新たな提案
「正気か……? 今、お主はワシに銃を向けられておるのじゃぞ? まさかワシが本当に撃たないとでも思っているのか」
「い~や? 撃たれても問題ないと認識しているだけかもね……あなたくらい壊れてる人なら本当に撃ちそうだし」
「そのとおり、ワシはためらいなどせんぞ……? 素直に降伏して、あのサルキメラどもを引かせるがよい」
「引かせないよ。だからあなたたちが目的を達成するためには、どうあっても私を倒さなければならないってこと」
「やむを得んな……」
「いいよ? 撃っちゃいなよ……? ただし、その引き金を引いたらあなたもただじゃ済まないけどね……!」
互いに淡々と言葉を交わしていたセツとセラであったが、ふいにそのやり取りが止まった。
視線や呼吸で牽制をしあうような不気味な緊張感がしばらく場を支配していたが、やがて廊下の奥でサルキメラが甲高く叫んだのを合図として両者は動いた。
セツは銃口を少し下げ、セラの下半身を狙って引き金を引き、セラはその射線から身体をひねるようにして逃れる。
私にはその銃声が遅れて聞こえるほど情報が濃縮された一瞬であったが、無言を貫く両者の間にはそれ以上のやり取りがあっただろう。
結果的に無理に身体をひねったセラが体勢を崩したかと思われたが、彼女はその後、翼を上手く広げてバランスを整え、セツが次の銃弾を放つ前に一気に距離を詰めたのだった。
「バカなっ! この距離で銃弾をかわすじゃとぉっ!?」
セラの反射速度、身体能力は私たちの想像を超えていたのだ。
「はい、ざんねーん!」
そのままセツはセラの蹴りをくらい、ロイヤと同じように床を転がって動かなくなってしまった。
「う、うそニャ……」
私は愕然として動けなかった。
ロイヤでも銃でも倒せなかった相手を前に、戦意を喪失しているナオトと私だけでどうこうできるはずがない。
「さぁ、今度こそどうするリリアンさん?」
セラは勝ち誇った顔をこちらに向けてきた。
「勇者はあなたに欺かれて茫然自失、賢者と戦士はあなたにフラれて大ダメージ……あなたのせいでパーティーは全滅寸前よ? さすが、一度は魔王を名乗ろうとしただけのことはあるよね~?」
「ほっとくニャ!」
私には強がることしかできなかった。
「さぁさぁ……無駄な抵抗はやめて、いさぎよく本当に本当のネコ耳キメラ……モンスターとやらになってみなよ……?」
「絶対にごめんニャ!」
「だけど今のあなたには、私に抗う力はないんでしょう……?」
「ぐっ……!」
私にはあとずさることしかできず、完全に魔王に追い詰められた。
ところがそんな場面になって、セラはまた何か別の悪巧みを始めたようだった。
「そうだ! 私、またまた楽しいゲームを思いついちゃったよ……? だって残った二人だけでは私に勝つことなんかできないでしょ? ……だけど、慈悲深い私はもう一度だけあなたにチャンスをあげる」
ニヤリと邪悪に微笑むセラ。
「この冒険、思い返せばナオトさんとリリアンさんの出会いから始まったんだよね……?」
「それがどうしたニャ?」
「サルキメラの着ぐるみを着たスタッフに襲われるふりをしながら、ナオトさんがリリアンさんを助ける素振りを見せてくれたらサルキメラは戦わずに逃げていく……そんなシナリオだったはず」
ナオトの前でペラペラと不都合の真実を喋られるのは今さらだとわかっていても嫌だった。
「な、何が言いたいニャ……?」
「ふふ……いま一度、ここで最初に立ち返ってみようかと思ったんだよ。……数カ月の冒険を経て、あなたたちの関係がどう変化したのか、試してみたくない?」
「私たちの……関係……?」
「そ。とってもシンプルなゲームだよ? 今のナオトさんがリリアンさんのために私に立ち向かおうとすれば二人の勝ち。そうでなければ私の勝ち。……そして私が勝ったら、リリアンさんは大人しくネコキメラになっちゃお?」
私は眉をひそめた。
ナオトがセラに立ち向かおうとするだけで私たちの勝ち……?
それではいささか私たちに有利な条件すぎやしないだろうか……?
「だが、その条件でいいなら受けるニャ」
今の状態で私たち二人が物理的にセラに殴りかかったとしても返り討ちにあうのは目に見えている。それならこの有利な条件を飲むのが合理的だ。
しかし、どうしてセラはそんな簡単な条件を提示してきたのだろう……?
私が怪訝そうに考え込んでいると、セラはそんな私を口の端を吊り上げながら笑って見ていた。
「もしかして、この条件なら簡単に勝てるとか思っちゃったのかな……?」
私には最初、その本当の狙いがわからなかった。
「ねぇリリアンさん、今の状況わかってる? あなたがこれまでナオトさんに対してしてきたこと……それでナオトさんがさっきからひと言もしゃべらなくなっちゃってること……」
私はハッとした。
「ナオトさん、今とてもショックを受けているんだよ……? 仲間だと思っていた人たちはみんな自分を騙していた……本当はリリアンさんの本名すら知らないの……それなのに、そんな人間を自らの命を賭けてまで助けようとするのかなぁ……?」
このセラの邪悪な笑み。
彼女はナオトが私のことを助けるわけがないと確信していてこの条件を出してきたのだ。
私がナオトにしてきたことの罰とばかりに、セラは今、私を世界中の見世物にしようとしている。
「ナ、ナオト様……助けてニャ……」
私は力なく隣に立つ彼に助けを求める。
しかし、いまだ茫然自失のナオトはなんら反応を示してくれなかった。










