正義感、発動!
謁見の間を出るとすぐ、扉の前には別の案内人が立っていた。
「それでは皆様、私が城門までご案内いたします」
これにより王城イベントは完全終了。あとは案内人に従って城を出ればもう一安心である。
だが、そんなときになって異変が起きた。
「みんな! ちょっと待ってほしいんだぜ」
ナオトが妙に思い詰めた表情で足を止めた。
「どうかしたかニャ?」
あとはもう帰るだけの状況になって、いったい何がナオトの足を止めたのだろう。
変な茶番を挟みつつも珍しくスムーズにシナリオが進んだと思っていたのに……。
ここへ来て急に雲行きが怪しくなってしまった感じが立ち込める。
「みんなは、あの王様と大臣の様子を見て何かおかしいと感じなかったんだぜ?」
そこな。
そこはたしかにバッチリ違和感を演出していましたとも。でもそれは演出であって、あなたの物語とはなんら関係はありませんとも。
「そうかの? このワシの賢者眼をもってしても、なんら怪しいところはなかったがのう……なぁロイヤよ」
「うぃッス! 俺の怪しい奴にはピクリと反応をする大胸筋にもまったく反応がなかったッス!」
セツとロイヤは冷やせを垂らしながらそっぽを向く。
「別の世界から来た俺にはわかるんだ……実は、国のナンバーツーとか、大臣や宰相ってのはな。だいたい謀反を企んでるものなんだぜ?」
「そ、そうだったのニャ~。偉い人たちも大変だニャ~」
なんとなくナオトのことがわかってきたからこそ感じるヤバい気配。
この話のそれ方から察するに、おそらくナオトはいつもの正義感を発揮させて、この件に顔を突っ込もうとしているのだ。
「じゃが仮にそうだとしても、それは国の問題であって、一介の冒険者に過ぎないワシらが関わるべきではないの」
「それに確固たる証拠もないのに雰囲気だけで大臣さんを疑っちゃうのも、オレはなんか気が引けるッス」
私たちは一致団結してナオトを元のルートに引き戻そうと試みる。
「だったら、俺たちでその証拠を見つければいいんだぜ?」
「そんなあるかもわからない証拠を探すのニャ?」
「大丈夫だぜ! ある程度の目星はついている」
ナオトの目に迷いはなかった。
「今までの流れで怪しいところなんかあったニャ!?」
「リリアンの言うとおりじゃ……それは勇者の勘違いじゃろうて」
「そもそも、オレたち王城の事情なんかなんにも知らないじゃないッスか!」
私たちは必死にナオトを止めようとするが、彼の瞳はひたすらまっすぐに正義だった。
「いや……本当に目星ならある」
「気のせいとは思うッスけど、それはいったいどこッスか?」
私たちの不安げな視線が集まるなか、ナオトは自信たっぷりに言ったのだった。
「王城で立ち入りを禁止されている、西側区域だぜ」
そう来るよね~?
私は目がぐるんと上に回ってしまいそうだった。
「大臣は口を酸っぱくして西側区域への立ち入りを禁止していた。つまり、裏を返せば、そこには何かがあるってことだぜ!」
違うんだナオトよ。西側区域は建設途中の未完成。
むしろ何もないからあなたには見せられないだけなんだ……!
「じゃ、じゃが! 王城で勝手な行動をしたら首が飛ぶのじゃぞ!」
「そうッスよ! 偉い人たちのことは偉い人たちに任せて……」
「ダメだぜ! それは!」
ナオトは言い切った。
「王様の様子を見ただろ? あれはもう完全に操られちまってる。トップがあれじゃ、もう内部から解決を図るのは難しいぜ」
ああたしかに。王の目は完全に逝っちゃってたからなぁ……。
絡まっちゃった……いろんなものが変なふうに絡まって、ナオトの正義センサーに引っ掛かってしまったのだ。
「でも、だからと言ってなんでナオト様がそんな危険なことをしなきゃならないニャ」
「それは……俺が勇者だからだぜ!」
ナオトは、もうこれ以上ないくらいの爽やかさで言い切った。
「この問題を放置したら苦しむのは国民かもしれない……そんなピンチを放っておくなんて、俺にはできないんだぜ!」
本当に心がまっすぐなんだなというのはわかるが、今はその実直さが憎い。
「でも下手をすれば、この国をまるごと敵に回しちゃうニャ……?」
ナオトにはイースの舞台裏を見せるわけにはいかない。ここはなんとしてでも思いとどまってもらわないと。
「ワシとて村八分どころか国八分は困るぞい……」
「オレも国からはぶられたら寂しくて死ぬッス!」
私たちは必死に抵抗した。
「わかってる……だからみんなに迷惑はかけないぜ」
ナオトの目には最後の最後まで迷いがなかった。
「迷惑をかけないと言われてもニャ……」
「勇者よ。どうするつもりじゃ?」
「俺一人で西側区域に侵入する。みんなすまないが、少しだけ案内人の気をそらしてもらってもいいか? その隙に俺はここを離れる」
「そんな! 無理ッスよ!」
私たちがどんなに止めてもナオトの決意は揺るがなかった。
「じゃあ仕方ないぜ。ここは俺が独断で実行したと思わせるためにも、強行突破だ!」
「ちょっ! 待っ……!」
ナオトは言い切るのと同時に踵を返し、私たちの集団を離れ、王城の廊下を西側区域に向かって全力疾走し始めていた。
「まずいニャ! ナオト様の暴走を止めるニャ!」
私はナオトを追って駆け出す。
「ワシは腰がっ!」
セツは仮病を訴える。
「オレも止めるッス!」
ロイヤも私に続いて駆け出した。
「えっ!? み、みなさん勝手な行動は困りますっ!」
私たちの前を歩いていた案内人は振り返って驚いていたがもう遅い。
その姿はたちまち後方遠くに置き去りになっていた。










