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あなたを勇者にしてあげる 〜転生したと勘違いしている御曹司と偽世界を冒険中。なお全世界配信されてるから迫られても困ります〜  作者: nandemoE


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白衣の魔王と真の勇者


 歩くことしばらく、私たちは本当に一匹のキメラにも襲われることなく目的地の研究施設までたどり着いた。


 深い緑に囲まれた中、白とガラスで構成された大きな施設が静かにたたずんでいる。


 滑らかな外壁と大きな窓面が光を反射し、無機質な輪郭をきわ立たせていた。


 本来ならば手の入った植栽の庭もあったろう。しかし今は草木の繁茂する廃墟のようですらある。


 それでも建物自体は周囲の自然と不釣り合いなほど整然として現代的なシルエットであり、数ヶ月のあいだ違世界の風景ばかりを見てきた私たちからすれば、そこは不気味なほど不調和な違和感しかなかった。


「本当に何事もなく着いたんだぜ……?」


「だけど、この中で待ってるのは自称魔王ニャ」


「気をつけるのじゃ。ここまでキメラに襲われなかった事実が、魔王が真にキメラを統べる者だと物語っておる」


「大丈夫。大丈夫ッスよ!」


 私たちは覚悟を決めて研究施設に乗り込んだ。


 まるで私たちを招き入れるかのように、正面入口の自動ドアだった扉は開かれていた。


 施設内に踏み入ると、まずは広いエントランス。正面の受付カウンターを取り巻くように二階へと昇る階段が弧を描いて続いている。


 そしてその中央、私たちを見下ろす位置にその人物は待ち構えていた。


「とうとう来たね……ようこそ、私の研究施設へ。私がここの代表、魔王、そして天才科学者の八雲セラだよ」


 白衣をまとったセラは、淡い光を帯びるような端正な顔立ちをしている。


 信じられないことに背には純白の翼が六枚、静かに重なり合いながら広がり、わずかな動きで柔らかな羽音を立てていた。


 作り物の翼ではこうはならない自然な動き。私たちはそれを見た瞬間に察していた。


 ――この天才科学者は、自らの遺伝子にさえ手を加えたのだと。


 無機質な研究棟の中で、彼女の姿だけが異質なほど清らかに際立っている。


 私たちは呆然としたまま、しばらく言葉を失ってしまっていた。


「あれ? みんな反応が薄いなぁ……」


 そう言ってセラは舞い上がり、翼を広げて堂々と私たちの前に降りてくる。


 ふわりと。


 重力とかどうなっているんだよ、とか、人間としての最低限の体重をその翼の羽ばたきでは物理的に浮かせられないだろ、とかそういった現実的な問題は何ひとつ脳裏に浮かんでこない。


 ここは現代世界だったよね?


 いや、この天才ならやりかねない。


 あるいは私たちが驚きのあまりスローモーションのように見ていたから、彼女がゆっくりと降下してきたように見えただけかもしれない。


 天使が舞い降りた。


 その神々しさの前に皆、絶句していたのだった。


「お~い。そろそろ何か反応しておくれよ~」


 エントランスの二階から飛び降りても平然としているセラは天真爛漫に微笑む。


 その頭上にはどういう原理で浮いているのかもわからない金色の円環が輝いている。


「天使の輪……魔王は、天使族だったんだぜ……?」


 そうだった。私たちのなかでもナオトだけはまだここを現実世界だと知らないのだ。


 単純に天使族がいるものだと認識するだけで済んでおり、私たちが受けた衝撃とはまた少し印象が違っているのかもしれない。


 そしてナオトの反応にセラは少しキョトンとしたあと、ケラケラと笑う。


「あ、これ? この輪っかはただのリモコンだよ」


 そう言ってセラが受付カウンターにあるディスプレイに手を伸ばすと、真っ黒だった画面に九条財閥のロゴが映し出される。


「研究所にこもってるとさ。いろんなことが面倒になってきちゃうから、施設内の設備は全部リモコンで動かせるようにしちゃおうと思って」


「それで天使の輪なんだぜ……?」


「そ。持ち歩くのも面倒だし、今のこの格好にも似合うようにしちゃった! いいでしょ? 天使の輪っか型リモコン!」


 セラはまたケラケラと笑う。


「そんなことをして、いったい何が目的なんだぜ……?」


「それはまぁ……これから真の勇者と話をしていくことになるんだけどさ」


「真の勇者……だぜ?」


 そこには私も首を傾げた。


 ナオトがそうでないと言わんばかりの言動。


 そして真の勇者がナオトでないとすれば私たちのなかの誰がその真の勇者だと言うのか。


 しかし内心で薄々とその答えにたどり着いているからこそ、私たちの視線は自然とロイヤに向かっていた。


 彼は、怒っているようにも、悲しそうにも見える表情でただ黙っていた。


「久しぶりだね。八雲ロイ……愛しのお兄ちゃん」


「「は!?」」


 私たちは突然明かされた事実に戸惑いを隠せなかった。


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