違世界の交通手段と言ったら馬車
翌朝、紫陽花亭の前に城からの豪華な馬車がやってきた。
女将さんやほかの宿泊者はなんだなんだと騒ぎ立てる。
そんななかを少し恥ずかしげな顔を見せながら、ナオトが先頭に立って馬車に乗り込み、私たちもそれに続いた。
「車や電車じゃなく、たまにはこういうのもいいもんだぜ」
窓から外を見ながらナオトが言う。
「私もこんな豪華な馬車なんて初めてニャ! なんだか嬉しいニャ!」
これはガチな反応だ。
「さすがに王城の馬車じゃな、座り心地がほかとは違うわい」
「オレ、今めっちゃ感激してるッス!」
ロイヤなんか涙まで流してしまって、みんな演技派である。
「王城ってどんなところなんだろうな? セツは若い頃、有名な冒険者だったんだろ? 王城には行ったことあるのか?」
「あるとは思うが……ないのはその記憶だけじゃな」
まったく。変なところで見栄を張ろうとしなくてもいいのに。
「そっか……せっかくだし城の中とかも見学したいよな~」
「これ勇者よ。子供どもでもあるまいし、そんなことで勇者としての品格を落とすでない。ワシらはただ黙って案内の者についていけばよいのじゃ」
うまい。なんら不自然なくナオトをお行儀よくさせる言い回しだった。
「それもそうだな。ここは大人しくしておくぜ……でもさ、王様に会っていったいなんの話をするんだろうな?」
「はて、そこはなんとも会ってみないとわからんの……単に冒険譚が聞きたいのか、強力なキメラの討伐依頼なのか。はたまた姫を妻に、とかかもしれんのう……?」
セツは顎ひげをさすりながら私に話を振ろうとした。
ここは嫉妬して見せろというわけか。
「それはだめニャ!」
私はフイっとそっぽを向く。
「大体、一国のお姫様なんて、もうとっくに婚約を決めてるはずニャ」
「ほっほう。もしや妬いておるのか? リリアンや」
「ち、違うニャ! 私は普通に物事を考えてるニャ!」
「ふむ。では普通に物事を考えて、リリアンは王からどのような話があると思うのじゃ?」
「それはだニャ……」
私は少し影を落とす言い方をした。
「きっと魔王が復活したのニャ……それで王様もナオト様に頼るしか方法がなくなってしまったのニャ」
「なるほど、その線は面白そうッスね」
私がわざと盛大に外した答えにロイヤが乗ってくる。
「普通なら一大事ッスけど、今ならナオトさんもいるし、魔王なんて余裕ッスね!」
「ほっほっほ。それは間違いないのう」
「ナオト様は最強ニャー!」
「み、みんなよせよ。恥ずかしいぜ……」
馬車の中はいつもどおり、ワイワイと賑やかだった。
「さて、そろそろ城に着くようじゃのう。念のため言うておくが、くれぐれも大人しくしておるのじゃぞ? それに魔王だなどと言ってケラケラ笑っているなど言語道断じゃ。国を治める王にとっては冗談では済まないことじゃからの。あまり失礼なことを言っていると首が飛ぶやもしれぬぞ?」
最後にセツがもう一度、未完成の西側区域に入らぬよう念を押した。
「わかったぜ! みんなも騒ぐなよ? 絶対に騒ぐなよ?」
「大丈夫ニャ! 魔王なんて復活しないニャ! 絶対にニャ!」
「わかったッス! 案内人に従うッス! 絶対に従うッス!」
「うむ。いつもどおり圧倒的な不安感よのう……」
珍しくセツに心配されながら、馬車はいよいよ城門の前までやってきた。
「さあ、いよいよ城門を潜るッスよ、潜るッスよ……?」
ロイヤがワクワクを押し殺すように言う。しかしロイヤでなく、私たちはみんなこのファンタジーな光景に気分の高鳴りをどこか抑え込めずにいた。
一瞬だけ静かになる車内。
それだけでもう無駄なテンションを抑えきれない雰囲気が漂う。
「チャラララ?」
いつかどこかで聞いたことあるようなメロディーを小さな声でナオトが口ずさんだ。
「チャラララ」
そしてそれに続き、カウントダウンを始めるよう一段低くした音程でセツが続く。
「チャラララ!」
ノリの良いロイヤも入ってくるので、もはや私も流れを崩せずな雰囲気だ。
「チャラララ……」
私もそれに続くと、あとはもう爆発を残すのみといった空気が避けられない。
「「チャラララァ~ッ!!」」
私たちは全員、馬車が城門を潜り抜けるタイミングに合わせて叫んでいた。
その行為にはなんの意味もない。
ただ、そのノリが楽しいと思えてしまうほど違世界でファンタジーな雰囲気に酔いしれていたのだ。
私たちが飛び上がったので、馬車までまるで飛び上がるかのように揺れる。
「ちょっと皆さん! すみませんが、もう少し控えてくれませんか? 馬が驚いちゃうので!」
御者さんに怒られてしまったが、私たちはみんな楽しくてヘラヘラとしていた。
なんとなくそのときから、いつもの私たちの悪い癖というか、暴走の気配を感じていてはいたのだが、どうにも私自身その感覚がマヒしてしまっていたようだ。










