……あ……うわああああ!」
ナオトは嗚咽を漏らし、涙を流し、その場に膝から崩れ落ちた。
当然だろう。自らの世界そのものをひっくり返されるばかりか、こうまで存在を否定されれば私だって自我が保てるか自信がない。
私はこんな状態のナオトに人間離れした能力を持つセラに立ち向かえと求められるのか……?
「あはっ! あははは……! さぁ! 立ち上がって私に立ち向かいさえすればあなたたちの勝ちなんだよ!? 簡単なことでしょ!? さぁ! さぁ!」
酷すぎる! 本当の魔王かよ、こいつ……!
「全部ウソ! この島の住人は全員スタッフ! 魔法なんてありゃしない! ステータスだってぜーんぶデタラメな数字の羅列! あははははっ!」
愕然とする私たちを煽るように、両手を広げ私たちのまわりを歩き回るセラ。もはやその圧倒的な身体能力を使わずとも私たちを屈服させられると言わんばかりの余裕さだった。
『ナオトが勇者なのは本当』
『リリアンのネコ耳も真実』
『早く助けに来てくれ影の追跡者』
『女神の夫は勇者の兄w』
流れてくるコメントも最悪だ。
「で、だよ?」
セラは一段と低い声で場をしきった。
「これだけでも絶望的なのに、さらにもう一つ、あなたが気づいていない大きな爆弾が残ってるんだよ? ……ねぇ、リリアンさん?」
最悪だ。
一番最悪な流れでそれをぶっ込まれた。
私はショックで何も言えなかった。
「教えてあげる……この、あなたにとって最悪な計画を一番最初に提案したのは、なんと、ずっとあなたの隣にいたリリアンさんだった……ってオチをね」










