新たなシナリオ
ナオトがエンチャント勇者になってから、私たちパーティーの戦闘効率は格段に向上した。
これもひとえに人間離れした強さを誇るロイヤが誰にも邪魔されずに動けるようになったためで、そうなると私たち三人はロイヤの足を引っ張るだけの存在だと確定してしまったわけだ。
とはいえパーティーとしての実績は確実に積み上がっていることもあり、ある日、私たちには新たなシナリオがやってきた。
その日の冒険を終えた私たちは一旦解散したあと、ナオト抜きで打ち合わせと称し居酒屋に集まった。
木製の円卓を囲んで、私とセツ、ロイヤの三人で座り、少し離れた位置で裏方三人組が同じく円卓に座ってこちらの話を聞いている。
「今以上に冒険者としての格を上げようとするならば、やはり権力者、つまり王様的存在からの指名依頼はテンプレ的に避けては通れんじゃろう」
セツがそんなふうに切り出した。
「いい展開ッスね! 違世界モノのストーリーによくあるパターンッスから、きっとナオトさんもワクワクすると思うッス! お城なんて違世界の醍醐味みたいなもんじゃないッスか!」
ロイヤもそれを好意的に受け止めた。もちろん私としても異論はないが、ただ一つ懸念があるとすれば、肝心の王城がいまだ建設途中であることだった。
「でも王様に謁見するには王城に入るしかないニャ。見た目こそ立派だけど、実際、内装のほうは未完成だから、そんな現実感のある部分を見られたら、たちまち夢から冷めちゃうニャ」
「その点は心配いらんぞい。ワシのほうで王城建設の進捗を確認したところ、城の西側区域を残して内装も仕上がっているようじゃ」
「ってことは、その西側区域にさえ入らなければ豪華な王城でファンタジー気分が満喫できるってわけッスね!」
「さよう。そして、そもそも王城は客が勝手にウロウロできるような場所でもない。しっかりと案内に従って行動すれば、入り口から謁見の間、そして用が済めばそのまま城外まで一方通行じゃ」
「わかったニャ。多少の不安がないわけでもないけど、いくらナオト様だって勝手に王城の中を見て回ろうとはしないだろうし、勇者としての品格を事前に念押ししておけば問題ないと思うニャ」
さすがに自由度のないイベントならば大丈夫だろうと私も計画に了承した。
「で、村長はどんなシナリオを考えてるニャ?」
私が問うと、セツは何枚かの紙を円卓の上に差し出した。
「これが大まかなプロットじゃ。二人とも、まずはこれを読んでみてほしい」
「うわっ! プロ作家先生のナマ原稿ッスか!?」
ロイヤは色めき立つが、それは99パーセント改変前の駄作に違いない。
とはいえプロットならば大丈夫だろうと私はそれに従い、ロイヤと順番にそれを読んだ。
内容を簡単に言ってしまえば、それは王から指名のキメラ討伐依頼だった。近頃、街の近くで見かけるようになった猛獣キメラが強すぎてそんじょそこらの者では手に負えない。これはもう勇者に頼むしかない。という内容になっている。
シナリオも実に単純。城の遣いから招かれ、王に謁見して、そのまま討伐に向かう。それだけだ。だからそれを書いたのがいかなる駄作家であったとしても変な方向に話が進む可能性は一切ない。
バスガイドさん付きのツアーで迷子になるくらいのポンコツでもない限り大丈夫だろう。
「わかったニャ。これでナオト様がファンタジー気分になれるのなら、私は賛成するニャ!」
「オレもッス!」
計画はスムーズに決まった。
「二人とも感謝するぞい。ではさっそく細かい部分を詰めていきたいと思うが……ざっとシナリオに目を通して気になった点はあるじゃろうか?」
私は小さく手を挙げて答える。
「王城のモブスタッフさんはともかく、主要な登場人物……王様、姫、大臣は今後のシナリオで再登場する予定なのかニャ?」
「いや? 未完成の王城を利用するリスクを考えれば、そう何度もというわけにもいかん」
「そうッスね。オレもそのほうがいいと思うッス。普通の人がそう簡単に会えないのが王族だと思うッスから」
「それはわかったニャ。だけど、それならばなぜその三人の設定がこんなに詳しく書かれてるニャ?」
私は卓上に戻されたプロットにある三人の設定部分を指差して聞いた。
「たしかに。王は病に伏せがち、姫は高飛車な悪役令嬢、大臣は裏で国の乗っ取りを狙っている……たった一度、話を聞くだけの登場人物にこんなに細かい設定が必要ッスか?」
「バッカモオォォォン!」
セツは怒鳴った。
「たった一度の登場だろうとキャラ背景をないがしろにして良いわけがなかろう! これじゃから素人は困る……」
そう言うあんたは原作を99パーセント改変されてるだろうが……!
「た、たしかに……さすがは超売れっ子作家さんッスね。これがプロ意識ってやつッスか……オレ、超納得したッス!」
「うむ!」
セツが駄作家という事実をまだ知らないロイヤは素直に信じちゃっていた。
可愛いところもあるが、ちと純粋すぎるのも考えものだな。
だがセツ、あんたもそんなにドヤ顔できるような人物ではないことは自覚しとけよ。
私は二人に対して思うところを飲み込みつつ、小さくため息を一つついた。
「まあいいニャ。どのみち脇役なら出番は一瞬だし、キャラ設定も明らかな違世界ニャ。もしかしたらナオト様もそのほうが喜んでくれるかもしれないニャ」
私が納得すると、セツは立ち上がってガッツポーズをする。
「決まりじゃ! ではさっそくこのシナリオを実行に移そうぞ! 配役、王城内の案内ルート、その他もろもろを本部と相談のうえ、追って連絡したいと思う」
「「了解ニャ!(ッス!)」」
こうして、『王からの指名されるナオト様スゲェ作戦』が実行されることになった。










