傀儡の王
謁見の間はひと言で言うと、想像どおりの謁見の間だった。
入り口から敷かれた赤い絨毯。数段高くなった最奥の王座に王が身体を傾けながら座っている。王役の本名は高宮誠司さん。普通の会社員の方らしい。
なんでも力なき王を表現するため、人事評価が崖っぷちの人を人事的な密約によってわざわざイースにまで引っ張ってきたとか。
はたしてそんな人材に重要な役割を任せてしまって大丈夫かとの思いはあるものの、私たち四人は横に並んでひざまずき、黙って王の言葉を待っていた。
「勇者ナオトとその仲間たちよ。よくぞ参った。余が国王セージ・ハイシュラインである。……表を上げよ」
「はい」
ナオトが短く発声し、私たちはそろって顔を上げる。
よく見ると王の顔にはやつれて見えるメイクが施されていた。そしてその斜め後方に控える大臣にはニヤニヤとした不敵な笑みが浮かんでいる。
「今日、そなたらを呼んだのはな……ゲホゲホ!」
重い病を患っている設定のせいか、セリフの途中で咳込む王。
「王よ。もしやお身体の具合が……」
大臣が心配そうに王の脇に腰をおろす。
「いや、心配するでないぞ。余なら平気……ゲェホゲホ!」
「王よ。無理をなさっては」
「いやしかしゲェホゲホ!」
「やはりお身体に!」
「ゲェホゲホゲホ!」
いいから話を進めろよ。
そのあと、しばらくこれでもかというほど病っぷりをアピールした王はようやく落ち着きを取り戻した。
なんだろう。
この王城の人はみんな、一瞬の輝きにすべてをかけなければならない病にでもかかっているのだろうか。ぽっと出で終わる役目にしてはキャラが強すぎる。
「それで勇者よ……」
そこで言葉に詰まる王。
その顔はまるでセリフを忘れてしまったかのような顔だった。
咳込むから! あんなに全力で咳込むからセリフがすっぽ抜けちゃったんだ!
「すまぬ……ちと、生死の境をさまよったせいで要件を忘れてしまったようじゃ……」
そして頼りなく大臣に視線を向ける王。
「ふふふ。大丈夫ですよ。このようなときのために吾輩がいるのですから」
「おお、そなたは本当に頼りになるのぉ……」
「吾輩にすべてお任せください。王はすべて吾輩の言うとおりにしていればよいのです。くっ
くっく……」
悪い大臣だな! こんなところでも無駄にキャラ立てしやがって!
小芝居はもういいから早くシナリオを進めろよ!
「そうしよう。そうしよう。余はすべてをそなたに任せよう……」
目!
王の目が完全に催眠にかかっちゃってる目なんですけど!
「ふっふっふ……それが賢明ですぞ王よ……」
たしかにあなたたちの出番はこれきりだし、世界中に配信されて目立つには絶好のチャンスなのかもしれないけど、あなたたちが茶番を続けている間シナリオが一向に進まないから!
私がそんなふうににらみつけていると、ようやくシナリオを進める気になったのか、大臣が王に耳打ちをする。
そして王はまるで大臣の傀儡であるかのように口を開く。
「そうであった。勇者よ。実はお主らの腕を見込んで頼みたいことがあったのだ」
「頼みたいこと……伺いましょう」
ナオトはいつになくキリッと答える。もしかしたら本当にRPGゲームに出てくる勇者の役に成りきっているのかもしれない。
「実はのぉ。近頃、西の森に強力なキメラが出ると報告が相次いでおってのぉ。何度か騎士や兵を派遣してはいるのだが、なかなかに手を焼いておるのだ」
「それほどまでのキメラですか」
「うむ……キャツの正体はそう……クマキメラ」
「クマキメラ!?」
ナオトは眉をひそめる。
「その名のとおりクマを元にしたキメラらしくてのぉ……サルキメラよりも数倍は大きな巨躯であり、一度暴れ出すと普通の者ではまったく手が出せんと聞く」
「そのように危険なキメラが西の森に……」
「民もみな、怖がっておるのでな……なんとか早く討伐したいところなのだが……」
それを受け、ナオトは私たちの意見を伺うように左右を見た。
もちろん私たちは大きくうなずいてナオトの判断を後押しする。
「わかりました」
ナオトはハッキリとした言葉で王に答える。
「人々のためとあらば、その依頼、承りましょう」
「おお! さようか。さすがは勇者ナオトよ……」
王は病設定のせいで力なくではあるが、手を叩いてナオトを賞賛した。
「すごいぞ勇者、素晴らしいぞ勇者、大臣の次くらいには優秀な勇者よ……」
「王よ。それくらいで」
横から大臣がたしなめると、王の褒め言葉はピタリと止まった。
そしてまた何やら大臣が耳打ちをすると、王は再び話し始める。
「おお、そうであった。もし討伐できた暁には、きちんと報酬を支払うでな。安心して討伐に当たってほしい」
「は!」
ナオトはハキハキと了承する。
「では、頼んだぞ勇者よ……余の依頼を、余の、余の本当の依頼を……ガクッ」
最後まで妙に凝った演技だ。なんか本当に訴えかけたい依頼が別にあるような口ぶりで、しかも気を失ってしまったぞ……?
普通なら王が失神でもすれば大騒ぎになるとは思うが、この雰囲気の中で私が下手に発言するのも不自然なので黙っておく。
「王……?」
さすがのナオトも不自然に思ったのか問う。
「大丈夫だ勇者どの。王は少しお疲れなのだ。ここは吾輩が治めるから、勇者どのはもうお下がりを。……すみやかな依頼達成を期待していますぞ?」
最後は王が失神のまま大臣が仕切ってその場を締め、私たちの謁見は終わった。
結局、最後までなんのための演出なのか私にはさっぱりわからなかった。
まぁ、ナオトが勇者の雰囲気を味わえたのならそれでよしとし、私は王城での無駄な演出はキレイさっぱり忘れることにした。










