これは科学ミステリなのか(問題編)
はい。ではここで水晶玉が割れる仕組みを解説していくよ。
原理をひとことで言うと、高周波電磁誘導式。いわゆるIHクッキングヒーターと同じ原理を使うということになる。
実はこの水晶玉、内部にうっすらとニクロム線を張ってあって、カウンターに偽装したIHテーブルで加熱すると、内部の金属が赤熱、内側と外側で温度差が発生、膨張により応力集中……パリンッ! となるわけ。
もちろんカウンターが熱くなりすぎないよう、出力はギリギリ設計にしているよ。
「ニャ~! 見くびってもらっては困るニャ! そんな水晶玉、ナオト様ならバリンバリンのボリンボリンニャ!」
「へへっ。やめてくれよリリアン。これで大したことなかったら恥ずかしいだろ?」
「大丈夫ニャ! もっと自分を信じるニャ!」
「そうじゃぞ勇者。かっこいいところを見せてみよ!」
「うわー! もしかしてオレ、伝説の瞬間ってやつに立ち会っちゃうッスか!」
私たちは大いに盛り上がる。
「みんな、恥ずかしいぜ。なにも起きなくても笑うなよ?」
そう言いつつも、ナオトは少し顔が緩んでいた。
「じゃあ、測るぜ……!」
そう言ってナオトは水晶玉に手をかざす。
ミオラがカウンター下のスイッチを押し、私に目で合図をする。
あとは少し時間をかけて水晶玉が加熱されるのを待つだけだ。
「では、しばらくそのまま魔力を流していてください」
「わかったぜ。魔力よ、流れろ、流れろ~……」
「あ、いいですねいいですね~。ナオトさんの良質な魔力が流れて来てますよ~?」
流れてんのは電気だけどな。
ナオトはかざした手を少しプルプルさせていた。
「どう……だぜ……?」
緊張の面持ちでナオトはミオラに問う。
しかしミオラは少し表情をこわばらせていた。そしてそれは私も同じ。
そろそろ割れてもいい頃だというのに、水晶玉はなんら反応をしなかった。
「反応がないですね……?」
「ウソだろ? このままだと俺、どうなっちゃうんだぜ……?」
「ど、どうにかなるわけではないのですが……普通にFランクとかになっちゃいますね……」
「ちょっ、ちょっと待って! 今、もう少し魔力を込めるから!」
いったいどうやって魔力とやらを流し込んでんだよ。
「だ、大丈夫ですよ。勇者様なんですから、きっと何かが起きますって!」
気づけば何も起こらないとまで言っていたミオラにさえフォローされる状態になっていた。
おかしい。機材トラブルか?
さすがに手をかざし続けるのも不自然なほど時間が経過してしまった。
ナオトは諦めた様子でため息を一つついた。
「残念だけど、これが現実ってわけかな……ミオラ、ステータスの確認のほうはもう済んだんだぜ?」
ナオトは苦笑いでミオラに問う。
「はい……勇者様であれば、おそらくご自身で確認できているのと同じ数値が登録されたはずです……」
ミオラは残念そうに目を伏せた。アドリブが苦手な彼女の前で、シナリオとは違う、まったく想定していない流れになってしまい申し訳ない。
「あの……気休めかもしれませんが、元気を出してください。まだナオトさんは冒険を始めたばかりなんですよね? そのせいかもしれませんよ? アルミームソードにも認められた勇者様なんですから、きっと潜在能力は誰にも負けないはずです」
「はは。ありがとうミオラさん。俺、きっと、アルミームソードにも恥じない勇者になるよ」
そう言ってナオトはカウンターの上に置かれたままのアルミームソードを鞘にしまった。
「へへ。アルミームソードがなんかあったけーや。こんな俺を励ましてくれてんのかな……」
ナオトは少し元気なさげだった。
「ほら。じゃあ次はリリアンの測定だろ?」
ナオトはカウンターから少し離れ、私に順番を促す。
「わかったニャ。ナオト様でも反応しないんじゃ、私がやってもどうせダメだけどニャ……」
少しナオトに気を遣いながら、消化試合のような気持ちで私が適当に手をかざしたときだった。
「えっ!? うそっ!? 水晶玉が、赤熱してる……!?」
ミオラが驚く。
「ニャニャッ!?」
な、なんでこんなタイミングになって……ま、まずい! このままではっ!
そんなふうに考えている一瞬のうちの出来事だった。
パリン。
「「あ」」
その場の全員、固まる。
これ……どう見ても、私が手をかざしたら割れちゃったやつ……。
「……リリアンさん……SSランク……です……」
水晶玉とともに砕け散ったのは、その場の空気だった。
「う、うそニャ。こんなの嘘ニャ……」
私は呆然とし、両手をだらりと下ろす。
「そ、そうニャ。きっともう一回測定をすれば、ナオト様がすでに砕いたあとだったとわかるはずニャ!」
「リリアンさん……残念ですが、もう予備の水晶玉が……」
「ニャアァァーーー!」
私は絶叫せざるを得なかった。










