しなびた薬草
パーティー登録を済ませた私たちは、主に連携を高めることを目的として、最初に受ける依頼をサルキメラ討伐にした。
ナオトをエンチャンターとして後方に置きつつ、基本的にはロイヤが一人で敵を殲滅するわけであるが、ナオトにも戦闘に参加している雰囲気を与えるため、彼にはロイヤに対する支援魔法を唱えてもらうのだ。
すると普段は八割の力で動いているロイヤが全力で動けるようになり、その人並み外れた身体能力によってどれだけ強いキメラでも掃討できるようになるわけである。
そしてサルキメラ討伐の依頼を受け、いざ討伐に向かわんとしていた私たちであったが……。
「あ、そういえば」
ふと、何かを思い出したようにナオトが言った。
「討伐に行く前にさ、一つ報告しておきたい依頼があるんだぜ」
「報告する……依頼、ですか……? 失礼ですが、先ほどはサルキメラの討伐依頼しか受けていませんでしたよね?」
ミオラは首を傾げる。
私たちもナオトの考えていることが理解できずに続けて首を傾げた。
「リリアンならわかるだろ? あのときのあれだよ」
「あのときのあれニャ?」
私にもさっぱりだった。
しかし私にしかわからないと言うからには、セツやロイヤが仲間になる前の出来事なのだろう。
そう思うと嫌な気しかしない。
「もしかして、あれニャ……?」
「そう、それだぜ」
そう言ってナオトは依頼が貼り出された掲示板に向かって歩いていき、少しの間依頼内容を読んでいたかと思うと、そのあとすぐに一枚の依頼書をはぎ取ってカウンターの前に戻ってきた。
「やっぱり、あれを報告する気ニャ……」
私はガッカリと頭を垂れたくなるのを必死に耐える。
「なんじゃお主ら。もうアレやコレで通じるような仲になっておったのか?」
「そうニャ? 私とナオト様はとっても仲良しなのニャ」
それでも私はナオトを前向きにさせる役割に責任を持っていた。
「ミオラさん! 俺はこの依頼を引き受けるぜ!」
バンッ! と叩きつけるようにナオトがカウンターに差し出した依頼書にはこう書かれている。
「「薬草採取依頼……じゃと?(ッスか?)」」
セツとロイヤはまたもや首を傾げていた。
「え、ええ……追加で依頼を引き受けていただくぶんには構いませんが……その、勇者様にしては少し地味すぎる依頼ではありませんか……?」
ミオラも少し不審げだった。
だがナオトはさらに得意げな顔になってバッグの中を漁りだした。
「なぁに、ほんのついでだぜ。しかもこの依頼、実は受けた瞬間には終わっている……の、さ!」
そしてバッグの中から取り出された依頼の薬草とは……。
「「こ、これは……っ!?」」
二日前に採取したまま、おそろしくシナシナに萎れきった薬草だったよ!
そう、この薬草は旅立ちの日に脇道にそれて必死で集めた薬草。
なんでそれを後生大事にバッグの底に沈めてたのかと思えば……?
「へへっ。いつか依頼を受けるときもあろうかと、あらかじめ採取していたんだぜ!」
ゲームの世界ならナマモノや草花も痛まないから将来の依頼品をキープしておけばそれで即依頼達成、よかったよかったなのだが……次からは依頼品の鮮度にまで配慮した依頼書にすべきだろう。
「ま、まぁ……! 受注と同時に達成とは、さ、さすが勇者様ですね……」
ミオラは顔が引きつっている。
それもそのはず、彼女はナオトが持ち込んだ依頼の品であれば、なんであれ質も状態も良いと驚く役割なのだから。
「し、しかもこの薬草、ものすごく質がいい薬草じゃないですか……!」
ミオラ……無理に台本どおりに言おうとしなくてもいいのよ……?
「さ、さらに状態も、よ……く……?」
営業スマイルが崩壊寸前よ……!
「このまま数日も乾燥させれば上質な漢方薬とかになりそうですね……?」
「あ、できれば新鮮なうちにポーションとかに使ってほしいんだぜ!」
「新……鮮……?」
ミオラ、撃沈。
「と、とにかく。これだけ上質な薬草を納品なさったとなれば、達成報酬に上乗せが期待できるというものです……!」
「そりゃあ助かるぜ!」
ナオトはミオラの苦悩になど気づく様子もなく、嬉しそうだった。
「なんなら『勇者が摘んだ薬草』とかって謳えば付加価値がつくんだぜ?」
それ、自分で言っちゃうのか~……。
「そ、そうですね~。勇者様印のポーションとか、この街の名物とかになっちゃうかもしれませんねぇ……」
ミオラはとても苦しそうだった。
「ナオト様。それは駄目ニャ? そんなにすごいポーションを量産したら、ほかのポーション職人さんが泣いちゃうニャ」
私はミオラを助けるために会話に割って入った。
「あっ……! そ、そうだったぜ……! 勇者が街の人の仕事を奪っちゃいけないよな……」
お前このしなびた薬草で人の仕事を奪えると本気で思ってんのか……?
「そうニャ。ナオト様はすごすぎるから、少し自重も必要ニャ」
「わかったぜ……! 教えてくれてありがとう、リリアン!」
「どういたしましてニャ~!」
私はチラッと目でミオラに合図を送り、ミオラはホッと胸を撫で下ろした。
なんだか冒険者登録から予想外の能力測定まで含めてミオラには相当気を遣わせてしまった気がする。
「それじゃあナオト様! ナオト様の薬草はすごすぎて鑑定に時間もかかるだろうから、そろそろ私たちはサルキメラ討伐に向かうニャ!」
「そうだな!」
私はナオトの背を押すようにギルドを出ていく。
建物を出る際に気になって一度カウンターのほうへ振り返って見ると……。
よほど精神をすり減らしたのか、ミオラがおでこをカウンターにつけて突っ伏していた。
「熱っ!?」
飛び上がって驚くミオラ。
あ~……間違えて水晶玉を割るIHクッキングヒーターの電源でも入れちゃったのかな?
火傷したおでこを両手で押さえながら、せっかくの美人さんが泣き顔になってしまっていた。
ミオラ、K.O.!
勇者は人知れず受付嬢を倒した。










