みんな敵だ
真実の鏡によって正体を暴かれ、大臣が困惑するはずだったのはいい。
だがなぜか、その様子は役割として困っているようには見えなかったのだ。
「どうしたニャ!? 正体がバレて言葉も出ないのニャ!」
私はさらに強く問い詰める。
「え……いや、その……違うのだ……」
やはり大臣の取り乱しようは演技として困っている様子ではなかった。
本当に困っている……まさかセリフを忘れたのか?
そしておかしかった点がもう一つ。
ナオトが鏡を見て呆然と脱力したまま立ち尽くしていたのだ。
なんだ? 何が起こっているのか……?
困惑の影響が私たちにも伝染したとき、大臣がようやく口を開いた。
「う、うむ……吾輩の正体を魔物と見破ったことは称賛しよう……」
あれ? 言い逃れもせずにあっさりと認めちゃったぞ……?
私たちが肩透かしをくらっていると大臣はやはり困ったように続ける。
「だが少し遅かったようだな……どうやらそちらの勇者も、魔王様の魔力に当てられたのか。魔物化が始まってしまったようだ……」
「ニャッ!?」
私はドキリとして鏡の正面に回り込む。
そこに映っていたのは二人の魔物の姿。
私たちと対峙する大臣と、私たちから少し前に出ていたナオトの魔物と化した姿だったのだ。
「お、俺の正体も魔物だったんだぜ……?」
その瞬間、姫はハッとして鏡を隠すがもう遅い。
なんと、アプリは高性能過ぎてうしろ姿だったナオトをも人物として認識し、魔物の姿に置き換えてしまったのだ。
「そ、そんなことありませんわ! この真実の鏡、う、嘘をつきますのね!」
姫は取り乱し始めた。
「こ、こんな虚偽の鏡、もう要りませんわ!」
姫は証拠を隠すように鏡を窓の外に向かって投げ捨てた。
鏡はバリンとガラスを割って、切なくもヒューッと城の外へ落ちて消えていく。
ものすごくコミカルで雑な動きのようだが、下手にタブレットを手元に残して、機械そのまんまの画面を見られてしまう可能性を残すくらいなら良い判断だったと言えよう。
「ニャー! きっと姫は怪しい商人に騙されて、パチモンの鏡を買わされたのニャ!」
「ディ、ディスペル! ディスペルじゃあ~! このワシの完璧な解呪魔法によって、勇者はたちまち正気に戻ったはずじゃあ~!」
「いや。むしろこれは罠ッス! オレたちを互いに戦わせようとした大臣の幻影魔法ッス!」
私たちのセリフはめちゃくちゃであった。
その瞬間から、私たちは大混乱に陥った。
「そうか……俺は、俺を慕ってくれるリリアンという女性がいながら、実はちょっと受付嬢のミオラさんやサナフィナ姫もいいな、なんて思ってしまっていた……こんな醜い心の俺は、魔物だったってことなんだぜ……?」
ついには、ナオトは大臣の前に膝を屈してしまった。
なんてこと!? 信じる!? 自分の正体が魔物だったとか、そんなことまで信じちゃう!?
ただシナリオどおりに大臣の正体を見破って魔王討伐の話につなげるはずだったのに、勇者が自分を魔物だと信じてしまったではないか。
私たちは強敵の大臣を前に、勝手に敗北寸前にまで陥っていた。
「すまない、みんな……俺が正気を保っているうちに、俺を倒してくれ……」
あるあるぅ。そんなセリフ! でもあなた、主人公だから!
ナオトが自己犠牲なんか言い出したらプロジェクトは崩壊だ。
私たちは全員、わけもわからずあたふたと混乱を続けていた。
「そ、そうじゃ! こういうときは大体、アレしかない!」
そんななか、セツがポンと手を打った。
「そ、そうッスね! アレッス! 真実の愛ッス!」
ロイヤがノリでそんなことを言い出した。
「それじゃ! 愛する者のキスで呪いが解けるパターンじゃあ~!」
「よっ! 待ってました~ッス!」
おいこらお前ら!
そんなこと言い出したら誰がナオトにキスすることになると思ってんだ!
私はセツとロイヤの勝手な進行に内心絶叫していた。
しかも、なぜかナオトも私を気にしてチラチラ見てくる。
まずい。この流れは非常にまずいぞ?
今はメインシナリオ進行中。当然、世界中に配信されて多くの人が見ているというのに、こんなフザけたキスシーンがあるか!
そ、それに私だってファーストキスなんだぞ!
「ニャ!? でも、でもナオト様、ぜんっぜん魔物化しているようには見えないニャ!」
私はとりあえず抗い始める。
シナリオ上ではVS大臣戦のはずなのに、なぜか敵が変わったような気さえする。
だって敵であるはずの大臣さえ、私たちの混乱状態の前にどうしてよいのかわからずタジタジなのだ。目の前で始まった勇者パーティーのドタバタを親切に待ってくれる魔物がどこの世界にいるというのか。
「いや、勇者の心は魔物じゃ!」
「ナオトさんだってきっと苦しんでるッス!」
「俺だって特定の女性さえいれば、綺麗な女の人に目移りなんかしないで、人間の心を取り戻せるんだぜ……?」
あー、もう! どうしてどいつもこいつも期待のまなざしを私に向けてくるんだ!
とはいえ私だって早くシナリオを元どおりに引き直さなければならない。
恥ずかしいが、ここは最小限のダメージでやり過ごすしかない……!
「ほ、ほっぺにチューくらいなら、頑張れないことはないニャ……」
「いかーん! いかんぞリリアンや! そんなものがはたして真実の愛と呼べるのか!」
「そうッス! もうここまで来たらキスしかないッス!」
「キース! キース!」
「キース! キース!」
セツとロイヤによるキスコールまでもが始まる。
こんなノリで余計にそんなことできるか!
お前ら、みんな敵だ!










