勇者の華麗な登場シーン
謁見の間に無事たどり着いた私たちは、呼吸を合わせるように互いに頷きあった。
「では、扉を開けますわね」
「いや、ちょっと待ってくれ」
姫が扉に手をかけたとき、ナオトがそれを止めた。
「ここは敵の悪事を突きつけるシーンなんだろ? だとしたら、こういうときはもっと派手に扉を開け放つものなんだぜ?」
まぁたナオトが変なことを言い出した。
「もっと派手に、バァーンと開けたほうがいいんだぜ!」
「バ、バァーンですの……?」
姫は困惑の表情で助けを求めるように私を見る。
ナオトの破天荒な言動にスタッフが戸惑うのも、もうおなじみの光景にさえ思える。
「なんなら俺が開けるぜ?」
と言いつつ、本当はぜひ自分でやってみたかったと顔に書いてあるようだ。
私は姫に了承を促すよう目で合図を送った。
「で、でしたらここは勇者様にお任せいたしますわ……?」
「任せとけ!」
誰が開けても同じだろうとは思うが黙っておく。
姫が扉の前から一歩引き、代わりにナオトが立った。
そして彼は静かに息を吸い込んだあと、勢いよく両手で扉を開け放ったのだった。
「そこまでだぜっ! 大臣!」
どこまでだ?
そりゃあ漫画やアニメでいいところに登場するシーンではありがちなセリフだが、扉の向こうで誰が何をしているかもわからぬまま言うセリフではあるまい。
それに大臣も本当に悪事を働いているわけではなく、なんなら私たちが部屋に入ってくるのを喉の調子でも整えながら待ってさえいるのだろう。
そこへこの意味不明な大声での登場だ。
私には大臣も傀儡と化した王もビクッと身体を震わせたように見えたが、アドレナリン全開のナオトはそれに気づいた様子もなかった。
「な、何事だっ!? いったい誰の許可を得てこのような真似をしている!」
急な展開に戸惑いながらも大臣は見事に役割を続けてくれている。
その間に私たちは室内に流れ込むように侵入し、王座に座る王や大臣と対峙した。
「どこの誰かと思えば、勇者パーティーとサラフィナ様ではありませんか……これはいったいどういうことですかな? たしか勇者パーティーは残らず地下牢に捕らえたはずでしたが……?」
「勇者様たちは私が解放しましたわ!」
大臣は呆れたように首を横に振る。
「姫ともあろうお方が愚かなことを……その者たちは国家の秘密を外部に漏らそうと企んだ者たち……それを解放するなどと、なぜそのような愚行に至ったのです?」
「あなたを止めるためですわ!」
「吾輩を止める? これは異なことをおっしゃる。吾輩は常に国や民のことを考え……」
「ウソはやめるんだぜ!」
ナオトは大臣の言葉を遮り、私たちから数歩ぶん前に出た。
「王に謁見する前、俺はあんたの独り言を聞いたんだ! もうすぐ姫の身も心も我が物になるって、いかにも悪人なセリフをな!」
なんだろう? 少しポイントがズレている気もするが、まぁ大筋はよい。
「まあ! 大臣ったら、私にそんな劣情を……?」
「い、いや、それは役……ではなくてだな……」
姫は顔をあからめ、大臣は動揺していた。
「こんな美人を力ずくで手ごめにしようだなんて、うらや……けしからんぜ!」
一瞬、心の声が漏れかけていたが?
「それは勇者どのの聞き違いではないのかね? 私が悪巧みをしている証拠があるわけでもないのだろう……?」
「いいえ! 証拠なら今からお見せしますわ!」
そして姫が取り出したのは例の鏡型ディスプレイ、真実の鏡だ。
いつの間にやら表面の銀幕は剥がされ、数歩前へ出ていたナオト以外の私たちには普通のタブレット同様、複数のアイコンが並ぶ画面が見えている。
そして姫は素早く例のアプリを立ち上げた。アプリも無事に起動し、フレームに目立たぬよう設置された小型カメラがまわりの風景をまるで鏡に映したように画面表示する。
「さあ、真実の鏡よ! 私の前に魔物の真の姿を映し出しなさい!」
そしてタブレットをくるりと返し、鏡のように映った画面を大臣に向けた。
あとはアプリが人物の姿を認識し、大臣を魔物の姿に変換して映し出せば完璧だ。
「どうニャ! 鏡に映った魔物の姿! これがなによりの証拠ニャ!」
「ついに正体を現しおったな魔王の手先め! このワシの目はごまかせんぞ!」
「さっきはよくもオレを操ってくれたッスね! このお礼はきっちり返してやるッスよ!」
私たちは追い詰めたとばかりに大臣を睨みつける。
そして正体を暴かれた大臣は慌てふためきながら言い逃れをするのだ。
「え……!? いや、その……?」
だが、私たちの予想をしていたような悪役のリアクションとは違い、大臣は困ったように取り乱し始めていた。










