ふざけては言えない
真実の鏡にちょっと勇者が魔物として映ってしまったばかりに、なぜか私がナオトにキスをしなければならないような状況になってしまった。
「で、でもちょっと待つニャ! 真に愛する者って、別に異性に限った話じゃないニャ。もしかして村長やロイヤだって冒険をともにしてきたナオト様を愛しているんじゃないかニャ!?」
「い、いやぁ……ワシは別に、愛しているというほどでもないしのう……」
「オ、オレも信頼と愛情は別だと思うッスよ……?」
私の鋭い指摘にセツやロイヤは慌てて目をそらす。
「お、俺、もしかして誰からも愛されてないんだぜ……?」
そして私たちの渋った態度を見て、ナオトはより深く頭を垂れる。
やばい! 否定し過ぎると今度はナオトが凹んでしまう!
「そ、そんなことないニャ! 少なくとも私はナオト様のことは、あい、愛し……」
あれ? どうしたことだろう。
ここは明確にナオトの言葉を否定して励ますべき場面。しかもリリアン役としてはナオトのことが好きなのだから、はっきりと愛していると言い切ってしまえばいいのに、私は言葉に詰まってしまった。
本当にどうしてなんだろう……?
自分でもその理由がわからない。
ナオトに嘘をつきたくなかったから?
そんなことよりシナリオを進行させなければならないと考えていたから?
それとも、もしかして私とリリアンの気持ちがごちゃ混ぜになっちゃってたから……?
こんな言葉を、リリアンの役として言いたくないと思ったから……?
あれ……? でも、それってどうして……?
そんなふうに考え出すと、私は表情が固まってしまっていた。
これはフザけて考えるようなことじゃないと、心の奥底から何かが訴えかけてきたような気がして、浮き足立った心をスッと地に引きつけられたのだ。
「やっぱりやめた。……こんなこと、ノリで言わされるようなことじゃなかったニャ」
気づけば、私は真顔でそんなことを言っていた。
「こういうことは、ちゃんとフザけてないときに言うニャ。でもナオト様、安心してニャ? ナオト様は決して、誰にも愛されてないなんてことはないニャ」
「リリアン……」
ナオトは少しホッとしたような顔をしたあと、自分の両頬を両手でパチンと叩いた。
「そうだよな……! 今はこんなことで凹んでいる場合じゃなかったよな……!」
そして再び力強く立ち上がる。
「さすがは国を乗っ取ろうと企むほどの魔物。強敵だぜ……さすがの俺も気持ちを折られかけちまった……だが残念だったな! 俺たち仲間の絆は、そんなことじゃ砕かれやしないんだぜ!」
ナオトははっきりと言い放ち、大臣を強く睨みつける。
「え……? 強敵って、吾輩、まだ何もしてない……?」
今まで私たちのドタバタした茶番に散々付き合わされたあと、いきなり話を振られた大臣は困惑してタジタジだ。
「いいや、違うニャ! これはぜ~んぶ、大臣が悪いのニャ!」
私もこの流れに乗って大臣を厳しく指差す。
よくわからないが、ここはもう勢いでシナリオを進めるとき!
「そうじゃ! ここ最近の出来事は全部まるっと大臣が悪いのじゃ!」
「そのとおりッス! さあ! 早く正体を現すッス!」
いい加減にセツやロイヤも空気を読んでか私に賛同し、ともに大臣を糾弾する。
よくわからない理論で悪者にされてしまう大臣には気の毒だが、これでようやく元のルートに戻れそうとも言える。
と言うより、ここで戻れないともう私たちは終わる!
「おのれぇ……と、とても言い逃れできない雰囲気ではないか……よもやこのようなノリで吾輩の正体を暴いてこようとは侮っておったわ……」
困惑はもっともなことだし理解はできるが大臣のセリフは適当だった。
「勇者、そして姫、サナフィナよ。よくぞこの吾輩の正体を見破った……吾輩こそが……」
そしてようやく規定路線に戻ったシナリオどおりのセリフを大臣が発する。
ここまで来ればあとは大臣が気絶するところまで追い込み、倒れた大臣からプロジェクションマッピングで魔王の影を映し出して見せるだけだ。
こうなればもう話は早い。
次の瞬間には、セリフの終わりを待つことなく飛び出したロイヤの拳が深々と大臣の腹に突き刺さっていた。
「さっきはよくもオレを操ってくれたッスね……敵だと確定した以上、親切にあんたのセリフを待ってやんねーッスよ!」
ロイヤの決めゼリフが光る。
「ぐ……こっちは散々そちらの茶番を待ってやったというのに……ガクッ」
悔しげな言葉を残しながら、大臣はロイヤに身体を預けるようにズルツルと崩れ落ち、気を失った演技をする。
「これで、やったッスか……?」
ロイヤは足元に倒れた大臣を不安げに見る。
「よくやったぞロイヤよ……あとはワシのディスペルで大臣を元に……」
このセツのセリフは次の段階への匂わせだ。
あとはプロジェクションマッピングの邪魔にならないよう、倒れた大臣のまわりから人を遠ざけるだけ。
セツはカッ! と目を見開いて叫ぶ。
「いかん! ロイヤよ、すぐにその場を離れるのじゃ! 禍々しい魔力が集まっておる!」
「了解ッス!」
シナリオどおり素早くロイヤはその場を離れ、私たちのところへ戻ってくる。
そして私たちをかばうような素振りでナオトが前に出るのを防ぐ。
私たちはこっそりと、ナオトに変な行動をさせないフォーメーションで彼のまわりに結集したのだ。
「ニャ!? あれはなんニャ!?」
「魔力の影じゃ……どうやら黒幕の登場らしいのう」
「大臣の身体から抜け出してくるッスよ……?」
あとはシナリオどおり、魔王を名乗る謎の影から研究施設までのご招待を受け取るだけだ。










