魔王の中の人(1)
大臣の身体から抜け出した影がようやく声を発する。
「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ! 魔王ちゃんだよ~?」
第一声がそれか~い!
私たちは黒い影から発された、魔王らしからぬ明るい女性の声に肩をすかされた。
たしかに私たちが研究施設にたどり着いたとき、そこに魔王はいないし、そこで魔王として名乗り出るのは私なのだから、私がよく使うセリフで登場するのは変ではない。
しかしなんだろう? この声、どこかで聞いたことがあるような気がする……。
「キミたちのことはずっと見ていたよ。なかなか面白いことをやっているようだね~?」
「俺たちのことを見ていただと!?」
ナオトが険しい表情で反応する。
「そうだよ。この島に真の勇者が現れたときからずっとね……」
「お前は誰なんだ!?」
「だから魔王だって」
「目的はなんだ!」
「それをここで話してあげる理由はないなぁ……。でも、真の勇者が私の前にたどり着たとき、その答えはおのずと出るんじゃないかなぁ……」
私は魔王の言葉に首を傾げた。
この魔王、いったいなんのことを言っている……?
たしかに私たちの目的は研究施設にたどり着いてからちゃんとナオトに打ち明けるつもりだった。だけど、この魔王の言い回しには不必要な情報が含まれているせいか、どうしても違和感がつきまとう。
「お前の前にたどり着いたとき……? じゃあ、お前はどこにいるんだ!」
「もちろん研究施設だよ? キミたちの最終目的地でもあり、キメラの自壊コード装置ある、その研究施設。そこで会ってみようじゃないか勇者さん」
セリフはアドリブだからある程度の違和感は仕方ないのか……?
「俺たちを……誘ってるんだぜ?」
「とはいえ、どの道ここへ来る予定だったんでしょ?」
「だからと言って、敵が待ち構えているところにノコノコを無策で突っ込めやしないんだぜ!」
ナオトめ、よく言う。今まで散々、死地に飛び込んでいったくせに……。
「大丈夫だよ。これでも私はフェアなほうなんだ。キメラにも手を出さないよう言っておくよ」
「なに!? そんなことができるのか!?」
「そんなことって……当然でしょ? 私はキメラを統べる魔王その人なんだよ? まだ信じてくれてないの~?」
やはりこの魔王は変だ。アドリブにしたって、キメラに言うことを聞かせるなんて、そんなことをスタッフができるわけない。私たちの目の前にキメラが現れれば、本能のままに襲いかかってくるはずだ。
「もちろん自壊コード装置、もちゃんとフェアに整えておくよ。なんならボタン一つで起動できるようにね?」
「親切なことだぜ……!」
「ふふ、今まで楽しませてもらったお礼だよ」
やはり私にはこの魔王が何を言っているのかわからない。本当にスタッフなのか……?
「その代わり、キミたちと私で簡単なゲームをしようじゃないか」
「ゲーム、なんだぜ……!?」
「そう。だってそうじゃないか。普通に考えてラストダンジョンにやってきて、何も起こらずに目的を達成できるとかってあり?」
「いや、それはないんだぜ……?」
ナオト、見事に説得されている。
「だからさ。私を倒して自壊コード装置を起動できればキミたちの勝ちってことで」
「負けたらどうなるんだぜ?」
「あははっ! そのとき生き残った者がいるなら、キメラになっちゃうかもね!」
「「なんだって!?」」
私たちはみんなして驚いていた。
本当に何者なんだ? この魔王……?
シナリオ無視で好き勝手に話を広げているこの魔王が本当にスタッフだとでも言うのか。
「九条専務、九条専務、これはいったいどういうことニャ!」
私は小声で本部に呼びかける。
「すまないリリアン君。通信が乗っ取られてしまった。たしかに今、魔王の影を演出しているのは我々だが、キミたちが話しているのはスタッフではないのだ」
「な……!? それじゃあいったい相手は誰なのニャ!?」
「わからん……が、本当に無関係という話ぶりでもなさそうだ。となると、おのずと正体は限られる」
「もしかして、研究施設にいる人間とかニャ……?」
「一つの可能性だがな。動画配信を見た外部からの線も否定できない……リリアン君は引き続き気をつけてくれたまえ」
「了解ニャ」










