気づいているぞと背後に声を掛けるあのシーン
物語の始まりはいつだってドラマチックに演出される。
ある日の夕方、いつものように冒険を終えて街に戻ってきた私たち四人はまっすぐ紫陽花亭へと戻らず、セツの案内に従って薄暗い路地を通ることにした。
「セツ。今日はどうしたんだぜ? 紫陽花亭に戻らないのか?」
なにも知らないナオトは首を傾げるが、それにセツが緊張感を全力で漂わせて答える。
「シッ……! みな静かにするのじゃ。先ほどからワシらはあとをつけられておる……」
「ななな、なんだって!?」
ナオトは驚く。
「そんな奴らを紫陽花亭につれていけるわけがあるまいよ」
「そ、村長、よく気づいたニャ……」
「さ、さすがは賢者ナイト様ッス!」
私やロイヤも一応驚いて見せておく。このあたりはセツがどうしても自分のカッコいいところを演出したいとわがままを言うので採用されたシーンだ。
「一人……いや二人か……相当のてだれのようじゃが相手が悪かったのう……そろそろ出てきたらどうじゃ?」
セツが澄ました顔で誰もいない背後に向かって声をかけると、路地の両脇からスッと二人の男が現れた。
「いやはや。さすがは賢者ナイトのセッカ様、お見それいたしました」
「これもあなた方の実力をはかるため、ご容赦ください」
男たちは私たちに頭を下げた。
「俺たちの実力をはかるだって!? お前たちはいったい何者だ!」
ナオトが前面に立って問うが、セツが手で制する。
「ふむ。ではここはワシがひとつ、未来でも見てやろうかの」
「いいのか? セツ。未来視はものすごく魔力を使うとかで滅多に使えないんだろ? そんな貴重なスキルをこんなタイミングで」
どうせ定まったシナリオがあるときしか使えないスキルなのだからこういうときに使って見せておきたいのだろうと思った。
「とはいえ黙ってワシらのあとをつけてきた素性も知れぬ者の話を鵜呑みにするのも賢くなかろうて」
「さすがは賢者ナイトだぜ。頼りになる……すまんがセツ。今回は未来視を頼む」
「わかっておる」
そう言ってセツは目を閉じ、しばしの間、口を閉ざした。
「ふむ。なんじゃお主ら、城の遣いの者じゃったのか」
そこでセツは緊張を解いたように身体の力を抜いた。
すると男二人は飛びのくように大げさに驚く。
「な! なんと! そこまでわかってしまうのですか!?」
「さ、さすがは賢者ナイトのセッカ様!」
なんかもう、駄作家の持ち上げには胸焼けを覚える。
「さすがにワシとて詳細な未来まで見通せるわけではない……ただ、王城で王の話を聞いている場面が見えた。そこから逆算して考えた。それだけのこと」
よくもまあ、自分で書いたシナリオをなぞるだけの未来をそんなに自信たっぷりのドヤ顔で言えたものだ。
「ご冗談でしょう……!? 我々が来た要件までもを、我々が話す前に……」
「み、未来視……絶対にありえないスキルだと思っていましたが……まさか本当だとは……」
男たち二人はたじろぐ。
「驚くほどのことではないわい。未来視とは言っても見えぬものも多いし、意外と使い勝手の悪い能力なのじゃよ」
セツは好々爺のように顎ひげをさすっていたが、そこで一歩を引いて謙遜するあたりが小賢しいと思う私であった。
「もはや取り繕うことはかないませんね。セッカ様のおっしゃるとおり、我々は王命により遣わされた者です」
「まずは数々の非礼をお詫びいたします。王命とはいえ本当に実力なき者を用いるわけにはいきませんから、臣下である我々がこうして事前に試すようなことをさせていただきましたが……逆に驚かされてしまいました。さすがは勇者様ご一行です」
それをセツが手で制する。
「世辞はもうよい。それよりも要件を手短に頼む。ワシらは今日の仕事を終え、宿にも帰るところじゃったからの」
「しからば……」
男たちはかしこまって姿勢を正した。
「我が王が、ぜひとも勇者ナオト様に会って話がしたいとおっしゃっております」
「ニャ!? ニャニャニャ、ニャンだって!?」
「やばいッス! ナオトさん、すごすぎてとうとう王様から声が掛かっちゃったッスか!?」
私とロイヤは両手を上げて驚くふりをする。
「王様が……俺と話を?」
実感が湧かなげなナオトの隣でセツは穏やかに微笑む。
「そうかそうか。とうとう勇者の功績も王の耳に届いたのか」
「な、ナオト様、すっごいニャ!」
「ナオトさん、まじパネェッス! それでもしかして、オレたちも一緒に王城とかに行っちゃっていいんスか!?」
私たちはさりげなく王城に行くためのレールを敷いておく。
「もちろんです。召集に応じていただけるようでしたら、パーティーのみなさんでお越しいただきたいと思いますが……」
男たちの快諾に私たちは飛び上がって喜ぶ。
こうしておけばナオトも引くに引けないはずだ。
「ニャニャア! 王城なんて夢のようニャア……」
「ほっほっほ。勇者よ。これもまた違世界の醍醐味ではないのかの?」
「や、やべ。オレ、もう今から緊張してきたッス……マ、マナーとかわかんねッス……」
すでに浮き足だった私たちの様子を見て、ナオトはまんざらでもなさげに切り出した。
「わかったぜ。みんなもこう言ってる。召集には応じるぜ!」
「やったニャー!」
私は大きく万歳をする。
ひとまずシナリオを前に進められるようだ。
「それで? 王城にはいったい、いつどうやって行けばいいんだぜ?」
「もしよろしければ、みなさまの宿泊されている宿に馬車を送りましょう」
「日にちは可能な限りナオト様に合わせるとのことでした。とはいえ我々も王命で動いておりますから、心苦しいのですが、なるべく早めにお越しいただけますと幸いに存じますが……」
「わかったぜ。じゃあ明日とかでもいいのか?」
すると男たちは嬉しそうに顔を見合わせた。
「ナオト様、我々の事情をお汲みいただき、ありがとうございます」
「強さだけでなく、人柄まで素晴らしいとは……我々も王に良い報告ができます」
普段、私たちから褒められるのとは別の角度から持ち上げられて、ナオトは真面目な表情の仮面が剥がれ落ちそうになっていた。
そんな彼はちょっとかわいかった。
「ではナオト様、みなさま。よろしければ明日の朝、宿までお迎えに上がろうかと存じますが……?」
「わかったぜ! みんなもそれでいいよな?」
私たちのほうへナオトは振り返る。
「もっちろんニャ!」
「ワシも異論なしじゃ」
「オレもッス~!」
私たちは笑顔でナオトに応じ、王城へ招かれることになった。










