この物語の主人公
たしかにセラは私たちと契約したスタッフとは違う。
だけどそれにしたって、私が打ち明けようとしたこのタイミングで……!
「な、何を言ってるんだぜ……? たしかにロイヤは強いさ……。だけど、俺だってちゃんとエンチャンターとして……」
ナオトは愕然としていた。
「あははっ! それ、この期に及んで本気で言ってるんだ~?」
「……違うんだぜ……?」
ナオトの不安げな視線はセラから逃げるように私たちに向かってくる。
私たちに助けを求めるような顔で。
それはもう、本当は真実に気づいていながら必死にそれを否定する材料を探しているようだった。
「哀れな人よね……あなたが本当に疑うべき黒幕に向かって救いを求めているだなんて」
「もうやめるッス……!」
セラの言葉をロイヤが振り切るように遮った。
「ナオトさんは関係ないッスよ……これは、オレたちだけの問題のはずッス」
関係ない……?
この物語の主役だと思っていたナオトが、関係ないとまで言われたのか……?
「そう……ね。お兄ちゃんがそう言うなら私ももう茶番はやめる。ごめんなさいナオトさん。魔王役だからと思って、ちょっと意地悪なことを言っちゃった」
しかしナオトのほうは下を向いたまま無言で立ち尽くしていた。
「リリアンさんたちもバラしちゃってごめんね……? でもいいでしょ? どうせここで真実を打ち明ける予定だったんだから」
私たちは何も言えなかった。
そしてそんな私たちをまるで脇役として蚊帳の外に追いやったかのように、セラとロイヤは静かに向き合っていた。
彼らにはまるで、自分たちこそがこの物語の主人公であるかのような雰囲気が漂っていた。
「久しぶり、お兄ちゃん……私、変わったよ……?」
「見ればわかるッス……まったく、なにバカなことをやってるッスか……!」
セラは恍惚の表情で、一方のロイヤは怒っていた。
私たちはどうしたらいいかもわからず、ただ黙って二人の会話を見守る脇役扱いとなっていた。
「だって私、このままじゃお兄ちゃんとは結ばれないし……」
「だから自分の遺伝子にまで手を加えたッスか……! 多くの動物を実験材料にしてまで……!」
「そうだよ……! ねぇ見て? お兄ちゃん昔言ってくれたでしょ? 私のこと天使みたいに可愛いって……!」
「たしかに言ったッスけど、こうまでするなんて誰が思うッスか!」
「でも結果的に私は手に入れた! お兄ちゃんと親しかった遺伝子の私はもうおしまい! 私は……あなたを愛してる!」
マジか、この天才科学者……もしや本当に兄妹で結ばれるために自分の遺伝子をいじったとでも言うのか……?
こんなバカげた遺伝子改変を成功させるため、多くのキメラを実験台として生み出したとでも言うのか……!
「オレは……こんなことを望んでなんかいなかったッス……こんなことをしなくたって、オレはセラを愛してるんスよ?」
「わかってる。だってお兄ちゃん、本当は私のことが心配になって駆けつけてくれたんでしょ?」
「そりゃあ、妹のいる研究施設でこんな事件が起きたってなれば、兄として心配するのは当然ッスから」
私は以前ロイヤが言っていた、妹が施設にいるという言葉を思い出す。
当時の私はテンプレ的な先入観からか、てっきり病弱な身体の妹が医療体制の整った専用の施設に入所しているものだと受け取っていたが……。
まさか施設って、私たちの目的地たる研究施設そのものだったとは……。
「こんな事件まで起こして……いったいどれほどの賠償金が必要かわかったものじゃないッスけど……きっと桁違いの金額になるッスけど……オレも一緒に償うッスから、セラはちゃんとみなさんに謝るッスよ」
「わかった……私はお兄ちゃんがいればもうほかにはなんにも要らないから、お兄ちゃんが望むなら、私ちゃんと謝る……」
セラは少ししおれたように素直にロイヤの言葉を受け入れていた。
「いい子ッス」
「ちゃんと自壊コード装置も残しておいたんだよ……? 私、お兄ちゃんに嫌われたくないし……」
「それはいい判断だったッス……キメラなんかの存在を許したら、世界中が大混乱ッスからね」
「わかってる……かわいそうだけど、私が自分自身の遺伝子改変を成功させた今、キメラの役割はもうないし」
「自壊コード装置は、どこにあるッスか?」
「この廊下をまっすぐに進んだ突き当たりだよ。ちゃんと約束どおり、ボタン一つで起動するようになってる」
施設の入り口から受付カウンターを越えてまっすぐに伸びている廊下の先を指差してセラは言った。
「わかったッス」
そしてロイヤは少し寂しげな目を、立ち尽くす私たちに向けた。
「というわけで、オレとセラの話はついたッス……つまり、もう魔王と戦ったりゲームしたりする必要はなくなったッスね……これで装置を起動すれば、ナオトさんやリリアンさんの目的は達成ッス……」
本当に最後まで酷いシナリオだ。
この物語は根本から間違っていた。
私たちはキメラを根絶するため、ナオトを勇者に仕立て上げ、彼が目的を果たすまでの物語を描こうとしていた。
だけど物語のきっかけとなったキメラは、八雲セラが遺伝子を組み換える過程の副産物でしかなく、事態を収拾させるためにはるばるやってきた真の勇者はどう考えてもロイヤのほうだった。
「……今さら演技もヘッタクレもないッスから、オレが自壊コード装置のボタンを押してくるッスよ」
私たちはあまりの衝撃に理解が追いつかず、返事すらできない。
「リリアンさんは……ナオトさんのケア、お願いするッスね……」
そして私たちから視線を切り、前へ歩き始めるロイヤ。
最後の最後、私たちの目的であった自壊コード装置の起動さえも真の勇者ロイヤが行うことになる。
そうなるとはたして、私たちがやってきたことに意味はあったのだろうか。
そんな疑問さえ浮かびながらも、それでも私たちはなんにもできなかった。










